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ヤルゼさんに色々と教えてもらう


「あそこに建物があるだろ」


 ヤルゼが城壁を背にして建っている一軒の建物を指さした。


「プレイヤーハウスって名前でな、クエスト受付所とか換金所とかプレイヤーから呼ばれてる建物だ。あの中で報酬が貰える」

「初心者に教えることがクエストになってるんですか」

「そーいうこと」


 ヤルゼが前に手を掲げると空中に裂け目が出来た。


「これ、アイテムボックスな。重量関係なく三十個まで入れて置ける便利空間だ。名前を見るのと同じでアイテム取り出したい、とか思えば出てくる。同じ素材系なら百個ストックできるぞ」


 言いながら空間から一枚の紙を取り出してこちらに見せた。

 紙にはマス目が縦横で十マスずつ、ずらりと線で引かれており、上の方からマス目の中に赤いハンコが押されていた。


「この紙がビギナーが知らないことを教えるとハンコが押されるクエスト用紙だ。プレイヤーハウスで貰える紙で、ハンコ一個で百Cコイン貰える。コインはプレイヤー通貨の名前だ」

「なるほど」


 話を聞いていると、今の話でも教えたことになったらしく、一つハンコが押されて増えていた。


「百Cってどのくらいの価値なんです」

「まあ百円くらいだな」

「・・・意外と安いですね」


 肩たたきとかで貰えるお小遣いなみだ。


「稼ごうと思ってやってる訳じゃねえからな」


 言いながらヤルゼはアイテムボックスに紙を戻した。


「え・・・やっぱりボランティアみたいな感じなんですか」

「いや違う。他のプレイヤーもこれが稼げないのはわかってるから直ぐにこのクエストをやらなくなるんだよ」

「そうでしょうね」


 初心者に話しかけて教える事で報酬が出るとしても、ハードルが高い上に稼ぎは小遣い程度だ。やり続けようとする人はほぼいないと思う。

 

「じゃあ何でやってるんです?」

「そりゃあお前、狙い目じゃんよ、こういうゲームの」

「狙い目?」

「誰もやらないことをやり続ける事でチート級のチートを手に入れる!・・・ってやつ、知らない? アニメとか漫画とかラノベとかで良くあるんだが」 

「漫画は少し読みますが、あまりそういうのは見てきてないですね」


 とーちゃんの持ってる漫画を見たりはするが自分で買ったりはしていない。

 アニメとかも知り合いにお勧めされたのを見るくらいだ。

 その中にチートを手に入れた感じのは特になかった。


「そか、俺の場合はさっきの紙のハンコを全部埋めたら何かあるんじゃないかと考えてクエストやってる訳だ」

「そうなんですか」

「ダイブ系ゲームの作品だと結構定番なんだぜ。まあフィクションの類だが、主人公が無双する物語とかな・・・良し、見る見ないは別として、お勧めのを何個か教えておこう」

「クエストと関係ないのでは?」

「細かいことは気にすんな。同好の士を増やすことは現実の、リアルの人生のクエストみたいなもんだろうよ」

「・・・なるほど」


 ちょっと納得。


「まあ、今はこのゲームの知識を教える事が最優先だがな。時間平気か? 時間あるなら序盤の『心刀使い』がやっておく事を教えとくぞ」


 それはありがたい。


「時間はあります。教えて貰えますか」

「OKだ。とりあえずプレイヤーハウスに行くぞ」


 のしのしと先に歩き出すヤルゼ。

 ふと、先ほどから担いで持っているプラカードが目に留まる。


「そういえばその手に持ってるの何なんです?」

「これか。ほれ」


 振り返って、ヤルゼはこちらに向けてプラカードを見せた。


「『新人さんいらっしゃい』看板だ」

「えっと・・・」

「始めたてのビギナーに教えるクエストをやってるからな、こういうのあった方がわかりやすいと思って作った」

「効果ありますかそれ」

「・・・・・・ぶっちゃけないな。名前を凝視して自分から新人発見して声かける方が早い・・・欲しいなら譲るぞ」

「すいません、いらないです」

「だよな」


 プラカードをアイテムボックスにしまって歩き出す。

 言われずとも僕はその後をついて行き、プレイヤーハウスの中へと入った。


「プレイヤーハウスで出来ることはクエスト関連の事と、物の売却。あと、倉庫の利用とかだな」

「倉庫ですか」

「アイテムボックスが三十品までだからな、使わないけど後で使うかもしれない物とかは、とりあえず倉庫に突っ込んどけば良い。このクリスタルに触れて使う」


 リスポーン位置のクリスタルと形が同じで小さく作られたクリスタルにヤルゼが触れる。

 するとヤルゼの前にウインドウが浮かんだ。


「倉庫、と思えば倉庫がでる。売却、と思えば売却メニューだな」

「クエスト関連はどうやるんです」

「あっちの壁に色々紙が貼ってあるだろ」


 指さされた方を見ると、数人ほどプレイヤーが壁に貼ってある紙を見ていた。

 なんともRPGの酒場とかでありそうな構造だ。


「あそこに貼ってあるのがクエスト用紙だ。やりたいクエストがあったら紙を剥がして持ってればクエストを受けたことになる。アイテムボックスに入れて置けばいいぞ。倉庫には入らないから注意な」

