お助けと打算と回復と
「・・・・・・」
いや、よくよく考えたらまだ詰みではないのでは?
「ヤブカラー!」
近くで声はするものの、襲って来てはいない。
こっちに気づいていない訳ではないと思うんだけどなぁ。
木の枝を折りながら飛んできて草むらに突っ込んだ。
近くに居たのなら流石に気づくはず。
では何故、僕に攻撃してこないのか。
「ヤ、ヤブカラー!」
・・・・・・なんか慌ててる?
どもってたよね今の声。
どういう事なのだか・・・
・・・・・・ちょっと見てみようか。
「ヤ、ヤブカラー!」
ゆっくりと匍匐前進でヤブカラ族の声のする方へと移動する。
ガサゴソと草の音を出しちゃうけど仕方ない。
「ヤブカラー! ヤ、ヤブカラー!」
しかし、よく叫ぶなぁ。
何となく助けを求めてる感じに聞こえるけど、どうなんだ?
だいぶ近づいて来た。
草を掻き分けて、声の聞こえる所を覗き込む。
「ヤッ!?」
草むらを掻き分けて顔だけ出した僕に驚きの声を上げるヤブカラ族。
仮面の文字は『バク』と書いてあるようだった。
「・・・・・・なんでそんな状況に」
僕はヤブカラ族の状態に、思わずそんな声を漏らす。
どういう訳だか知らないが、虎ばさみのような物にヤブカラ族は捕らわれていた。
両足と片手を挟まれている様だ。
それで助けを呼ぶような声だった訳ね。
「ヤ、ヤブカラー!」
ヤブカラ族はこちらに拳を構えたり、挟まっている虎ばさみを外そうとしたりで混乱中の様子。
「てんやわんやって感じだねぇ」
「ヤブカラー!」
なんだこらー、とでも言いたげにヤブカラ族が叫んで威嚇する。
しかし、どうしたものか。
顔の文字の『バク』は捕縛とかのバクの事かな。
それで虎ばさみは冒険者を捕える武器だったのではないだろうか。
それが何かの間違いで、自分を捕えてしまったって感じだろう。
「・・・あー、僕が落ちて来て、驚いてそうなったとか?」
飛んできた僕に驚いて虎ばさみを落とし、自分が挟まっちゃったとか、なのかな。
「ヤ、ヤブカラー!」
まあ、言葉が通じないからわからない訳だけど・・・
「うーん・・・・・・」
体はボロボロだけど、手には刀。
ヤブカラ族は自由なのが片手だけという状況だ。
戦うなら有利ではある。
けどなぁ・・・・・・
「ヤ、ヤブカラー!」
威嚇するヤブカラ族は、よく見てみると小刻みに震えている。
「あー・・・・・・無理っすね」
脳裏に浮かぶは震える小動物のそれ。
そんなの攻撃できないですわー。
「良し」
手に持った刀をボロボロな体を動かして、なんとか鞘にしまう。
匍匐前進で捕らわれのヤブカラ族に近づいた。
このヤブカラ族を助けよう。そう決めての行動だ。
「ヤブカラー!」
「うげっ、殴らないでくれんかね・・・」
近づくと片手で殴り掛かってくる。
言葉通じないし仕方ないなぁ。
虎ばさみを掴む。
「おいしょー!」
刃の部分が開くように思いきり引っ張った。
パカっと虎ばさみの刃が開く。
ヤブカラ族の手足が抜けた。
なんとかなったなぁ。
「ふぅ・・・はい、あげる」
「ヤ・・・ヤブカラ?」
少しだけ距離をとったヤブカラ族に、虎ばさみを差し出す。
戸惑いながらヤブカラ族は受け取ってくれた。
さて、どういった行動をするのかな。
向かって来るなら流石に刀を抜いて応戦するつもりではいるけど、どう出てくる。
「ヤブカラー!」
ヤブカラ族はそう叫び声を上げると、背中を向けて去って行った。
「向かっては来ないと・・・」
そう言った所で、僕は地面に突っ伏する。
さっきの虎ばさみを外す行動だけで体中がびりびりと痺れてしまっていた。
体が限界に達している。
そのまま死亡判定になってしまってもおかしくない感じだよねこれは。
これ、ギャーテーさんが来てももう遅いのでは?
何か回復手段とかないとどうにも出来なそうだなぁ。
というかPP回復って出来るんじゃないか?
