キャラクターを作ろう
VRヘッドギアをつけて起動させ、目の前にプレイ可能なゲーム一覧がでる。
とーちゃんが言っていた通り、VR空間に浮かんでいるのは一タイトルだけ。ほかのゲームは入っていなかった。
「タイトル聞くの忘れてたけど『ベナミヤ』って名前なのね」
ベナミヤの意味は分からないが、今日はとりあえずやってみる事にしよう。
空間に浮かぶ『ベナミヤ』に触る。
ピコン、と音が鳴り、機械音声が再生される。
≪ベナミヤにダイブしますか?≫
≪選択 はい。 いいえ。≫
現れた選択に『はい』を選択する。
≪ベッドなどに横になり、リラックスできる姿勢を取ってください≫
「はーい」
返事をしながら横になり、足から腹の辺りまで布団をかけ、胸元に手を置いて待機する。
一分ほどして機械音声が流れた。
≪ダイブ、起動します≫
「ふっ──」
思わず腹に力が入ってしまう。
前にもとーちゃんに貸してもらってダイブ系のゲームをしたけど、このダイブの瞬間は苦手だ。
いきなりジェットコースターが落下した時の様な、浮遊感と加速。
画面が伸びて歪み、線で出来た空間を突き進んでいくような視界が広がる。
映画やアニメとかである、タイムマシーンに乗った人が見てる別次元の空間のような感じだ。
そして体の感覚が消えていく。
足先から徐々に麻酔にかかって行くように動かせる部分がなくなっていく。
血液が全部抜けてしまったような、寒さで凍えて死んでしまう様な怖さがある。
この感覚がとにかく苦手だ。慣れればそんなでもないらしいけど、ダイブ系のゲームそこまでやってこなかったからいまだに慣れていない。
「──んっ」
そして体の感覚が覚醒する。
五体に力が戻り動かせるようになる。
目を開くとそこはダイブする前とは少し違う、少し青さが混じった暗い空間にいた。
≪ダイブ完了しました。ユーザー登録を始めます≫
音声が聞こえ、ベナミヤのゲーム内にやってきたと分かる。
≪名前を登録してください≫
目の前に≪プレイヤーネーム「」≫という文字が現れた。
「音声入力できる?・・・出来るみたいだね。えと、オホン。『そこない──』」
≪本名での登録はお控えください≫
「あ、そか。操作キャラの名前か」
普通に本名である『底内 土壺』と入力してしまうそうになり頭をかいて誤魔化す。
プレイヤーネームか・・・どんなのにするか考えてなかったな。
まあ、他のゲームで良く使った名前はあるけど。
それでいいか。
「『コハマリ』で」
≪プレイヤーネームを『コハマリ』で登録します≫
コハマリ。
小さくしかハマった事がない、自分に対しての自虐のような名前だ。
だけどそれなりにゲームで使ってきた名前なので愛着もある。
短くして『コハマ』とか、文字入れ替えて『ハコマリ』とかも使ったり。
今回もアレンジしてみても良かったかなと思ったので、聞いてみた。
「後でネーム登録やり直したり出来ますか?」
≪ゲームの初期登録を全て済ませた後に最終確認をさせて頂きます。その時に名前変更が可能です≫
「わかりました」
聞いて良かった。
よし、それじゃキャラクター作り再開だな。
≪次にキャラクターの種族を決めて頂きます≫
選択可能な種族
ヒューマン
エルフ
ドワーフ
月呼び
心刀使い
選択できない種族
魔人
悪魔
鬼人
キャトック
超人
魔女
モンスター全般
「結構あるなぁ。聞いた事ない種族や選択できないのもあるけど」
≪種族を名前をタッチすればその種族がどのようなものか、説明文を出すことが出来ます。また、選択できない種族もベナミヤの世界で活動することにより、その種族になれることがあります≫
「なるほど。理解しました」
とりあえずヒューマンから順に見てみるか。
ヒューマン。
世界の八割を占める種族。
色々な職業つくことが出来、育成の幅は全種族で断トツのトップ。
育成方法はレベル制。
NPCのヒューマンは地域によって他種族を嫌っている傾向が強い。
初期リスポーン地点は
