1-72 練習一回目
少しの休憩ののち俺たちは再び駐車場に勢ぞろいした。全員モンキで調達した動きやすい服に着替え、キャシーが考案した振り付けの確認をしている。
ダンスに参加しない俺もカメラにどう映るのかをシミュレートして、ゾンビが近くにいないか常に確認するという重要な作業をしていた。
「こう、こう、そしてこう! 交互にジャンプするんすよ!」
キャシーが手本を見せるチアダンスは結構激しい動きでそこまで難しい振り付けはないが大変そうだ。みんなはその動きを習得するため食い入るように見つめている。
「これくらいならいける、か?」
ウィークポイントがあるならやはり身体能力の劣るともちゃんか。だが先生も最初は乗り気ではなかったが一生懸命覚えようと努力している。
「いやー、意外と可愛いダンスだね。あたしに似合うかな……振り付けでダブルラリアットとかないの?」
ゴンが思わず照れながらそう呟いてともちゃんが反応する。
「チアダンスで市長の必殺技をするわけないだろう」
しかしそのセリフにゴンが、
「あれ? 胸毛がすごい人じゃないの」
と言って、すかさずマルクスが、
「ショッピングモールでサバイバルをしているジャーナリストではないのか?」
とコメントしみんなが違う、あれだ、とダンスとは関係のない盛り上がりをしている。ちなみにどれも同じゲーム会社の作品だ。
正直ダンスに関して今俺が出来る事は特になにもない。俺に出来るのは無粋なゾンビが来ないよう連中に注意を払う事だけだ。アイドルやミュージシャンの華やかなライブに見向きもせず客席だけを見ている警備員はこんな感じの気持ちなのだろうか。
キャシーはダンスの振り付けを一通りやってとりあえず全員でダンスを踊ってみる事になった。この中では無論彼女が最もダンスのセンスがあるだろうがほかのメンツは果たしてどうなのだろう。
音楽はコードレスのイヤホンから聞こえるようにしているのでゾンビに聞こえる心配はない。俺は聞こえてくる軽快なリズムのアニソンとともに練習風景を眺める。
まず目を引くのは銀二だ。一発目だというのに一瞬で振り付けを覚え見事に踊っている。あいつの身体能力が高いのは知っていたがダンスの素質もあったようだ。
ピーコは少し動きがぎこちない。やはり動画の初投稿という事で緊張もしているのだろう。振り付けもところどころ間違えているが運動に関しては学習能力の高い彼女ならすぐに修正できるだろう。
それ以上に動きが硬いのはマルクスだ。体操服の彼女を見るのは新鮮だがやはり黒マスクをつけている。彼女はカメラを気にしており、その瞳には怯えの感情すら見えそのため本来の動きが出来ないでいた。どうやらとことんカメラが嫌いらしい。
ゴンはまあ、技術的には可もなく不可もなく。しかし笑顔だけは最高のものだ。この絶望的な世界でどうやればこんな顔が出来るのだろう。練習でも全力を出していた彼女は見事にチアダンスの理念に沿っていたと言える。
で、問題外なのはやはりともちゃんだった。この踊りはチアダンスのはずだがお隣の県の名物、どじょう踊りのようになっている。練習すればなんとかなるとは思う……多分。
そして一発目が終わる。結論から言うと動きは合っていない。とはいえ最初だからそんなものだろう。まずは振り付けを覚えるところからだろうな。
「こんな感じかなあ。うう、失敗しちゃった。けど銀二先輩すごいですね」
銀二が苦手なピーコも彼の技術には称賛の声を上げる。
「僕は日舞もかじってるからね。ジャンルは違っても使える技術があってよかったよ。智子先生も見事などじょう踊りでした」
「しばくぞ!」
ドヤ顔が少しウザい銀二も俺と同じ感想を抱いていたらしくともちゃんをいじった。
「ところでキャシー、いつ本番の撮影をするの?」
「締め切りとかはないっすけど長々とやるものでもないっすね。でもこの調子じゃもう少し時間がかかるかも……」
ゴンの質問にキャシーは歯切れの悪い言葉で言った。だがやはり俺に出来る事は……いや、待てよ。ダンスに関してなにも出来ないわけではないな。
俺はそんな彼女たちにこう提案する。
「俺はもう振り付けを覚えたぞ。なんなら手本を見せて練習相手になってもいい」
「え? まじっすか!?」
俺の発言にキャシーはひどく驚いたがともちゃんは少し不審がる。
「本当か? いくらお前でも」
「ならやって見せますよ」
「え」
俺は最初のキャシーの振り付けで挙動のすべてを覚えた。アニソンのダンスを、しかも女性の踊りをするというのは少々キツイものがあるが彼女たちの頑張りに答えるように俺は全力で踊った。
腕を上げろ、足を上げろ! 星になれ!
恥じらいは捨てる。全力で萌え系のアニメのキャラになり切り全力の笑顔で可愛らしく踊るのだッ! 動画を完成させるためにッ!
そしてすべて踊り終えてピーコたちは自然と拍手をしていたのだ。
「す、すごいね! トオル君! こんな事も出来るんだ!」
「ええ、本当、文字通り完コピっす!」
「絵面はかなりきつかったけどね」
「うるせー」
最後の銀二のセリフは余計だったが、おおむね好評だった。
「俺ならゾンビに警戒しながらダンスも出来る。六人全員で俺の手本を見ながらダンスの練習が出来るだろうさ。本番じゃあカメラを回しているから出来ないがな。どうだ?」
「はい、ぜひお願いするっす!」
キャシーの承諾も得たところで、俺は手本を見せるため最初にキャシーが立っていた場所に移動する。しかしマルクスは少し不思議そうに俺に向かって言った。
「だが意外だな。お前がこのような事をするとは」
「俺だってそういう気分にはなるさ」
恥ずかしさがないわけではない。俯瞰してアニソンのダンスを全力で踊っている自分を見ればなんとも言えない馬鹿馬鹿しい気持ちになるだろう。だが彼女たちが頑張っているのだ、俺も一肌脱がねばなるまい。
「ま、なんでもいいけどね。そうだ、折角だし七人で踊ってみる?」
「断る」
ゴンが笑いながらそんな事を言ったがそれだけは勘弁してほしかった。




