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〇〇大好き


 もちやにやってきた。


「いらっしゃいませー」

「あのーすいませんが・・・」


 元気よく挨拶してくれるキリちゃんにお金がないことを告げる。


「そうですか・・・先にご飯食べてからにしますか?」

「いえ、先に薪割りしてからにします。いいですか」

「あ、はい。今でしたら開いてるはずです」


 そういって裏口に案内してくれた。

 途中、おじいさんの人を殺しそうな目が僕に突き刺さった。

 金稼がずにきやがって、とか思っているのだろう。いや、稼ごうとはしたんですがね、申し訳ない。

 一度、お爺さんに頭を下げてから裏口の障子を開けた。

 そこには切り株が4つほど地面に埋め込まれて並んであり、奥側にある丸太置き場には大量の、まだ切り分けられていない丸太が積んであった。

 手前側には切り分けた丸太が入っている箱が置いてある。

 奥から持って来て手前に入れる感じか。


「ではよろしくお願いしますね」


 キリちゃんから丸太割りの手順を聞いて、さっそく始めてみる事にする。


「ほっ・・・よっ・・・」


 奥から丸太を持って来て、切り株に置いて斧で割る。

 丸太は四分の一にする。半分に割ったら割った丸太を合わせて角度を変えて四等分にする。

 なかなか上手くいかない。

 横によれて直ぐ倒れてしまう。

 それでもゆっくりやれば何とか割れそうだった。

 失敗しても気落ちせずに続ける。

 丸太を持って来て、斧で割る。四等分に割る。

 丸太を持って来て、斧で割る。四等分に割る。

 丸太を持って来て、斧で割る。四等分に割る。

 ・・・・・・結構楽しいかもしれない。



 しばらくしてふと、空を見上げた。


「あれ、暗くなってきてる?」


 夕暮れ時な天気になっていた。


「・・・・・・夕方って事はこっちの午後六時くらいで現実だと、夜中の十一時か」


 システムに時計あったんだったな。見てみるとちゃんと十一時過ぎだった。

 始めたのが六時でクエスト受けてたのがだいたい二時間。

 その他の時間が三時間。

 ・・・・・・三時間丸太割りしてた事になる。


「また時間飛んだなぁ。まあ、良くある事なんだけど」


 ゲームやってると良く時間が飛ぶことがある。

 ストーリーがあったり、アクション要素の攻略などはちゃんと覚えているのだけど、気づいたらクリアしてていつの間にか深夜帯になってたりする。

 とーちゃんはそれを「ハマっていたんだろう」と言うのだが僕にはそんな感じがない。

 確かに、集中はしていたんだろうけどさ・・・

 もしかしたらこれが本当に『ハマっている』って状態何だろうか・・・だとしても──


「丸太を割るのにハマるはない・・・よね」


 ММОRPGで丸太割りを一生やっていたいとは思わない。

 そんな事よりもハマっている感じがするものはあるし。


「すみません。結構割ったんですけど終わりはいつですか?」


 裏口を開けて中にいるキリちゃんに尋ねてみた。


「確かに、結構割ったな」


 キリちゃんに尋ねたのだが、お爺さんが僕の横を通り過ぎて、外の四分割した丸太を見てそう言った。


「料理作らなくていいんですか」

「客は待たしとけばいいだろ」


 客商売してる人が言ってはダメなセリフでは・・・


「財布のカードだしな」

「え・・・はい」


 お爺さんがこちらにカードを向けてきたので、自分のカードを出して見せる。

 ぱっと光が出た。カードを見てみると、マイナスが消えて所持金が『0ぜろしー』になっていた。


「え・・・お爺さん?」

「飯作ってやるから席に着きな」


 なんかちょっとデレた?

