10-63 大阪編の分岐点に備えて
俺たちは明日の大規模な開拓に備えバスで入念に準備をする。ぶっちゃけヤクザやカルトの残党は殺せる度胸さえあれば気にしなくてもいいが、言うまでもなくゾンビがうじゃうじゃといるので準備し過ぎてもし過ぎる事はない。
今回の任務はゾンビや暴徒と戦う実行部隊、物資や金を回収する調達部隊、その両方に人員を裂く必要がある。
ピーコは力持ちだし調達部隊に役割を振っておいた。適材適所、人を殺せない彼女はそうすべきだろう。
この作戦は百貨店のコミュニティの命運を左右するので向こうも気合が入っているらしい。コミュニティの武闘派衆も今ごろ弾薬の確認や運搬車両の整備をしているはずだ。
「あれ、静間さんが来ましたがどうします?」
「ん、通していいぞ」
ともちゃんにメンテナンスしてもらい、バラバラ死体になっていたナビ子の頭部がそう告げると主は作業しながら適当に返事をした。
「はいデス、どうぞ」
「邪魔するぞ」
ドアが開きハナコを連れた静間さんが現れる。彼女はバスに入るや否や鳥頭形態のがんめんちゃんをロックオンした。
「にく、めけたー!」
「グワァ!?」
いつもの事なので誰も助けようとしない。スズメを捕らえる猫のように彼女は飛び掛かりガジガジと噛みついたのだ。
それに別に本気で食べようとしているわけではない。じゃれあっているだけだしな。その癒される光景にみんなはふふ、と頬を緩ませた。
「ああ、ダンディさん。どういったご用件で? コーヒーを淹れますからちょっと待ってください」
「構わない、あとダンディは止めろ。ちょっと話があってな、すぐに済む」
「そうですか。明日の事ですよね」
「もふもふ、がぶがぶー」
「グワアアア」
静間さんはがんめんちゃんをもみくちゃにしているハナコを微笑ましそうに眺めたあと、
「ああ」
と言って極道モードの顔になる。その顔はいつにも増してダンディだ。
いや、想像でもこういう冗談はやめよう。きっと真面目な話だしその内容も察しが付く。
「明日は多分藤原とも戦闘になる。そこで頼みがあるんだ」
「我にはなんとなく察しがつくが」
「ああ。藤原に止めを刺す役割を俺に譲ってくれ。あいつに引導を渡すのは俺がずっと願っていた事だ」
「そのくらいなら構いませんよ」
俺はすぐに了承する。その心情はわかるしなによりこのイベントをこなせば好感度は大幅に上昇するだろう。
そうなればバッドエンドの分岐も上手くいくはずだ。なら断る理由はどこにもない。
「……恩に着る。最後の最後まで付き合ってくれ」
「もちろんです」
今までの事もあり彼は俺に、いや俺たちに対して全幅の信頼を置いてくれるようになった。そのニヒルな微笑みがすべてを物語っている。
うん、百貨店のコミュニティを救済しマルクスルートのバッドエンドも回避出来るので一石二鳥だ。
いつもは手を抜いているわけではないが今回は特に頑張ろう。静間さんの悲願を叶える事は巡り巡ってマルクスを救う事にもつながるのだから。
「そうだ、小僧。全部が終わったらお前に話したい事がある。勘のいいお前は気付いているかもしれないが……」
「ええ、わかりました」
彼は覚悟を決めた様子でそんな発言をした。彼の言いたい事はおそらくだが航空機事故に関する事だ。
重要な分岐を前に俺の心臓がバクバク暴れる。頼むから今回こそ上手くいってくれと祈りながら。
「さて、ハナコ。用は済んだから帰るぞ」
「やだー、もっとあそびたいー」
「グワァ」
ハナコはがんめんちゃんを抱きしめその場から離れようとしない。そんな様子を見てピーコは笑いながら、
「もうちょっとゆっくりしていっても大丈夫ですよ」
と告げる。
「ええ。久しぶりに会えたんですし酒でも飲みましょう。ビールもつまみもたくさんありますよ」
ともちゃんもそんなふうに誘ったので、静間さんはフッと笑う。
「そりゃどうも。嬉しい誘いだが今日は酒を飲むのは止めとくよ。明日に響くしな。ハナコ、帰るぞ」
「うーん、またあそぼー、ばいばーい」
「グワァ」
ハナコは不本意そうだったがようやくがんめんちゃんを解放する。鳥頭は涙目になってキャシーに抱き着き、よしよしと優しく慰められていたのだった。
さて、楽しい時間は当分お預けだ。明日は大阪編の分岐点なのだから。




