狩りの時間 ──ゲチェナキッズ視点──
──ゲチェナキッズ視点──
飛び降りながら獲物の出方を確認する。
俺が飛び降りたのを確認してか、矢が飛んでくるのを見てかわからないが、獲物はすぐさま行動に移した。
走って逃げる。わかり易い反応だ。
「逃がさんよ~」
地面に着地すると同時に後を追う。
逃げる先は、刀が刺さった木の方向だった。
取るつもりなの? 結構高い場所に刺さっているんだがどうするんだ?
矢を躱し、払いのけながら刺さった刀の木へと向かって行く。
と、一人がこちらに振り返った。
「足止めっ!」
そう言いながら斬りかかって来た。
縮地じゃない方の心刀使いだ。名前は『ギャーテー』ね。
正直、こいつの事は良くわかってないんだよなぁ。
コハマルほど動けている様にも見えないが、初心者とも言い辛い。
中級者・・・・・ではないだろうから初級者って所だろうね。
縮地や飛斬が使えたら厄介だな。
潰しとくか。
「ほいっ」
ギャーテーの上を飛び越えて、刀を躱しながら位置を入れ替える。
どすっ。
「うっ」
こちらに振り返るギャーテーの背中に矢が刺さった。
「足止めると矢に当たるよ」
そんな事言っている俺の横顔に矢が飛んできた。
「あだっ」
頭をはたかれた様な微妙な痛さがあった。
「ちゃんと狙えよゴブリンよー!」
横顔に刺さるはずの矢が地面に落ちた。
「やっぱり、フレンドリーファイアしない」
ギャーテーが飛んでくる矢を払いながら呟く。
ああ、察していたようだね。
脳内チャットで話し合っていただろうから、この事も話していたのだろう。
現在、俺はゴブリンたちと『パーティ』を組んでいる。
パーティを組んでいる状態だとフレンドリーファイアが発生しない。
それはモンスターのゴブリンでも一緒だ。
「そうだねぇ。飛んでくる矢を気にしないで戦えるから助かるよねぇ」
一対一の状況+(プラス)多数の遠距離攻撃。
俺は『必殺戦法』と勝手に言っているが、これで狩れなかった奴は今の所居ないからな。
必ず殺せるのは証明済みですよ。
まあ、俺に矢が当たったらちょっとノックバックするから、その事だけ少し気にして戦わないとだけどね。
「くっ」
ギャーテーが大きく飛びのいて、低い姿勢で構えた。
縮地か? 飛斬か?
飛斬だな。
「飛斬!」
「ほいっ」
飛斬でしたー。俺正解。
飛斬を撃つためにタメを作ったギャーテーに矢が何本か刺さった。
・・・・・・しかし、ずいぶんと低い飛斬だな。
大げさに飛び上がって躱したが、そこまで飛ぶ必要のない攻撃だった。
「縄跳びレベルじゃん。そんなんじゃ当たらないよ?」
「いやー・・・・・・僕の役目はここまでなんで、いいんです」
「は?」
どういう事やねん。
「くっ・・・・・・浮上!」
体中に矢が刺さった状態で、最後の力を振り絞る様にギャーテーはそう言った。
俺は逃げて行くコハマルたちの方を向いた。
先ほど放たれた飛斬が軌道を変えて上へと向かっていた。
その先には気に刺さっている刀がある。
「え、まじで」
慌てて、逃げている奴らの後を追う。
ギャーテーはもう動けないだろうし、あとはゴブリンに任せよう。
・・・・・・いやけど飛斬、届かないでしょ流石に。
「ナイスな軌道だギャーテー君」
逃げている一人が飛び上がった。
縮地の奴だ。
刺さった刀と飛斬の間に入り、飛んできた飛斬を踏みつけた。
「おおっほー、おもしれーな!」
思わず感嘆が漏れる。
空中で飛斬を踏むことでもう一度ジャンプした感じだ。
ジャンプじゃ届かない距離のある刀を取りに行くために、飛斬を使って距離を稼ぐって訳だ。
フレンドリーファイアがないというテクニックを使って来るとは、中々やる連中だ。
「おしっ!」
木にぶつかりながら、刺さっている刀を縮地の奴が抜いた。
けど、一応想定してたことなんでね。
「ギャギャ!」
「くっ、やっぱいるよな!」
縮地の奴に大量の矢が襲いかかる。
取りに来たタイミングで放たれた矢が何本も縮地の奴に刺さった。
普通、取りに来ないのが正解だと思うんだけどねぇ。
刀を抜きはしたものの、縮地の奴は矢に射抜かれて地面へと落下した。
これで二名脱落と。
コハマルはどこかな。
「《あっちいったぞ!》」
木の上のゴブリンに指さされてそちらへと向かう。
少し逃げる方向を変えたらしい。
追うと直ぐに背中が見えた。
しかし・・・・・・良くやるなぁ。
逃げながら全方位から飛んでくる矢を見事に斬り落としている。
走りながら良くやるよ。俺でも無傷でやり通せる自信ねぇな。
背中に味方背負ってる訳だしよく刀を振り回せる・・・・・・
そこで俺は気づいた。
「居ねぇじゃん!」
背中に背負っていた奴がいない。
どっかで降ろした?
