初級大会に出る事に・・・
「コハマル君、紹介してもらえるかな」
タカサ師範が嬉しそうに笑みを見せて声をかけてきた。
「・・・・・・町の警備してるプレイヤーのデデルマンさんです」
「デデルマンです、よろしく」
「コハマル君が通っている道場の師範、タカサです。よろしく」
にっこり笑って握手を交わす二人。
逃げるのは今しかない。
「逃げなくていいでしょコハマル君」
だが、回り込まれてしまった。
音もなくスライド移動して立ちふさがるデデルマンさん。
「別に取って食おうとかそういう話ではないでしょうに。大会に出場するだけだよ」
「何でそこまでデデルマンさんが僕を大会に出場させたいのかがわからないのですが・・・」
「まあ、それには一応理由がある」
そういうとデデルマンさんが顔を近づけて小声で話し始めた。
「コハマル君がちゃんと強くなってるか確認したいのもあるけど、ちょっと戦いたくなっちゃって」
「PVPしたくなったという事ですか」
「コハマル君とね」
なんでやねん。
「僕とPVPしたくなったと?」
「コハマル君とあった日の事だ」
唐突にデデルマンさんが初めて会った日の話を始めた。
「別れ際のコハマル君を見てなんというか直感が働いた。虫の知らせみたいな感じにね」
「え」
「なんとなく何か隠している気がしてね。その事を同心組の仲間に話して、その日は何事もなく終わった」
「・・・・・・」
「そして昨日の事だ。同心組の一人が動画サイトで動画を見ていたらコハマル君の動画を発見してな」
日付しか書いてない動画を開いたら、僕の動画だったって訳か。
どんな確率だよ。ベナミヤのタグとか付いていたりしたっけ?
あとで確認してみるか・・・・・・いや、それも面倒くさいな。
「俺はその報を受けた直後にその動画を教えて貰い、検索して動画を見た。コハマル君がベナミヤでプレイしている動画だった。そして過去動画を探して本命の動画に行きついた!」
「・・・・・・」
「もうわかるだろう」
「まあ、そうですね。見たわけですか」
「コハマル君と初めて会った日の動画を探し出した」
「・・・・・・」
「キョーコちゃんの微笑んだ姿がそこにあった・・・・・・」
上を見上げて遠い目をしている。
感無量と言った感じだ。まあ、喜んでるのなら良かったって事でいいのかな。
「だからコハマル君とちょっと戦いたくなっちゃってね」
「いきなり脈絡がなくなったのですが?」
「あんな笑顔を! キョーコちゃんのどアップの微笑みを独占したコハマル君が恨めしい!」
「勘弁してください」
逆恨みいいとこだ。
「勧誘はもう受けなくていいんですね。恨んでるみたいですし」
「いや、それはまた話が違うだろ」
「なんでですか」
「あんないい動画を取れる人間を放っておく訳にはいかないのだよ。コハマル君には同心組に速攻で入って貰いたい」
「自分たちで配信してガンジョウさんの動画を取ればいいじゃないですか」
言っててなんだが、完全に隠し撮り。この世界でも犯罪として捕まるんじゃないのか?
「もうやっている」
すでに犯罪者だったか・・・・・・それを言ったら僕も同じような物だけどさ。
「同心組の仲間はこぞって配信を始めたよ。キョーコちゃんの笑顔を撮るためにね」
「そうでしたか」
「だがねぇ、難しいんだよ。ナチュラルな笑顔を撮るというのは!」
「そんなもんですかねー」
「俺たち同人組だとどうしても上下関係を考えてキョーコちゃんに対して下手に出てしまう。それだとキョーコちゃんの上司としての笑顔しか収めることが出来ないのだ!」
「それはそれで良いのでは?」
「まったくもってその通り!」
どっちだよ。
「だがねぇ、コハマル君。コハマル君が生み出した友達感覚の笑顔が最高なんだよ! 無防備で童心に帰ったような笑顔・・・それが究極の微笑みなのだよ!」
そんなもんかなぁ・・・
「という事で負けたら同心組に入って貰うからね」
「は?」
いきなりすぎる。それが目的かこの人。
「今日の大会には同心組からも数名出てるから、そいつらに負けても入って貰うからね」
「横暴すぎるのでは」
「ではどうすればコハマル君は同心組に入ってくれるのだい?」
なんだか大会に出る流れから、同心組に入らなければならない流れになってきているのだが、どうしたものか。
タカサ師範に止めて貰うとかどうだろう。
「タカサ師範。話、聞いてました」
「ん、まあ聞いてたけど。デデルマン君だっけ」
「はい」
「流石につい先日入ったばかりの弟子を他に取られるのは頂けないねぇ」
まあそれはそうだよね。
最強にするとか言ってる師範がいきなり投げ出すとは思えない。
「参加費は自分が出しますからお願いします」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、参加費出したくらいで引き抜かれちゃ困るよ。うん」
僕はタカサ師範の長い沈黙に困り顔ですよ。
「では引き抜き料では?」
「ほう、引き抜き料ときたか」
・・・・・・あの、師範?
