呪いの盾を装備したら女の子になった ~大盾が持てず「タンクとしては役立たず」としてパーティを追放されたけど、実は盾の大きさが自在に変えられまして攻撃もできるようになりました~
「クリス、悪いがお前をもうパーティに置いておくことはできない。理由は、分かってるよな?」
「……ああ」
パーティリーダーであるラドルからそう言われて、少女――クリス・アーバントは静かに頷いた。
クリスは元々、このパーティにおける『タンク』――すなわち、盾役を担っていたのだが、それが不可能になってしまったのだ。
その理由は単純と言えば単純で、複雑と言えば複雑……クリスはほんの少し前まで、少女ではなかったという事実から、話は始める。
***
「ふぅ、今日もなかなかの収穫だったな!」
青年――ラドル・クレインはそう、テーブルの前に広げられた『整理品』を見て満足そうに行った。
彼はパーティのリーダーであり、まとめ役でもあるAランクの冒険者であった。
最近昇格したばかりだが、この近辺で彼のことを知らない者も少なくなってきただろう。
「そうだね。僕らの連携も、他の上位のパーティには引けを取らなくなってきた」
それに同調するのは、弓使いのリゼルド・フォーマス。パーティでは遠距離攻撃を担当する彼のランクはBだが、すでにAランク昇格も近いとされていた。
「ま、私がいるから当然と言えば当然よね」
会話の流れに乗ったのは、ラドルと同じくAランクの冒険者で、魔導師のエリシャ・シィーリアだ。常に余裕の態度でいられるのは、彼女が魔導師として高い実力を備えているからだろう。
「……」
「お前もなんか言えよ!」
「すまない、みんなのおかげで今日もやれた」
無言でいると、バシンッとラドルから背中を叩かれ、そんな感想を漏らしたのはクリス・アーバメントであった。
長身で筋肉質な身体つき。大盾を装備し、パーティにおいては前衛で味方を守る――そんな役割を担う男だ。
「相変わらずクリスは暗いね」
「そうよ。たまには明るく振る舞いなさい!」
「すまん」
クリスは口下手で、あまりパーティのメンバーとのコミュニケーションは得意ではなかった。
だが、彼もまたAランクの冒険者であり、この中では最も早く昇格した身でもある。
まだ若くして多くの冒険者から注目されるタンク役でもあった。
「とりあえず、今日の戦利品を確認していくが――まずは一番面白そうなこの『盾』だな」
ラドルがそう言って持ち上げたのは、『漆黒の盾』であった。
今回潜った『パラディア迷宮』の奥地で、発見した小さめの盾であり、このパーティにおいて装備をするのであれば、ラドルかリゼルドあたりだろう――そう、クリスが考えていると、
「よし、じゃあクリス。装備して見てくれ」
「……? どうして俺が?」
「そりゃあ、盾役のお前が盾を装備するのが一番いいからに決まってる」
「待て、いくらなんでも俺が装備するには小さすぎるだろう。それに、これはリゼルドの『鑑定』スキルでも分からなかったんだろう?」
鑑定スキル――冒険者には、スキルという才能が備わっている者いる。
リゼルドが持つ鑑定スキルとは、発見した武器や魔道具の能力を見極めることができる能力であった。
スキルを持たなくても冒険者をすることはできるが、これを持っているだけで有利にはなる。
鑑定スキルは特に万能で重宝されているのだが――リゼルドの鑑定スキルでも、今回発見できた盾の能力は確認できなかったのだ。
「いいじゃねえか。盾なら、もしかしたら強力なスキルが手に入るかもしれないんだぜ?」
「それはそうかもしれんが……」
古代の武器や防具には、愛用していた使用者のスキルが宿ることがある――身に付ければ、そのスキルを得られる可能性もあるのだ。
だが、おそらく彼らは盾がきちんと使える物であるかどうかを、クリスで確かめたいだけだろう。
「いいから付けてみろって!」
「お、おい……」
半ば強引に、ラドルがクリスに盾を装備する。
振りほどくこともできたのだが、それをしなかったのが――クリスの最大のミスだったと言えるだろう。
その盾を装備した瞬間、クリスの周囲に強い魔力の輝きが生じる。
そして、勢いよく盾から煙が噴き出した。
「うおおおっ!?」
驚きと共に、ラドルが後方へと下がる。
煙に包まれたクリスは、咳き込みながら煙を手で払う。
「けほっ、けほっ! ――ったく、一体何だっていうんだ……?」
「……!? お、お前、誰だ!?」
「誰だって……何を言って――は?」
ラドルの言葉に疑問を感じていたが、クリスもすぐに気が付いた。
声の感じがおかしい――いつもと比較にならないほど甲高く、まるで少女になってしまったかのような声が、頭の中に響く。
先ほどの煙の影響か……そう思っていたが、盾を装備された腕を見て、クリスは絶句した。
「っ!?」
そこにあったのは、勝手知ったる男の腕ではなく、細くて可憐な、少女の細い腕であった。
クリスは驚きながら、慌てて部屋に備え付けてあった鏡の前に立つ。そこにあった姿は――
「な、んだ、これ……」
長い黒髪に、透き通るような白い肌。そして、赤色の瞳。まだ幼さの残る可愛らしい顔立ちをして、全く知らない美少女の姿がそこにあった。
クリスはすぐに、ラドルに付けられた盾の影響であることと察し、それを外そうとする。
「くっ、くそっ……!? 外れない……!?」
