四階層とヤブカラ族
四階層に着いた僕たちは、動けずにいた。
「《あのー・・・どうしましょうか?》」
周り全部が膝より上の草むらに僕たちは居た。
さっき言ってたヤブカラ族が出てきてもおかしくない立地だ。
「《最悪のパターン引いたなこれは》」
「《次の階層に移動する場合ってランダムな場所に飛ぶ感じですか?》」
「《そうだよ。四階層マップのどっかに出る事になる》」
「《なるほど、草むらスタートもある訳ですね》」
「《見た通りな》」
「《それで・・・どうしましょうか》」
脳内チャットで会話しながら、現状をどうするか聞いてみる。
「《やれる事は一つだよコハマル君》」
リーダーのギャーテーさんがにやりと笑う。
「《まあ、突っ切るしかないな》」
「《合図出すから走って脱出してね》」
「《それしかないか・・・》」
「《わかりました、合図お願いします》」
「《了解・・・3・・・2・・・1・・・ゼロ!》」
全員で走り出し、草むらの切れ目へと急ぐ。
走っていると、横の草むらからがさがさと音がした。
「ヤブカラー!」
ヤブカラ族が右側の草の中から飛び上がってきた。
言われてた通り人間の子供位の小さな見た目だ。
「ボウ!」
手に持った長めの棒を僕に向かって突き出す。
「おおっ」
とっさに抜いていた刀で払いのけた。
棒を払われたヤブカラ族はそのまま草むらに着地して、見えなくなってしまった。
「足止めんな! 草から逃げるのか先!」
「わかりましたっ。チャットじゃなくていいんですか」
「完全にバレてるからな」
「了解です」
ゼニキンさんに言われて、刀を構えるのをキャンセルして、走り出す。
「ヤブカラー!ソウ!」
今度は反対側の草むらから先が尖っている槍を持ったヤブカラ族が飛んでくる。
最初は「ボウ!」と言って棒を持ったヤブカラ族が。
次は「ソウ!」と言って槍か・・・
どうやらヤブカラの後に続く言葉で、攻撃手段が違う感じの様だ。
走りながら突き出された槍を払って走り続ける。
「ヤブカラー!」
「ヤブカラー!」
他の3人も飛び上がってくるヤブカラ族に対処しながら走っていた。
あと少しで草むらから抜けられそうだ。
「ヤブカラー!」
草むらの中を走ってくるシルエットが見えた。
この一体を対処できればゴールだな。
かなり近づいてきたが飛び上がってこない・・・
・・・あ、そういうパターンもあるのか!
「ロー!」
バチン! と大きな音が鳴る。
強烈な痛みが右足を襲った。
「痛っ!」
ふくらはぎから下の感覚がなくなり、走っていた勢いのまま草の中に転がった。
やばい、早く草の中から出ないとまずい。
立ち上がろうにも右足の感覚がなく、上手く立ち上がれない。
と、誰かに襟元を掴まれた。
力強く引っ張られて首が閉まる。
「ぐえっ」
「少し我慢してくれコハマル君」
ジャンクさんだ。
僕が倒れたのがわかった様で、フォローに来てくれたのだ。
そのままお尻を地面にこすり付けながら引きずられて、どうにか草むらから出ることが出来た。
「あ、ありがとうございます」
「丁度倒れる所が見えたから。気づかなかったら置き去りにする所だったよ」
「そうならなくて良かったです」
安堵のため息を吐くと、自分たちより草むらから離れた位置で立っているゼニキンさんが声を上げる。
「そこだとまだ草むらから近いから射程範囲内だぞ!」
「だね。まだ回復してないよねコハマル君」
また足の先の感覚が戻っていない。
「まだですね」
「んじゃ引きずるけど我慢して──」
「ヤブカラー!」
草むらの中からまたその声が上がった。
ジャンクさんが襟元から手を放し、刀を構える。
「ゼニキン! コハマル君頼む!」
「これだからヤブカラ族はよぉ!」
ゼニキンさんがこちらに走り出した所で草むらから、押し出されるように、ヤブカラ族用の物なのか、四角い机がずるりと現れる。
「げっ!」
「このタイミングで!?」
机を見て二人の声に緊張が走った。
そして、机の向こう側にはヤブカラ族が座っていて、こう言った。
「ロンッ!」
仮面に『ロン』と書かれたヤブカラ族がそう言いながら机の上の小物をパタンと倒す。
「麻雀・・・?」
倒された小物は麻雀牌だった。
・・・・・・確かロンって言うのは麻雀で手役を上がった時に言う言葉だったっけ?
