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ガンジョウさんの事と勧誘


「ガンジョウキョーコちゃんは女の子である。まずはこれからかな」

「そうだったんですか」


 何となく、というかガンジョウさんが走って行った後の同心たちのセリフで察してはいたが、改めて聞くとそうだったのか、という気分にさせられた。


「男の子かと思ってました」

「かわいいとか言ってたから気づいてるのかと思ったんだが、違ったか」

「あれは状態異常に掛かってて、口が勝手に言ってしまったんですよ」

「そうだったんだ。俺もその状態異常にかかってみたいな」

「え、何でですか」

「キョーコちゃんが言われたいであろう言葉がポンポン出てくる状態異常だったからな」

「言われたい言葉ですか」

「かわいいとかな」

「・・・・・・言えばいいのでは?」


 別に普通に言える言葉だと思うのだが。


「なかなか面と向かってってのは難しいだろ」

「かわいいと思ったなら「かわいいね」って言ってもいいと思いますが。嫌がられたら次からは言わないでおけばいいんですし」

「お前なかなか・・・・・・コハマル君は結構モテそうだな」

「モテるモテないは正直良くわかりません」


 告白はされたことあるけど・・・


「そうか・・・あれも良かったな。キョーコちゃんを男だと勘違いしたところ」

「見た目、男の子だったので」


 恰好が普通のサムライだったし、筋肉とかかなりついてそうだった。

 胸もないように見えたし、勘違いしても仕方ないと思う。


「男装してるのは女性の与力だと舐められてしまうんじゃないかとキョーコ自身が思ってるからだ」

「そうなんですか」

「けど、心はちゃんと女の子だから、かわいいとか本当は言われたい訳よ」

「はあ」

「いい笑顔だったなぁ・・・・・・キョーコちゃんマジ天使」


 なんかトリップしてる感じに思い出しながらしみじみ言っている。


「同心の人たちは周りを警戒してたように思えたんですが」


 ガンジョウさんに道場の事を聞いている最中、同心の人たちは背を向けて周囲を見ていたはずだが。


「キョーコちゃんの「よかったぁ」って声が聞こえて即座に振り返ったからな。俺以外の奴らも振り返っていたと思うぞ」

「そうだったんですか」


 同心たちが一斉にこちらを向いていたのか。

 逆に気づかなくて良かったかな。気づいていたらビビってたかもしれない。


「お前さんに向かってほほ笑んでいるキョーコちゃんを見て、キョーコちゃんの微笑みに感動五割、微笑みを向けられたお前さんに殺意五割って感じだ」

「説明ってもう終わってます? 道場街に行きたい訳ですが」

「まあまあ、冗談だって」

「そうは聞こえませんでしたよ」


 殺意、の所だけ声のトーンが違ったし・・・


「勧誘の話がまだだろ」

「その件に関しては──」

「断る前に話だけでも聞いてくれ」

「・・・・・・」


 さっきよりは真剣なデデルマンさんの顔に、静かに聞いてみる事にする。


「キョーコちゃんの為にもコハマル君にはうちら『同心組』に入って貰いたい」

「同心組?」

「警備している同心の集まりみたいなものだ。NPCの同心もいるぞ」

「はあ・・・・・・キョーコちゃ──ガンジョウさんの為っていうのは」

「キョーコちゃん・・・最近あまり笑わないんだよ」


 デデルマンさんが肩を落としてそういった。


「俺が入った当初、訓練の時とかキョーコちゃん結構笑ってたんだよ。それがあまり笑わなくなっちゃったんだよ」

「そうなんですが・・・・・・仕事的に警備の仕事ですから笑ってやるのは変ですし、笑わないのは仕方ないのでは」

「訓練中も笑わなくなっちゃったんだよ」

「そうなんですか」

「理由は働いていて気がついたんだがな」

「はあ」

「最初の理由はプレイヤーに対しての不信感だと俺は思ってる」

「・・・・・・」


 なんか・・・あまり踏み込んでみたいとは思わない内容になってきたな。


「・・・不信感ですか」

「同心組のプレイヤーの中には、街を歩いているだけで給料が貰えると思ってる奴らが居た。そういうやつらが喋りながら巡回してる所をキョーコちゃんは何度も見ている訳」

「・・・たるんでるとか思われそうですね」

「だろう。そういうやつらを見つけたらキョーコちゃんは注意をした。それでも聞かない奴が何人もいたんだよ」

「・・・何とも言えない話ですね」


 遣る瀬無いというかなんというか・・・悲しくなる話だなぁ。


「NPCの同心たちもそんな奴らにおかんむりでな。キョーコちゃんがいない所でケンカに発展したりもした。それを見ていた俺や、ちゃんと見廻りしているプレイヤーたちは現状をどうにかしようと考えて行動に移した」

「・・・なにしたんです」


 闇討ちでもしそうな展開だけど・・・


「PVPでの決闘だ!」

「そこでPVPになるんですね」

「勝てば残り、負けたら出ていくという話でPVPが行われた」


 いきなり話がわかり易くなったな。

 勝てば良しって展開だ。

 しかし・・・こんな話に相手が乗ってくるのかな?


