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乱戦と共闘


 やっぱ装備って大事だよね。

 ヒューマンの剣士に向かって斬りこんだら、こっちが突っ込んでくると思ってなかったのか、持ってる剣で受け止めようとしてきた。

 構わず斬りこむと、僕の刀を止められなかった様で、頭に直撃した。


「あいたっ!」


 ・・・したのだが、兜をかぶっていた事が幸いして、兜の横をすべるように斬撃が通り、金属製の肩当かたあてに阻まれて、斬るには至らなかった。

 それでもダメージは与えたようで、相手が膝をつく。

 動けない内に再び振り上げた刀で追い打ちをしようとしたのだが──


「おいしょー!」


 横からタックルを食らって吹っ飛ばされた。

 まあ、乱戦になってる訳だし、他の所も見なきゃこうなるか。

 地面を転がり、その勢いを利用して飛び起きる。

 前を見ると自分を吹っ飛ばしたであろう人が向かってきていた。


「盾でっか」


 シールダーとかいうやつかな。

 大きいからだと大きい盾でこちらに向かって迫ってくる。

 縦がデカすぎて体が見えない。

 これ、何処を斬ればいいのだろうか。

 向かってくる大きな盾を見ながら、体は自然と上段の構えを取っていた。

 これしか取り柄ないんだよね。

 あれだけ縦がデカいのだからこっちの事は見えてない可能性もあるか。

 少し飛び上がって向かってきた盾の上の部分を 釘を打ち付けるように刀を打ち込む。


「ふんっ」

「おあっ」


 上から打たれて盾が地面に接触した。

 シールダーが盾自体にけつまずいて前へと転んだ。

 いったん引いて倒れてきた盾を躱し、斬りかかろうとしたが──


「よっ」

「ぐえっ」


 横から縮地で現れたサムライの防具の隙間を狙った首への一突きで、シールダーは倒されてしまった。

 まあ生き残るのが優先だからいいのか。

 次はこのサムライを相手にしようと刀を振り上げたところで、相手が手を前に出した。


「待て待て、先にヒューマンだろここは」

「先にヒューマン?」

「周り見ろ、他も同じ考えっぽいぞ」


 上段の構えを取りながら周りを見てみると、どうやらヒューマンとサムライでの戦いになっている所が多いみたいだ。


「ここは便乗しようぜ。乱戦で仲間なし。それじゃ生き残れないだろ?」

「仲間だと思ってた心刀使いに斬りかかられたりするのでは」

「そん時はそん時よ。けど団結してる時に裏切ったらすぐ周りにやられちまうだろ、多分」

「裏切者はすぐに倒されると」

「最終局面以外はそうなるだろ。けどあとどの位かなんてわからないしな。大丈夫なはず」


 最終局面・・・・・・つまり本戦に出れる人数まで減った時はどうなるかわからないと言う事か。

 まあ、なるようになれかな


「わかりました」


 地面を蹴って大きく踏み込む。


「てちょっ!」


 斬られると思ったのか、サムライが頭の上に刀を持って来て構えた。

 そのまま話していたサムライを通り過ぎて後ろから狙っていたヒューマンの頭を叩き切った。


「おいっ、そいつ狙えよサムライ!」

「すみません、談合が済んだので」

「くっそぉ」


 今度のヒューマンは兜をかぶっていなかったので、するりと斬れた。

 バリンと割れるようにヒューマンが消える。


「とりあえずよろしくお願いします」

「斬りつけられるかと思った」

「やられそうだったので。コハマルです」

雀九郎じゃんくろうだ。ジャンクって呼ばれてる。よろしくな」


 握手をしている余裕はないので頭だけ少し下げて答える。


「心刀使いはヒューマン狙えヒューマン!」


 ジャンクさんが周りにそう言いながら戦い始めた。

 こっちを狙おうとしていたサムライもいたが、ジャンクさんの言葉を聞いて、ヒューマンと戦う事を選択する人が増える。

 中にはそんなのかんけーねぇ!とばかりに向かってくるサムライもいたが──


「ヒューマン先に倒そうぜ、なっ」

「うるせえ! 全員斬ればいいだけだろ!」

「それはそうなんだけど」

「こっちは二人いますしね」


 ジャンクさんが刀を受けたところで、僕が横から斬りつけて倒す。