牌を倒したヤブカラ族の仮面がきらりと光る。
「サンマンニセン!」
「役満かよっ!」
「ぐえっ」
「逃げるよ!」
ゼニキンさんがこちらに到着すると同時に僕の襟首を掴んで引きずり走り始めた。
ジャンクさんも襟を掴んで走り、二人に引きずられる形になった。
「あの・・・3人いれば倒せるのでは?」
引きずられながら聞いてみると即答された。
「無理」
「役満は無理だよコハマル君」
役満って確か、麻雀の最高役だっけ?
だから何なのか、という疑問は直ぐに明らかになった。
「あれは召喚魔法だ!」
ゼニキンさんのその言葉と同時に、ロンと言ったヤブカラ族の後ろから、空に向かった大きな何かが立ち上がる。
「ヤブカラー!ロオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
森中に響きそうな声を上げ、巨大なモンスターが現れた。
「ドラゴンですか!」
「ドラゴンじゃなくて竜だね。トカゲ系はドラゴンだけど、今回のは蛇系だから竜の方がこの世界ではあってるよ」
ジャンクさんがそう説明してくれた。
なるほど、ドラゴンと竜って違う物なのか。
「喋りより走り! 追いつかれたらやばいぞ!」
焦った様子のゼニキンさん。
「というかこれ、逃げ切れるのか?」
「わからん、が、出来る限り逃げるもんだろ! 足掻くぞ俺は!」
「PPで回復するのは」
「ローを食らったんだよねコハマル君。ヤブカラローはPP回復不能攻撃だよ」
「たち悪いだろ」
なんだその仕様は。
そりゃゼニキンさんがあんだけウザがっている理由もわかると言うものだ。
かなりたちが悪いモンスターらしい。
「では、置いて行くのは?」
僕がそういうとゼニキンさんがそれを否定する。
「諦めてんじゃねえよコハマル! 足掻けよ」
「足掻きたいのは山々ですが、足が動かない現状ですし、全員が死ぬよりはいい気がします」
「コハマル君、なかなかドライだね。けど、コハマル君を置いて行ってもどうにかなる状況でもないし」
「実際な!」
「そんなに竜って強いんですか?」
そんな疑問を尋ねた所で、バキバキと言った音が左の森から聞こえて来た。
「うそっ・・・そんな事出来るの!」
竜のしっぽだ。
森の木々をなぎ倒しながら、猛烈なスピードで幅2メートルほどの竜のしっぽが迫って来ていた。
「あかんっ!」
「くっ!」
二人が僕の襟をつかみながら飛び上がる。
だが、流石に僕までは持ち上げきれなかった様で・・・
「ぐほあっ!」
ゴルフのティーショットのボールの様に、しっぽによる薙ぎ払いで、僕は空高く吹っ飛ばされてしまった。
全身がびりびりしている。
けど、死亡判定にはなっていないようだ。
死んでなかったので、空を飛びながら僕はPPを使って、体を回復した。
今回復しておかないと、地面に落ちた時に死んでしまうだろうし、PPを使うタイミングとしては間違っていないと思う。
しかし、これは回復出来るんだ・・・・・・ヤブカラローが特殊なのだろうな。
・・・・・・かなり飛ばされてるな。
自分の手を見る。
どうやら刀は落とさずに済んだようで、右手に握っている状態だった。
「《コハマル! 生きてたらPPで回復しとけ!》」
脳内チャットでゼニキンさんがそう言ってきた。
離れていてもパーティ中だったら使えるんだっけか。
「《しました。後は地面に落ちた時に死なないことを祈るのみです》」
「《まだ飛んでるのコハちゃん?》」
