9-39 修二の尾行と意外な一面
デートコースとその警備の計画はともちゃんたちに任せ俺はピーコとキャシー、そしてクーとともにバスを出てある男の下に向かっていた。
「本当によかったのか。多分危険性はないだろうが今から帰っても構わないぞ」
「ううん、大丈夫。ちょっとは怖いけどね」
歩きながらそんな会話をしピーコは気丈に振る舞うが、しっぽが内側に丸まり怖がっているのは明白だった。
「けど本気なの? 修二とまた会うって」
「もちー」
「おススメは出来ないっす。身内が言うのもなんですがあれは危険っすよ」
クーたちも口々に反対意見を述べるが、俺の心は決まっていたんだ。
「あいつが内通者の存在を知らないわけがない。絶対情報は持っているはずだ。一番怪しいのは間違いなくあいつだろう」
「それは同意しますけど」
キャシーは表情を曇らせる。その事は彼女もよくわかっているがラスボスとも言える修二は危険すぎるので、同時に真っ先に情報収集の候補から除外すべき相手なのだ。
「いざとなれば私ともちぞうで!」
「もち!」
「……ゴメン、やっぱ多分無理だと思う」
クーは意気消沈ししょぼんともちぞうを抱きしめた。彼女はかなり強い部類に入るが修二相手では厳しいだろう。
「あの人と対等に渡り合えるのは希典さんくらいっす。どこかにいないもんなんすかねぇ」
キャシーはため息をついてそう言うが彼、もとい彼女は港で釣りをしながら一杯ひっかけている。頼めば協力してくれそうだが……。
「あいつは自制するだけの頭はある。あからさまな敵対行為は出来ないだろう。その時が来るまでは、だが」
俺は修二という人間をよく知っている。彼は仲間である異形にはきちんと筋を通す人間だ。そのメンツを潰すような真似はしないはずだろう。
「けど目をつけられたらやだなあ」
ピーコがそんなおかしな事を言ったので、俺は笑ってこう返事をした。
「とっくの昔に奴にマークされてるよ、俺たちは」
「ピッ」
その言葉に彼女は怯える。だが事実だし仕方がないだろう。
さて、ようやく修二のいる場所にたどり着く。彼は異形が拠点にしているホテルから出てきたばかりで、眠たそうにあくびをし気だるげにどこかに歩いて行ったのだ。
「いました。尾行しますか。気づかれるリスクもありますが」
「ほぼ確実に気づかれるだろうがな」
「でしょうねぇ」
キャシーは苦笑し全員で離れた場所からコソコソと歩いて尾行を開始する。大分離れた場所からつけているが多分これでも修二は気づいているだろう。
「ピ。異形の人と話をしているよ」
そして修二に狼男の異形たちが近づき、親し気に腕を組んだ。
「おう旦那! 良い感じのつくだ煮が出来たんで今度つまみにしてください!」
「おう。また今度飲もうな。戦勝記念の宴で」
「がっはっは、思っていても言うもんじゃねぇよ、そんな事。けど頼んだぜ! 俺たちには修二さんだけが頼りだからな!」
そして異形たちからつくだ煮と酒の小瓶が入ったビニール袋を受け取り、彼は笑顔で手を振って別れその場から離れる。
「つくだ煮っすか。ともちゃんにあとでお土産に持っていきましょうか」
「ああ。もふもふの店で買っておくか」
そんな雑談をしたあと、今度は猫耳の二人の少女と大人の女性が声をかけてくる。
「見回りお疲れ様です、修二さん」
「ああ。今日も美人っすねえ、奥さん」
「あらやだ、こんなオバサンになに言っているの。でも嬉しいわ」
「修二さん、一緒に遊ぼー!」
恐らくあの女性は二人の子供の母親なのだろうか。しかしいい感じのムードである。
「おう、なら早速遊ぶか!」
「わーい!」
彼は笑顔でそう告げ、そのまま親子が同行し修二と出会った公園まで移動する。そこにはほかの異形の子供や普通の子供たちもいて、人種問わず仲良く遊んでいたのだ。
彼は荷物をいったん置くとサッカーを始めた。子供たちは十人がかりで襲い掛かるも修二はまるで物ともせず華麗なドリブルで回避をする。
見たところ技術はプロ並みだ、それも世界の超一流レベルの。きっと彼はその気になればオリンピックのすべての種目で金メダルを取る事が出来るだろう。
しかしそんな事よりも……。
「ピィ、ものすごく仲良しなんだね」
「ええ、めっちゃ慕われてますねぇ」
予期せぬ光景に俺たちは困惑していた。修二の思わぬ一面を見てしまいそのあまりのギャップに理解する事が出来ず苦しんでいたのだ。