だが、盾は外れることはなく――クリスはその場にへたりこんだ。
「なんなんだ……これ」
こうして、タンク役であったクリスは屈強な男から、可憐な美少女へと姿を変えることになってしまったのだった。
***
クリスはなんとか、少女と化してしまった原因である『呪いの盾』を外そうと各地を回ったが、解呪することはできなかった。
さらに不幸が重なり、クリスが元々Aランク冒険者であるクリス・アーバメントであるという証拠が存在しないために、冒険者協会はそれを認めることはなく、クリスはまたEランクの冒険者から始めることになってしまったのだ。
せめて『呪いの盾』の性能さえわかれば、まだ説明をすることもできただろう。
だが、そもそもクリスに盾を装備したパーティメンバー達は、少女と化したクリスに協力的ではなかった。
原因はリーダーのラドルにあったというのに、その点に大きく触れることはなく、大盾も持てないひ弱な少女となってしまったクリスを『タンク』としては不要と判断した。
結果、クリスはパーティを追われる羽目になってしまったのだ。
「……また、一からスタートするしかないか」
クリスは一人、そう呟きながら――森の中を歩いていた。
Eランクの冒険者となったクリスが受けられる依頼は限られている。
元々、盾役として優れていたクリスだが、剣の腕や魔法の才能があるわけではなかった。
唯一持っているのは、盾による防御の範囲を増加させる『シールド』スキル。
それも、クリスの持つ『呪いの盾』では範囲が小さすぎて、雀の涙程度しかない。
なにより、少女となってしまったことも大きな問題であった。
受け入れがたい事実であるが、クリスはいきなり全く知らない女の子の身体となってしまったのだから、弊害がないと言えば嘘になる。
全てを踏まえて、クリスはかなり精神的に参っていた。
それでも、日々の生活のためには仕事は続けなければならない。
「はあ……なんでこんな――」
「オオオオオオッ!」
「!」
クリスが落胆していると、不意にすぐ近くから魔物の声が響いてくる。
この声は、『オーク』だ。
今までのクリスであれば問題なく相手できただろうが、今のクリスは小さな盾を持つだけの非力な少女だ。
この森にオークが姿を現すのは珍しいが、おそらくは今から戻って連絡すれば、他の冒険者が対処してくれるだろう――そう思ったが、クリスはピタリと足を止めた。
ズンッ、と木々が叩かれて揺れる音が響き渡る。
オークは何かを追っているというのが、クリスにはすぐ分かった。
追っているのが魔物であるのなら、全く問題はない。……だが、もしも人間であったのなら?
「いや、今の俺には……」
オークの対処はできないだろう。それは分かっているのだが――かつて、まだ新人冒険者であった頃に、他の冒険者に助けてもらった記憶が過ぎる。
クリスが目指したのは、そんな冒険者であったはずだった。
もしも、追われているのが冒険者であるのなら――そう考えた時、クリスの身体は自然に動いていた。
「はっ、はっ……くっ!」
クリスが音のした方向へ向かうと、息を切らして少女が走っている姿が見えた。
その後方には、緑色の肌をした巨人――オークが迫っている。
少女は満身創痍で、すでに武器も手に持っておらず、ただ逃げているだけであった。
だが、少女は何かに躓いて、転んでしまう。
オークは後ろに迫り、手に持った巨大な棍棒を振り上げていた。
「ちっ!」
クリスはすぐに、少女の前に飛び出した。
回避はできない。ならば、この小さな盾で受け切るほかない――クリスは盾を前に出して、『シールド』スキルを発動する。
当然、シールドで増強したところで、盾の範囲は限られている。
(くそっ、俺がもっと大きな盾を持てれば――)
タンクとしてならば、十分に戦えるはずなのに。
そう思った瞬間、オークの棍棒は振り下ろされた。
ガキンッ、と盾がオークの棍棒を防いだ音が、周囲に響く。
クリスは驚きに目を見開いた。
目の前に広がるのは、自身が先ほど構えた『呪いの盾』――なのだが、その姿は以前に持っていた大盾よりも大きい。
盾は下側から数本の針が伸びて、地面に突き刺さっている。
軽々と、オークの棍棒すらも防ぐことが、できてしまったのだ。
さらに、盾から針がいくつもオークの方へと伸び、
「……カッ」
ズズン、とオークの倒れ伏す姿が目に入る。
「こ、これは……」
クリスすら、状況は理解できていなかった。
だが、その盾の能力は――クリスが窮地に迫ったことで、開花したのだ。
いや、初めから備わっていたのかもしれない。
『呪いの盾』は、ただクリスを少女の姿に変え、外せなくなったのではなかった。
その盾の本質は――『変化』。
クリスが望めば大きくなり、盾でありながら攻撃すら可能にする、万能の防具。
「こ、これがこの……盾の、力……?」
呆気に取られながらも、クリスはその盾の能力を理解していき、再び冒険者として名を馳せていくことになる。
実力者であったタンクの男は、今度は『最強のタンク少女』としての道を歩き始めたのであった。
サクッと連載しようかなって思ったTSファンタジーですが、勢いのままに書いたので短編に。
いわゆる追放物のテンプレっぽく書いてみました。
この後は助けた女の子とパーティ組んで色々イチャイチャすることになる王道ファンタジーになることでしょう!
好きな人は評価くださると嬉しいでございます!