「《後方!》」
「まっじぃ!」
ゴブリンの声に、とっさに横っ飛びで飛んできた何かを躱す。
轟音が横切った。
遠距離攻撃の類なんだろうが威力おかしくないっ!?
地面がうっすらとえぐれてるんですけど。
攻撃が飛んできた方向、俺が走って来た道を振り返ると、背負われていた奴が弓を手にしているのが見えた。
弓の攻撃だったのか。
「当たらんかぁ・・・・・・」
そして、直ぐに前のめりに倒れた。
あれだけ威力のある技だ。何かしら代償があるのだろう。
これで三人。
後はコハマルだけ。
逃げているコハマルの方を見ると、おかしな光景が見れた。
「ぐへほっ」
飛んできた味方の攻撃に当たったのか、斜め上へとコハマルは吹っ飛んでいた。
ものすごい速度が出ているように見える。見事な飛びっぷりだな。
・・・・・・というか、包囲網飛び越えてないか?
「《囲みの外出ちまったか》」
「《出ちまったぞ。弓矢で狙える速度じゃない》」
「《上、飛んでった》」
「《こっちの負傷者はいるか?》」
「《いない、ゼロだ》」
逃げられそうではあるが、ゴブリンに犠牲が出ていない事を聞いてほっとした。
「《とりあえず追うぞ。流石に高所から落ちたらダメージ入るはずだ。PP使い切っていればやり易いが、そうじゃない場合に隠れられると厄介だ》」
二階へと逃げてくれればいいんだかなぁ。
すでに二階にもゴブリンを配置している。
流石にこっちの犠牲を出さずに狩るのはここの三階の範囲までだ。
二階に行ったら犠牲構わずに数で押しつぶすつもりでいる。
「《場所、わかったぞ》」
「《落ちた場所か? どこらへんだ》」
「《草むら多い所》」
「《あそこか》」
膝の上まで草が生い茂っている森の中の小さな草原地帯か。
「《移動してるか?》」
「《いや、木の上から見てるが草の中に隠れてる感じだ》」
「《おっけー。じゃあ、周り囲むぞ》」
着地で傷を負って動けないのか、単純に隠れてやり過ごそうとしているのかわからないが、今度こそ逃げられない様にしないとな。
「・・・・・・」
狙ってここに来たって事はないか?
ふと、そんな考えが浮かんだ。
さっきのやばい技もコハマルをその草むらの場所に飛ばすために撃った技だった可能性がある。
「《おい、ヒューマン。囲うんじゃないのか?》」
立ち止まっていた俺に、ゴブリンがそう言った。
「《わかってるよ。とりあえず草むら周辺を囲えたら言ってくれ》」
「《わかった。Sレア奪えるといいな》」
「《だな》」
木をつたってゴブリンたちが移動していく。
「・・・・・・まあ、なんとかなるっしょ」
とりあえず草むらまで行ってからだな。
鬼が出るか蛇が出るか、てか。
鬼とか蛇とかいらねーからSレアをくれんかねぇコハマルさんよぉ。
そんな事を考えながら俺も、コハマルの着地地点である森の中の小さな草原へと向かった。
ここまでお読みいただき有り難う御座います。