ポイントは3ポイント余ってるし。中傷までは治せるはず。
回復と念じてみる。
体中の痺れが消えてなくなった。
「けど、重傷は治せないと」
両足の感覚がない。
落ちた時に足から落ちたのか。
瞬間的な事だったので覚えていないがそういう事なのだろう。
さあ困った。
「ギャーテーさんが来るまで隠れてるしかないかな」
ごろんと仰向けで草の上に寝転がって呟く。
一応は草むらの中だ。
ヤブカラ族の事を考えると出た方が良いのかもしれないけど、今の所、襲ってくる気配はない。
さきほどの『バク』の文字のヤブカラ族しか近場に居なかったのかもしれないな。
あー、木陰から見える太陽の光が眩しい。
「ヤブカラー!」
そんなこと考えてたらこの声だ。
何やらこっちに走ってくる足音も聞こえる。
「ヤブカラー!」
草むらから顔を出したのは虎ばさみを手にしたヤブカラ族だった。
「・・・・・・さっきの子かな?」
仮面にはバクの二文字が書かれているし、さっき逃げて行った子なのだろう。
小柄だから子とか言っちゃったけど、種族的には大人なのかな?
あれ、後ろにも一人いるみたいだ。
「ヤブガラー!」
「おおっ」
バクの後ろから出て来たのは小柄ではあるものの筋骨隆々と言った感じにムキムキなヤブカラ族だった。
仮面の文字は・・・・・・
「ヒール・・・・・・?」
「ヤブガラー!」
そうだぞ、と言っているのだろうか。
少し声がガラガラなヤブカラ族は叫びながら頷いている。
「え・・・・・・ヒーラー呼んで来てくれたの?」
僕がボロボロだったから恩返しに回復系のヤブカラ族を呼んでくれたって事?
「ヤブカラー!」
虎ばさみを手で叩きながらバクは叫んで答える。
そうだよ、とでも言っている感じだ。
こういう事もある訳ね。
「・・・種族が違えど助け合う事は出来るよね」
ぶっちゃけ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待してたりした。
PPも切れてたし、自分一人ではどうにも出来ない状況だった。
だからヤブカラ族を助けて、その恩返しとかないかなと、微かには期待していた。
期待が叶った訳である。
ヒーラー連れて来てくれるとか最高の展開ですよ。
「こっちの言葉が伝わっているかどうかわからないけど、感謝。感謝してますよヤブカラのバク君」
手を合わせて拝んでおく。
「打算的なところもあったけど、感謝しているのは本当だから。ありがとうね」
「ヤブカラー!」
「何か、アイテムとかいる?」
「ヤブカラー!」
道中で手に入れたクリスタルを取り出して、バク君に差し出すが首と手を振って断られた。
「いらないと、了解しました」
「ヤブカラー!」
と、バク君がヒール君に僕の足を指さして叫ぶ。
足を治してあげてとか言ってるのかな?
「ヤブガラー・・・」
ヒール君は、どこかしぶしぶと言った感じにこちらに近づいてきた。
ヒール君的には心刀使いの僕を回復するのは嫌なのかもしれない。
「わざわざすみません、ありがとうございます」
そう言って頭を下げる。
「ヤブガラアアー!」
と、ヒール君が空を見上げ、天空を指さして大声で雄たけびを上げる。
すると、ヒール君の体が大きくなっていく。
「・・・・・・どゆこと?」
回復してくれるのでは?
2メートル以上の高さまで成長したヒール君がこちらを向いた。
両足を掴まれる。
その足はヒール君の両脇に抱えられる。
僕の背中が地面から離れた。
「ファッ!」
回された。
「ヤブカラー! スイィィィィング!」
「なんでぇー!?」
グルングルン上を見る形で回され続けた。
あ、あれだ、プロレス技のジャイアントスイングってやつだこれ。
しばらくして、回転するのが終わり、どさっと地面に落とされた。
「ぐへほっ・・・・・・どういう事なの・・・?」
今更気づく。
ヒールはヒールでも、プロレスの悪レスラーのヒールだこれ。
「ヤブガラー!」
ヒール君に引っ張り起こされて立ち上がる。
「いたた・・・・・・って、あれ」
普通に立ててる。
ジャイアントスイングされて足が回復したって事か?
