2-3 もう一度友達に
朝食を終えて仲間はそれぞれの行動をする。周辺のゾンビの駆除、物資の調達と、人数が増えたので嬉しい事に手分けして行動する事が可能になった。
そして俺とピーコはなにをしているかと言うと拠点の防衛、つまりは留守番だった。
ゾンビが来るかもしれないし妙な生存者が来るかもしれない。子供には任せられない実に危険と隣り合わせなお留守番だ。
「んしょ、んしょ」
生存者に関しては場合によっては物資を渡してもいいとキャシーは言っていた。
俺は難色を示したがいずれは放棄する拠点だから、と彼女が言ったので、実際そのとおりであるし自分も人の事は言えず置かせてもらっている義理もある。俺はしぶしぶではあるがその方針に承諾した。
留守番の間俺たちは暇だった。コーヒーブレイクの時間と思えば俺にとっては実に有意義だが、これ以上飲み過ぎるとカフェイン中毒になる。別の方法で時間を潰したほうがいいだろう。
「んしょ、んしょ」
ちなみにピーコは日課の腕立て伏せをしている。かれこれこの短時間で200回以上はこなしているのではなかろうか。しっぽも気合に反応するようにピン、と緊張と弛緩を繰り返していた。声がちょっとエロく妙な想像をしてしまう。
「そうだ、ピーコ。クーと話をするか?」
「え? クーちゃんと?」
俺は思い出したようにそう言うとピーコは筋トレをやめる。
「向こうの都合もあるが定期的に連絡を取りたいしな」
「うん、私も久しぶりにクーちゃんとお話ししたいし」
ピーコは笑顔で快諾する。彼女がこう言うのは想定どおりだ。
問題はクーのほうだろう。電話でもいいが俺は二人でも会話出来るようにビデオ通話アプリで連絡を取ることにする。
しばらくして、クーが応答する。
「おう、クー、今大丈夫か? 生きてるかー?」
『うん、大丈夫だよ。お兄ちゃんも生きてるー?』
クーはのほほんとした笑みを向けてそんな定番の馬鹿なやり取りをする。だが今の世界ではちょっとばかしシャレにならない冗談ではあった。
今回はビデオ通話のため何気に彼女の顔を見るのはかなり久しぶりだ。妹は両サイドの上部にお団子のあるヘアースタイルで、ゴスロリパンクと言うのだろうか、紫をベースとしたフリルが多くあしらわれた服を着ていて相変わらず実に個性的な見た目だった。服装だけ見れば思春期特有の病気をこじらせていてマルクスと仲良く出来そうではある。
出るタイミングをうかがっていたピーコがひょっこりと顔を出しカメラに向かって手を振る。クーは彼女の顔を見て少し驚いた様子だった。
「えへへ、久しぶり、クーちゃん」
『あ、ピーコじゃん。そっちも生きてたー?』
「生きてたよー?」
やはり脱力的な話し方で定番のやり取りをする。意外にもクーは無反応というわけではなく、知っている人間と話が出来てちょっとは嬉しそうだった。
確執がある真理恵さんに対するものとは違いクーはピーコに特別悪い感情を抱いているわけではない。もしかしたら揉めるかも、と危惧してはいたが杞憂だったらしく俺は安心して胸をなでおろした。
「久しぶりだね、元気にしてた? 今なんかしてたの?」
『うん、暇だからベルゼブブを召喚しようとしてた』
「ベ、ベルゼブブ?」
ピーコは聞きなれない単語に首をかしげて、俺が会話に割って入り補足する。
「簡単に説明するとすっごい悪魔だ。相変わらずのオカルト趣味だな」
『ほかにする事もないからね』
「そんな暇つぶしにするゲームみたいな感覚で大魔王を召喚するな」
暇だからと言って普通の人は悪魔召喚をしないだろう。
クーはオカルト的な事やスピリチュアルなものに傾倒しており、おまじないや占い、悪魔召喚まで幅広く手を出していてそのうち妙な宗教団体に入らないかちょっと不安だったりする。
さて、画面をよく見てみると事務室のような場所で、右側の隅にはクーの愛用しているアンティーク調のカバンがある。そのカバンの中でなにかがもぞもぞと動いているのだが……俺たちは出来るだけ気にしないようにしていた。
『真理恵さんから聞いたよ、動画撮影してるんだって?』
そう言えばクーにはまだ終末だらずチャンネルの事を言っていなかった気がする。だが真理恵さんが伝えてくれていたようだ。
「うん、この前チアダンスの動画を挙げたけど見てくれた?」
ピーコは少し照れながら感想をうかがうとクーはいやらしい笑みで答える。
『がっつり見たよ。ピーコも随分はっちゃけてたね。綺麗なおみ足なことで』
「も、もー」
アドレナリンが分泌され本番中はそうでもなかったが、今になって恥ずかしさが思い出されたようだ。だが彼女はどこか楽しそうで嫌がっている様子はない。
しかし俺は今になって重大な事に気が付いてしまう。クーは気付いていてあえてスルーしていたようだがその事を指摘せずにはいられなかったようでその禁断の一言を言ってしまった。
『ところでピーコ、その耳なんなん?』
「あ」
「ピ」
室内にいてすっかり油断していたため彼女は帽子を被るのを忘れていて、可愛らしい犬耳がぴょこぴょこと動いた。
「これは……だな。そういうアプリの機能だ」
俺はもっともらしい苦しい言いわけでごまかすがクーはそれほど驚いた様子はない。
『別に誤魔化さなくていいよ。犬耳が生えたくらいで。というかキャラ変化としては弱いかなあ。どうせならぬるぬるしたなにかに変化してほかったかな』