「二人がかりとは卑怯だぞ!」

「空気を読まないとな。一対一じゃない訳だし」

「次、来ますよジャンクさん」

「もうかい」


 休む暇がないなホント。

 お次は団体さん。五人組のヒューマンだった。


「コハマル君、撤退!」

「了解です」


 人数が多いヒューマンの団体に襲われそうになったらすぐ逃げる。

 そして、数人固まっている心刀使いのいる場所に向かう。


「ちょっと助けてくれい!」

「なんだお前!」

「ほら、後ろからヒューマン来てるでしょ」

「ヒューマンをトレインして来てるんじゃねえよ!」

「よろしくお願いします」

「え、君も、仲間?」

「もう喋ってる余裕はないぞ」

「ああっ、くそっ!」


 挨拶もそこそこに戦闘が始まる。


「おいヒーラーいんぞ、ヒーラー潰せ!」

シールダー固ぇ! 縮地使える奴、背中斬ってくれ!」

「おい魔法使いまでいるぞ」

「PVP大会に出てくるか、珍しいな」

なごんでんじゃねえよお前ら! さっさと斬れ!」


 罵声と轟音響く戦場って感じだ。

 今まで道場で鍛錬していただけだったから、別ゲーしてる感じがするな。


「面白くなってきたな」


 ジャンクさんが楽し気にそう言った。


「そうですね」

「コハマルはどうする。押し付けて逃げる?」

「流石にそれはひどいので戦いましょう。人数不利もないですし」


 五体五になったので有利不利はないはず。

 ただ、ヒーラーが居るので回復されると厄介かな。 


「わかった。技何もってる?」

「なしです」

「・・・そうなのか」

「ただ、シールダーは相手できると思います」

「なるほど、了解した。横から倒すから」

「お願いします」


 直ぐに盾持ちのシールダーの前に移動する。

 こちらに気づいて盾を構えて前進してくる。

 僕はすっとシールドの陰に隠れるように姿勢を低くして移動した。

 即座に少し後方に向かうように上へと跳躍する。


「シールドバッシュ!」


 相手がとっさにスキルを使ってきた。

 ジャンクさんが倒した人が使ってきていなかったスキルだ。

 構わず上から盾を地面に打ち込むように振り下ろす。

 盾が地面をこする。

 しかし盾は止まらず、僕の下半身に向かって突進してくる。


「ぐえっ」


 吹っ飛ばされて回転しながら空中を飛んでいく。


「コハマル!」


 回転しながらジャンクさんが倒れたシールダーに刀を突き入れているのが見えた。

 一応、倒れてはくれたのか。良かった良かった。


「流石にこれはダメそうですね」


 このまま回転しながら落ちたら僕もパリンと割れてお終いな気がするな。

 とりあえず足掻くか。

 迫る地面を確認しながらどうにか足の方から落ちようと体を動かす。

 と言っても、どうやったら足から落ちれるのか。それがわからない。


「あれ?」


 と、落下地点に走りこんでくる人影が見えた。

 誰かが助けに来た?

 そう思ったがこちらを向いている訳ではなく、後ろを気にしながら走っているようだ。

 幸か不幸かは別にして、足掻こう。

 走りこんでくる人、ごめんね。


「あのー!」

「へっ」


 呼ばれて思わず立ち止まったその人めがけて僕は飛んでいく。


「ごめんなさい!」

「げ、ぐほあ!」


 こちらに気づいたが時すでに遅し。

 空中からのタックルを食らい僕ともども下にいた人は吹っ飛んだ。

 ゴロゴロと転がって止まる。


「・・・おおー。生きているって素晴らしい」


 どうやら死亡判定にはなってないようだった。

 下にいた人がクッションの役割をしてくれたんだろう。

 ただ、吹っ飛ばされたショックか、シールドバッシュというスキルのせいか、スタンの状態異常が出ているようだ。

 数十秒ほど体が動かせない状態だ。

 下半身は黄色く光ってるので中傷扱いっぽい。

 重傷じゃないだけ運がいいとは思うけど。


「くっ。人間砲弾なんて心刀技があるとは思わなかったぞコノヤロー!」


 クッションになってくれた人がよろよろと立ち上がる。

 あちらにもそれなりのダメージが入っている様だった。


「すみませんでした・・・あれ」

「あ、お前」


 偶然にしては出来すぎじゃない?