どんな回復手段だ・・・
「あ・・・ありがとうござ──」
「ヤブガラー!」
お礼を言おうとした所で体を掴まれて上へと投げ飛ばされた。
「まだ続くんすかっ」
「ブリィィカアー!」
落ちて来た所で頭と足を掴まれて今度はアルゼンチンバックブリーカーを決められた。
なんか背骨がボキボキとやばい音が鳴ってるんですが・・・
下にいるであろうバク君に助けを求めようと視線を向けるが──
「ヤブカラ~!」
叫びながら手を叩いて大はしゃぎしていた。
大爆笑中の様である。
こいつめぇ・・・・・・
「こ、これが回復手段じゃ、なかったら、覚えておくといい、ですよ」
「ヤブカラー!」
僕のそんな恨み節に、バク君は親指を立てて答えた。
その後はというと、ヒール君に永遠とプロレス技をかけられ続けた。
キャメルクラッチ、サソリ固め、コブラツイスト、4の地固め、アンクルホールド・・・・・・
締めには、どこからか用意した脚立に上り、空中からのボディプレスで潰されて──
「ヤブッ! カラッ! ヤブー!」
そのまま肩を押さえられて3カウント負けを食らってしまった。
カウントしたのはバク君。
・・・・・・いや、プロレスの負けとか今は関係ないんだけどさ。
「もう、勘弁で、お願い、します・・・」
僕は、技を食らっているだけで燃え尽きていた。
ギャーテーさん・・・・・・まだ来ないのかな・・・
「ヤブカラー!」
仰向けで倒れた僕の頭をバク君が小突いた。
顔だけ動かしてそちらを向く。
何かをこちらに渡そうとしている様だった。
「・・・・・・くれるんですか」
「ヤブカラー!」
「くれるというなら貰っておきますけど」
手渡された物は、仮面と鈴の付いた首飾りだった。
仮面はヤブカラ族のしていた仮面と同じ物の様で、文字は書かれていない仮面だった。
「ヤブカラー!」
僕が受け取ったのを確認すると、バク君は手を振りながら去って行った。
「・・・・・・はあ」
色々とひどい目にあったもんだよ・・・
しばらくその場で寝転がっていると、脳内チャットの声がした。
「《コハマル君、近くに来たんだけど、どこにいるのー?》」
「《ギャーテーさんですか》」
体を起こして草むらから顔を出す。
「《うわっ、びっくりした》」
「《あ、見えました》」
真正面の方向にギャーテーさんが見えた。
「《いきなり草むらから生首が出て来たと思って驚いちゃったよ》」
「《首しか出てませんしね》」
ゆっくりと立ち上がってみる。
プロレス技を食らうのはきつかったけど、ちゃんと回復しているようだ。
改めて感謝の念だけは送っておく。
「《コハマル君、そこ草むらだよ。音立てたら出て来ちゃうって》」
「その時はその時です」
「《喋ってるし!・・・・・・え、なんかあったの?》」
僕の様子がどこか違っているのか、ギャーテーさんが心配そうに尋ねてきた。
「色々ありました・・・・・・」
言いながら草むらから出る。
ヤブカラ族は現れなかった。
「危ないよコハマル君・・・・・・んで何があったの」
「そうですね・・・・・・短くまとめるとですね」
「うん」
「ヤブカラ族を助けたらプロレス技をかけられて、重傷が治りました」
「意味わかんない」
「ですよねぇ」
「《コハちゃん無事なの?》」
ゼニキンさんの声だ。
「《そちらは大丈夫ですか?》」
「《ヤブカラロンは撒いたよ。けど、PPがなくなったから隠れてる所》」
「《とりあえず合流しないか? こっちに来てくれると助かるけど、コハマル君動けるの?》」
「《動けまーす。大丈夫でした》」
「《本当に運がいいなコハちゃんは》」
どこか呆れた感じにゼニキンさんが言う。
「《なんか、コハマル君、変な事に巻き込まれたみたいですよ》」
「《ほう、そうなのか》」
「《その話は合流してからにしようか。話しながらだと周りへの警戒が緩くなる》」
「《了解しました》」
まずは合流か。
「《場所ってどうやってわかるんですか?》」
「《パーティメンバーの場所ならマップ開けばわかるよ》」
マップか。
そう言えば全然開いてないな。
開いたのは依頼で届け物してた時くらいだったはず。
「《僕が先頭で歩くから。コハマル君はついて来てね》」
「《了解です》」
言われた通り、僕はギャーテーさんの後ろついて歩き始めた。
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
最近は見てないのですが、昔はよく深夜にやっていた海外のプロレス番組を見ていました。
WWEって団体の奴です。
ブロックレスナー、カートアングル、アンダーテイカー、ジョンシナ、レイミステリオ。
一番好きだったのはエディゲレロです。コーナーからのフロッグスプラッシュがカッコ良かったんすよ。
以上、自分語りでした~。ではまた次回・・・




