1-48 ギャグ担当のゴンとの出会い。そしてシリアス路線終了のお知らせ。
同じ3階、渡り廊下からすぐ近くの中央の校舎に侵入し3年生の教室が並ぶエリアに移動した。俺はマップで生存者の位置を確認すると右側の3年3組の教室にいるようだ。
すぐに救助に向かいたかったが廊下の両サイドにもその教室の前にもゾンビがたむろしている。まずは安全を確保しなければならない。数は三十前後……少し骨が折れそうだ。連中は俺たちに気が付くとやはり数匹のゾンビは走って向かってくる。
気のせいだろうか、やはり走るゾンビとの遭遇率が増している気がする。単に分母が、ゾンビが多いからそう感じるだけかもしれないが……。
「ぞ、ゾンビがいっぱいいるよ?」
「落ち着け真弓。戦いが不得手な貴様は下がっていろ」
マルクスは意外にも不安そうな真弓を気遣う言葉をかけた。マルクスとキャシーは互いに目を合わせると左側の廊下に向かい、阿吽の呼吸で連携を取ってゾンビを撃破していく。
同じ初対面でも俺は出会って早々ケンカを吹っ掛けられたのだが。やはりあれはキャシーを護るために必死になっていただけでこれが本来の彼女なのだろう。
「僕たちも負けていられないね、トオル」
「俺は本来頭脳労働担当だから楽させてほしいんだがな」
楽しそうな銀二とは対照的に俺は気乗りせず、そんな無気力な事を言うとピーコがハンマーを構えておどおどとした様子で言った。
「うん、わかった、私、頑張るね。トオル君に楽させるから」
「前言撤回だ、死ぬ気で働こう」
俺の見事な掌返しにともちゃん先生は呆れた様子で、
「現金なやつだなあ。まあいいや、私の得物はお前らと比べて火力がないから当てにするなよ」
と言ってネイルガンを構える。先生のモノクルがピロリロという電子音とともに光り戦闘モードに入ったようだ。
「誰が一番ゾンビを殺せるか競争しないかい? 一花、君もそれなりに戦えるみたいだし頑張りなよ」
「私……やっぱり銀二先輩の事苦手です」
銀二はクスリと笑いそんな提案をする。同じ高校の生徒を殺す行為を躊躇するどころか楽しむ様子の彼にピーコは嫌悪の感情を隠せないでいた。
澄州銀二という人間は紛れもなくサイコパスだ。元の世界で生き続けていれば間違いなく抑圧された感情が暴走し大きな事件を起こしていたに違いない。
だが彼の狂気はゾンビハザードの状況下においてこの上ない強みになる。こちらに危害を加えなければ頼もしい仲間だろう。友人にはしたくないが。
いや、それは俺も同じかと自嘲する。俺は各々戦闘を開始した仲間を尻目に教室に侵入し生存者との合流を優先する事にした。
しかし先ほどから生存者の反応は微動だにしていない。負傷して動けないのだろうか。ともかくどういう状況か確認せねばなるまい。
「ははは、斬るのって楽しいね! 僕の刀も血がたくさん吸えて喜んでるよ!」
「……ッ」
「堪えろ、一花」
同行した銀二が中心となりゾンビを撃破していく。汚物を見るような目で彼を睨むピーコをともちゃんはたしなめていた。
彼は一応俺の友人であるためピーコも最低限の敬意を払っている。しかしゾンビハザードがなければ殺人鬼になっていたであろう狂気の塊の彼に対して苦手意識を持ってしまったようだ。
うまく連携出来るといいのだが。俺はそう思いながら彼らがゾンビを引き付けている間にわきをすり抜け、教室のドアを勢いよく開けて滑り込んだ。
血まみれの教室の中は椅子や机がそこかしこに散乱して倒れている。マップで確認済みだが教室の中にはゾンビはいなかった。しかし見渡すが生存者もいない。確かに反応があるはずなのに。
いや、反応がある場所に清掃用具を入れるロッカーが横倒しで転がっていた。
俺は取りあえずそれをげし、と蹴ってみる。
「おわあ!?」
案の定中からひどく驚いた様子の声が聞こえる。声の高さからすると若い少女のようだがロッカーの中に隠れていたらしい。おそらく襲撃で散り散りになった生徒の一人だろう。
ロッカーはそれなりに頑丈だし一時的なら身を隠す場所としては悪くない。とはいえ音を出せば気付かれるだろうし、集団で襲われれば一溜まりもないのであくまでも一時的には、だが。
「そこにいたのか」
「お、誰かは知らないけどちょっと開けてくれない? 扉が歪んで出られなくなっちゃって、ああ、早くね!」
ゾンビに囲まれているというのに割と明るい話し方だった。彼女は相当強靭なメンタルな持ち主のようだ。
「へいへい、サクッと行くぞ」
「おお、サンクス!」
俺はやる気のない声で言うとロッカーの中から嬉しそうな声が聞こえる。俺の持つバールはゾンビを倒すのではなく本来はこういう事が専門の道具だ。雑魚ゾンビごときにマルクスたちが後れを取るとも思えないがさっさと助けて加勢しよう。
「せーの!」
俺はバールの突起部分を隙間に入れ力を込めてこじ開けようとする。しかし力を入れてもなかなか開かない。
「は、早くしてね。実はさっきから漏れそうなんだ。おっきいほうが」
「そうか」
慌てていた理由はそれだったらしい。女の子がおっきいのが漏れるとか言うもんじゃないと思いつつ俺はちまちまと扉を開けようとする。
「ねー、早くしてよ! 安心したと思ったらなんか尻が喜んできたの! あ、ヤバい、ねえまだ!?」
どうやら結構切羽詰まっているようで女子生徒の声に焦りが混じる。しかし彼女には悪いが漏らすかどうかは命よりも重要な事柄ではない。
……………。
一方、そのころ廊下では透の仲間がゾンビ相手に奮戦していた。敵は数こそ多いもののそれほど強くないので真弓を護ることに集中さえすれば問題のない任務だった。付け加えるなら位置的に左の廊下、右の廊下、階段、渡り廊下と、四方向に敵がいるのでそこが少し難点とはいえる。
「うぅう」
案の定下の階から走るゾンビの増援が現れる。数は十体もいないが彼らは一目散に無防備な真弓目掛けて歩み寄る。しかも都合の悪い事にそのうちの一体は走るゾンビだった。
「ひゃあッ!」
「真弓ちゃん!」
真弓は自身の危機に恐怖で悲鳴を上げ、一花はすぐに友人の危機に気が付く。ゾンビは今にも彼女に襲い掛かろうとしているが5メートルほど離れているのですぐには助けられない。一花はとっさに自身の持つハンマーを投げた。
ハンマーは回転し見事にゾンビの頭部に命中、撃破に成功する。だが増援はなおも真弓を狙ってくる。
「くそ、トオルはまだか!」
「いつまで時間かかっているんだよ、トオル」
智子と銀二も応戦するが数の多さに少し苦戦している。ただその間に真弓はどうにか一花のいる場所に逃げることに成功した。とはいっても周囲はゾンビだらけで決して安全ではないが。
「い、一花ちゃん! ありがとう、けど……」
「このままじゃ……」
真弓は一花に感謝の言葉を述べるが危機が去ったわけではない。武器は今投げたので手元にはない。こんな時いつも助けてくれる幼馴染ならどうするだろうか。
一花はパニックになりながらも考えある結論に至る。武器なんてそのあたりにある。モン・キダーデで彼がマルクスと戦った時のように周囲にあるもの全てを武器にすればいいのだ。
彼女はすぐに教室に向かった。




