2-10 お約束の温泉でのハプニング
「ふう、さっぱりしたな」
身体を一通り洗い俺は脱衣所に向かう。身体がきれいになっただけでなく銀二とも親睦を深める事が出来ていい時間を過ごせたな、と俺は思った。
彼とはむしろ世界がこうなる前よりも仲良くなった気がする。そうであるならばゾンビハザードも案外悪くなかったかもしれない。
考え事をしていると温泉で熱くなった俺の身体を急速に寒さが襲う。
おーさむさむ、さっさと着替えよう。
「今後も定期的に利用したいね。じゃあ僕は先に向かってるよ」
銀二は先に風呂から上がり既に着替えを済ませていた。髪もしっかりウィッグをつけて元通りの銀二だ。
いや、厳密にはぱっつんヘアが元の銀二なんだが。この姿に慣れてしまったのであちらがレアコスチュームのように思えてくる。
「そうか、俺は使えそうなものを探してくるよ。ゾンビをあらかた片付けたし探索も楽だろうしな。ちょっとの間見張りは一人でもいいか」
「頑張り屋だね。僕は構わないよ」
銀二は日本刀の鞘の部分を持ち脱衣所から出る。
俺もさっさと服を着ようとした、その時だった。
「ん……?」
浴場からなにかの気配を感じ俺はマップを開く。驚いた事に浴場に反応が一つだけあった。
掃討したはずだがゾンビがいたのか? それに気付かず俺たちは丸腰でいたのか。その事実に火照った体は一瞬で冷えてしまう。
俺は立てかけたバットを掴み風呂に戻った。この際全裸でも構わない。
探索の結果そいつは部屋の隅にいるようだ。目視するがそこには風呂桶が積まれているだけでなにもなかった。
おそるおそる風呂桶に近寄る。反応は確かにここだ。よく見るとわずかだが動いている。俺は思い切ってその積まれた桶をバットではじいた。そしてそこにいたのは、
「グワァ」
がんめんちゃんだった。一体どうやってこのわがままボディを入れたのか、小さな風呂桶に涙目でぎゅうぎゅうに詰まって助けてほしそうに見つめてくる。入ったはいいものの出られなくなったらしい。
「なんだ、鳥頭かよ。驚かさないでくれ」
俺はバットを床に置いてそのくちばしを掴んで引っ張る。
が、なかなか取り出せない。というか本当にどうやって入ったのこれ。っていうかなんで入ったの。
この、この、この。なかなか出てこない。っていうか湯冷めしてきたな……。
すぽん。
悪戦苦闘する事数分、そんな爽快な音がして風呂桶からどうにかこいつを救出する事に成功した。
「グワァ」
無事に脱出出来たがんめんちゃんは喜んでいるのかぴょんぴょんと俺の周りを跳ねた。感謝の言葉を言っているつもりなのだろうか。
「まあいい、反応はこれだけだし……うん?」
俺は先ほど言ったセリフを思い出す。
『なんだ、鳥頭かよ。驚かさないでくれ』
そのセリフはいわゆる死亡フラグ。ゾンビ映画ならその言葉を言ったものは確実にゾンビに食われてしまう……ッ!
「ま、まさかゾンビがッ!?」
俺はマップで敵を確認した。だがゾンビの反応はない、しかしもっと恐ろしい反応があったのだ。
……………。
さて、ちょっと前のフロントでのやり取りを見てみよう。
「おー、銀ちゃん、風呂どうだった?」
「最高だったよ。一番風呂ありがとね」
風呂に入りたくてうずうずとしているゴンに銀二は笑顔で言った。その笑顔は風呂に入って汚れだけでなくトオルとの会話でもやもやと積もった負の感情も洗い流したからなのだろう。
「こっちも修理したかいがあるよ、じゃ、さっさと風呂に入るか」
「あれ、トオル君は?」
ピーコは幼馴染の姿が見えない事に気が付き、銀二に尋ねる。
「ああ、サバイバルに使えそうなものを探すってさ」
「熱心な事だな。まあいい、我らが風呂に入っている間見張りは頼むぞ」
「ええ、のぞき魔が出るかもしれませんからねぇ」
キャシーはそう言ったあと直感的になにかを感じた。
「むむ? なにやら面白い展開がありそうな予感が」
「?」
ニマニマした顔でそんな事を言う彼女を、マルクスは不思議そうな目で見るのだった。




