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3-79 荒木修二の襲撃

 ズドン――。


「ほいヘッドキル」


 慣れた手つきで俺は引き金を引き居酒屋の店員らしき男性のゾンビにヘッドスナイプを決める。何度も一撃で撃破するとマイクさんたちも驚かなくなってしまった。


 俺たちは商業地区を中心に散策していた。時折遠くで銃声が聞こえるのでほかのチームも交戦中なのだろう。人もいないしまるで紛争地帯だ。


 ここも以前の世界では活気があったのだろう。稲子とはあまり縁はないが、ゴーストタウンとなった町を眺めるのはどうにも物悲しい気持ちになってしまう。


 なお外のゾンビは前述した人工衛星で大体位置を把握しているらしい。タイムラグはあるが大きな群れは先ほどのゾンビたちだけだったらしく比較的楽な消化試合だった。


 さすがに建物内部のゾンビは把握出来ないようだがそういうのは基本的に中に入らなければ交戦する事はない。しかも俺には索敵機能がある。隠れる建物の多い市街地では人工衛星よりも俺のほうが能力は上だろう。


 マップを確認すると建物の屋内外にちらほらとゾンビがいるのがわかる。だがいずれも雑魚ゾンビばかりだし問題ない。


 行く先の右手には居酒屋がある。店の看板にカバのようなオッサンの顔が描かれているその店は山陰を中心に展開する居酒屋のチェーン店だ。美味しい地元の海産物が食べれる人気の居酒屋だがもう新鮮な魚は食べれないだろうな。


 今食べれる魚はほとんど缶詰だ。いい加減、濃すぎる味付けにも飽きてきた。


 あー、そろそろサーモンの刺身が食べたい。鳥取のご当地ブランドのサーモンは濃厚な脂がのってしょうゆをかけるだけで最高なんだよ。


 海鮮丼も食いてぇな……ねっとりと旨味が下に絡みつく甘いイカや、とろける食感のモサエビを、ホカホカのごはんと勢い良く掻き込んで。


「暇すぎてあくびが出るゼ」

「油断大敵デスヨ、ボブ」

「平和なのはいい事だけどネ」


 しかし余裕ムードが漂っていると俺はこちらに近づくアイコンに気が付いた。しかも場所は陸上ではなく空だ。もしかすると……。


「北側から飛行型の変異ゾンビが来ます、気を付けてください」

「オーケイ!」


 マイクさんは陽気に返事をし気合を入れて空に銃口を向ける。そしてそこには黒い集団、十数匹の蝙蝠男ゾンビの群れがあった。


「全員変異ゾンビかよ! ちぃとばかし厄介だナ!」

「オウ、これは狙撃しがいがありますネ! トオルだけに手柄はとらせませんヨ! いい加減私も活躍しませんとネ!」


 そして戦闘態勢に入ろうとしたその時居酒屋のアイコンが動くのを確認する。ゾンビ、いや違う、これは人間だ。


 だとすれば生存者……いや、それも違う! 奴が今持っているものは……!


「建物の陰に隠れてくださいッ! 銃で狙われてます!」

「なんデスって!?」


 俺の警告を聞いた彼らは即座に条件反射で建物の陰に隠れた。直後、


 ズガガガガッ!


 居酒屋に隠れていた人間は窓から発砲し、空気の振動で体が震えるほどの連続する銃声が聞こえた!


 これはサブマシンガンやアサルトライフルのような銃ではない。銃声が止み、少し遅れてカランカランと地面に薬莢が落ちる音がしたあと、慎重に相手の様子をうかがう。


 割れたガラスの向こう側にいた男は、凶悪なガトリングガンを構えていたのだ。


 彼は俺と目が合い、ニヤリと笑う。俺はすぐに物陰に隠れた。


 一瞬見た様子では相手は20代前半くらいの若い男で、派手な眼鏡をしたチンピラ風の男だった。服装は金色の蛇のような柄のシャツを着ており一目見ただけでカタギではないとわかる。


 俺たちを襲った理由はわからないがアオンの暴徒同様この終末ライフをエンジョイしているヒャッハーさんだろう。不意打ちでいきなり銃を撃つような相手だし殺しても問題ないはずだ。


