表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/1261

2-6 終末のもふもふ

 俺たちはモンキに戻ると車窓から出かける時はなかった大型バスが駐車場に停車しているのが見えた。さらにもう一台、駅のある方向から大型のバスがやってくる。


「ああ、そういえばともちゃんがバスを回収しに行くって言ってたな」


 俺は朝、彼女がそんな事を言っていたのを思い出す。俺とは直接関係のない事であったから適当に聞き流していたのだが……。


 俺の運転するバンが駐車場に入ろうとすると留守番組のピーコたちが外に出ている事に気付き、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。


 俺はバンを駐車すると遅れて大型バスも駐車場に入ってくる。バスの運転は難易度が高そうだが驚く事にともちゃんは難なく操作し駐車場に停車する。大型車の免許でも持っているのだろうか?


「ただいまー、DVDたくさん持ってきたよー。ついでに食べ物とかも変態のオッサンからもらってきたよ」


 ゴンは自慢げに戦利品を見せつけピーコや銀二が寄ってくる。


「わー、いろいろ借りてきたね。って変態のオッサン?」

「ああ、ゴンちゃん、お父さんと再会したんす。お兄さんも無事だったそうっすよ。砂丘近くの避難所にいるそうで」

「そうなんだ! よかったね! 家族との再会……感動的だったんだろうなあ」


 ピーコは我が事のように喜ぶがゴンはハハハ、と乾いた笑いをするだけだった。彼の名誉のためにここは黙っておこう。


「そこにお姉ちゃんもいるかな?」


 嬉しそうなピーコをがっかりさせるのは気が引けるが嘘を言うわけにもいかないだろう。


「いや、一応聞いたがいなかったらしい。ただ一応タイミングを見て様子は見に行くつもりだ」

「そうなんだー……けど、うん、そうだね。入れ違いの可能性もあるし」


 彼女はそう言って小さくガッツポーズをする。ゴンの元気が移ってしまったようだ。俺としてはしょげた顔をしているよりもそちらのほうがいい。そうだな、俺はまだ諦めるつもりは毛頭ないさ。


「おじさん生きてたんだ。生命力たくましい人だったから予想はしてたけど。ところでこのDVDもおじさんの差し入れかな」


 銀二はDVDの中にひよこ鑑定師(以下略)のDVDが混ざっている事に気が付く。渡した時にどうやらうっかり混ざってしまったらしい。布教の可能性もあるが。


「なにこれ……ってピィッ!?」


 ピーコはそれを手に取りパッケージの裏を見ると悲鳴を上げて卒倒する。そんなやり取りをしているとバスからともちゃんとマルクスが降りてきた。


「賑やかだなあ」

「ともちゃん先生、これが輸送に適した車ですか?」

「ああ。駐車場は駅からちょっと離れてたからよかったよ。ちらっと見たが駅はゾンビだらけだった」

「走るゾンビもいくらかはいたがそれほど問題はなかったぞ」


 俺が尋ねるとともちゃんとマルクスは少し疲れた様子で言った。目覚めた時の記憶ではゾンビハザード直後はそこまでいなかったが時間経過で増えたのだろうか。


 そうだったのなら護衛をもう少し付けたほうが良かったかもしれない。ともちゃんはそこまで強くないのだし。


「ちなみにバスはこのままじゃ使い勝手が悪いからいろいろ改造するつもりだ。椅子とかも取っ払えばそれなりに広くなるだろうし。片方を居住用、片方を動画撮影用にするつもりだ。時間がかかりそうだから簡単な作業は手伝ってくれよ」

「ええ、それは構いませんが二台ですか。運転はどうするんですか?」


 俺とともちゃんが運転するのだろうか。出来なくはないが俺はプロのドライバーではない。長距離を運転するのは正直、あまり気乗りがしなかった。


 だがそう言うとともちゃんはニッと笑う。


「安心しろ、ちゃんと考えてある。お前は運転しなくていいからな」

「そうですか?」


 どんな案があるかはわからないがここは彼女に任せておこう。この青い猫型ロボットのようなポジションの先生はとっておきの妙案を出してくれるに違いないし。


 バスは観光用の大型のもので二つとも同じタイプだ。確かに椅子を取り払えばそれなりの広さにはなるだろう。車体の下部には旅行客の荷物を入れるためのスペースもあるしそこも有効活用出来そうだ。


