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1-64 終末の百合の花とバレた秘密

 そして、翌日の早朝。


 スタッフルームで同行者と暖房のない中で、身を寄せ合って体を温めるように雑魚寝をし俺たちは眠っていた。


 俺は疲れてはいたが熟睡は出来なかった。ここは家ではない。万が一バリケードが突破されゾンビが襲撃してきたらと思うとピーコを護るためにも常に警戒する必要があるのでやはりどうしても眠りが浅くなる。


「ぐごー、がごごごー」


 ゴンに関しては壮大ないびきをかいて爆睡している。すさまじいメンタルだ。学校を去る際その虚無感から一瞬彼女が消えそうな気がしてしまったがあれは目の錯覚だったようだ。


「むにゃむにゃ……愚かなる人間よ、滅びるがいい……」

(どんな寝言だよ……)


 俺はゴンのすさまじい寝言に心の中でツッコみ、どうにか眠ろうとするが眼が冴えてしまう。


 だが浅い眠りの中、俺は誰かが布団をどかしスタッフルームから出て行く気配を感じた。


 いや、もっと言えば彼女たちは既に起きていた。呼吸が寝息とは違っていたため俺にはすぐにそれがわかったが、俺と同様眠れないだけだと思って特に気に留めていなかったのだ。


 もうすでに夜は明けているが一日の始まりには少し早い時間だ。俺は前日の彼女の様子から少し気になってしまい、同行者を起こさないように気を付けながら起き上がり、そして踏まないように部屋を出たのだった。


 脳内マップを確認しその二人のアイコンを確認する。彼女たちはまっすぐ入り口に向かっているらしい。俺もとりあえずあとを追いかけて声をかけた。


「随分と早い目覚めだが朝練でもあるのか? それとも畑の水やりか?」

「「ッ!」」


 彼女たち――真弓と加奈子は俺の存在に気付きこちらを振り向く。ひどく驚いた様子で俺が無表情で黙っていると不安げな表情に変わっていった。


「出て行くのか?」

「あ、えーと、その」


 俺の問いかけに加奈子はしどろもどろになり二人して黙り込んでしまう。


「別にそれでも構わないがな。ただピーコにはあいさつしたのか?」


 俺としては出て行きたい事情はわからないが、あまり役に立たなさそうな人間が出て行っても別に興味はない。それどころか減った分だけ食い扶持はふえるのでむしろ歓迎するだろう。


 唯一の憂いは俺の脳裏に浮かんだ今にも泣きそうな顔をしたピーコだろうか。友人が突然いなくなれば彼女は間違いなく悲しむだろう。


「私がどうかしたの?」


 俺はもちろん背後から近づく人間、ピーコに気が付いていた。キャスケットの代わりにもこもこしたナイトキャップをかぶり布団を羽織ってちゃんと耳としっぽを隠している。


 幼馴染が普段見せない姿に心の中で草木が芽吹くような感覚がしたが今はその感情を無視しよう。ピーコの表情は少し不安そうで冗談を言っている状況ではなかったからだ。


「出て行くって……聞こえたけど」

「……うん、私、ここにはいられないから」


 俺の問いかけには答えなかった加奈子はピーコには答える。信頼関係の差だろうか。あまり親しくもなければ事情も知らない俺が口をはさんでも面倒な事になりそうなので取りあえず様子を見る事にする。


「そうだよ。私たち駆け落ちするの!」

「「え?」」


 真弓の突拍子もない一言にピーコと加奈子は同時に間抜けな声を上げ、直後、顔を赤くして女性陣は全員慌てふためいた。


「ま、真弓ちゃん、なにを!?」

「ここは合わせて……!」


 真弓は動揺する加奈子の耳元で小声でそんなことを囁いた。ピーコには気付かれていないが五感が鋭い俺にはバレバレだった。


「こんな世界になったんだしこれからは自由に生きようかなって。二人で知らないところを旅したいんだ」

「そ、そう、二人っきりで! 私たちすっごくラブラブなの!」


 加奈子はやけくそになって真弓と腕を組む。デジャブというか、類は友を呼ぶというか、ピーコと言いわけのやり口が似ているなあと俺は思っていた。


「そ、そうなんだ、それなら仕方ないね。でも外は危ないよ?」


 ピーコはこんなバレバレの嘘でもごまかされるらしい。突然の告白に顔を赤くしていたがなんともピュアなハートの持ち主である。そういうところは彼女のいいところでもあるのだが。真弓はどうにかして論破しようとさらに畳みかける。


「愛の力があればゾンビだってなんとかなるさ!」


 ならねぇよ。


「で、でも、いちゃいちゃしてるカップルはゾンビに襲われやすいっていう大学の研究結果があるってウィキ〇ディアに書いてあったよ!」


 ピーコ、それは誤情報だ。ゾンビマニアでは常識だが大学はそんな研究をしていない。もっとネットリテラシーを持て。


「ええい、こうなったら!」

「え?」


 真弓は何を考えたのか、突如として加奈子を抱き寄せその唇にキスをしてその場の時間が停止する。そして何秒か経過し唇を離すとまずは加奈子が赤面して叫んだ。


「まま真弓ちゃんッ!? 何するのッ!?」

「ピッピッピッピッピ……ピーーーーーッ!」


 ピーコは心電図のモニターのようなタイプの悲鳴を上げ完全に混乱していた。彼女の悲鳴は様々なバリエーションがあるが今回はレアなものだ。しかし悲鳴をコンプリートしても別にトロフィーは手に入らない。


