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チュートリアルをしよう

≪続きましてチュートリアルを開始します≫


 ガイドの声と共に白くなった世界が元に戻る。

 目の前にはコハマルではなく大きな鏡。

 映し出された自分がコハマルに変化していることが分かった。


≪キャラを動かすチュートリアルを始めます≫

「動かすチュートリアル?」

≪作られたキャラによっては現実の体との差異が生じる場合があります。その感覚を調整するフェイズです≫


 言われてコハマルとなった体を動かしてみる。

 確かに少し動きがぎこちない、というか一テンポ遅い。

 ラグがある感じだ。

 剣道のゲームやってる時も、使うキャラによって遅く感じたことを思い出す。

 身長の高い人が低いキャラを動かしたりすると、ラグがひどいという話を前にとーちゃんに聞いたっけ。


≪少し動いてみて下さい。刀を使っても構いません≫


 言われていつの間にか腰の左の帯に、刀が差し込まれていることに気づいた。


「わかりました」


 刀のつばの近くでさやを持ち、親指を伸ばして鯉口こいぐちから鍔を離す。

 ちょっと居合切りをやってみよう。

 刀なんて日常で持つ機会なんてないから、時代劇とかで見た居合切りを一度はやってみたかったんだよね。


「・・・・・・ほっ」


 右足をすこし前に踏み込み、刀を鞘の中で走らせて引き抜こうとする。


「あれ、抜けない」


 踏み込んだ状態で鞘を見てみると、鯉口にまだ入っている刀身が見えた。

 左手で鞘を後ろに引くと五センチくらいで切っ先がポロリと出てきた。


「あ、そうか。踏み込んだ時に鞘も前の方に持ってきちゃってたのか」


 鯉口をおへその所まで前へとずらしてしまった様だ。

 踏み込んだ時に柄を持った手を前に出し、腰を回して抜くのだが、鞘を持った手も腰の回転と共に前へと移動させてしまっていた。

 右手で刀を抜こうとしてるのに、左手で抜けないように妨害していたみたいだ。


「なるほどなるほど」


 とりあえず刀は抜けた。

 いったん居合切りは忘れて刀を振ってみる事にする。

 剣道ゲームで良く使っていた上段の構えを取り、振り下ろす。

 シュン、シュン、とか細い風音がする。

 こんなに振った音って聞こえるものなのだろうか。ゲーム的なエフェクトの類かもしれないな。


≪最適化します≫


 しばらく振っているとガイドの音声が聞こえた。


「おっ」


 若干ではあるがラグがなくなり、キャラと自分の境がなくなっていく様に感じた。


≪最適化します≫

「おっ」

≪最適化します≫

「おっ」

≪最適化します≫

「おおっ」


 そのまま続けていたら最適化がどんどん進んでいった。

 今ではラグを感じることなく体が動き、刀を振り下ろしている。

 完全にキャラクターの『コハマル』になった、といった感じだ。

 そろそろ他の事をしたいな。


「あの、ちょっといいですか。戦闘ってここで出来ますか?」


 体が動かせるようになったので、実際に戦ってみたくなった。

 ММОRPGだし、サムライだし、そういう事もチュートリアルでやらせてくれるんじゃないだろうか。


≪出来ます。模擬戦を始めますか?≫

「よろしくお願いします」

≪ゴブリンを召喚します≫


 おーゴブリンか。定番の序盤キャラだな。


≪十レベルまで、ゴブリンの強さのレベルを設定できます≫

「じゃあ一レベルで」


 初めての戦闘だし、弱いやつからやってみよう。


≪戦闘を開始します≫


 その言葉と同時に僕はゴブリンに刀を上段に構えて目を向ける。

 低身長で緑色の肌。

 腰ミノをしており鼻と耳が長い。

 なんというか、イメージ通りのゴブリンだった。

 武器はこん棒。構えもなくだらりと手を下ろして持っている。


「キシャアア」

「よろしく」


 叫び声を上げながら飛びかかってきたゴブリンに、上段に構えた刀を振り下ろす。

 切っ先が頭に当たり、すっと入りこむ。


「おあっ!」


 しかし、ゴブリンは止まらず、こん棒を振り下ろしてきた。

 とっさに横に躱そうとして肩を殴られて──


「あれ」


 足がついて来ずに転んだ。

 慌てて立ち上がろうとするが、何故か足の感覚が鈍い。

 立ち上がるのに時間がかかった。

 そして、ゴブリンはというと──


「・・・・・・」


 殴った後にそのまま倒れたようで起き上がってこない。

 パリパリと黒い電気のようなエフェクトが光り、割れるように消えてしまった。


「倒した・・・のか、というか一撃でか」

≪心刀使いは相手の弱点を斬ることで能力の低下や即死を与えることが出来ます≫

「頭を斬ったから即死判定が出たって事ですか」

≪そういう事です≫


