1-70 本格始動一発目の動画は?
「で、具体的にやりたい事はあるのか」
俺がそう尋ねると彼女は答える。
「はい、もちろん! まずは……踊ってみた動画っす!」
そう。ここまではよかった。だがそのあとのキャシーの発言が俺たちの間に波紋を広げる事になるのだった。
「ああ、いいんじゃないか。踊ってみた動画」
キャシーの案に俺は気のない返事で言った。踊ってみた動画、まあ定番ではあるが悪くはないだろう。
「キャシーちゃんのブレイクダンスはプロ級だからね。前の世界でも視聴回数はたくさん稼げたと思うよ」
学校での戦いでキャシーのダンスを見たピーコは楽しそうに言った。だが、
「あ、ブレイクダンスじゃなくてチアダンスっす。それと私だけじゃなくて六人でやるんすけど」
「「へ?」」
キャシーの発言に全員が一様に間抜けな声を出す。ここにいるのは俺、ピーコ、キャシー、マルクス、ゴン、銀二、ともちゃん、計七人だ。
「俺はもちろん撮影だよな」
真っ先に俺は沈没していく船に最後に残された救命胴衣をひったくるように挙手し一抜けした。
「はい、そのつもりっす。チア男子も悪くはないですけどね」
「待て待て待て」
「正気か、キャシー!?」
抗議の声を上げたのはともちゃん、その次にマルクスだ。自分が踊って動画配信をするとは思ってもいなかったようでひどく慌てているようだった。
「お前私の運動神経知ってるだろ。バキバキに頭脳労働担当なんだよ。私はゲームのヌンチャク振っただけで筋肉痛になるんだよ」
ともちゃんは是が非でも断りたいらしく身体能力の無さをことさらにアピールする。というかどんだけ筋力ないんですか、先生。
「我はカメラに映ると魂を抜かれる。それに前から言っているが人の子に我の顔は醜悪に見えるのだ。顔を映すのは出来ないと言っているだろう」
顔出しNGのマルクスは申しわけなさそうに言っている。別に不細工ではないと思うのだがなあ。
「まあまあ。マルちゃん、みんなやってる事ですから。若いうちに出来る事ってあるっすよね~? すぐ稼げるっすよ?」
「完全に言い回しが繁華街のスカウトマンだが私にはなにもないのか?」
嫌らしい笑みのキャシーにともちゃんはジト目をしながら言う。
「あ、ともちゃんはなんだかんだでやってくれますよね」
「まあ、そうだが」
面倒見がいいともちゃんは即座に陥落したがマルクスはまだ悩んでいるようだった。
「ゴンは聞くまでもないが、ピーコと銀二はどうなんだ?」
俺は残ったメンバーの意志を確認するため話を振る。ピーコは恥ずかしそうに、
「私はやってもいいかなあ、ちょっと恥ずかしいけど。ダンスは中学校の体育祭以来だけど頑張ってみるよ。けどこの耳としっぽはどうしようかな」
と言った。本人がそれでいいなら構わないだろう。彼女の言うとおりその見た目は考える必要がありそうだが。
「むしろちょっと驚きだよ。僕は男だけどチアダンスをしていいのかい?」
「ええ。あ、もちろん女物っすよ」
銀二はキャシーからそう知らされとても嬉しそうな顔をする。彼はどうみても女にしか見えないし、女装して動画を配信するとしても俺にはそこまで関係のない事だ。
ただ、意外な事にゴンは少し悩んでいるように腕を組んでいた。彼女の性格を考えればてっきり二つ返事で了承すると思ったのだが。
「面白そうだからやりたいけど可愛い服とか苦手なんだよね。あたしそういうキャラじゃないし……けどまあやってみるよ!」
だがやはりゴンはすぐに乗り気になりチアダンスを踊る事を了承したようだ。キャシーはその言葉を聞いて満足げな顔をした。
「さて、残るはマルちゃんだけっす。ダメっすかぁ?」
「むう」
キャシーはわざとらしく潤んだ瞳でマルクスに懇願しやれやれとため息をつきながら彼女は言った。
「今回だけだぞ。だが顔出しは無理だからな」
「ありがとうございます! さっすがマルちゃん!」
親友の頼みとあり断り切れずにマルクスは承諾する。これで全員の了承は得たし作業に取り掛かることが出来るだろう。俺は早速発案者のキャシーに質問した。
「で、何をするんだ? というかチアダンスって、どんな曲でどんな踊りをするんだ?」
「ちょっと前に流行ったアニメの最終話で流れたチアダンスです。振り付けはそれに少し手を加えて六人用にすればいいだけなのですぐに出来るでしょう。衣装は私の家にあります。全キャラの複数のサイズをそろえてあるので多分大丈夫っすよ。CDとかも家にあるので一旦自宅に向かう必要がありますが、その間に駐車場の車をどかしてバリケードを作る事も兼ねて練習場所を確保してください」
すらすらとキャシーは意見を述べる。案がすべて向こうにあるのなら俺はなにも言わない。俺は撮影する事は出来るが動画のアイデアを練るのは正直苦手だからな。
「なるほど、バリケードも作れるなら一石二鳥だな。ただ大きめの車が通れるように工夫はしてくれよ。輸送能力の高い車を調達する必要があるからな」
ともちゃんが忘れずに意見をするとキャシーは頷いて席から立ち上がった。
「じゃ、善は急げ、早速行動開始っす!」