「呼び止めないでくだせぇ、早くどかないと私は加奈子ちゃんにもっとすっごい卑猥なことをしちゃうぜぇ、ワイルドになっちゃうぜぇッ!」

「ワイルドなネタとは違って実際は病弱なあいつの真似をしているとするなら古いぞ」

「ダメだよ真弓ちゃんッ! け、けど真弓ちゃんなら……」


 突破方法にしては苦しすぎる。真弓はこういうコメディ要素の強いキャラだったようだ。


 というか恥ずかしそうだが加奈子もまんざらではなさそうなので友情以上の感情を抱いているのは事実なのかもしれない。


 俺としては前述のとおり去ってくれても構わないのでピーコと加奈子、どちらを説得するか悩んでいたが、俺がなにかしらの行動をする前にピーコは俺の手を引きちぎらんばかりの勢いで引っ張った。


「邪魔しちゃダメだし早く行こうッ! このままじゃ百合の花が咲き乱れて花がぽとりと落ちちゃうよッ!」

「わかったからそんなに引っ張るなッ!」


 そういうシーンになにやら妙なイメージを持っているピーコは真っ赤な顔をして、俺の右手首を掴み引っ張ると俺の足は宙に浮いてたなびく布のようになってしまう。


 そして最後、店の入り口からいそいそと外に出て行った彼女たちを確認して俺たちはスタッフルームに戻ったのだった。



「そうか、真弓と加奈子が」


 俺は目を覚ましたともちゃんに二人が出て行った事を告げた。彼女は少し寂しそうにパイプ椅子に座り足をプラプラとさせる。


「無理強いは出来ないが……自殺行為だな。まあなんだかんだで二人ともサバイバル能力はあるし大丈夫か?」

「すみません、一応引き留めたんですが」


 難しい顔をするともちゃん先生に俺は心をこめず形だけの謝罪をした。


「いや、いいさ。彼女たちには安全よりも優先する事があったんだろう。私はその相談をするに値しない教師だったって事だ。信頼されていない私が悪い……しかしまた減ったなあ」

「そういうわけでは」


 あくまでも自分が悪いと責め子供のようにしょんぼりするともちゃんに俺はどう言葉をかけていいか迷っていた。


 教え子が次々といなくなり精神的に参っているのだろう。俺は心の底からそれをどうでもいいと思っているため適切なフォローの言葉が見つからない。


 だが、気まずい空気の中隣の部屋から賑やかな声が聞こえてくる。


「ふふふ、よいではないか、よいではないか」

「ふにゃあ、ダメだよ~」


 ゴンとピーコがイチャイチャしている声が聞こえる。何をしているかわからないが真弓と加奈子がいなくなって落ち込むピーコを元気にしてくれるなら多少のおイタは別にいいだろう。


「女同士で愛し合ってるとか言ってましたけどまあ多分嘘でしょう」

「どうだろうな? ちょっと仲が良すぎるところはあったぞ。それに実際そうだとしても別にとやかく言うもんじゃないだろう。友情であれ愛情であれあの二人はお互いをかけがえのない存在と認識しているからな」


 教え子の話をしてともちゃんの顔はちょっとだけ明るくなる。二人のあのような仲が良すぎるやり取りを俺の知らないところで見てきたのだろうか。


「ここの穴はどうなってるのかなぁ? ほれほれ」

「うう、変な感じがするよぉ。指入れないでぇ」

「ほれ、じゃあ今度はこっち。コスコスコスコス~」

「うにぃぃい。ら、らめぇ~」

「……………」


 エロ親父のようなゴンの声に恍惚の声を上げるピーコ。そういうのではなく多分ただの誤解を招く表現をしているだけなのは間違いないが流石にこれ以上は聞くに堪えれず部屋に乗り込むことにした。


 そして、部屋で繰り広げられていた光景を見て俺は驚愕する。


「あ、トオル君……私、弄ばれちゃったよ~」


 カーペット代わりの布団の上にちょこんと座る泣きそうな顔のピーコに俺はため息をついていった。


「だがその前に言う事があるだろう」

「……うん、ごめんなさい」


 ピーコは苦笑しながら謝罪するがその犬耳としっぽを露出した姿を見て大体察しが付く。


 多分ゴンが犬耳としっぽに触って遊んでいたのだろう。部屋には銀二もいたが彼女たちのやり取りには特に興味がなさそうにしてミニサイズのペットボトルのミルクティーを飲んでいた。


 銀二はペットボトルから口を話すと不敵な笑みで、


「しばらく見ない間に一花も随分と個性的な見た目になったね。君の趣味かな」


 と、軽いジョークを言った。


「俺は別にケモナーじゃないぞ」

「ありゃ。トオルはほぼ人間とかじゃなくてガチケモが好き?」


 ゴンはピーコのしっぽを嫌らしくさすりながらそう言う。ピーコは少し嫌がっていたがその冗談を真に受けて言った。


「そ、そうなの? 私、もうちょっと犬成分濃くしたほうがいいかな?」

「だから違う。というかむやみやたらとその姿をさらすのは控えろよ」

「うう、ごめんなさい」


 これで二度目だ。彼女のためにも絶対に言っておかなければならない。ゴンも銀二も信頼は出来るが、異形の姿をした人間をよく思わない人間がいる以上安易に姿を晒すことは迫害の原因になる。俺は厳しい口調で言うと彼女は叱られた子犬のように縮こまってしまった。


「なんの騒ぎだ、って」

「あ」


 そして俺がしかりつけている最中ともちゃんが現れピーコの姿は全員に晒す事になったのだった。先生は少し驚いた様子だったが見ただけで大体の事情を察してくれて、


「あー、だから似合わない帽子とコートをかぶってたのか」


 とだけ言った。先生は受け入れてくれると踏んでいたが予想どおりだった。その優しさに感謝しながら俺は困惑した笑みを浮かべるのだった。

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