トレイン銀々次郎さん
乱戦の中で戦い方が定まってきた。
上段からの振り下ろしだけならそこそこ行けるとタカサ師範に言われている僕のやる事はただ一つ。
上段からの攻撃だけだ。
避けられても直ぐに構えて振り下ろす。
「速っ! けど上段斬りだけかてめぇ!」
「これしか手がないので」
隙間なく振り続ける上段撃ちに手を焼いてくれる人が結構いた。
刀で届く距離には踏み込ませない様に速度を上げて振り続ける。
前方にだけバリアを展開してる感じだ。
「こんなろっ!」
安易に剣などで打ち込んで来るのならその剣を目掛けて振り下ろす。
ガキンと刃と刃がぶつかって音が鳴った。
上手く剣を打ち据えることが出来れば、手から剣を落とす事も出来た。
「くっ」
剣を拾おうと手を伸ばした所で、防具で守っていない場所に突きを入れる。
タカサ師範が見てたら、そこは上段からの打ち込みでしょ、とか言いそうだな。
いや、突きの方がスムーズに出来るのだから仕方がない。
上から撃つのだと防具の隙間とか狙いにくいしね。
「ぐはー、刺されたわー」
上手く首筋とか刺さればそのまま倒れてくれるしね。
まあ、こんなに一人で上手くいくのは稀だった。
剣を落としてくれないのが大半だ。
「あっぶねぇ。隙なさすぎじゃね、その振り」
「そんなでもないですよ」
言いながら近づかせないために素振りのバリアを展開し続ける。
そうすると相手はこちらのスタミナ切れを待つように、距離を保ち始める。
こうなってしまうと、今の僕にはどうしようもなかった。
バリア素振りを止めてスタミナを回復しようとすれば、隙有りと見て何かしら仕掛けてくるだろうし、永遠とバリア素振りをし続ける事も出来ない。
なので共闘仲間を頼る事にした。
「シンタロウさん!」
前を向きながら近くで戦っているシンタロウさんの名前を呼ぶ。
乱戦の合間に考えた、攻略開始の合図だ。
「飛斬!」
後ろからシンタロウさんの技を叫ぶ声が聞こえた。
「ふんっ」
すぐさま気合を入れて跳躍をする。
下半身にダメージが溜まっているのでちょっと辛くもあるのだが、どうにか頑張って跳躍した。
飛ぶ方向は若干前方に向かって上に飛ぶ。
直ぐに自分の体の下を飛斬の斬撃が通過して、目の前のヒューマンプレイヤーに迫った。
「なっ──」
跳躍とほぼ同時に向かってきた飛斬を腹に受けてヒューマンが後ずさる。
しかし、防具に阻まれて致命傷には至っていない。
そこを飛び上がった僕の、上からの打ち込み。
「──にくそっ!」
だが、その斬撃は即座に構えた剣によって弾かれてしまった。
「おっと」
バランスを崩して着地するが片膝をついてしまう。
反応が早い。やるなぁヒューマンの人。
「しゃあ!」
貰った、とでも言いたげな叫びと共にヒューマンの人が剣を大きく振り上げた。
二の矢まで防がれてしまったな。
けど、三の矢もあったりするんです。
「ほい」
剣を振り上げたヒューマンの人の体に、ズワイガニさんの刀がするりと入っていった。
「ふぁっ!? どこから出て来たてめぇ」
「便利な移動技がありましてね」
「縮地か・・・気づかなんだ・・・」
ヒューマンの剣士がパリンと割れて退場する。
振り返り、シンタロウさんが相手をしているヒューマンに二人で向かう。
「ああっ、くっそー、やられちゃー!」
三対一だと割と早く終わるな。
パリンと割れてご退場した。
「上手く行ってるな」
「ええ、そうですね」
「コハマル君の作戦だけど、確かにちょっとだけ楽な気がするよ」
「二人の使える技を聞いて、とっさに思いついただけですけどね」
三対三での戦い方がこんな感じだ。
相手によるが、全員が始めに、一対一で戦う所からスタートする。
そして合図を出して、僕の相手に向かってシンタロウさんに飛斬を撃ってもらう。
位置によってはシンタロウさんと戦っている人から背を向ける事になるので、ズワイガニさんに縮地ですぐにシンタロウさんの戦っている人の間に入ってシンタロウさんを守って貰う。
飛斬を撃ったシンタロウさんは直ぐにズワイガニさんと共に二対一になった相手を倒してもらう。
これが思った以上に早く終わった。
やっぱり二人は僕が考えているより強いプレイヤーの様だった。
倒せたらズワイガニさんに縮地で僕の方に移動してもらう。
僕と戦っている人とこれで二対一になる。