「あんな化け物みたいな銃、どこで調達したんだか」


 俺はそう呟くが敵は彼だけではない。蝙蝠男ゾンビの群れはこちらに近づいて来てすぐに銃撃戦が始まった。


 本来ならば先制攻撃で数を減らす予定だったのに少しばかりピンチである。おまけにチンピラも銃で狙ってくるので射線上に立たないように動かなければならない。


 んで、蝙蝠男ゾンビは上空でこちらを囲むように飛翔していた。狙いにくいったらありゃしない。訂正しよう、かなりピンチである。


「ホーリーシット! これはピンチデス!」

「畜生、ちょこまかと! チャン、トオル、頼む!」

「オーイエー!」

「了解です!」


 ここは狙撃するのが得意なチャンさんと俺の出番だ。彼は急降下した蝙蝠男ゾンビの腹部にライフルの一撃を浴びせ一撃で仕留めた。ヘッドスナイプでなくても彼の銃はかなり強力なので胴体に当たっただけでも十分効果はある。


 俺も負けじと銃を発砲し蝙蝠男ゾンビを撃墜していく。だがチンピラ眼鏡はなおも銃を乱射してくるので自由に動けない。ああもう、本当に鬱陶しい。


「俺たちよりもいい銃もってやがるナ、クソッたれ!」

「俺があいつのところに行きます! この場を頼めますか!?」

「ええ、グッドラックデス!」


 マイクさんは親指を立ててサインを送ると、それを合図に俺は居酒屋に直行した。


 銃弾は当然俺目掛けて発砲されるが、全速力で走れば十分避けれる。


 俺は即座にドアに体当たりし、床を転がって店内に侵入、すぐに5メートルほど先にいるチンピラ眼鏡に発砲しようとすると、


「おわあああッ! 撃つな!」


 怯えた様子の彼はガトリングガンから手を離し両手を挙げたのだ。巨大な銃はガシャンと大きな音を立てて落下し危険性は一切無くなった。


「いきなり銃を撃ってきた割りにはやけに素直なんだな。撃つなと言われてもこちらには助ける理由も殺す理由もないが」


 淡々と俺はそう述べたが怯えた彼の口元が一瞬笑ったのを見逃さなかった。こいつはなにか作戦があるらしい。彼は俺を油断させるために丸腰になった、それだけだ。


 無抵抗の人間を殺すと前の世界では軍人でも警察でも問題になった事だろう。しかし今はそんな事を気にする必要はない。ましてやいきなり命を狙ったやつなんて生かす理由なんて一切ないんだ。


「そうだな、助けてくれたら俺のケツを好きにしていいぜ」

「お前のケツは俺の好みじゃない」


 へらへら笑いながら言った彼に俺はそう冷たく言い放った。


「その言い方だと好みのケツはあるのか?」

「言葉のあやだ」


 これは冗談のやり取りではない。彼はずっと隙を窺っているのだ。反撃の一手を打つための……。


 銃を向けられ絶体絶命の状況なのに彼は一切恐怖していなかった。奴の心拍数が、呼吸の音が、それを物語っている。


(マイクさんたちは)


 ただ、俺はほんの一瞬隙を見せてしまった。外の様子を確認しようとほんの数コンマ秒、視線を外に向けた瞬間、


「そうか。俺は美味しそうならどっちでもいけるぜ?」

「ッ!?」


 彼はその一瞬で間合いを詰め、俺の目の前に存在していたのだ!


 まったく計算が出来なかった。俺の高速の演算処理を上回るほど奴はとてつもなく素早い動きをしたのだ。


 ふわり。視界が急速に乱れ、ガシャンとカービン銃が落ちる音がした。俺はなにかをする前に奴に押し倒されたのだ。


 そして――理解する間もなく左側の首筋に猛烈な痛みが走った!


「があああッ!?」


 俺は彼に噛みつかれていた事にようやく気が付き、悶絶する痛みの中じたばたと抵抗し無我夢中で殴りつけるがまるで彼に効果はない。


 こいつはゾンビなのか!? 噛みつかれてしまったら……死んでしまうッ!

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