 弱いゴブリンだったから一撃かと思ったけど違うのか。

 心刀使いは即死持ち種族らしい。強いなそれは。

 って心刀使いの能力は今はいい。

 それよりまず先に自分の感覚のずれについてだ。

 足がラグい。というか下半身が重い。


「もしかして体の下の方の最適化って出来てません?」

≪先ほどは刀を振ってるだけでしたので、下半身の最適化はまだ少しだけです≫


 なるほど。じゃあ次はそれだな。


「下半身の最適化したいんですが・・・走ったりすればいいですか」

≪走る事でも最適化できますが、こういうのもあります≫


 地面に光の線が三本現れた。

 縦に三本。横に並んで引かれており、一本一本の幅は大股で足を開いたくらいあった。


≪反復横跳び用の線です。十秒間でどれだけ出来るかを計る事も出来ます≫

「へー」

≪今までチュートリアルで反復横跳びをしたプレイヤーの記録も見ることが出来ます。現在の最高得点は五十点です≫

「点数はどういう基準で増えるんですか」

≪動き出してから線を跨いだ数となっております≫

「わかりました。やってみます」


 とりあえずやってみる精神で臨んでみる事にした。

 まずは最適化しながらどこまで伸ばせるかだね。

 スタートの合図はなく、中心の線を跨いで左右どちらかに動き出した所で計り始めるようだ。


≪────現在の記録は二十点です。最適化します≫

「もう一回お願いします」

≪────現在の記録は二十八点です。最適化します≫

「もう一回」

≪────現在の記録は三十二点です。最適化します≫

「もう一回」

≪────現在の記録は三十五点です。最適化します≫


 点数が出るというのか意外と面白く、いつの間にか、最高記録を狙って見ようと思うようになっていた。

 ひたすら最適化された体で反復横跳びをする。


≪────現在の記録は四十二点です。最適化します≫


 四十点を超えた辺りから点数が伸びなくなって来た。

 それでもただひたすら反復横跳びを続ける。


≪────現在の記録は四十五点です≫

「うし、一点伸びた。あと五点か」


 着実に伸びる記録。五十点の大台に手が届く感触を実感したとき──


 ぴぴぴぴっ ぴぴぴぴっ。


「ん、なに?」


 何やら耳元で音がなかった。


≪ダイブを始めてから六時間経った時に鳴るタイマーの音です。一度プレイを中断して休憩を取ることをお勧めします≫

「へー、そういうのあるんですね・・・・・・六時間? えっ六時間ですか!」

≪はい≫

「今何時ですかっ」

「午前一時三十分です」

「・・・・・・」


 時間を聞いて僕はほっとした。

 午前四時とかだったら寝ずに学校に行くところだ。それはつらい。

 しかしそんなに時間がたっているなんて思ってもみなかった。

 名前決めてキャラ作って刀振って反復横跳びで六時間。

 時間の使い方を間違っているな、これは。

 それにまだチュートリアルが終わってない。


「もうちょい粘る・・・いやそれだと・・・うーん」


 五十点までやってみたい。

 けどそれだと寝る時間が無くなる。


≪ログアウトしますか?≫


 唐突にガイドさんがそんな事を言った。


「え、ここでログアウト出来るんですか」

≪ログアウトした場合は、このチュートリアルの続きからとなります≫

「それマジで素晴らしいです」


 今やめたらまた初めからキャラメイクするかもと思っていた僕にはとてつもなく朗報だ。

 学校あるし、さっさと寝よう。


「ログアウトお願いします」

≪ログアウトする場合はまず、『システム』と唱えてください≫

「『システム』?・・・おお」


 呟くと目の前にシステムメニューと書かれたウインドウが現れた。


≪システムの項目にある『ログアウト』をお選びください≫


 『ログアウト』にタッチすると、「ログアウトしますか」という文字と、その下に「はい」「いいえ」の文字が現れた。


「これにタッチすればいいんですね」

≪その通りです≫

「わかりました、ありがとうございます。お休みなさい」

≪お休みなさい、コハマル様≫


 ガイドさんに就寝のあいさつを告げて、コハマルとしての一日目が終わった。



「ん、とーちゃんまだ起きてたの」

「そのセリフは俺のセリフたと思うぞ息子よ。教えたゲームはやったか」

「やったよ」

「おお、そうかそうか」

「とりあえず今日は歯を磨いて寝るよ」

「俺も寝るか。配信は明日にでも見させて貰う」

「ああ、配信だけどまだそこまでいってないよ」

「そこまでいってないって、どゆこと?」

「さっきまで反復横跳びしてたから。じゃあお休みー」

「・・・・・・・・・どゆこと?」


二日目に続きます。

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