ベナミヤの世界にやってきた
「・・・ここがジダイか」
触れていた水晶から手を離し、振り返り、辺りを見回す。
初期リスポーン地点は城壁の前のようだ。
門は開いているので外が見える。
草原が奥の森の所まで続いていて、遠くの方で誰かが動物らしきものと戦っているのも見えた。
城壁の反対側は、時代劇にありそうな木造建築の立ち並んでいる。
真っすぐな道が一本通っており、なにやら賑やかな声が聞こえてくる。
道の端にはお店が並んで建てられている様で、店員らしき人が呼び込みをしている所もあった。
「・・・昭和って感じだ」
勝手なイメージでそんなことを呟く。
朝ドラとかで見た活気のある日本の街並みが感じられた。
「って、ノスタルジーに浸ってたらダメでしょ」
感動してる心はいったん置いておいて、行動に移そう。
他の所に目を向けると、大きな看板が見えた。
近づいてみるとこの国の地図の様だ。
国の全体図としては、外側を丸く城壁で囲まれていて、東西南北に出入り口の門。
その入り口から中心へと道が伸びていて、中心には四角い何かに囲まれたお城が描かれていた。
「四角いのは城壁かな。見てみないと分からないけど」
ちらりと一本道の先を見てみると遠くに大きな城が見えた。
西洋風ではなく日本の城だ。天守閣らしきものも見える。
「屋根に乗ってるのは鯱かな、金色に見えるし」
「あれはドラゴンと虎らしいぞ。両方ともこの世界じゃ神様に近い存在で、お殿様が縁起物として乗っけたんだとさ」
「へー、ためになります」
僕の疑問に答えてくれた人の顔を見る。
いつの間にか自分の横に見知らぬ人が立っていた。
自分と同じサムライの格好で、片手に持ったプラカードを肩に担いでお城を眺めている。
「えっと・・・・・・ジダイの住人の方ですか?」
「NPCじゃあねえよ、プレイヤーだ。来たばかりっぽかったから声かけたんだ」
「・・・そういうのってわかる物なんですね」
自分の態度がおのぼりさんっぽかったかもと思い、顔が熱くなる。
「あっ、違う違う」
手を顔の前で振って、プラカードの男が否定する。
「ビギナーだってわかったのは名前の横を見たからだ」
「名前の横?」
キャラクターの名前なんて見えないのだが・・・
「まずそこからだな。名前を見たいと思いながらそこらの人を見てみな」
言われて草原から帰ってきたらしき冒険者の集団に目を向ける。
数人だが頭の上に名前が表示された。
「名前、見えました」
「こんな感じに意識を向けると名前が見える仕組みになってるんだわ。ちなみにシステムで常時名前が浮かぶ設定にも出来るぞ」
「初心者とわかったのは?」
「始めて一週間くらいは名前の横に三つ葉のクローバーのマークが浮かんでるんだ。車とかである初心者マークみたいなもんだな。それもシステムで消すことが出来るぜ」
「名前見えない人も居るみたいですが」
「他人から名前が見えない設定にしてるやつだな。まあプライバシー的なあれだ。見られたくない人はそういう設定にしてる訳だ」
「なるほど」
納得してプラカードの男の方を向く。
頭の上に名前が浮かんでいる。
「『ヤルゼ』って名前なんですね」
「そうだぜ。ヤルゼだぜ『コハマル』君や」
ヤルゼはにやりと笑って言葉を続けた。
「ビギナー期間中は俺に何でも聞いてくれて構わないぜ。システムのヘルプを熟読すればわかることばかりだが、さっさと知りたい時は俺に聞け。教えるから」
「ありがとうございます・・・」
「連絡する場合はシステムからメールの項目を選んで、カッコの中に名前を入れれば入力した人にメールが送れる。ログインしてる場合はメール項目にボイスチャットの項目が出るからそれを押せば──」
「というか疑問なんですが」
畳みかけるヤルゼに不思議に思ったことを尋ねてみた。
「何かな?」
「何でそんなに親切なんですか? 初心者だからってここまで親切にされる理由は無いように思えるんですが。さっき会ったばかりですし」
「・・・・・・」
「・・・・・・あの」
「わかる!」
「うおっ」
いきなり大きな声を出されて驚いてしまった。
わかるわかると呟きながらヤルゼはうんうんと肯いた。
「わかるよコハマル君。ぶっちゃけ詐欺くさいよなぁ。いきなり現れて色々と説明して『俺に聞けぇ!』だもんな。これで裏路地とかに誘い込んだら犯罪者だぜ、まったくなっ」
「そうかもですね」
「ではコハマル君の不安を一発で解消しよう・・・実は」
「・・・・実は」
「プレイヤーが・・・他の初心者のプレイヤーの人に色々教えると」
「教えると?」
「お金が貰えます」
「・・・・・・」
・・・え、そうなの?
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
他のプレイヤーが初心者の主人公に色々と教えてくれる感じのをやろう。
↓
主人公補正以外で親切にしてくれる理由を考える。
↓
教えることで得をする設定を考える。
ってな感じです。