タカサ師範
道場街につき、ガンジョウさんが通っていたという道場へと向かう。
目的地までの移動はナビゲートしてくれる矢印のお陰で迷うことなく進むことが出来た。
≪次の角を左です≫
カーナビみたいに音声までついている。わかり易くていい。
ただ、道場の場所は問題があるように思えた。
≪この道、真っすぐです≫
「真っすぐですか」
一本道になっている進行方向を見る。
奥の方で行き止まりになっているように見えるのだが・・・
「とりあえず進みますか」
進んでみると、行き止まりと思えた通路の奥には左に曲がれる通りがあった。
「夜だからわかりにくかったとか?」
遠くからだと左折できる道がわからなかった。騙し絵のような感じだ。
そんな場所が何ヶ所もあった。
「これは迷いますね・・・」
なんとか目的地まで到着することが出来た。
「ここですか」
ついた場所は迷路の最深部のような入り組んだ所だった。
もしかしたら道場街で一番行きにくい道場なんじゃないだろうか・・・
道場自体を見てみたが、何とも古い感じがする。今にも崩れそうなぼろさが目立った。
「営業中・・・」
入れ口に掛けられている板にはそんなことが書いてある。
夜中だけど大丈夫という事なのかな。
「すみませーん」
入口を開けて中に声をかける。
「あのー、すみませーん」
もう一度呼んでみる。いないのかな。
「はいはいはいはいっ」
しばらく待っていると、何かの光源を持った男が小走りに走ってきた。
「いやいや、お待たせして申し訳ない」
ぼさぼさの頭をかきながら済まなそうに男は言った。
年齢としては三十から四十歳くらいに見えた。
がっしりとした肩が印象的なおじさんだ。
「あの、眠るところでしたか」
夜中だし、時間的には眠っていてもおかしくはない時間帯だ。
「いやいや、別に気にしないでください。私が家にいる時間は営業時間としてますので。眠っていても起こして頂いて問題ありません」
丁寧な口調でそう言われた。
「なるほど」
「・・・・・当道場に入会の目的で来られた方とみて宜しいですか」
「よろしいですが」
「ありがたい!」
光源を持ってない方の手が伸びて、握手をしてきた。
「ありがたい?」
「あ、いや、こちらの事なので気にしないでください」
「はあ」
「とりあえず道場に案内しますので、お上がりください」
履き物をしまって歩いて行く男について行く。
「それって何ですか」
気になって男が持っている光源について尋ねてみた。
「これですか。これは光石という一般的な光源になる魔石ですね」
「魔石ですか」
「魔力などを流すと光りだす石です。光魔石なんかと言われたりもしますね」
「外で飛んでいる光とかもそうなんですか」
「あれは光飛石と呼ばれる魔道具ですね。光石から作られた物です」
「そうなんですか」
「家の屋根などに専用の装置と一緒につけられていて、日中は太陽の光を吸い、暗くなると自動で光りながら飛び始める作りだそうです。日中曇っている場合でも三日間くらいは夜中に飛んでくれますね」
「それだと風とかで飛ばされて、なくなっちゃいそうですが」
「光飛石は紐で装置と結び付けられているので大丈夫ですよ。明け方になると光飛石は紐の反対側につけられた重石によって引っ張られて装置に戻る作りになっているので問題ないですね。紐は定期的に変えないと切れてしまいますが」
「お詳しいんですね」
「いやいや、子供の頃に色々と悪さしたので知っているだけです。他の国はわかりませんが私の様に好奇心旺盛なジダイの子供なら、一度は光飛石で遊んだりしますので」
「なるほど」
「遊んで親に怒られるまでがセットみたいなものですね。さて、着きました」
道場についた。
道場は高さが一段低くなっていて、外と同じ高さに作られているようだった。
「ここではご自身の履き物を履いて降りて下さい。裸足でも大丈夫です」
「わかりました」
降りてみると地面は土で出来ていた。
広さもそこまで広くない。
イメージとしては、相撲の稽古部屋みたいな感じだ。
「さて、遅くなりましたが自己紹介をしましょう」
道場の四隅に行き、明かりをつけてから道場の中心で向き直り、男がそういった。
「当道場の師範をしているジョーダン・タカサと申します。よろしく」
「コハマルと申します。よろしくお願いします」
「さっそくですがコハマル君」
「はい」
営業中って書いてあったし夜中だけど、今から稽古するのかな。
「入会金お願いします」
頭を下げて両手で財布カードを持ってこちらに差し出してきた。
そういえばまだだったな。
「十万Cですね」
「そうなります」
しかし、何というか。カタサ師範のサラリーマンの名刺の渡し方みたいな格好に、少し察してしまう。
自分のカードを出して入会金を払う。
「ありがとうございます」
なんだか嬉しそうにタカサ師範は顔をほころばせて居る。
「お金ないんですか」
思わずそんなことを聞いてしまう。
あ、と言った顔をしてから、タカサ師範は咳ばらいを一つした。
「まあ、察する通り、私は金欠でして、まあその、道場経営が上手くいっていないので」
「こちらの住人の門下生の人とかは」
「今はおりません。昔はいたんですが、道場の場所を変えてから新しく入る人がどっと減りましてね」
立地がナビがないとわからない場所ってのはかなりのマイナスだよね。
「そうなんですか。プレイヤーの通っている人とかは」
「ここ一カ月いないですかね。なので道場経営以外の仕事をして維持費を支払っている訳で・・・この話はもういいでしょうコハマル君」
「そうですね、すみません」
「コハマル君はここの道場の事を知っていたんですか」
タカサ師範に聞かれて僕は肯いた。
「ガンジョウさんって与力の人に聞きまして」
「ガンジョウさんに、ですか」
「捕り物をしている所を見まして、ここの道場の人はああいった技が覚えられると聞いて来ました」
