アイテムロストとデスペナ
「ほいっ」
僕が接近している事など関係なしとばかりに、ナイフ使いがゼニキンさんに斬りかかる。
今度は足だ。
我に返ってゼニキンさんがとっさに地面を蹴って離れようとしたが、それも読んでいたのか、見事に両足を斬られてしまった。
だが、直ぐにゼニキンさんは立ち上がる。
多分PPで回復したんだろうな。PPはほぼゼロに近いはずだ。
「ほいっ」
立ち上がって来たゼニキンさんを無視して、ナイフ使いがゼニキンさんの落とした刀を拾い上げた。
そして直ぐにほおり投げた。
「あっ、おい!」
投げた先はこん棒ゴブリンの方向だ。
「ギャッ!」
ぱこーん!
こん棒が振りぬかれて快音が鳴った。
ほおり投げられた刀が、ゴブリンに打たれて、木の高い場所に突き刺さってしまった。
心刀が高い場所、遠くに行ってしまった事で、ゼニキンさんは倒れた。
刀がなければ赤子同然。一ひねりと言うか一振りでやられてしまった。
「くそがー・・・」
「おいおい、もっと遠くに飛ばせよ。上の方に刺さっちゃいるが、ピッチャーフライだぞ」
「ギャア」
「もっと上手く放れって? そりゃあ刀を打つのは難しいだろうけどよぉ」
「ギャアギャア」
倒れながら悪態をついているゼニキンさんをしり目に、ナイフ使いとゴブリンがなにか言い合っている。
というかゴブリンと会話してないか? ギャアとしか聞こえないんだけど・・・
「・・・・・・あんた、斬りかかってこないの?」
「あ」
不思議な光景だったので思わず立ち止まってしまった。
「まあそれならいいけど」
ナイフ使いが、ちらりとゴブリンの方を見た。
ゴブリンが頷き、こん棒を振り上げる。
ゼニキンさんへのトドメか!
「行かせませんが、いいですか?」
阻止しようと動いた僕の前をナイフ使いが立ちふさがる。
「良くないです!」
立ちふさがるナイフ使いを上段からの打ち込みで斬りつける。
「ざんね──」
僅かに横へとずれて躱されたが、すかさずまた上段斬り。
「──って早いなおい、はは」
驚いてくれたが、それも後ろへのバックステップで避けられてしまった。
結構自信あったのに!
直ぐにゼニキンさんに向かって駆け寄ろうとするが、力を貯めたゴブリンのこん棒が振り下ろされるところだった。
思わず名前を叫ぼうとした。
ゼニキンさんの名前ではない。
この場面で打開できそうな人の名前を・・・
「ジャン──」
「おらあっ!」
ゴブリンの右側から突如、ジャンクさんが現れた。
縮地だ。
ギィンと音が鳴り、振り下ろされたこん棒を居合切りで弾き飛ばす。
「ギャ!」
予想してなかった事らしく、こん棒を弾き飛ばされたゴブリンはたたらを踏んだ。
だが、直ぐに飛びのく。
ジャンクさんの二の太刀が振るわれたが、判断が早かったゴブリンには当たらなかった。
「くっそしくった!」
外した事に悪態をつくジャンクさんをナイフ使いが狙っているのが見えた。
僕は即座にナイフ使いに斬りかかった。
「チッ・・・」
あっさり躱されたが、音が聞こえた。
さっき聞いた音だ。
舌打ちの音だったのか・・・
なるほど。
フォローに回れる位置に立っていた僕が邪魔だったから思わず鳴らしてしまった舌打ちだったのだろう。
「じゃあこっち」
即座に標的を変えたナイフ使いがギャーテーさんの方へと駆け出した。
直ぐに駆け出すが先行される。
「《ギャーテーさん敵、行きました》」
「《ちょっと無理!》」
見るとギャーテーさんは森の方を向いている。
森の中からは石ではなく、矢が飛んで来ていた。
何本かギャーテーさんに刺さっているのが見える。
「《何とかしますっ》」
思いついたことを試してみる。
走りながら刀を鞘にしまい、声を出す。
「フウッ!」
「・・・なにそれ」
僕の声を聴いて走りながらこちらを見たナイフ使いが呟く。
「フゥゥゥゥ!」
