2-4 ハンバーガーとエロスとバカタレと
クーと電話をしたあと、出かけていた仲間が戻ってきて俺たちは次の行動をする。俺はバンを運転しゴンとキャシーともに近くにあるレンタルビデオ店に向かったのだ。
物資の調達と言えば聞こえはいいが、要するにゲームやDVDといった娯楽用品の調達だった。
店のすぐ隣にはスーパーもあり食料もたくさんあるだろうが、今は特に欲しいものはないし人数も少ないので戦闘は避けたい。今回は見送ろう。
店の入り口のすぐ近くに停車しキャシーの作ったライトドローンとともに店内に侵入する。索敵をするとゾンビはいないようだった。
「あれ、ゾンビが」
「ああ」
ゴンは思わず声を上げる。レジのすぐ近くには十数体のゾンビの死骸が固まって転がっていたのだ。
そしてそのうちの一体は半魚人のゾンビだった。またしても奴とは戦うことが出来ず未だにどれくらい強いのかわからないのがちょっと残念だ。
「引きずって一か所に集めた跡があるな、俺たちが来る前に誰かが倒してくれたらしい。誰かは知らんがありがたい話だ」
「その誰かはどこにいるんでしょう。もう帰ったんすかね」
「今索敵する。ふむ……」
周囲には一人人間の反応がある。その人物は店の奥にいるようだ。しかしまさかたった一人でこの数のゾンビを倒したのだろうか。だとするなら結構な手練れだ。
その人物は俺たち同様DVDを探しているのだろうか。そんな奴ならば多分害はないとは思うが警戒しつつ金属バットを片手に反応のある場所に向かう。ゴンとキャシーもおそるおそる俺のあとをつけてそれを見てしまった。
「反応はここからだが……」
「うわあ」
ゴンは失笑した。その視線の先にあるのは丸で囲まれた18に斜線が引かれたのれんがある。
反応はこの中からだ。どうやらあの半魚人のゾンビは終末の世界でエロを探求する者によって殺されてしまったらしい。
一回目はトイレに行きたいゴンにシバかれたのだが二度あることは三度あると言う。俺はあの半魚人がさすがに不憫に思えてきて今度はちゃんと人を殺せるといいな、と妙な応援をしてしまったのだった。
「邪魔するのもアレですし、私たちもさっさとめぼしいものを漁りましょう」
キャシーは半笑いで身をひるがえし俺たちはDVDのコーナーに向かう。DVDは取り放題であるが店内の明かりはついていないので暗く、タイトルが見づらい。ドローンライトと懐中電灯の明かりだけが頼りだ。だがエロの探究者のおかげで店内にゾンビはいないしゆっくり作品を吟味しよう。
「いいのないかな。返却しなくていいからたくさん借りるかあ。あ、アイアムニートがある」
ゴンはのっけからゾンビ映画をチョイスして外箱ごとリュックに入れる。
「ゾンビ映画か。すげぇな、この状況で。映画なんか見なくても外に出れば最高のスリルが味わえるぞ」
「まあそれはそれ、これはこれ。トレーニング・デッドも入れて、と」
呆れた俺を気にする事もなく彼女は次々とDVDをリュックに入れていく。その多くはアクションやホラー映画だった。
「おー、エロティックゾンビバーガーがあるじゃないっすか!」
「なんだその妙なタイトルは」
ゾンビ映画には変なタイトルのものも結構あるが見事なまでにB級映画の香りがする。別に俺自身は見たい映画があるわけではないし今回は護衛のために連れてこられたようなものだ。なにを選ぶかは好きにさせよう。
「あとはカブトムシアイランドに……って、マジで!? 矢〇通VSゾンビがあるよ! マニアック過ぎて置いてないのに!」
「はーい、ストップ」
さすがに理解に苦しむタイトルが聞こえてきて俺はゴンを呼び止める。
……というか〇の部分を言う時どこからともなくワイルドな声で『バカタレ!』と聞こえた気がするが触れないでおこう。
「なんだ矢〇通VSゾンビって」
「矢〇通とゾンビが戦う映画だよ? 知らないの?」
「知らねぇよ」
プロレスラーの中には俳優活動をしているものもいるし映画に出ているものもいる。大抵はB級のVシネマやアクション系ではあるがこの映画もそういうものなのだろう。
「えぇ……? 本当に日本人なの?」
俺がそう言うとゴンは信じられないと言った様子で引いた顔をする。
「知っている事がさも当然のように言うな。日本人でもそもそも矢〇通を知らない奴は結構いると思うぞ。比較的出たがりでルックスもいいオ〇ダや棚〇とかならともかく」
「ハハハ、そもそも棚〇は顔だけだよ。プロレスの事をなにも知らねぇにわかの女子連中にちやほやされて調子こいてるだけで。本当に強いのは矢〇通だよ」
棚〇ファンが聞いたら間違いなく怒りそうなセリフを笑顔で彼女は言った。今では和解したとはいえ、ゴンは生粋の矢〇通のファンらしい。
そういえばピーコをいじめていた悪ガキとのケンカで咲桜先輩もあの悪役レスラーの技を使っていたし実は矢〇通は結構人気があるのだろうか。鳥取はむしろ地域密着型のご当地プロレス団体のほうが流行っているのだが。
ああ、棚〇ファンに言っておくがゴンが語っているのは個人の意見だ。俺は棚〇も強いと思っているからな?
