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2-18 癒しのもふもふ

「グワァ」


 俺たちがちくわカレーうどんを食べていると不意に聞き覚えのあるだみ声が聞こえてきて、俺は部屋の入り口を見る。


 するとそこにはがんめんちゃんが鎮座していて、そいつはもぞもぞ動きながらゴンのもとに向かった。


「また君かい? 本当にどこからやってくるんだ?」


 反応したのは銀二だけでほかのメンツはいきなり現れるこいつに慣れたのか反応は薄かった。しかし漫研部のメンツは興味深そうに見ていた。


「これは芸術的なフォルムね!」

「うーぱさんみたいに害のないゾンビなんでしょうか?」

「ああ、放っておいても問題ないぞ。ずるずる」


 質問した関金にともちゃんはうどんをすすりながら適当に説明した。


「なに? がんめんちゃんも食べたいの? あげないよ?」

「グワァ」


 がんめんちゃんはゴンに近付くが彼女はうどんを奪われてたまるかと、どんぶりをガシッと両手で掴むと鳥頭は寂しそうな鳴き声を出す。


「おや、鳥さん。なら私のを食べるかい?」

「グワァ」


 そんながんめんちゃんを哀れに思ったのか長谷はレンゲにカレーと具のちくわを乗せて近寄ってくるそいつに差し出し、がんめんちゃんは嬉しそうな声を出してそれをついばむ。


「グワァ」

「おーよしよし、くすぐったいよ」


 がんめんちゃんは喜びを表現しているのか彼女の負傷した右腕にその身をこすりつける。彼女はそのもふもふを存分に堪能していた。


「はあ……癒される。もふもふぅ」


 だらしない顔をしている彼女は本当に今にも溶けそうだ。漫研部員や女性陣もその光景を見て幸せそうだった。


「グワァ」


 が、その瞬間不思議な事が起こった。


 なんとがんめんちゃんの身体が光りだしたのだ。それはまるで神の使いの鳥のように神々しい光だが、がんめんちゃんのブサイクな顔とのギャップがなんとも滑稽だった。


「わわ、光ってる!」

「光ってるな」


 感動するピーコに俺は素っ気なく言った。ぶっちゃけ光ったところでそれがどうしたという話だし。


「こいつ光るのか? 本当にどうなってるんだ? やっぱり研究したいな」


 ともちゃんは研究者の目で珍獣を見つめる。だがやはり鳥頭は能天気な顔になるだけだ。


「暖かいなあ。なんだか腕の痛みも楽になった気が……あれ?」


 癒されていた長谷はある事に気付いたらしい。彼女は三角巾を外すと右腕をぶんぶんと振り回した。


「ぶ、部長? 安静にしてないと」


 関金はその奇行におろおろとしたが、彼女は、


「治ってるー!」


 と歓喜の声を上げ、その場にいた全員が驚いた。


「な、治ってる? どういう事なの、部長?」

「治ってるものは治ってる! 私にもわかんないけど!」


 戸惑う松河原に長谷はなぜか正拳突きを連続で繰り出す。どうやら本当に骨折が治っているらしかった。


「こいつは驚いたな。おい鳥頭、お前の仕業か」

「グワァ」


 俺はがんめんちゃんにそう尋ねるが鳥頭はいつものように間抜けな声を出すだけだった。


「へー、ありがとね、がんめんちゃん」


 ピーコは自分のところにやってきた鳥頭を感謝しながらもにゅもにゅと撫でる。前回もそうだったがもしかしてがんめんちゃんはピーコに懐いているのだろうか。


「多分そうだろうな。しかし回復技が使えるのか。ますます気になるな」


 ともちゃんの目つきが妙になり身の危険を察したがんめんちゃんはその場から逃げ出す。追いかけようとも思ったが直後、


「よし、完全復活! これからは私も参加するよ!」


 と長谷が叫び、


「なんだかわかりませんけどありがとう、鳥さん!」

「これで最高の芸術作品が出来るわね!」


 と、漫研部員も立ち上がってばんざーい、と両手を上げたので俺たちの意識はそっちに向かってしまう。


