7-19 度重なる災禍に見舞われた熊本
案内された部屋には工具が置かれており、中央に錆びた金属製のテーブルがあるくらいしか会議室の要素はない。
いや、これはテーブルというよりも台だな。きっと以前は物置として使われていたのだろう。
俺たちは簡単に自己紹介を済ませ、道中のいきさつを話したあと彼らの話を聞く事にした。
「私は委員のゼンだヨ。そしてこのちっこいのが湯前ネ」
「ちっこいって言わないでください、気にしてるんですから」
ゼンさんにそんな紹介をされた湯前さんはちょっと怒った仕草をする。
「えと、湯前です。以前は市役所に勤めていました」
「ちなみに僕は商工会の役員をしていたよ」
「私は予想がつくと思うけど中国からの難民だヨ、ハハハ」
最後にゼンさんから少しショッキングな告白をされたが予想はしていたので驚く事はなかった。俺にいたっては別の世界で会っているし。
「ほかにも委員はいるけどまずは都合のつく僕たちが対応しよう。助けてもらってすぐで厚かましいけど物資についてだね」
相良さんの表情は切羽詰まっていて表面上は穏やかに取り繕っていたものの見るからに余裕がなさそうだ。俺は振り向き、仲間の様子をうかがう。
「ええ。俺の独断で言いましたが、みんなそれでいいよな?」
「うん、私はもちろんいいけど」
「ん」
「っす」
「あたしもいいよー」
「もち」
仲間は深く考えずに肯定する。正直俺たちは余裕があるしだれも反対はしなかった。その反応を見て、相良さんたちはひどく嬉しそうな顔になった。
「本当に助かるよ! みんなの様子を見てわかると思うけどこの避難所はかなり厳しい状況でね。市街地は軍隊が残した危険なロボットがいて物資を取りに行けないから、離れた場所まで調達部隊を派遣するしか方法がないんだよ」
「……以前は市街地で暮らしていたのか?」
マルクスがそう聞くと、湯前さんは言いにくそうに目をそらす。
「え、ええ。以前私たちは軍隊の庇護下にありました。しかし神在の騒動のあと彼らの大部分はこの町から撤退しました。残った人は私たちをまだ護ってくれますが一部は周辺で略奪行為をしています。調達班の人が何人も彼らに殺されているんですよ」
「うぐ」
その事実は少しばかり耳が痛い。軍隊がそうなった原因を作ったのは紛れもなく俺たちなのだ。キャシーは思わず視線を背ける。
「いえ、気にしなくていいですよ。正直以前の軍隊も庇護とは名ばかりの独裁国家のような日々したから。その点に関してここの避難所であなたたちを恨んでいる人はいないと思いますよ」
「あ、はい。でももしかすると私たちの事を?」
「お前らは有名人だヨ。軍隊様相手にあれだけ好き放題してたらそりゃあネ。もちろん私も感謝してるヨ。ま、そのへんにいる野良の軍隊は恨んでいるだろうけどネ」
ゼンさんにそんな優しい言葉をかけられ緊張が少しだけほぐれる。これでようやくちゃんと話せるな。
「軍隊の圧政は各地で禍根を残している。特に影響力が強かった九州と沖縄はひどい。このコミュニティでも元軍隊、中国からの難民、民間人で対立していてね。けど実際に刃傷沙汰にはなってないからマシさ。沖縄なんかは今内戦状態にあるそうだよ」
「ゾンビもので恐ろしいのは人間だね。本当になにやってんのかなー」
「もちー」
「ああ、全くだ」
ともちゃんは軽くため息をつく。そして気が付いた事を質問した。
「そういえばさっきの薬は呼吸器系の薬でしたね。こんなところにいたら肺をやられるでしょうけど。それにだいぶ外壁も劣化している。あの時代のコンクリートの技術じゃいつ崩落してもおかしくない。ここは住むには危険な場所ですよ」
「わかっています。けど僕たちにはほかに行く場所がないんですよ。ここが一番安全なんです」
重々しくそう言った相良さんの言葉に全員が黙り込む。なんの力も持たない彼らに選択肢はないのだ。
「震災から頑張って復興したのに豪雨災害があって極めつけにゾンビ……みんな疲れ切ってしまったんです。これ以上戦う事なんて出来ませんよ」
熊本は近年何度も災害に見舞われていた。希望を抱き、そのたびに絶望し。そんな彼らにどのような言葉をかければいいのだろうか。
「事情はわかりました。まずは物資を運びましょう。そっちからも人手を貸してください」
「ああ、わかったよ」
誰にもそれはわからなかった。今の俺たちにはそれくらいしか出来ない。悩むよりも前に行動するだけだ。