「《コハマル君、こういっては何だけど、よく飛んでるよね。飛んでる時間が長いと言う意味じゃなくて・・・》」
「《わかってますよジャンクさん。たまたまですけどね》」
まあ、PVP大会でシールダーに吹っ飛ばされてたし、そういう印象になってしまうだろうな。
「《そう言えばギャーテーさんは?》」
「《俺と一緒に草むら脱出した後は、コハちゃんを俺が迎えに行って、ギャーテーには待機して貰ってた。ヤブカラ族がヤブカラロンだとわかった時点で逃げてたっぽいが、その後はわからん》」
「《逃げたのは正しい判断だと思うよ》」
「《みんなごめーん》」
おっと、どうやら生きていたみたいだ。
「《ゼニキンさんとジャンクさんの反応見て、即座に逃げました》」
「《こいつよー》」
「《流石にヤブカラロンは無理ですよー》」
「《それはそうだがな・・・じゃあギャーテーちゃん》」
「《なんですか?》」
「《吹っ飛んだコハちゃんと合流しといてくれる? 竜から何とか逃げてみるから、その後で合流しよう》」
「《了解です。ご武運を》」
「《そろそろ地面に落ちます》」
飛んでいる軌道が下を向いてきたので、そう言っておく。
「《かなり飛ばされたな。木の枝とかを何とかクッションにして落ちてくれ。木自体にぶち当たったら即死だろうから》」
「《足掻いてみます。そちらも頑張ってください、ゼニキンさん、ジャンクさん》」
「《おうっ》」
「《死力は尽くすよ》」
さて、会話はここまで。
着地の準備だ。
刀を両手で逆手に持って、どうにか木の枝に引っかからないか、やってみよう。
地上が迫る。
まずは木。
真っすぐぶつかる軌道ではなかった。
枝の中に飛び込む。
バキバキと折れる音が鳴り、若干スピードが緩まった感触。
刀でどこかに引っかからないか試してみたが、流石に無理だった。
枝を突き抜けて地面が迫る。
頭から落ちない様に、体を丸める。
「くっ」
最後の抵抗で、刀の峰で地面を叩いた。
地面に落ちてバウンドする。
「ぐはっ!」
何度かバウンドして、ゴロゴロと転がる。
どうにか止まることが出来た様だ。
もう全身どうなってるのかわからないほどびりびりしている。
ちらりと横を見ると、手から離れた刀が見えた。
最後の最後に放してしまったんだろうな。
匍匐前進で移動して刀を握った。
立ち上がる事は無理だった。
一応PPでダメージエフェクトだけ直しておく。
何とか生きてたと言った感じだな。
「《なんとか生きてますが動けない感じです》」
「《まじか、運いいな》」
そうとだけ脳内チャットで言っておいた。
しかし、どうしたものかな。
自分の落ちた場所。
「・・・・・・」
草むらの中なんだが、詰んでないかな?
とりあえず足掻くか・・・
ゆっくりと、匍匐前進で草の中から出るべく、僕は移動しはじめた。
ヤブカラ族が出ない事を祈って行動しよう。
「ヤブカラー!」
・・・・・・まじか。
近場からそんな声が聞こえた。
これは詰んだな。さてどうしよう・・・・・・
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
ヤブカラ族は、なんかしらオリジナルモンスター出したかったので考えてたキャラです。
次の話ではどんな種類がいるか書く予定。
毎度のことながら誤字脱字の報告ありがとうございます。助かってます。
面白ければ評価もして頂けると有難いです。
よろしくお願いします。