二人目を倒せたら、ズワイガニさんが始めに戦っていた人が残っているので、その人を三人で倒す。
以上がとっさに考えた、出来る限り二対一以上にして戦って勝つ『袋叩き戦法』だ。
もちろん一対一の時に倒してしまえるのがいいが、二人にはあまり無理しないで欲しいと言っておいてある。
二対一以上で戦った方が楽だしね。
「なんか・・・上手くいってるけど俺が一番危ないポジションな気がするんだが」
シンタロウさんが不満げにそう言った。
まあ確かに、背中を見せて飛斬撃ってもらう事になったりするからなぁ。
「危ないのは全員一緒でしょうよ」
ズワイガニさんがフォローしてくれた。
「まあ、そうだな。お前も二回技使ってる訳だし大丈夫かよ」
「今のところは平気です。それに、この作戦、上手く行くとかなり楽しくありませんかシンタロウ君」
「それは間違いないな」
頷きながらシンタロウさんは笑って答えた。
しかし、笑っていたのは一瞬だけだった。
直ぐに表情を引き締めると周りを見渡す。
「そろそろアイツが戻って来そうだよな」
「生きてたらですか、そろそろですかね」
「・・・あいつと言いますと?」
二人がアイツという何かが来ると言うので尋ねた。
「逃げた銀々次郎だ」
シンタロウさんがそういう。
「銀々次郎さんですか」
「そうだよ」
「・・・戻ってくるってどういうことですか?」
あんなこと言って逃げてった人が何で戻ってくると言うのだろうか。
「見たままだよ」
ため息を吐きながら指を差すシンタロウさん。
「来ましたねぇ」
「しぶとい奴だ」
二人が呆れながら呟く。
指を向けた先を見ると、銀々次郎さんがこちらに向かってきている所だった。
大勢のヒューマンを引き連れて・・・
「みんなー! 助けてくれー!」
泣きそうな顔で走ってくる銀々次郎さん。
「あんな感じに敵を連れてきては押し付けて逃げていくんだよ」
「ギャーテー君はそれでやられて退場しちゃいましてね」
「なるほど」
トレインして押し付けて逃げるを繰り返している訳か。
まあ、今の乱戦なら間違った戦い方ではないかもだけど、後々人間関係は壊れそうなやり方だな。
「流石にあの数は不味いな」
「一度撤退しますか?」
「逃げてもあの馬鹿が追ってくるからどっちみち戦わないとなんですよね」
「飛斬で銀々次郎さんを倒すのは」
「それやってさっき避けられた。後ろの団体に当たってヘイトがこっちに向く。アイツはそのまま逃げだす」
「対処の仕方が難しいんですよね」
「・・・なるほど、わかりました」
二人の前に出て、銀々次郎さんを迎え撃つ。
「コハマル?」
「ちょっとやってみます。銀々次郎さーん」
両手を前に出して銀々次郎さんを呼んだ。
「コハマル君! 君は本当にいい子だねぇ!」
走ってきた銀々次郎さんは僕の伸ばした手を掴んだ。
と、同時に──
「ふんっ」
しっかりと握り返し、放さないようにしながら、走ってきた勢いを乗せて振り回す。
砲丸投げみたいな感じだな。
「え、ちょっとっ」
「ふーん!」
振り回されて勢いの乗った銀々次郎さんをトレインしてきたヒューマンの方向に投げ飛ばした。
予想してなかったことだったのか、足がもつれて地面に倒れこむ銀々次郎さん。
「でちょっ! ちょっとコハマル君!」
倒れた銀々次郎さんを無視してシンタロウさんたちの間を走って通り抜ける。
「それじゃ逃げましょうか」
「・・・やるなコハマル」
ちらりと後ろを見て二人がついて来てくれている事を確認する。
「いったん味方と思わせてから裏切れば行けると思いました」
「コハマル君、こういう大会の方が向いてるとかありそうですねぇ」
「だな、またこんなバトルロワイヤルな大会開かれたら一緒にやろうぜ」
「その時はまたよろしくお願いします」
良し、それじゃ安全そうな場所か少数のヒューマンの集団を探そう。
「コハマルがあ! 恨んじゃうぞもおー!」
後ろの方からそんな断末魔の言葉が聞こえては来たが、生者は死者の為に煩わさるべからず、って言うしね。
心の中で手だけは合わせて、三人で生き残る事を目指して集中するのだった。
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
何とか今日に間に合いました。
これからも三日で一本と言った感じに頑張りたいと思います。