「この位で・・・・・・」
「なるほど・・・・・・」
こちらに背を向けて、デデルマンさんとタカサ師範が話している。
「どうですか・・・・・・」
「・・・・・・もうちょっと出ない?」
「タカサ師範!」
大声を出してしまった。
目先の金欲しさに弟子売る気満々すぎる。
「タカサ師範、もういいですから」
「コハマル君・・・・・・冗談だよ?」
「自分の事ですから自分で交渉します。そこで立って待っててください」
「はい・・・・・・」
気を付けをしてタカサは固まった。
「はあ・・・・・・デデルマンさん」
ため息を吐いてデデルマンさんの方を向く。
「強くなってから入ってくれという約束だったはずですが」
「強くはなっているだろう。動画見たがここ数日ずっと鍛錬を続けている。内の新人よりは間違いなく強いと言っていいだろうよ」
動画ちゃんとチェックしてるのか・・・
という事はもしかして。
「デデルマンさんや他の同心組がここにいるのは、今配信している自分の動画を見たからですか」
「その通りだよ」
やっぱりか。まあ予想は出来る範囲だけどね。
「そうなんですか・・・・・・対人戦はしていないので実感ないですね。強くなってる実感は」
「なに、同心組に入れば直ぐに対人戦の要領もわかるよ。だから入ろう同心組」
「条件を出します」
「条件・・・・・・どんな?」
僕は指を二本立てた。
「条件は二つ。まず、今通っているそこの人の道場で技を覚えてから、というのが一つ」
「・・・・・・もう一つは?」
「もう一つは今日のPVP大会が終わったらガンジョウさんに会わせて下さい。今日でなくてもいいですけど、出来るだけ早めに」
「キョーコちゃんに会いたいと?」
「そういう事です。なんでしたら同心組が訓練している訓練場の場所を教えて貰うのでもいいです。ガンジョウさんがいる時間を教えて貰えればその時に行きますので」
「訓練場は国の中心にある城のすぐ近くだ。北側の商店街から南に歩いて行って一番端っこにある大きな建物だよ」
「なるほど、わかりました。時間はどのくらいに行けば会えますかね」
「・・・・・・」
何でそこで黙るのか。
「あの、返答を」
「・・・・・・下心とか無いよね」
なんでそうなる。
「ありません。ゼロです。マジでゼロですので」
「キョーコちゃんが魅力ゼロだとお!」
「デデルマンさんっ」
身を乗り出してきたデデルマンさんの顔を両手で掴む。
僕はデデルマンさんを睨みつけていた。
「んがっ」
「下心がないと言っているだけです。落ち着いてください」
「む・・・・・・」
「わかって頂けましたか」
「・・・・・・わかった」
落ち着きを取り戻したみたいなのでデデルマンさんの顔から手を離した。
もうそろそろいい加減にして欲しい所だ。
「コハマル君。怒ると目が怖くなるね」
「それは、ちょっと、困りますね」
まいったな。垂れ目にしても睨むとリアルの怖い目つきになっちゃってるのか。
目元をマッサージしてなんとか垂れ目になるようにしてみる。
「それでその条件で納得してくれますか」
「技を覚えていないから今日は同心組に入らないって事か」
「そういう事になります。タカサ、師範」
「ん、なに?」
すこし師範を付け足すのに間があったが、タカサ師範は気にしていない様子。
「僕はどのくらいで技を覚えられそうですか」
「んー、そうだねぇ。一週間か二週間くらい」
「結構長めだな」
デデルマンさんが顎を掻きながら言った。
「まあうちで教える技はそりゃ強いから、そんくらいにはなるよ。それでも早いよホント。プレイヤー様々だよ全く」
やれやれと呆れた様に師範は述べた。