「えと、お、驚かないの?」
『うん、犬耳が生えたくらいじゃピーコのモブ臭は消せないよー』
脱力したクーの言葉に一瞬暗くなっていたピーコの顔は明るいものに変化する。姿が変わっても自分を受け入れてくれた事が彼女はとても嬉しかったらしく、しっぽをちらりと見ると猛烈な勢いで左右に振っていた。
「……ありがとね、クーちゃん」
『どういたしましてー。あ』
ピーコがお礼を言ったあと画面に映るカバンからなにか白い餅のようなものが這い出て、クーは慌ててそれをカバンの中に押し込む。すると、
『もいー』
その得体のしれない餅はうめき声のようなものを上げてカバンの中に戻っていく。
『さて、なんの話してたんだっけ?』
クーは無理やり仕切りなおそうとするが俺は苦笑しながら言った。
「またなにか妙なものを連れてきたのか? 怒らないから見せてみろ」
『あー、うん。まあ』
クーは少し悩んでからその白い餅を取り出す。
バレーボールほどのサイズのそれは巨大な大福のような一頭身ボディにつぶらな目と口が付いていて、なんとも愛くるしい生き物だが生物図鑑にはおそらく載っていない生命体だろう。
「なにこれかわいい!」
『もちぃ』
ピーコはそのファンシーな姿に黄色い声を上げ、クーはペットが褒められた事が嬉しいらしく微笑みながらその白い餅の身体(頭?)をもにゅもにゅと撫でまわした。
『名前はもちぞう。変なものじゃないからさ、飼っていいよね? クーちゃん、お兄ちゃんがいなくて一人で寂しいんだよ』
「……とりあえず害はなさそうだし構わないぞ。だがバレないようにな」
『やった! 大好き、お兄ちゃん!』
お得意のぶりっ子な目で懇願するクーに俺はそう言うと彼女はとても嬉しそうにそう言った。
もちぞうという謎の生命体は悪意があるようには見えない。魔物の類だとしてもRPGの序盤に出てくる最弱のスライムのような存在だろう。
「お前が妙なものを連れてくるのは初めてじゃないからな」
クーはいわゆる霊感体質でありそういうものが見える人間だ。今現在それで危険な事にはなった事はないが、人間同様幽霊もすべてが無害であるわけでもないだろうし出来れば気を付けて欲しいとは思っている。
「こういうオバケだったらいいんだけどね」
ピーコもその事を知っている。ある日公園でクーが俺たちには見えない友達と遊んでいるのを見た日には恐怖で号泣していたものだがさすがにもちぞうには恐怖を抱かないらしい。
いや、もちぞうがオバケかはわからないしもしかするとゾンビの亜種かもしれないが、襲うつもりならすぐに襲っているだろう。
それに彼女の言うとおりもちぞうはクーの孤独を癒してくれる。真理恵さんには気の毒だが確執がある以上はどうする事も出来ないだろう。ならばなにも言うまい。
『ところで動画で見たけどそっちはみんな女子なの? お兄ちゃんハーレムだね』
「男が一人混じってるけどな」
『マジで!? お兄ちゃん男の娘にも手を出してたんだ!』
ここまで話すといい加減気付いてくる。クーが、俺かピーコかで会話する時のテンションが違う事に。彼女はピーコなど眼中にないのだ。
俺はその事を寂しく感じつつもクーと談笑し続け、ピーコはすぐに会話の輪からはじき出される。だが彼女は負けじと仲良くしようと気合を入れていた。
「銀二先輩だね。トオル君の数少ない男友達で結構仲いいよ。本当にただの友達なの、って声があるくらいには」
『なぬ? 詳しく』
クーはその話題に食いついてピーコは不敵な笑みを浮かべた。どうやら俺をダシに会話を広げようとしているらしい。だが二人がまた仲良くなれるならいくらだってこの身を捧げるさ。
……………。
それから、ピーコは俺の事を中心にある事ない事を話した。俺とほかの仲間との関係、ゴンとの世界観を護るための戦いや、マルクスのちくわ事件とか。
気が付けば電池が切れかかるまで電話をしていたようだった。充電する必要があり名残惜しくも話はお開きとなってしまう。
「久しぶりにいっぱいお話ししたね、クーちゃん。けどもうそろそろ電池が切れそうだから」
ピーコが申しわけなさそうに言うとクーはほんの少し、寂しい笑顔をして、
『うん。ピーコ、ごめんね。それとありがとう』
と、言ったのだった。
「クーちゃん? うん、どういたしまして」
その言葉の意味が良く理解出来なかった彼女はとりあえずお礼のお礼をした。この言葉の意味は俺とクーしかわからないだろう。
『それじゃあね、バイバイ。咲桜さんと早く会えるといいね』
「うん、ばいばーい」
『もちぃ』
クーは笑いながら手を振り、もちぞうも体の右上部分を伸ばして手を振るような仕草をする。ピーコも笑顔で手を振って返しビデオ通話は終了した。
「いやー、楽しかったよ。けど最後のってどういう意味だったのかな?」
「あいつは事故から俺以外に心を開いていなかったんだよ。お前も含めてな」
ピーコの問いに俺は正直に答える。打ち解けられた今ならば話してもいいだろう。
「俺からも礼を言うよ、ピーコ。だからまたクーと友達になってくれ」
「無理じゃないかなあ」
ピーコは笑いながらそんな事を言ったあと、
「だって最初からずっと友達だもん」
と、満面の笑みで言ったのだった。