初心者おすすめの種族。
エルフ。
森の中で暮らす種族。
太陽の光を浴びることで光合成をし、食事をしなくても生きていける特性を持つ。
また光合成で蓄えたエネルギーで強力な術を使うことが出来る。
育成方法はレベル制。モンスターなどから貰える経験値はヒューマンより少なくなってしまうが、太陽の下にいるだけでも経験値がもらえる。
森の法というものがあり、それを厳守して暮らしている。
初期リスポーン地点は国ごとの森を指定することになる。
一日に短時間だけプレイする人にお勧めの種族。
ドワーフ。
物を作る事に秀でた種族。
身長はヒューマンの半分ほどだが、大の大人を軽々と持ち上げる腕力がある。
また、繊細な作業をすることにも強い者が多く、物作りと言えばドワーフと言う風潮が世界的にある。
育成はレベル制。物作りをする事でも経験値を獲得できる。
初期リスポーンは国ごとの工房、鉱山の麓など。
物作りに没頭したい人向けの種族。
月呼び。
二足歩行で獣の顔をした種族。獣人族、星呼び、コールムーン、コールスターなど、色々な呼び方がある。
主にイヌ科の顔の者が多く、月夜に遠吠えをする所から『月呼び』とヒューマンから呼ばれるようになった。
夜に強くなる特性があり、夜間種族専用のスキルを覚えられる。
十数人から数十人でグループを作り、行商として町や国を渡り歩く者たちが多い。そのグループはファミリーと呼ばれている。
育成はレベル制。歩いた距離と行ったことのある国や町、村の数でボーナスがつく。
初期リスポーンは世界に今あるファミリーのどれかになり、ファミリーでの活動がチュートリアルを兼ねている。
行商人プレイを初期からやりたい人向けの種族。
心刀使い。
『心刀』と呼ばれる刀を持つ種族。サムライとも呼ばれている
メイン武器は心刀固定。キャラが成長すると心刀も成長し強くなる。
自分の心刀と距離が離れてしまうと弱体化してしまう特性がある。
育成は訓練制。走り続ければ足が速くなり、刀を振り続ければ力が増す。
『ジダイ』という国にしかその種族は生まれず、初期リスポーンはジダイに固定される。
ソロプレイ、PVPなどをしたい人向けの種族。
「ふむふむ」
ヒューマンやドワーフあたりは良くある感じだな。
エルフはなんか他のゲームとかとは毛色が違うみたい。草系のモンスターが人間になったように感じる。
月呼びは獣人系らしい。行商人プレイ推薦ってのは獣人系では珍しいかもしれない。
最後に心刀使い。
「サムライかぁ」
サムライが種族として存在するってのは余りなかったジャンルかな。
剣道のダイブ系ゲームを前にやった事あるし、取っつきやすそうだ。
これにしよう。
あと、選択できない種族も、ちょろっと見ておく。
魔人
『魔界』と呼ばれている大陸の地下に潜む種族。魔族とも呼ばれている。
体の九十パーセント以上が魔力によって構成されており、強靭な肉体を持つ。
ヒューマンには嫌われており、モンスターと仲が良い。
魔力がある限り生き続けることが出来、寿命がないと言われている。
悪魔
この世界とは別次元に存在する種族。
契約を交わす事で力を蓄えることが出来る。
鬼人
鬼とヒューマンのハーフ。絶滅危惧種。
ドワーフの様に物作りが得意で、特殊な効果があるアイテムを作ることが出来る。
寿命が長い。
キャトック
猫の顔と、左右色違いの目を持つ種族。絶滅危惧種。
月呼びから恨みをかっている。
国によっては捕まえるだけで多額の賞金がもらえる。
レアエネミー扱いされるがモンスターではない。
超人
一定確率で生まれるヒューマンの亜種。
超人の一般人はヒューマンの英雄並の強さがある。
寿命が長い。
魔女
一定確率で生まれる女性限定のヒューマンの亜種。
膨大な魔力を持っており、国によっては永久討伐対象に指定されている。
寿命が長い。
モンスター全般
ヒューマンの敵として世界各地に存在。
条件を満たすことで上記の種族はメインキャラ、サブキャラとして選択できるようになる。