 お爺さんが元の台所に戻った。

 キリちゃんがやってきて、席に案内してくれる。


「呼びに行けなくてごめんなさい。お爺ちゃんが飽きるまで止めるなって釘刺してきて・・・」


 すまなそうにそう言った。


「あーなるほど。気にしてませんので大丈夫ですよ」


 キリちゃんがほっとした顔をする。


「良かったです・・・」

「ところで聞いてなかったんですが、料金っていくら何です?」

「料金は、5000Cになります」


 ・・・ってことは借金が10000Cくらいで、3時間働いたから時給5000Cか。

 現実だとくっそ高い仕事だけど食事代が5000Cだとなんか低くも感じてしまう。


「本当は500Cだったんですけど。プレイヤーさんたちが来た時にお客さんで溢れかえって大変だったので、客が少なくなるまでお爺ちゃんが値段を上げ続けたんです」

「そんなことがあったんですね」


 10倍上がっている訳か。ぼったくり価格ってやつじゃないだろうか。

 けど、お金があったら僕は迷わずここで食べる事にするだろう。


「少々お待ちくださいませ」

「はーい」


 しばらく待つ。

 キリちゃんが料理を持ってきた。


「お待たせしましたー」

「ありがとうございます」


 待ちに待った料理がやってきた。

 黒飯と焼き魚と味噌汁。

 やっとこの味噌汁が食べられる。感無量だな。

 僕自身がハマっているかもしれない物。それはここの味噌汁だ。

 正直、衝撃的な旨さだった。

 学校行ってる時も、時々思い出してよだれが出そうになるほどうまかった。

 ММОやってて味噌汁にハマるなんて訳わからない事かもしれないが、美味しいんだから仕方がないよね。


「頂きまーす」


 黒飯と焼き魚を交互に食べて〆に味噌汁を啜る。


「くうぅ~」


 体中の細胞が歓喜していた。

 ダイブ中のキャラクターでなに言ってんだって話かもしれないが、実際にそうとしか感じられないほど体が震えてしまう旨さなのだ。唸ってしまうのも仕方のない事だろう。

 やっぱり・・・何かやばげな物が入っているのではと思ってしまうが、ダイブ中だし大丈夫だよね。

 お店で出してるってことは合法なんでしょ? 問題ないね、あっても食べるし。


「あ・・・」


 味わって食べたが直ぐになくなってしまう。

 全部食べてしまった。幸せな時間は終わったのだ。


「おかわり・・・」


 思わずつぶやいてしまった。

 お金ないんだからおかわりなんて無理だけどね。

 仕方なし、またクエストで稼いでから来よう。


「どうぞ」


 キリちゃんが料理を片付けに来たと思ったら、味噌汁を持って来てくれた。


「え、いいんですかっ」

「お爺ちゃんがちゃんと働いてくれたから今日だけおかわり自由でいいって言ってました」


 お爺さんの方を見る。

 料理をしているらしくこっちの方を見さえもしない。

 なんか・・・めちゃくちゃ優しくなってない?

 薪割りを頑張った事で、お爺さんの好感度を急上昇したとでも言うのだろうか?

 というかこれ攻略されてるの僕の方じゃないだろうか・・・実際、もうここの味噌汁の虜ですよホント。


「ありがとうございますっ。あ、あの」

「はい、何ですか」

「おかわり予約していいですか。あと十杯は食べます!」

「えええ・・・」


 美味しいんだもん、仕方ないよね・・・




 味噌汁のおかわりを十二杯ほど食べたところでお爺さんに止められた。


「旨いって言ってくれるのはありがたいけどなぁ、限度ってもんがあるだろ」

「こんなに食べさせて頂いて本当にありがとうございます!」

「今日は、帰んな。そんで稼いだらまた来な」

「稼いできます! そして味噌汁食べに来ます!」

「・・・・・・まあがんばんな」


 変な物を見る目を向けて、お爺さんが台所に帰っていく。

 ダイブ中のキャラクターだからか、お腹いっぱいという感覚はない・・・が、幸せいっぱいで満たされた気分だった。

 今の僕は味噌汁で出来ているといっても過言ではない。味噌汁以外不要だよ。

 そうだなぁ・・・とりあえず今からクエストで稼いでくるか。

 簡単そうなものだけ受けて、五千Cだけでも貯めておこう。味噌汁食べたいし。

 いや・・・・・・朝まで稼ぐのもありか?

 朝まで稼いでログアウトして学校に行く。それならもちやの食事代、十回分くらい行けるか?

