1-62 ゾンビの死体はどこに?
特徴的なモンペン君の看板が目について、モンキに近付いてくると俺は奇妙な光景を目にする。それが非常に気にはなったが取りあえず車を駐車場に止めた。続けてマイクロバスも駐車場に入りともちゃんたちが降りてくる。
「ない」
「何がだ?」
ともちゃんは俺にそう尋ね、前日からモンキにいたキャシー、ピーコ、マルクスも気が付いた。
「ふむ、なんとも面妖な……亡者はどこに行ったのだ?」
駐車場の前の道路に朝には確かにあった、前日の夜に築いたゾンビの屍の山が確かに消えていた。あまり想像したくないが復活してしまってどこかに行ったのだろうか。まさか店内に侵入したという事はないだろうが……。
バリケードもしているし大丈夫とは思いつつも一応念のためマップで確認する。だが店の周囲にゾンビの気配はない。俺が考え込んでいるとともちゃんが答えを提示してくれる。
「あー、もしかしてゾンビの死体がないのか? あいつら倒したらいつの間にか消えてるんだよ。ゲームの魔物の死体みたいに」
「そうなんですか?」
ともちゃんは同様の経験をしていたようだ。ゾンビに関するまた新たな事実を知ってしまい俺は考察をしようとするがゴンが口をはさんでくる。
「ねーねー、早くお店に入ろうよ。寒いし」
「それもそうだな」
つくづくゾンビとは物理法則を無視した連中だ。一体どこに消えたというのだろうか。氷のように溶けてなくなったわけでもあるまいし。
しかし、考えるにしてもゾンビがうろつく危険な屋外に長々といる理由もない。俺は彼女に同意し仲間と店内に入っていくのだった。
学校での死闘を終え、ようやく落ち着く事が出来る。
だが人数が増えたので少々手狭になってきた気がする。スタッフルームだけでなく店内でも寝泊まりするのであれば問題はないがそのあたりも考える必要があるだろう。
「やっぱり我が家は落ち着きますねー。今日はもう働きたくないっす」
キャシーは両腕を上に伸ばし、んー、と軽くストレッチをする。
「我が家ではなかろうが疲れたのは同意見だ。とびきり甘い朝専用コーヒーでも飲むとするかね」
俺は入り口のすぐ右手に陳列してあった赤色の缶コーヒーを掴むとプルタブをプシュッ、と開け味わう事なくグビグビと飲み干す。砂漠で干からびた体が水を求めるようにこの身体はコーヒーを求め、カフェインと糖分が俺の心身を癒してくれる。
「トオルはその前に着替えたほうがいいんじゃないかな。返り血ですごい事になってるからすごく臭いよ」
銀二は嫌な笑みを浮かべると手をこちらに振って臭いを跳ねのけるような仕草をする。彼は誇張して言っているのだろうが衛生面を考えると着替えたほうがいいだろう。
「欲を言えば風呂とか入りたいが流石にないよなあ。断水で停電じゃ」
ともちゃんは店内に入ると疲れたような顔をして言った。
ドタバタしていて俺は完全に失念していた。風呂は必ずしも必要ではないだろうが疲労回復にも衛生的にもやっぱりあったほうがいいはずだ。もちろんすぐには無理だろうが頭の片隅にとどめておこう。
「話はあとにしてくれ。我もさすがに疲れた。それにもうこの世界にちくわはない……」
「ちくわ、ですか?」
アンニュイな表情をしたマルクスの言葉に妙な単語が含まれていたため、加奈子は思わず彼女に尋ねる。
「ああ、ちくわは、」
「長くなるからやめてくれ」
とにかく今は休みたかった。俺はマルクスの言葉を遮ってスタッフルームに装備品や荷物を部屋へと置きにいったのだった。
俺は店内の衣料品売り場から適当に動きやすい服を見繕いスタッフルームに戻ろうとすると、部屋の中からなにやら楽しげな声が聞こえてきた。
「でも、一花ちゃんが無事でよかったよー」
ちょっとバカっぽい明るい声が特徴的な真弓の声だ。
「うん、友達とはほとんど連絡つかなくて心細かったんだ」
おしとやかな声は加奈子の声だろうか。どうやらピーコと話をしているらしい。
「心配してくれてありがとね。2人は学校で会えたの?」
知り合いと再会出来てピーコは嬉しそうな声だった。
「そだよー。とりあえず学校に行ったらゾンビばっかりだったけどともちゃんが助けてくれて。しばらくして加奈子ちゃんも学校に来てね。ほかにも何人か避難してきた生徒もいたけど私たちだけになっちゃったからさ……」
「大変だったんだね。けどもう大丈夫だよ。トオル君は頭いいし、マルちゃんは強いし、みんなすごいんだから」
「うん……」
ただ嬉しそうなピーコとは対照的に加奈子の声はどこか沈んでいた。その理由はあえて考えなくてもわかる。こんな世界が滅んでしまった状況なのだから。失ったのは家族か、日常か、それとも別のなにかか。だが別に詳しく知る必要もないだろう。
部屋に入って感動の再会を邪魔するのも悪いだろう。俺はその場を離れ店内に向かった。