「一回戦の対戦相手!」

「コハマルですよ、ギンギンさん」


 立ち上がって来たのは、バトルロワイヤルが始まる前に会った銀々次郎さんだった。


「縁がありますね」

「まったくだよ・・・じゃなくてコハマル君!」


 銀々次郎さんが迫ってくる。

 これはやられたかな。

 斬られると思ったのだが、銀々次郎さんは僕の手を取った。


「立てる? ちょっと助けて欲しいの!」

「はあ?」


 スタンが切れて、何とか立ち上がった僕の前にまた知った顔が現れた。


「良くやったコハマル。そいつを逃すなよ」

「コハマル君が飛んでるの見た時は笑っちゃいましたよ」


 シンタロウさんとズワイガニさんだ。

 もう一人の姿が見えないのだが・・・


「ギャーテーさんは」

「やられて退場した」

「なるほど」


 まあ乱戦だし仕方ないか・・・


「とりあえずコハマル。そいつをこっちに寄越せ」

「説得してくれないかコハマル君!」


 銀々次郎さんは僕の背中に隠れて前に出ようとはしなかった。


「共闘しているのでは?」


 一緒にいたみたいだし、そういう事じゃないのだろうか。


「してない!」

「してません」


 二人は即座に否定した。

 銀々次郎さんも黙っているので共闘はしていなかったようだ。

 早くそいつを斬らせろ、とでも言いたげなオーラを放つ二人。

 僕としては挑発を恨んでる訳でもないので、共闘するなら別にいい気がするんだが・・・

 とりあえず理由は聞いておきたい所だ。


「あー」


 けど時間がない。


「シンタロウさん後ろ、ズワイガニさん右です」


 こっちに迫ってくるヒューマンを指さす。


「ああーくそっ!」

「説明は落ち着いてからですね」


 シンタロウさんたちが戦い始める。

 加勢に入ろうとして、一応、後ろから動こうとしないギンギンさんに提案する。


「共闘しましょうギンギンさん。何したか知りませんが共闘すれば許してもらえるかもですよ」

「挑発、恨んでないのかコハマル君」

「恨んでませんので共闘しましょう」


 にっこり笑うと銀々次郎さんが少し離れた。

 そして逃げ出した。


「ヤダ!」

「え、ちょっと銀々次郎さんっ?」

「共闘なんかするなボケ! 俺はトーナメント始まるまで逃げ切ってやるのだ!」


 捨て台詞を履きながら脱兎の如く人込みを掻い潜って消えていった。

 足速いなぁ。今の僕より速いかもしれない。


「にしてもすごい切り替えの早さだなぁ」


 安全とわかれば頼った人にさえ暴言を吐いて逃げていく。

 僕には真似できないプレイスタイルだ。

 憧れはしないが感心はしてしまった。


「何やってんだコハマル! こっち加勢してくれ!」


 呆けている場合じゃないな。

 下半身の痺れはあるものの、まだ戦える。

 ふん、と気合を入れなおして、シンタロウさんたちが戦っている所へと向かっていった。



 

ここまでお読みいただき有り難う御座います。



『つんのめる』って書こうとして調べたら方言でした。

これ通じなかったりするんですかね。

出来るだけそういう言葉は入れない様にするつもりです。

つんのめる。方言とは知らなかったな・・・・・・



おまけ

シンタロウさんたちが向かってきている時の話。


「あ! あれ、コハマルじゃん!」

「え・・・ぶふっ」

「スワイガニなに笑ってんだよ」

「いや、コハマル君の飛ぶ姿と、シンタロウ君の「コハマルじゃん!」が面白くて吹いちゃいました」

「・・・コハマルじゃんって変か?」

「シンタロウ君は硬派というかなんかお堅いイメージだったので、○○じゃん的な言い回しするんだって思ったら面白くてですね。声色も嬉しそうだったのでギャップにやられましたよ。ははは」

「ケンカ売ってるのかよおい」

「ケンカなら左から来てる人が買ってくれると思いますよ」

「ああもう、次から次へとよお!」



向かってきたヒューマンを倒した後に合流といった流れでした。

次回もよろしくお願いします。


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