 十回は厳しいか・・・・・・せめて五回分は稼ごう。

 それで行こう。


「ご馳走様でした! また来ますっ」

「あ、ありがとうございましたー・・・」


 笑顔でキリちゃんにお礼を言って、外に出る。

 先ほどより、少し暗くなった空を見る。もうそろそろ夜中になるな。

 ちょっと気になってステータスを見てみた。



≪   ステータス   ≫

≪体   熟練度 32 ≫

≪腕全体 熟練度 26 ≫

≪足全体 熟練度 76 ≫

≪??? 熟練度  0 ≫


 お、ちょっと上がったか?

 体が30から32に。

 腕全体が18から26に上がっていた。

 これを見るとやっぱ足全体がすごい高いな。チュートリアルでの反復横跳びのお陰らしいけど高すぎるな。

 まあステータスの確認はこんくらいで・・・・・・あれ?

 ステータスの項目の下の所に、何か書かれている。

 状態異常?


≪状態異常──お味噌汁大好き≫


 なにこれ?

 文字をタップしてみると、詳細な情報が出てきた。


≪○○大好き──『混乱』や『興奮』の状態異常の効果がある。ある一定のものが好きになった者につく異常で、食べ物や動物などが好きになるとかかる事がある≫


 なるほど。

 ついでに混乱と興奮の状態異常も調べてみる。


≪興奮──テンションが高くなり、声などが大声になってしまう状態異常。しばらくすれば収まる≫

≪混乱──キャラクターが勝手に喋ったり行動を起こしてしまう状態異常。しばらくすれば収まる≫


 なるほど。

 今の所、特に問題はないな。

 別にテンションが高くても問題ないし、あの味噌汁を食べた人なら普通の反応だろう。

 混乱は発動してるのか、わからないな。直ぐ収まるみたいだし、気にせずクエスト受けに行こう。

 商店街を走っていると、電灯のような物があることに気づいた。

 なんか光っているものが飛んでいた。魔法で光らせる街頭みたいなものかな。

 夜になると明るくしてくれる感じか。便利だなぁ。


「まあいいか! とりあえずクエスト──」


 ボボボボボッ。


 通ろうとしている道に、いきなり人が沸いた。

 10人くらいが一気にワープしてきたようだ。思わず立ち止まる。


「場所がズレたか」

「見たいですね。ケンカは向こう側のようです」

「良し行くぞ!」


 一人が手でこちらの方角を示し、全員がこちらへと走ってきた。


「おおっ・・・」


 一斉に向かってきたので少しビビったが、脇を通り過ぎて去っていく。

 今のが警備隊の人たちか。

 同心と与力だっけか。

 先頭を走っていたのは小柄で黒い服装に黒い帽子の少年だった。

 あれが与力の人? 少年が与力やってるのか。

 他の同心らしき人たちの服装は、なんかピンクの法被はっぴをしているように見えた。

 昔のアイドルとかのファンがやってそうな格好だったな。ハチマキとかしている人も見えたし、なんだか同心っぽくない格好だ。


「まあ、今はいいや」


 ちょっと気になったがクエストが優先だ。

 味噌汁の代金分は稼がないとね。


「・・・・・・ん?」


 走り出した僕は、何故か反対方向に走り始めてしまった事に、首を傾げた。

 与力と同心を追っかけている感じだ。


「・・・・・・あ、混乱か」


 ≪味噌汁大好き≫の効果が発動した様だった。

 混乱の状態異常が出ているせいで、自分の意志とは関係なく足を走らせてしまっている。

 どうしよう・・・一歩一歩、味噌汁が遠のいて行く・・・


「・・・・・・まあ、捕り物は見てみたいし、ちょっとした寄り道だな」


 混乱しているのなら仕方がないか。

 気を取り直し、混乱に身を任せて、与力たちの後を追う事に納得する僕だった。

 ・・・・・・けど味噌汁飲みたい・・・



ここまでお読みいただき有り難う御座います。



三日で一話更新するようになって、漫画雑誌とかで休載している人を見ると、ちょっとほっとする自分がいる事に気がつきました。

「この人も休んでるのか・・・じゃあ自分が休んでも大丈夫だな」

・・・・・・休みませんが、連載持っている人のあるあるなんじゃないかと思った今日この頃です。


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