PVP広場に来た
「しっかしばっかじゃねえのきみ~」
笑いながら商店街の地面に倒れている僕にヤルゼさんが言う。
僕は今『腰が抜ける』という状態異常に掛かっていた。
ビビったりするとなる物らしい。現実と同じかな。
「ちょっと興奮して変なこと言ってしまいました」
「ほんとだよ。まあ、今日は帰れって言ってたから、また来てくれって事だと思うぞ」
『めし処もちや』から出禁にされたかもと僕は思っていたが、察したヤルゼさんがそう言った。
「大丈夫ですかね」
「キリちゃんが贔屓にしてくださいって言ってただろ。なんだかんだ言ってあのじーさん孫には甘いからな」
「そうなんですか」
「いい家族だぞ。通ってればわかるよ。キリちゃんもじーさんのこと嫌いじゃないしな」
「それは確かにわかります」
「とりあえず次行くか。そろそろ立てそうかね」
ヤルゼさんの手がこちらに差し出される。
手を握り返して引っ張り起こされる。
腰を回して状態を確認する。
「もう大丈夫みたいです」
「なら行くぞ。次はPVP広場だ」
そういってまず向かったのは北側の城壁前のクリスタルのある所だった。
そこからまたワープして西側の城壁前につく。
「外に出るぞ」
「国の中ではないんですね」
「城壁の外だが国の中ではあるぞ」
「はあ」
「そうだ、これも教えておこう。先に外に出ようしてみてくれ」
言われた通りに城壁の出入口から外へ出ようとする。
すると、自分の前にウインドウが浮かんできた。
「・・・行きたいフィールドを選択してくださいって出たんですが」
フリーフィールド、フィールド①、フィールド➁、フィールド➂と、文字が並んでいる。
下の方までスクロールしてみるとフィールド⑫まであるみたいだった。
「フィールド⑧を選択してくれ。俺もすぐ行く」
「はい」
言われた通り選択する。
と、同時に景色が切り替わる。
真っ暗になった。
上を見上げると星が見える。
完全に夜に変わっていた。
「ヤルゼさん?」
思わず振り返って尋ねようとするが、いたはずの場所にヤルゼさんがいない。
しかし、いなかったのは三秒ほどの事だった。
「よっと」
「うお・・・びっくりした」
いきなり真横にヤルゼさんが現れて驚いてしまった。
フィールド選択をするために前に歩いたから、横にワープして出てきたのだろう。
最初に言っておいて欲しかったところだ。
「驚かせたか、すまんな」
「別にいいんですけど、説明して貰えます?」
「夜になった事か。フィールド⑧に移動したからだな」
「フィールド⑧が夜のフィールドって事ですか」
「いや違う。えーと、どう説明するばいいかな」
少し考えてからヤルゼさんの説明が始まった。
「この世界の一日は十二時間だ。俺らの世界の半分の時間で一日が終わる」
「そうなんですか」
「フィールド移動の時の数字あるだろ。あれは一日の始まりが現実の時間の何時から始まっているかってのをさしているんだ」
だいたい今は現実だと七時か八時くらいだろう。だとすると・・・
「・・・・・・つまりフィールド⑧の場合は八時に来ると午前零時になるから夜中になると」
「そういうことだ。ちなみにさっきまでいた所はフィールドでいうとフィールド➁の時間軸だな」
フィールド➁というと零時が二時の時で、一日が十二時間だから、八時だと正午くらいって事か。
「やり始めた時間とキャラの種族とかで時間軸が違うみたいだぞ。月呼びとかは夜中からスタートするんだと」
「夜に適性がある種族でしたっけ」
「だな。ちなみにフィールドから城壁内に戻る場合は時間が元に戻る」
「現実の二時が、この世界の零時の時間になると」
「ああ、ちなみに城壁内での時間をずらす事もできる。フィールドと同じで一時間刻みでな」
「・・・何でそういう仕様なんですかね」
「・・・・・・多分だが外国の人にもやってもらうために時間軸が違う仕組みを作ったんじゃないかね」
「なるほど」
「今の所、日本国内限定でしか遊べない仕様だがな」
「そうだったんですか。じゃあ違うのでは」
「アプデで変わるかもしれんし、細かいことはわからんな。あと、夜中や日中の適性のある種族のための処置って話もあるか」
「それは少しありそうですね」
「かなぁ・・・・・・ま、この世界の時間の説明はこんなもんかね」
「ありがとうございました」
「うん。んじゃPVP広場に行くぞ」
ヤルゼさんが城壁の出入口を出て、左へと歩き出したのでついて行く。
「そういえばフィールド⑧を選んだ理由を聞いてなかったのですが」
「PVPをやりたい人たちが掲示板で集まる場所を決めたのよ。それが西側出入り口からフィールド⑧に出て、城壁沿いに南に行った場所。特に名前がある場所じゃなかったからプレイヤーが勝手にPVP広場って呼んでるんだ」
「なるほど」
「時間軸的にも人がいないから、PVPやりたい人しか来てない」
遠くの森の方を見てみたが真っ暗で森の輪郭しかわからない感じだった。
確かにこれだけ暗ければ外で狩りをしたりなどは出来ないだろう。
ちらりと手前側を見る。
「こっちは草原って感じじゃないですね。畑ですか」
「田んぼだな。黒飯食っただろ。あれだ。白い米じゃなく真っ黒な米が成るんだとさ」
「初めから黒い米ですか」
「そうらしい。白米が出来る苗を植えると黒くなっちゃうんだってよ」
ジダイの近くで育てるとってやつか。魔界の入り口が近いからだっけ?
