12-18 常世田先生との出会い
誰もいない無人の駅にサァ、サァ、と箒で掃除をする音が響く。
常世田さんはすぐに見つかる。彼は駅構内で箒と塵取りを使って曲がった背中を見せて清掃作業をしていた。
「すみません、あなたが常世田さんですか?」
俺はこの世界では彼と初対面なのでそれっぽく装う。まああんまり絡みがないから俺はこの人の事をよく知らないんだけど。知っているのは昔小学校の先生だったという事ぐらいだ。
「ん? ええ、そうですけど、私になにか用ですか?」
常世田さんは振り向き、そのしわだらけの顔を見せる。
彼の正確な年齢はわからないが、定年を迎えたという事実とおじいちゃんな見た目からそれなりの年齢なのだろう。温厚そうな表情からは敵意は一切感じられない。
「ええ、実は――」
キャシーは事情をかいつまんで説明する。笠上さんの説得に力を貸してくれないかと、そういう話をした。
「ふむ、なるほど。では私の口から彼女へ話をしておきましょう。といっても多分快諾してくれるとは思いますけどね。彼女は世界がこうなる前からちょくちょくPR動画を投稿していましたから」
「おお! ありがとうございます!」
色よい返事が聞けてキャシーはご満悦なようだ。あとは時間を見て笠上さんに依頼をすればこのクエストは完了する事だろう。
が、残念な事に会話が途切れてしまう。このまま帰ってもいいがともちゃんは場をつなぐため世間話をする事にした。
「えと、常世田さんは笠上さんと付き合いは長いんですか?」
「ええ、私は昔小学校の教師をしてまして彼女は教え子です。ついでに整備士の海鹿島君もね」
「へえ、そうだったんですか」
同じ教師という事が判明しともちゃんは親近感がわいたようだ。俺は知ってたけど。
「そして引退後は鉗蘭鉄道で清掃などのボランティアをしていたわけです。当時は財政難で潰れかけていたので誰かが行動しなければ失われてしまいますからね」
「なるほど」
鉄道の鉄は金を失うと書く。鉄道は安全への投資や保線作業といったもののために膨大な費用が掛かり非常に儲からないビジネスである。大都市ならともかく人がいない地方の私鉄の懐事情はどこも火の車なのだ。
人に乗ってもらいお金を稼ぐ事が鉄道の大前提だ。しかし利用客が突然増える方法は限られている。
そのため生き延びるには観光で盛り上げるくらいしかなく、チャレンジしてもすべてが成功するわけではない。だが鉗蘭鉄道はぬれ煎餅効果などで見事盛り返し生き残る事が出来たわけだ。まあ最早製菓会社になっている節があるけれど……。
「彼女はそのころから鉗蘭鉄道を護るために一生懸命でした。そして世界が滅んだ今も。なので説得はそんなに難しくないと思いますよ。まあ詳しくは彼女の口から聞くべきでしょうけどね」
「ええ、そうします。それでは早速説得をしに行きますか」
有意義な情報を手にしたところでキャシーは身を翻してその場から小走りで立ち去る。
「駅のホームで走っちゃダメですよ」
常世田さんは笑いながらそう注意したので、俺たちは歩いてその場から離れる。
「ええ、では」
「いいお話を聞かせていただきありがとうございました。それでは私もこのへんで」
さーて、次は笠上さんの説得か。ま、そんなに難しくはないだろうな。




