8-9 神夜原について
尾道御調の町をあとにし、自転車を返却後俺たちはバスに揺られて隣の神夜原市に向かっていた。
時空の歪みはこの町のどこかにある。反応を示すアイコンの範囲は広く、市内をすっぽりと覆っているが地道に探していくしかないだろう。
「けど神夜原かあ。朝のドラマで有名だよね」
ピーコは一般的に知られている情報を思い出す。その言葉にともちゃんは強く反応した。
「ああ。神夜原はウィスキーの発祥の地だ! いいものがあるといいな~」
なんというか相変わらずで、俺は思わず苦笑してしまう。
「ともちゃんはぶれないっすねぇ。けどここもやっぱりアニメの舞台になってますね」
「うむ。余裕があれば観光をするのもいいかもしれん」
サブカルチャー好きのキャシー・マルクスコンビも結構楽しそうだ。そんな楽しいムードに水を差すように銀二が口を挟む。
「それでどうなんだい、トオル。ナビ子でもいいけど神夜原にはどんな化け物がいるのさ」
「いや、いたって平和だ。周辺に雑魚ゾンビはいるけど」
「嬉しい事に人工衛星の画像からはそういったものは確認出来ないデス」
それは喜ばしい情報だが、銀二はあからさまにガッカリしていた。
「えー。大型ゾンビも? サイコパスも? なんでもいいけど、なんかないの?」
「ない」
俺は再度断言する。彼には悪いが本当になにもないのだ。
「前の世界でもタイミング次第ではあるが、なにかしらの理由で軍隊が壊滅したあとは平和になるんだ。新廣島市内は別だけどな。お前も今さっきそれを目の当たりにしただろう? 今回は大きな揉め事は多分ない」
「ちぇー」
銀二はひどく落胆する。しかしそんなリアクションをしていたのは彼だけでほかの人間は概ね嬉しそうだ。
「そっかあ、今回は楽出来そうだねー。しんどいの嫌いだし。ねー、もちぞうも肉体労働は嫌だよね」
「もち」
「うんうん、平和なのが一番だよ。美味しいものは食べれるかな?」
ピーコが食事に言及すると食いしん坊な神様がにゅふふ、とだらしない笑みをした。
「タケノコやタコが特産品として有名じゃのう。酒と肴を入手して一杯やるぞ!」
「ああ、もちろんだ! まずはウィスキーを手に入れないとな!」
「その時はワタシも混ぜてくださいね!」
やんややんやと盛り上がる中、ゴンは笑いながら、
「まーあんまりはしゃぎすぎるとフラグになっちゃうけどねー」
と、そんな事を言ったため銀二が即座に食いついた。
「ゴン、君だけが頼りだ。フラグでもなんでもいいから君の力で凶悪なゾンビを呼び寄せてくれないかい? ヒバゴンとかさー」
「あたしは疫病神か!?」
「違うのかい?」
「自覚がないわけではない!」
彼はゴンといつものようにじゃれ合い少しは機嫌が直ったようだ。俺たちもそれがおかしく、思わずクスクスと笑みをこぼしてしまった。
彼には悪いが今回は危険な事はなにもない。のんびり気楽に探すとしよう。
けどなー、やっぱりこういう事言うとフラグになっちゃうんだよなー。ま、そんなのはいつもの事だけどさ。