走りながら前かがみになり、声を出す。
ギャーテーさんにナイフ使いが近距離による前に顔を上げた。
「フゥウ!」
「何の技だようぜーな」
ナイフ使いが飛びのいた。
そのままナイフを使って木の枝まで登って行った。
「代わります」
僕はギャーテーさんの前に出ると刀を抜いて、飛んでくる矢を斬り続けた。
バルーンビスケットでの鍛錬のおかげか、面白いように矢じりを地面へと叩き落し続けられた。
「コハマル君まじ天使」
「ちょっと集中してるんで静かにお願いします」
「アッハイ・・・・・・」
喜んだギャーテーさんが後ろでしょんぼりしている気がする。
後で謝らないとだなぁ。
「・・・・・・チッ。矢ぁ終わり! もったいねーわ当たらんし」
しばらくして木の上からナイフ使いの声が森に響いた。
飛んで来ていた矢がなくなる。
ゴブリンに命令を出したのか・・・・・・テイマーとかなのだろうか。
木の上から襲いかかる事も出来そうだったが、ギャーテーさんが警戒してくれていたみたいで、向かっては来なかった様だ。
「ギャーテー君! コハマル君!」
「うい」
「はいっ」
その呼び声でギャーテーさんと共に、周りと上を警戒しながらジャンクさんの元へと向かった。
近づいてわかったが、ジャンクさんにも何本か矢が刺さっていた。
「すまん! マジしくった! 縮地の距離と向き間違った! 後ろから斬るはずが横に出ちまった! ゴブリン斬れんかったすまん!」
「ゼニキンさんは、助かったので?」
警戒しながら尋ねるとゼニキンさんが喋ってくれた。
「いまの、おれの、声をきけば『むしのいき』という、ことばの、意味が、わかるぞ」
「・・・・・・余裕、ありそうですね」
声はなんだか重苦しそうだが、冗談が言えてるし平気なのかな?
「《いや、ぶっちゃけねえよ。チャットで話すが今かなり余裕ない状態。というか現状がやばい》」
「《やばいと言うと?》」
「《レアアイテムロストの危機だよ。お二人さん、コハマル君だけでもなんとか逃がしてくれ》」
「《わかっているよ》」
「《了解しました》」
三人で話しまとまっている様なのだが、僕はちょっとわかっていなかったので尋ねてみた。
「《アイテムロストって・・・・・・》」
「《文字通り、アイテムを失ってしまうって事だ》」
「《死んだらですか》」
「《そうだよ。デスペナルティ、通称『デスペナ』って言われている奴だ》」
「《持ってる物全部ですか?》」
「《いや、その日のダンジョンで入手したアイテムの半分だ》」
半分もか・・・・・・かなりデカいな。
「《普通ならレアアイテム拾ったらいったん帰って預けておくのがセオリーなんだが、五階のボスならこのメンツで遊べるレベルだし、いいかと思ったのが悪かった・・・三階層でPKが出るとは・・・まじですまん》」
「《気にしないで下さい。なんとかしましょう》」
「話し終わったー?」
木の上からナイフ使いの声がした。
枝の上に胡坐をかいて、頬杖をついてこちらを眺めているのが見えた。
「作戦会議・・・・・・まだ時間かかりそうですかねぇ?」
「《作戦会議なんかできてねえっつの! ちょい時間稼ぎたいけどよぉ》」
「《・・・・・・じゃあなんとかします》」
「《何とか出来るのかコハマル君》」
「《やってみます》・・・あの、ちょっといいですか?」
「なーにー?」
とりあえず時間稼ぎか・・・・・・なんて質問したら答えてくれるかな・・・・・・
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
PKについて、前に何か書いたかなと調べたら何も書いてなくて驚きました。
書く場面、色々あったんですけどね・・・・・・わすれてました。
この小説が書き終わったら色々と手直ししたいと思います。
では次回・・・・・・