「なるほど・・・・・・財布カード出してくれますか」
「え・・・はい」
言われて出した財布カードにタカサ師範もカードを取り出して重ねた。
光が出て、自分のカードを確認すると、さっき払った入会金がまるまる戻ってきていた。
「タカサ師範?」
「ガンジョウさんの紹介者と言われたら入会金は取りづらいですね」
「何でですか」
「ガンジョウさんには色々と借りていまして、ここの道場が今でもやっていられるのはガンジョウさんのお陰なんですよ。入会金は結構ですので」
「大丈夫なんですか」
「なんとかなります。今までも何とかなってきましたので大丈夫ですよ」
「・・・・・・」
タカサ師範は何というか、お金回りがダメな人なきがする。
貰える時にお金を貰わないでいたら潰れてしまうのではないだろうか。
いつもこんな感じなのだとしたら、時間の問題なのかもしれない。
それはかなり困る。
「タカサ師範」
僕はカードを差し出して言った。
「色々と察しましたので、入会金は貰ってください」
「十万Cですよ。かなりの金額だと思いますが」
なんせ二百杯分だしね、って今はそれはいい。
「貰ってください。ここの道場が潰れたら困るんです」
「コハマル君が困りますか?」
「覚えたい技がある道場が潰れた場合、その技を他の道場で覚える事は出来るんですか」
「・・・・・・プレイヤーの方の場合は新しく道場が出来て、そこで潰れた道場の技を教える場合にのみに限定されます。しかし、ここの道場で教える技はここの『奥義』です。教える道場が建つ事はないでしょう」
奥義だったのかあれ。ますます潰れて貰うわけにはいかないなぁ。
「潰れる可能性は感じているんですね」
「それは・・・・・・潰しはしませんけどね」
「だったらなおの事です。お金貰ってください。ぶっちゃけあぶく銭ですし」
「あぶく銭?」
「説明を聞いたらバイト代払うと言われて説明聞いてお金貰っただけです。色がついて十五万くらいもらえました」
言っててなんだが本当にあぶく銭だな。
感謝してますよデデルマンさん。
「そのバイト、教えて貰いたいですね」
「もうないです」
「あ、そうですか」
項垂れてしまった・・・なんだかなぁもう。
「受け取ってください、お金を払っていないと身にもなりません」
「そうですかね」
「そうですよ。自分で稼いだ金を払って通うと決めたから身に付くんじゃないですか」
「それだと子供は親にお金を払って貰う訳ですから身に付かない事になります。コハマル君の場合はあぶく銭ですからそんなお金で身に付くのか・・・」
本当に損な性格してるなこの人は。
「ガンジョウさんの借りも潰れたら返せないんじゃないですか」
「それは・・・確かに・・・」
お、これはいけるか?
「借りってお金も借りてるんじゃないですか? 少しでも返すために入会金は受け取らなきゃダメですよ」
「しかし・・・」
「紹介された僕自身が言ってるんだからいいじゃないですか。潰れたらガンジョウさんだって悲しむと思いますよ」
「・・・・・・」
しばらく無言だったタカサ師範がカードを取り出して重ねた。
「コハマル君の気持ちを込みたいと思います。ありがとうコハマル君」
「これで一カ月は通えるって事であってますかね?」
「問題ないです。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
改めであいさつを交わす。
十万Cで借りをすべて返せるとは思わないけど、少しの足しにでもなればいいなと思った。
「そういえばここの道場って名前とかあるんですか」
道場の名前とか普通はあるよね。
そういえば他の道場の名前とかも知らないな。クエストで道場を回った時も場所だけで名前は書いてなかったし。
「ありますよ」
「縮地とか飛斬とか覚えられる道場にも名前あるんですか」
「あります。縮地の所は『ナコク心刀流』で、飛斬は『ギンジョウ流』ですね。有名な道場です」
「ここは何ていうんです」
「父の代では『ジョーダン流』と呼ばれていました」
「名前が道場の名前になっているんですね」
「だいたいそうですね」
「父の代ではというのは?」
「私の代になって少し変えてみたんですよ。今の名前はですね」
「はい」
「『ジョーダンサイキョー流』としています」
「・・・・・・」
う、うーん、ううん、うぅーんん・・・・・・
「ジダイ語で書くとああ書かれます。確かプレイヤーの方の世界の言葉と同じだそうで」
そう言って道場の端に掛けられている掛け軸を指さした。
掛け軸には『上段最強流』と書いてあった。
「・・・上段が最強ですか」
「そうです」
「何故、最強という言葉を付け足したんでしょうか」
「上段の構えが最強だからですよ」
当たり前でしょう、とでもいいだけだった。
う~~ん・・・・・・
「もしかして、ここで教わるのは上段の構えがメインですか」
「メインというかそれだけですね」
「え、足技ではないんですか」
ガンジョウさんがやったのは足技だった気がするんだが・・・相手の方向を向き続ける技だと思う。
「腕が疲れたら外に走りには行きますが、ここで教える技、当道場の奥義は上段の構えから出す技ですよ」
それだとガンジョウさんがやっていた技は上段の構えで行う技だったという事になる。
なんか違う気がする・・・・・・
もしかして、ガンジョウさんがやっていた技はここの道場の技じゃなかったとか?
「コハマル君。あなたを最強の心刀使いにして見せます。頑張ってください」
「はあ・・・よろしくお願いします」
謎が残ったまま、その日はいったん区切ることにして、道場の中でログアウトするのだった。
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
二月も終わりですね。早い・・・
三月も頑張りますのでよろしくお願いします。