「いかにも強そうなのと少数種族とモンスターね」
選択できるようになるって書いてあるから隠し要素なのかな。
まあ、今は関係ないけど。
「スルーで」
見るものは見たし、さっそく種族を選択する。
「心刀使いで」
≪種族『心刀使い』を選択しました。よろしいですか?≫
「よろしいです」
≪次に操作するキャラの姿を設定してください≫
いよいよキャラクター作成だ。
目の前に自分と同じくらいの身長のアバターが現れる。
≪ダイブヘッドギアから読み取った情報を元に、容姿を少しアレンジしたコハマリ様を作成しました。こちらで宜しいでしょうか?≫
「・・・少し変更したい所があります」
確かに見た目、リアルの自分とはアレンジしてあって別人と見えるけど、一箇所がリアルの自分通りで嫌な所があった。
目だ。
大きく見開いた力強い目。
自分ではそんなつもりはないのだが「何で睨んでるの?」とか「乾燥しないのそれ?」とか「怖いからもう少し閉じた方がいいよ」などと学友から言われている。
「目を少し閉じて垂れ目にしてください」
≪わかりました。容姿設定を変更します・・・いかがですか≫
「あ、おっけーです」
危険物みたいに言われるリアルの目より、優しげに見える垂れ目の方が僕は好きだ。
これで行こう。
≪次に服装の選択をして下さい≫
「はい」
目の前にウインドウが現れ、ずらりと服装の一覧が並ぶ。
「・・・・・・あ、冒険者がするみたいなのも選べるのか。まあサムライだしこれで」
≪小袖、袴、羽織の服装ですね≫
「良く分かりませんがそれでお願いします」
≪服装を選択しました≫
すると目の前のウインドウが消え、立っているアバターが見事にサムライの姿になった。
髪型は髷ではなく短髪だけど、まあいいか。
≪心刀使いを選択したプレイヤーの方は初期リスポーン地点は南端にある国『ジダイ』となります≫
「ジダイってどんな国ですか?」
≪南側以外を森で囲まれた国で、住人の服は着物が多く、日本の古い文化を再現した国となっております≫
「再現した?」
≪はい≫
日本を再現した国って・・・日本を知ってるってことなのかな。
「・・・まあ行って見ればわかりますよね」
≪キャラクター作成を完了しますか?≫
「んーっと」
何かやり直したい物とかあっただろうか?
少し考えて、閃いた。
「名前変更したいです」
≪わかりました。プレイヤーネームを変更します≫
再び目の前に≪プレイヤーネーム「」≫という文字が浮かぶ。
今の今、閃いた名前だ。
少しサムライっぽくアレンジしてプレイヤーネームをこう付けた。
「『コハマル』でお願いします」
なんとか丸とか時代劇のアニメなんかで良く聞く気がするし、コハマリよりサムライにあってる気がする。
≪『コハマル』登録しました。キャラクター作成を完了しますか?≫
「完了します」
≪わかりました。キャラクターデータを『ベナミヤ』に統合します。しばらくお待ちください≫
言われてから当たりをどんどん明るくなっていくのを感じた。
眩しくなった後に場面が移るとかそういう演出だろうか。
「・・・短い付き合いかもしれないけど、よろしく『コハマル』」
なんとなく、目の前にいる、今作ったばかりの自分の分身に手を伸ばす。
短い時間、待たせれている間の気まぐれだ。他に誰が居るという訳でもないし。
返答はない。
当たり前のことである。
「なんて──なぁあっ!?」
だが手を掴まれた。
「ちょぅえっ! くぉっっほ!?」
驚く俺に『コハマル』が声をかける。
「≪サプライズです≫」
キャラクター作成を手伝ってくれたガイド音声だった。
「・・・・・・ビビりますわぁ。ホラーは勘弁で」
「≪わかりました。『ベナミヤ』との統合が完了します≫」
二コりと『コハマル』が笑い、光で全てが白く染まった。
ここまでお読み頂き有り難うございます。
一日で投稿してる人すごい・・・自分には三日で一話が限界みたいです。
早く書けるように頑張っていこうと思います。