9-44 反異形派の調査とパイプ役の西紺屋
しんみりとした空気の中キャシーが先頭になって歩く。やはり無理やり明るく振る舞って。
「えーと、次は反異形派を探ってみましょう。ファイオーっすよ!」
「ああ」
返事をしたのは俺だけだった。特にクーは先ほどからずっと黙り込んだままである。
「むいー」
頭の上でもちぞうは悲しそうに鳴くが彼女はうつむいたままだった。ピーコはたまらず、俺の耳元に口をよせ小声で尋ねた。
「えと、結局どうだったの?」
「謝られた。あと和平に反対なのがよくわかったよ」
「そっか」
そう伝えると彼女は表情を一瞬だけ曇らせるも、すぐに小さく、うん、と頷いた。
「マルクスもフォローしないとな。俺は生存者であると同時に加害者の息子だし」
彼女は今回のルートでは異形の肩を持っていたようだが、それでも全くなにも思っていないわけではないだろう。
「マルちゃんはそんな事、気にしないとは思いますが」
「だとしてもだよ。俺の気が済まない」
しかしそんなやり取りをしているとクーがポツリとつぶやく。
「マル姉に謝るの?」
「え? ああ」
信頼するマルクスの事に彼女は少なからず狼狽えていた。ああは言ったものの謝罪する覚悟はまだできていないらしい。
「マル姉、クーちゃんの事嫌いになったりしないかな」
涙目なクーに、キャシーは笑ってこう言った。
「大丈夫っすよ。だってマルちゃんですから。むしろそういう設定はマルちゃん好みで喜ぶかもしれません」
「不謹慎だぞ、と言いたいがあいつならあり得るな」
俺は思わず苦笑するとピーコもふふ、と優しく笑った。
「ああ、一緒に謝ってやる。だがその前に余計な別件を片付けるぞ」
「うん! でも修二さんとおじさんたちから話を聞いたけど、反異形派って誰に話を聞くの?」
「桃太郎は確定だな。情報の共有をしたいし。だがその前に小波さんにも話を聞いておきたい」
「ああ、あのちょっと変な人?」
ピーコは恋人騒動で荒ぶっていた小波さんの様子を思い出して失笑した。親バカで桃太郎の事になると豹変するからなあ。
「その認識は概ね間違っていないが表情には出すなよ。まあ悪い人じゃない事には違いない。悪い人じゃないんだけどなあ」
「なにか問題でも? 通常攻撃が二回攻撃で全体攻撃とかするんすかね」
「それなりに強いのは確かだが、言わないと駄目か?」
「いえ、わかりますよ」
少し空気が和んだところで、軽く談笑しながらそのまま歩き続ける。
そして反異形派が滞在する旅館にたどり着いたわけだが。
「なんというか異形の人がいるホテルと比べると実に粗末、いや、わびさびが感じられるねー」
「もち」
「これも作戦なんだろうさ」
滞在先の施設で立場の違いを目で見てわからせる。実際反異形派は劣勢だし、戦争の続行が不可能になったため和平の話が出たのだから。
入口まで行くと警備の人間と目が合う。いかつい男性は俺たちを一瞥するとああ、と思い出したような表情をした。
「すみません、小波さんに用事があるんですが入らせてもらう事は出来るでしょうか」
「曽我と倉吉の知り合いだったか。入るのは構わないが小波様が会ってくれるかどうかは知らんぞ」
「それでも構いません」
「まあいい、入りたければ入れ」
そして許諾を得て俺たちは建物内部に侵入する。内装は悪くはないが阿津姫さんのところと比べると一枚も二枚も劣っていた。
ボロくはないが普通の旅館だな。異形派のホテルが高級すぎるのもあるけど。
室内にいる関係者は全員ガタイがいい。人を何人も殺してそうな人相の悪い人間もいて、一目で普通でないのは理解出来た。きっと相当な手練れなのだろう。
「小波さんの部屋はどこかな? くんくん」
「確かこっちだったはずだ」
匂いで探そうとするピーコに、俺はそう告げる。
前の世界の記憶を頼りに室内を歩き俺は小波さんの部屋へと向かった。マップで確認するとちゃんと室内に彼女もいて、ついでに桃太郎と犬飼も座っているようだ。
ふむ、二人もいるか。あいつらと話もしたかったしちょうどいいな。だがもう一人妙な奴がいる。ついでにそいつの警備に二人か。
安物のソファーに座る三人。小波さんと向かい合った位置に座っているのは異形の参謀、西紺屋だ。その背後には陰陽師のようなキツネの異形が二名立っており、彼はクックック、と不敵に笑うと席を立った。
「下がれ、隠れるぞ」
「え、うん」
戸惑うピーコたちを誘導して曲がり角のある場所まで行き、咄嗟に棚の陰に隠れる。
そして気づかれないように様子をうかがうと西紺屋は部下とともに姿を見せた。会合は満足のいくものだったのか終始笑みを浮かべていた。
「あの人って、異形の」
「もち」
「ああ、ナンバー3の参謀だ。見た目どおりかなり腹黒くて計算高い男だから気をつけろ。残酷な作戦を次々と思いつくし西紺屋は最も警戒すべき相手かもしれないな」
小声で会話をし、彼が去ったのを見計らって俺たちは物陰から出る。警戒するがもう奴は戻ってくる事はなかった。