「私も今からプレイヤーになりたいなぁ。そうすれば鍛錬も数分で良さそうだし」
「プレイヤーの方が覚えがいいんでしたっけ」
「そうなんだよ。まったくねー。嫌になるね」
「なんか、投げやりな師範だな」
そうなんですよデデルマンさん。
無言で頷く。
「技覚えたら教えますので」
「覚えたら入ってくれる訳か」
「いえ、戦いましょう」
「・・・・・・大会でか?」
「そうですね。大会ででもいいです」
戦いたいと言う僕を怪訝そうに見るデデルマンさん。
「デデルマンさんは動画を見て恨めしくてちょっと畳んじゃおうとか思ってここに来たんですよね」
「お・・・・・・まあそうだな」
「自分もイラついたんでぶっ飛ばしたくなりました」
「・・・・・・コハマル君」
「こういうのは恨みっこなしでお願いしますね」
「・・・・・・ふっ」
デデルマンさんは小さく噴き出して、笑みを見せた。
「コハマル君は結構、面白い子だね」
「子と言うほど幼くはないかもしれませんよ。ダイブゲームですし」
「確かに」
まあ高校生だから多分デデルマンさんの方が年上だけと思うけど。
「コハマル君」
「はい」
「委細承知した! とりあえず今日の大会だけど流さないで出てね。はいカード出して」
「はいはい」
僕は大会参加費の1000C分だけデデルマンさんからもらい受けた。
「大会で当たったら手加減しないから」
「その時はお手柔らかに」
「どーしよっかなぁ」
そんなことを言いながらデデルマンさんは受付へと歩いて行く。
「長々と御免なさい」
僕は近場でずっとこっちを見ていた、プレイヤーの弟子の人たちに謝った。
「なんか時間取らせちゃったみたいで」
「いや別にいいよ」
「見ていて面白かったし」
面白かった・・・・・・かぁ。
まあ他の人から見たらそういう内容だったかもしれないな。
「あの人同心組の人なんでしょ」
「そうですね。なんか勧誘受けてました」
「給料いいらしいからちょっとやってみたいんだけどなぁ。一緒に入る事って出来るのかな」
「さあどうでしょうか。後で聞いてみるしかないですね」
「・・・・・・」
なんかもじもじし出したので察して声をかけた。
「フレンド登録しますか」
「「おなしゃーす!」」
とりあえず、登録しとけば後でも連絡できるしね。
ギャーテーさんとズワイガニさんは同心組に入りたいと・・・・・・
「シンタロウさんもフレンドになりますか」
「そうだな。よろしく」
「ん?」
さっきからシンタロウさんはデデルマンさんの歩いて行った方をずっと見ている様だった。
「デデルマンさんの、知り合いだったりします?」
「いや違うが。一方的に知っているだけだ。お前は知らないのか」
「・・・というと?」
「PVPで勝つ気でいるから察しはしたが、あの人、多分『停空飛翔』さんだぞ」
「ホバー?」
ホバーってなにが? ホバークラフトとかのホバーの事か。
「デデルマンって名前のはずですが」
「二つ名だよ。PVPで有名な人には何かしら二つ名がついたりするんだ。デデルマンって名前は確か二つ名が『低空飛翔』の人のはずだ」
「へぇー・・・・・・」
デデルマンさん、結構有名だった?
っというか、デデルマンさん有名って事は強いのか。
ちょっと、技を覚えて勝てるか心配になって来たな・・・・・・
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
ネタキャラが居てくれると書きやすい。セリフが多くなるけどそれも良し。
ただその分、話が進まないのが難点かな?
次は大会で戦う話の予定です。どうぞよろしく。