 外装は鳥取の観光名所である砂丘や、ジオパークに認定された海岸、白倉の白壁土蔵群、二十世紀梨のイラストが描かれている。


 だが、俺は外観を何気なく見ていると車体の下でなにかが動いた気配がする。すぐに索敵マップを開くとゾンビの反応があった。


「ともちゃん離れてくださいッ! 車体の下にゾンビがいますッ!」

「うお、まじかッ!?」


 ともちゃんはすぐに店のほうに走り仲間にも緊張が走る。それぞれの得物を慌てて構えて全員が車体の下に注目した。


「車の下にゾンビ、結構ありがちっすねえ」

「すまん、私の確認不足だった。数は?」

「反応は一体だけです」

「でも一体ならなんとかなるんじゃないかな」


 銀二の言うとおりここには手練れが大勢いる。雑魚ゾンビなら問題なく対処できるだろう。


「な、なかなか出てこないね?」

「ならピーコ、お前がのぞいてみるか? そしてグワァ、となるのがオチだろうが」


 マルクスは冗談めかしてそう言った。確かに反応はあるがもぞもぞと動くだけでなかなか出てこない。しかし隠れている以上のぞき込めば高確率で不意打ちされそうだ。


 しかししばらく待っていると反応の主がのっそりと現れる。


「グワァ」


 彼女の言うとおり違う形でグワァとなった。奇妙な姿をしたそいつはそんな間抜けなガチョウのような鳴き声をして車体の下から這い出てくる。


 一頭身の頭部だけのそいつは全身(全頭?)をふさふさした黄色い毛で覆われ、アヒルなのかガチョウなのかはわからないが鳥のようで大きな黄色のくちばしがある。


 眠たそうな大きい両目、そして頭頂部には触角のような毛がぴょこんと立っていて端的に言ってアホっぽい見た目をしている。いわゆるブサ可愛いと言われる類の生き物であろうか。


「トオル、まさか反応ってあのブサイク?」

「だな」


 ゴンはその見た目に戦意をなくし構えたシャベルをおろす。異様な見た目だがとても凶悪な生き物には見えなかった。


「一応ゾンビなんすかねぇ」

「ゾンビ要素は一つもないけどね」

「グワ?」


 銀二はそう言ったあと取りあえず近付いて刀を突き付ける。だが鳥頭は恐怖を抱かず、間抜けな顔でその切っ先を不思議そうに見つめるだけで、彼もその姿を見てやはり戦う気をなくして刀を鞘にしまった。


 多分、これも泥の影響で生まれたゾンビの一種だろう。見た目はもはやゾンビでもなんでもないが。


 俺はピーコをちらりと見ると、彼女は幸せそうな顔でそいつにふらふらと丸腰で近付いていく。そして一気に間合いを詰めてその生命体を強襲した。


「もふもふー!」

「おい、ピーコ」


 俺は諫めるが彼女はその鳥頭に頬ずりし、その身体(頭?)を弄ぶ。鳥頭を見ると特に嫌がるそぶりもなくされるがままになっていた。


「もふもふに悪い生き物はいないよ!」


 笑顔で振り向いて目を輝かせるピーコの周囲になにやらキラキラとしたエフェクトが出ている。鳥頭のふさふさした毛に完全に魅了されたらしい。


「ゾンビにもいろいろいるんだな。体の構造はどうなってるんだ?」


 ともちゃんもそいつに近付きピーコと一緒にそれをもにゅもにゅと触りまくる。悔しいが俺もちょっと触りたくなってしまった。


「決めた、この子の名前はがんめんちゃんにしよっか!」

「がんめんちゃん?」


 ピーコがそいつと真っすぐ向き合い、元気よくそう言って俺は思わず聞き返す。


「顔面だけだから、がんめんちゃんだよ」

「安直なネーミングセンスだな。名前はどうでもいいが」

「グワァ」


 がんめんちゃんもその名前が気に入ったらしく、間抜けな声で返事をした。


 やはり先ほどから敵意はまるで感じられない。狂暴なゾンビではないという認識でいいのだろうか。


「名前を付けるのはいいが飼うのは止めとけ。うちにそんな余裕はない、こいつを非常食にするなら別だが」

「食べないって!」


 ピーコは少し怒って言った。俺はそんなに変な事を言っただろうか。


 彼女は本当にもふもふに夢中だった。俺が築いた長年の信頼関係ももふもふには敵わないらしい。


「というか頭だけだし可食部が少なさそうだなあ。本当にどういう体の構造なんだ?」

「グワ」


 ともちゃんがむにょむにょとがんめんちゃんを触ると再び鳴き声を上げる。ゴンはそんな様子を見て、先ほど親父さんから渡された物資の段ボールを漁りミックスナッツの袋を取り出した。


「食べるかな」

「あ、おい」


 貴重な食料を、と俺が注意する前に彼女はバリバリと袋を開けて顔面ちゃんの前に座り込みパーティ開きにして置いた。がんめんちゃんはすぐにくちばしでつんつんとついばみ、ナッツを美味しそうに貪る。


「グワァ」

「よーしよし」


 ゴンもやはりがんめんちゃんを撫でまわす。女性はもふもふの前には無力だというのか。


「マルちゃんももふもふしますか?」

「む、むう、しかしキャラが……」


 自身の立ち位置を考え葛藤するマルクスをキャシーは面白そうに見ている。しばらく悩んだ彼女はおそるおそるがんめんちゃんに近付いたが、


「グワァ」


 と鳴いて、銀色で経験値がたくさんもらえそうな奴のように素早い動きで駐車場の外へ走り去っていった。足がないのにどうやって走れるんだ?


「あ、逃げちゃった」

「あ……」


 なんとも言えないしょんぼりとした顔のマルクスの肩をキャシーはポンと叩く。本当に彼女は残念そうに項垂れていた。


 そう、これがこれから長い付き合いになる謎の生命体、がんめんちゃんとのファーストコンタクトだったのだ。


「うーむ、生物教師としてはあの不思議生物をもうちょっと調べたかったんだが」

「まあいいや、早速借りてきたDVDの鑑賞会をしよー?」


 名残惜しそうなともちゃんとは対照的にゴンはすぐに飽きたらしく店内に向かった。俺も外にいても特にする事はない。寒いしさっさと中に入るとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