「ま、原理はわかりませんけどよかったすね!」


 ただ、キャシーも嬉しそうにしてはいたが、


「ずるずる」


 マルクスだけはそんなお祭り騒ぎもどこ吹く風、泣きながらうどんをすすっていたのだった。



 とにもかくにもがんめんちゃんが長谷のケガを直してくれたおかげで、作業は飛躍的に進みマンガ製作も順調に進むかと思われた。


 だが、俺が周辺の見回りから戻って部屋に入るとなにやら漫研部員が言い争う声が聞こえたのだ。


「だから、違います! それはダメですって!」

「どこがダメなの!?」


 内向的な関金の怒鳴り声にも驚いたがその相手が長谷である事もさらに俺を驚かせる。部員三人は立ち上がって口論し、作業場にはピリついた空気が流れだらずチャンネルのメンバーは困惑した様子をし離れた場所で立っていた。


「なにがあったんだ?」

「まあ、創作活動ではよくある事なんですが……」


 キャシーは言葉を濁し言いにくそうだったが代わりに松河原がため息をついて答えてくれた。


「結末を変えるかどうかって話。先代の部長が残したシナリオに書かれた結末か、私たちオリジナルの結末か、どっちがいいかって話。長谷は原作を変える派で、関金は原作派、私は中立って感じよ」

「そしてそもそも部員ではない我とキャシーは干渉するつもりはない。彼女たちの決定に従うつもりだ」

「そうか」


 俺はそれだけ言った。どうやら俺たちがどうこう出来るものではないらしい。マンガの結末はそれを創作した人間が決めればいい話なのだし他人が口出しするものでもないだろう。


「原作とシナリオを変えるのってオタクが一番嫌う事ですよ。部長が一番それをわかっているでしょう?」

「でも私はこの結末にしたいのッ! いい作品にするなら結末を変えてもいいでしょうッ!?」


 長谷は訴えるように言ったが、松河原は冷めた目で彼女を見てこう言った。


「いい作品にするなら、ね。もしそうなるなら私は賛成。だけど正直部長の案じゃいい作品になるとは思えない」

「松河原まで……」


 実質的に賛成と反対が1対2で長谷は肩を落とす。松河原は先ほど中立と言ったがどちらかと言えば反対らしい。


「いや、先代の部長の想いを受け継ぐならどうして結末を変えるんだ? お前が一番原作への愛があると思ったんだが」

「……………」


 部外者の俺が正直口を出すのは場違いな気もしたが素朴な疑問を長谷にぶつけた。だが彼女は口をつぐみその理由を話そうとしなかった。


「一晩待つわ。それまでに私を納得させられる結末を考えてくれれば私は部長に賛成する。けどそうじゃなければ、わかってるわよね」


 松河原はどこか諭すように言う。だが本心ではきっとそれが不可能だと思っているのだろう。


「部長、わかってますよね。気持ちはわかります、私だって……」

「もういい、寝る」


 悲しそうな顔をする関金に長谷はそう言い放って寝室に向かいドアをぴしゃん、と閉めるとそれっきり出る事はなかったのだった。


「あわわ、大変な事になっちゃったね……」


 ピーコはおろおろとして俺に小声でそう言う。マンガが完成する最後の最後で揉めてしまい、面倒な事になったなと俺は肩をすくめたのだった。



 そして夜になり部員とだらずチャンネルのメンバー全員がマンションにいたが、正直する事がなかった。


 不意に関金と松河原が立ち上がり長谷の部屋に向かう。俺はその姿を目で追ったがあまり見ないようにしてコーヒーに口をつけた。


(ん……?)


 だがその瞬間世界が歪む。なにが起こったか理解する前に俺の意識は闇に落ちたのだった。


 そして、俺たちは知る事になる。


 彼女たちがしていたことはただのマンガ製作ではなかったのだ。


 虚構と現実の狭間で、彼女たちが命を懸けた戦いのすべてを。

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