「最後のシーンで長髪のチャラいゾンビの髪の毛をハサミで刈るんだよねー」
「棚〇ファンに喧嘩売ってるよな?」
ともあれ怖いもの見たさでちょっと見てみたい気もする。俺はゴンと談笑しながら移動しDVDを探すことにした。
俺は映像研究会に所属してはいるがそれほど映画に興味があるわけでもない。このままではゾンビものと矢〇通ものだけのマニアックにも程があるDVDになりそうだしピーコたちも楽しめるものをチョイスしておこう。
取りあえず俺でも知っている程度に知名度のあるDVDを手に取る。タイトルは『生の肝臓を食べたい』というものだ。タイトルはぶっ飛んでいるが恋愛もので一応泣ける映画らしい。
ついでに作者が鳥取出身で地元にゆかりのある作品、『名探偵バーロ』の劇場版もいくらか見繕っておこう。サッカーボールで武装ヘリも撃墜出来るんだよなぁ。
「ゴン、お前は恋愛ものとか見ないのか?」
「んー? 眠たくなるし、興味ないしつまんないから」
ゴンは気のない返事で言った。どうやらまったく興味がないらしい。
「あんまり恋愛ものって好きじゃないんだよね。どっちも恋人がいるのに浮気するし、略奪とかもね。イケメンと美女ならなにをやってもいいっていうのがね」
意外にもゴンは恋愛の倫理観がわりと強く浮気や不倫が嫌いらしい。もちろん実際にされるのが好きな奴はほとんどいないだろう。そういう性癖の人間はいるかもしれないが。
しかし映画はあくまでもフィクションだ。なのに彼女はそれすらも嫌いらしい。
「恋愛になんか嫌な思い出でもあるのか?」
「んー?」
俺はつい、そんなプライベートな事を聞いてしまう。少し唸ってからゴンは言った。
「不倫も命懸けなら純愛って言うけどねー。うちはお母さんがあたしを産んですぐ男とどっかに出て行っちゃったから」
彼女は笑いながらそんな事を言った。俺は方針会議で彼女が一切母親の事を言及しなかったのを思い出す。
「すまん」
これはいわゆる地雷なあまり人には聞かれたくない話だろう。俺は軽率な発言を謝罪した。
「あ、別にそんな暗い過去じゃないよ。兄貴の学校の先生と駆け落ちしたっていうのを親子ともどもむしろネタにしてる節があるし。父子家庭でもこんなポジティブで幸せな子に育ったしね。お父さん、仕事で忙しいのに家の事も全部やって悲しいとかそんな事は思った事はないよ」
そう言った彼女は本当に気にしていないようだった。だがなんだかどこかで聞いた話のような気がするが……?
「父親に恵まれたんだな」
俺は自然とそんな言葉をかけてしまう。少しばかりアホの子に育ってしまったが彼はさぞかし立派な父親なのだろう。彼女の純粋な瞳がそれを物語っている。
俺の言葉にゴンは笑顔になって言った。
「まーね。早く見つけてあげないとね」
ゴンの父親が無事かどうかはわからないし生死など俺には関係のない事だ。だが俺はほんの少しだが無事でいて欲しいと願ったのだ。同級生というだけでほとんど縁もゆかりもない彼女の幸せを。
それは不思議な感情だった。あのチアダンスの動画以降、俺はだらずチャンネルのメンバーに仲間意識のようなものを抱いていたのだ。クーやピーコほどではないとはいえ彼女たちは大切な存在になりつつあるのだろうか。
「フラグゲトー。私のこと忘れてませんか?」
棚の陰からキャシーがニマニマした顔でそう言ってこちらを覗いてくる。ちょっとウザい顔だった。
「せっかくなんでアダルトコーナーに行きませんか?」
「お! そうしよっか」
「おいおい待て待て」
彼女は妙な事を言ってゴンが同意する。その発言に先ほどまでのいいムードが見事にぶち壊された。
「俺たちは一応未成年なうえに先客がいるんだが。あと今言ったフラグって」
「こんな状況でアダルトコーナーを漁る奴なんてどうせしょうもない人だよ。襲ってこないと思うよ!」
そして二人はずかずかとアダルトコーナーに向かって歩き出し俺も急いで追いかける。なんとなくだがこのあとの展開を予想しながら。
のれんをくぐり、まずは先客に挨拶するためその面を拝む。そして男はすぐに俺たちに気付いて目が合った。
彼は懐中電灯付きのヘルメットを被っていてそのライトの光で一瞬目がくらむ。ドローンライトで照らされた男はよれよれのこげ茶色のスーツを着ていて、身なりだけを見れば見るからにさえないがガタイのいい身体をしていて強そうだ。
「お父、さん」
「紬」
ゴンと男はお互いに相手を呼ぶ。単語をそのまま解釈するなら彼はゴンの親父らしい。
ゾンビハザードにおける親子の再会。それは感動的なもののはずだ。あるいは既にゾンビに噛まれ、確執があるも最期に想いの内を語り合いわだかまりが解けたりする事もあるだろう。
しかし今探し求めていた父親はアダルトコーナーでDVDを漁っていたのだ。なんとも気まずいと言ったらありゃしない。
「本当に期待を裏切らないな!」
俺は思わずそんな事を叫んでしまった。店中に俺の声が反響してしばしの静寂が訪れたのだった。