「田んぼを荒らすと怒られるからこっち側は人がこない。なもんで田んぼの邪魔にならない端っこでPVPやってる訳」
「モンスターとかは来ないんですか。田んぼ荒らされたり」
「一応モンスター除けの魔法の道具みたいなので近づかれないようにしてるみたいだぞ」
「へぇー」
「警備の人も居るみたいなんだがな。俺は見たことがない」
「田んぼの警備ですか」
ヤルゼさんが田んぼの方を見てるので僕も見てみた。
暗くてわかりにくいが、人影はどこにも見当たらなかった。
「掲示板での話だが、夜中に田んぼを突っ切ってみようとした奴が怒られたらしい。田んぼで遊ぶなってな。暗くて輪郭しかわからなかったらしいがエルフじゃないかって書いてたな」
「夜中にエルフですか」
日中適正があるエルフに夜中の警備はどうなのだろう。
「違うと思うか」
「チュートリアルにあったエルフの説明しか知りませんが違うのでは?」
「だな。俺は魔人じゃねーかなと思ってる」
「魔人ですか」
魔人もチュートリアルで説明見たな。確か魔力がとても多い種族だったはずだ。
「魔界の入り口も近くにあるらしいしな。地下にいる種族って話だから暗い所も平気なんじゃねーかな」
「あ、確かに」
言われて納得した。
ということは魔人を雇っているってことなのかな。
魔人という名前から人間とは敵対してるイメージがあったけど違うのかな。
「と、あそこがPVP広場だ」
ヤルゼさんがそう言って前を指さした。
何本か電灯のような物がたっており、薄明りで辺りを照らしている。
照らされた場所の隅のように人が数人見えた。
PVPをしているようには見えず、三人で何やら談笑しているみたいだった。
「おーい」
ヤルゼさんがその人たちに手を振りながら近づいていく。
談笑している人たちがこっちを見た。
「だれ?」
「お前の知り合い?」
「暗くて顔が・・・ってヤルゼじゃん!」
一人がヤルゼさんを知っていたらしく、嬉しそうに声を上げた。
「ヤルゼってどっかで見た名前だな」
「掲示板だろ多分。時々、自己主張強い書き込みしてる奴だよ」
「そっち系の奴か」
なかなかひどい言われようだ。
ヤルゼさんは気にする様子もなくづかづかと歩いて行き挨拶をした。
「お二人は初めまして・・・マンガマン君は久しぶり」
くるりと腕を回して、立てた親指を自身に向けてポーズを決めた。
「ヤルゼだぜっ!」
「・・・・・・」
僕もヤルゼさんがそっち系の人に見えてきちゃいましたよ。
マンガマンと呼ばれた人が苦笑いを浮かべて話しかけた。
「相変わらずわけわからん奴だなお前は、というか俺の名前忘れてただろ、視線が頭の上に行ってたぞ」
「そんなことないぜっ!」
「会話・・・出来るテンションにしてもらえるか? 二人が引いてんだけど」
「それは済まなかった」
ヤルゼさんは咳払いして頭を下げた。
「掲示板で変な書き込みしているヤルゼです。以後よろしく」
「・・・ギンギラギンです、よろ」
「・・・ダイダラっす」
完全に引いてる二人に、マンガマンさんがフォローを入れた。
「こんなやつだけど俺らと同じでアニメや漫画好きなやつだから、適度に接してやってくれ」
「そうなんだ」
「最近のアニメのお勧めは?」
ダイダラさんが尋ねるとヤルゼさんは即答した。
「魔法少女マジ熱い」
「「わかるっ!」」
三人はお互いに手を伸ばし熱い握手を交わした・・・っというかなんなんだこれ?