「勝てる算段があるからPVPで戦おうって言った訳ですよね。相手側が良く受けましたねそれ」

「実際は相手側から提案してくるように仕向けたんだよ」

「ほう」


 それは面白い。


「同心のプレイヤーの中に他ゲーで軍師みたいなとこやってた奴がいてな。そいつの策で相手側にスパイを送り込んで「PVPで決闘してあいつら追い出さねーか」と話をさせたらしい。細部まで詳しく知らないが軍師からそう聞いてる」

「なるほど」

「話を端折はしょるがPVPの結果、良い同心の俺たちは勝利を収めた。悪い同心のやつらを追い出すことに成功した」


 話的にはハッピーエンドなのだが。


「そしたらキョーコちゃん落ち込んじゃってさ」

「ええ・・・」

「きちんと注意する事も出来ずに同心たちに迷惑をかけてしまったと、頭を下げて謝られてな、あの時は困った」

「ああ・・・なるほど」


 真面目そうな人みたいですしね、ガンジョウさん。


「今現在、キョーコちゃんが笑顔を見せない理由はプレイヤーの同心たち負い目、申し訳ないという気持ちが笑顔を曇らせているのではと俺は考えている訳だ」

「なるほど・・・・・・うーん」


 腕を組んで唸る。


「難しい顔してるがわかってくれたか」

「うーん・・・・・・なんかちょっと違う気が」


 ちょっと僕個人としては納得いかない結論だな。


「違う?」

「ガンジョウさんが申し訳なく思っているのはあるかもですが、プレイヤーの同心の人たちも気遣いすぎてたりしません?」

「へ?」

「僕のガンジョウさんの印象なんですが、強い人って気がしました。間違っているかもしれませんが」

「・・・ほう」

「ガンジョウさん自身は、もしかしたらすでに立ち直ってたりするんじゃないですかね。僕と話してた時の同心の人たちとの話し方とか普通に見えました。気を使っているふうには見えませんでしたよ。あ、同心の人たちも気を使っているようには見えなかったからもしかして・・・」

「・・・・・・」


 同心たちの問題ではなく、デデルマンさんの問題ってことはないだろうか。


「デデルマンさんが気にしすぎてて、ガンジョウさんと距離を置きすぎてるってことはありませんか」

「距離を置きすぎている・・・」

「稽古の時に話しかけたりとかは」

「今はしていない」

「前はしていたってことですよね」

「してた・・・改めて考えるとウザがられそうなくらい話しかけてた気がする」


 それもどうかと思うが、今は話を続けよう。


「また稽古の時に話しかけてみてはどうですか。もう問題も解決した訳ですし」

「・・・・・・」

「僕の結論は、お互いに気遣っていた結果、デデルマンさんだけが今も気遣い続けているので、立ち直ったガンジョウさんもどうすればいいかわからなくて、笑顔が出ないのではないでしょうかって感じです。他の人は笑顔見てるかもですよ。ほぼ全部憶測でしかないですけど・・・」

「・・・・・・」

「デデルマンさん?」

「採用」

「はい?」

「コハマル君、採用だよ」

「話しかける事・・・ではなくて」


 なんか察しましたよ。


「同心組に採用だよコハマル君!」


 がしっとデデルマンさんに肩を掴まれた。

 やっぱりですか。勝手に決めないで下さいよ・・・


「こんなところに有望な新人が居ようとは!」

「お断りしますので」

「断らんでくれよ。君の様な心の機微にさとい人間が我が同心組には必要不可欠なのだ!」

「軍師さんに頼んでください」

「あれはダメだ。女性と喋るのが苦手すぎていかん! 恋愛マスターの君じゃないといけないのだ!」

「これ恋愛とはまっっっったく関係ない話ですからね」

「なあ頼むよぉ。給料いいよ同心組」


 ぐらぐらっ。


「う・・・いくら何ですか」

「時給二万C。一日一時間でも可」


 薪割りの四倍っ。

 味噌汁4杯っ。

 めちゃくちゃ心が揺れるっ。


「なあほれ、今日の給料も色を付けるよ」

「・・・・・・」


 目をつむり考える。

 同心組に入るのもいいかもしれないが・・・・・・やはりここは。


「申し訳ありません」


 断ることにした。


「どうしてもだめか・・・」

「忘れてるかもしれませんが、僕まだビギナーで道場にも通っていない素人なんですよ」


 町を守るにも強さがなさすぎる。


「そういえば・・・そうだったな」

「なので強くなってから、また考えさせてください」

「・・・・・・強くなってから?」

「体験入部みたいなのあったら、初めはそれで」

「・・・わかった。ありがとう」


 握手を交わし、ついでにフレンド登録も交わした。 

 今の所、入る気はまるでないが、体験して面白そうだったら入ってみようかな。

 給料いいし。


「強くなったら連絡します」

「強くなってなくても頼み事とかあれば連絡してくれ、恋愛マスター」


 それは止めて欲しい・・・


「コハマルです。では」


 別れを済ませてデデルマンさんとは別方向に、クリスタルの方へと僕は歩き出した。

 ・・・・・・あ、そうだ。

 自動で配信していることを思い出した。

 僕は、ガンジョウさんの笑顔を間近で拝見している。

 ということは、ガンジョウさんの笑顔が映った動画が残ることになる。

 ・・・・・・少し迷ったが、そのことは今、デデルマンさんに言わないでおこう。

 なんかまた束縛されそうだし、これ教えたらまた長そうだし。

 ふと、振り返ってデデルマンさんの方を見た。

 立ち止まってこっちをガン見してた。


「コハマルくーん、なにかあったー?」


 野生の感か何かですかね。怖いんですが・・・


「なんもないですよー」


 返事を返し、手を振って前を向いて歩きだす。

 もしかしたら『味噌汁大好き』みたいに『キョーコちゃん大好き』なんて状態異常があるのかもしれないな。

 他の同心たちの態度を見ると全員感染してる気がするが。

 などと考えながらクリスタルに向かって僕は歩いて行くのだった。




ここまでお読みいただき有り難う御座います。



やっと道場に通う所まで来た感じです(まだ通っていない)。


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