「なるほど」

「モンスターの討伐クエストはクエスト用紙を持ってなきゃ数を数えてくれないから達成できないが、素材の納品なんかは初めから素材集めとけば直ぐに達成できるぞ」

「紙を剥がして平気なんですか。他の人がそのクエスト受けられなくなるのでは?」

「剥がしても同じ場所に自動で補充されるから大丈夫だ。紙が壁から浮き出てくるんだよ」


 なんかSFサイエンス・フィクションとかでありそうな感じだな。ファンタジーもそんな感じではあるが・・・


「へえー。日めくりカレンダーみたいな感じですか」

「そんな感じだな。いや、その表現いいなぁ」

「え・・・日めくりカレンダー、がですか」

「俺はトイレットペーパー思い出したからビギナーにそう言ってたわ。今度からはそういう事にしておこう」

「・・・・・・」


 それはないだろうと思ったが言わないでおこう。


「そうですね・・・・・・そういえば、なんかこの中、やけに広くないですか?」


 ハウスの中は外からの見た目より広く作られているように感じた。


「ああ、中が広いのは混雑しない様に、外と空間を別にして造ってあるから、と俺は予想してるが、詳しいことは知らん。ゲーム開発したスタッフに聞くしかないな」

「知らないこともあるんですね」

「そりゃな。システムのヘルプの項目に書いてないような所は流石にわからんよ」


 このゲームのヘルプ機能はかなり充実しているらしいのだが、この事については乗ってないらしい。


「そういう仕様だと思っとけばいいだろ。狭いよりは便利だしな」

「まあそうですね」


 まあゲームだしで納得することにした。


「じゃあ次行こか。城壁前のクリスタルまで行くぞ」

「あのクリスタルですか」

「ああ」


 外に出てすぐそばのクリスタルの前まで来た。


「この国にはここのクリスタル以外にも要所ごとにクリスタルが設置してあってな、タッチして念じればワープ出来るんだ」

「それは知らなかったです」


 これで百Cか・・・やっぱり効率悪い稼ぎだと思った。


「次に行くのは『道場街』って場所だ。心刀使いの技を教えてくれる場所だな」

「それは楽しみです。あ、自分その場所を知らないんですがワープ出来るんですか」

「知らなくても名前さえ知ってればワープできる仕様だが、ついでにこれも教えておくか」


 ヤルゼが胸元に浮かんできたウインドウを何やら操作し始めた。

 すると、僕の前にもウインドウが現れる。

 さっき振りのガイド音声が聞こえてくる。


≪パーティ『オレハヤルゼ』に入りますか?≫

「『オレハヤルゼ』・・・」

「システムから出来るパーティ編成だ。とりあえず入ってくれ」


 言われた通り、パーティ加入に『はい』を選択する。

 しかし、パーティ名がすごいというかなんというか・・・

 ヤルゼさんらしいと言えばそうかもしれない。


「パーティ組んでる状態で誰かがワープしようとすると一緒にワープするか聞かれる。『はい』を選んでついて来てくれ。『パーティワープ』ってやつだな」

「そういうのもあるんですね」

「少し前のアップデートで追加された機能の一つだ。大勢で移動する時にはぐれたりする奴いるだろ。その対策だ」

「なるほど」

「運営に改善して欲しい事をメールで送ったユーザーがいてな。採用されたアプデ内容なんだぜ」

「そういう方法で修正してくれたりするんですね」

「フットワークが軽いのもここの運営の特徴だな」

「いいゲームって聞いてましたけどそういう方面にも良い所があるんですね」

「そうだな。んじゃそろそろ行くか」

「あー、一ついいですか」


 クリスタルに触れようとしたヤルゼに声をかけて止める。


「パーティ名変えません?」


 振り返るヤルゼに僕はそう言った。


「なんで?」

「今、ヤルゼさんの名前を見たんですが」


 ヤルゼの頭の上の名前は、パーティ名が名前の最初についており、『『オレハヤルゼ』ヤルゼ』と書かれていた。


「名前の前にパーティ名がつく仕様だと、自分の名前『『オレハヤルゼ』コハマル』ってなってるんじゃないですか」

「なってるぜぃ」

「『オレハヤルゼ』って名前の所に出てると、ヤルゼさんじゃないのにヤルゼって名乗っているみたいで、なんというかその・・・もにょるというか・・・」


 どういったらいいか難しいが、小恥ずかしいので何とか変えて貰いたい、そういった気持だった。

 気持ちの問題だし、図々しい気もするのでちょっと小声になってしまう。


「駄目でしょうか・・・」

「なるほどな・・・ふふふ」


 腕組みしたヤルゼさんが演技臭くいった。


「気づいたかっ!『ヤルゼ二号』よっ!」

「パーティ切るのってどうやるか教えて貰えます?」


 やり方わからないし、システムのヘルプから検索すれば出てくるかな。


「ああっ、待って、怒らないでお願いっ! すぐ変えっからマジでえっ!」


 すぐにパーティ名を変えてくれたので今回は水に流すことにした。

 第一印象から思ってたことだが、ヤルゼさんは中々面白い人の様だった。


ここまでお読みいただき有り難う御座います。


次は道場を回ります。

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