「そちらさんは?」
今にも魔法少女のアニメ談義を始めそうな三人を無視して、マンガマンさんが僕に声をかけてくれた。
フォローが早いなマンガマンさん。まとめ役って感じがする。
「ビギナーのコハマルです。ヤルゼさんに色々と教えて貰ってまして」
お辞儀をしてそう言った。
「ヤルゼ、お前なぁ。ビギナーほっぽってアニメ話は流石にないだろ、今度にしとけ」
「そうだったそうだった」
照れながらヤルゼさんがこっちに来る。
「また後でな」
三人に手を振ってから僕の背中を押して誘導する。
「コハマル君、ちょっと向こうで説明するから移動して」
「ここで説明してもいいのでは」
「知ってる奴に聞かれるのはちょっとあれな感じなのよ。横からちゃちゃ入れられそうだし」
「はあ」
とりあえず従う事にした。
三人とは少し離れたところで立ち止まり、ヤルゼさんは一度咳払いをした。
「まあなんだ。ここがPVP広場だ」
「そうですか・・・・・・PVP広場なんですよね」
「そうだぞ」
「PVPしている人がいないようなんですが」
周りを見てもさっきの三人の他に数人見えるが、誰も戦っている様子がない。
「ここのフィールドでも戦えるが田んぼが近いからな、別の空間で戦ってるんだよ。連戦してる人は戻ってこないしな」
「別の空間ですか」
「フィールドに出る時のワープと同じで、PVP専用のフィールドに移動してるんだ。システムからPVP選んでみ」
「はあ」
言われた通りPVPを選択すると、設定画面のような物が出た。
「まず初めにPVPを募集する範囲を決める。他の国で募集している人とも戦いたい場合は、範囲を『全世界』にすれば出来る。近場の人と戦いたい場合は五メートル単位で範囲を小さく選択することも可能だ」
「なるほど」
「PVP広場の人たちとだけ戦いたい場合は二十メートルくらいの範囲を設定すれば全員が範囲に入るはずだ。ちょっといじってみな」
「はい」
範囲を選択すると、名前がずらりと並んだ画面が出た。
先ほどのマンガマンさんたちの名前ものっている用だ。
「対戦したい人がいるなら名前が出てきた画面でその人の名前をタッチすると、対戦を申し込みますか、ってメッセージが出る。『はい』を選んで相手が受けたらPVP用のフィールドに飛ぶ仕組みになってる訳だ」
「なるほど」
「名前が並んでる画面で『フリーマッチング』を選択すれば、同じようにフリーで対戦募集してる人とランダムに当たることになる。格ゲーとかで良くある奴だ」
「格ゲーはやりますけど、対人戦はやった事ないですね」
CPUのレベルMAXをクリアとかはやるのだが、対人戦は二の足を踏んでいる感じだ。
「そうなのか」
ヤルゼさんがウインドウを開いて何かやっているようだ。
すると、ポーンと音が鳴り、PVPの画面とは違う、別のウインドウが現れた。
≪ヤルゼさんからPVPのお誘いが来ました。受けますか? はい いいえ≫
「ヤルゼさん?」
「やってみようぜっ!」
決めポーズでヤルゼさんが言う。
「技も覚えていない初心者なんですが」
「物は試しだよコハマル君。PVPのフィールドの説明も行けば出来るぜ」
「説明だけで終わらないですよね。ハメようとしてません?」
「そんなことないぜっ!」
「こういうのって初心者狩りとか言うのでは」
「俺も始めたては初心者だったぜ。初心者から始まってどんどん腕を上げていくのが面白いんだぜ」
「・・・・・・CPU戦と同じか」
ぽつりとつぶやく。
「やろーぜコハマル君、そんなに強そうに見える俺?」
「格ゲーの話ですが、あまり知らない人を煽るのはよろしくないと聞きますけど」
「あ、そうだな、煽りにも聞こえるかこれ、すまんかった」
そこは素直に謝るのか。
なんだかんだヤルゼさんはそういう所が好感が持てる人だ。
「・・・・・・まあ、これはヤルゼさんだから言うんですけど」
「ん」
「初心者に負けてもしりませんよ」
「・・・ぶっは!」
ヤルゼさんが噴出している。
「なかなか言うねぇ、コハマル君!」
「知り合い同士なら適度に煽りあったりする物だと格ゲー好きな友達から聞いてたので。テンションが上がるんだとか」
「上がるねぇ。じゃあこういうのも聞いた事あるかい」
「何ですか」
「初心者相手でも格ゲーマーは手を抜かず舐めプもしない」
「・・・・・・」
「ボッコボコにさせて貰うんで覚悟してくれいっ!」
「とりあえずPVPのフィールドの説明をお願いします」
「あ、はい・・・ここで透かしに来るのか、口プレイ強すぎじゃね? 透かし技が得意なのか、おけ把握した」
返事の後に何か小声で囁いているヤルゼさんから目を離し、僕は対戦申し込みに『はい』をタッチした。
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
おまけ
ギ「朝の黄色い子最高だよな」
ダ「ピンクの子でしょやっぱ」
ギ「は?」
ダ「ん?」
マ「おいおい喧嘩すんなお前ら、しょーもない」
ギ「・・・そうだな」
ダ「人それぞれだよな」
マ「まあ青が一番なのは譲れないが」
≪ギさんからPVPのお誘いが来ました。受けますか? はい いいえ≫
≪ダさんからPVPのお誘いが来ました。受けますか? はい いいえ≫
マ「お前らよおー!」
ギ「これ、二対一とか出来ねえのかな」
ダ「修正案件だな。あとで送っとくぜ」
ギ「三つ巴でも、いいんだがなぁ」
ダ「ああ・・・それもありだな」
マ「二人で勝手にやっててくれよもお」
ギ「じゃあ青い子が三番って事で」
ダ「異議なし」
マ「ぶっ〇ろ!」
次も三日後くらいに上げます。




