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3-6 ゴンの芸人魂・リベンジ

 さて、そういうわけで俺はカメラを持ってスタンバっていた。


「キャシーと!」

「ピーコの!」

「「終末クッキング~!」」


 みょんみょんぱふぱふー!


 どこからともなく出てきた効果音はナビ子のものだ。こんな能力まであるとは……編集で効果音をつけるのも俺の仕事なのに。やっぱりこいつは俺のライバルだ。


 唐突だが料理動画を撮影する事になり、俺が抱えたカメラの目の前にはテーブルと熱湯入りの鍋が乗っていたカセットコンロ、そして終末の世界でも手に入る米や缶詰といった質素な食材が並んでいる。


 なお今回は都合により便利なパックのごはんではない。終末の世界での米の炊き方をレクチャーするためで災害時でも可能な炊き方だそうだ。


「ってカメラ回ってるんだよね! あわわ、どうしよう、いきなりだから心の準備をしてないよ!」

「緊張しなくていいっすよ! 黙々と料理を作ってちょっとだけ喋ってくれれば自分が解説するので! 料理番組なんて大体そんな感じっす!」

「怒られそうなセリフだなぁ」


 俺はカメラマン兼ツッコミだ。腹をすかせたほかのメンツはする事もなく俺の背後で様子をうかがっていた。


「いきなり始まったね。まあ美味しいものが食べれればなんでもいいんだけどさ」

「ええはい、ゲーム動画とかばっかじゃマンネリ化しますのでね」


 外野のゴンと会話をするとはちょっとルール違反な事もしてくれる。しかしぐだぐだなのはいつもの事だしピーコの勇姿を撮影するとしよう。


「えーと、まず熱に耐性のある袋にお米、水、缶詰の焼き鳥を入れて煮ます」

「ちなみこのお米は15分くらい水につけておきました。こうすると洗わなくても少しは食べれるようになるっす」


 ピーコは弱火にした熱湯に米と缶から取り出した焼き鳥を混ぜて入れたビニール袋を投入する。この方法は非常時でも可能な米の炊き方だ。


「ちなみに家庭用のポリ袋は多くが熱に弱いのでちゃんと確認しましょう。最後に物を言うのは日ごろの備えです。そして弱火で30分くらい待ちます! そのあとにお鍋から出して15分くらい蒸らして待ってください」

「はいっす!」

「……………」

「……………」


 そして、しばらくの間があって。


「待ちます!」

「はいっす!」

「……………」

「……………」


 このままこんな絵を撮っているわけにもいかない。俺は耐えきれずキャシーに尋ねる。


「完成品は用意してないのか?」

「このご時世にそんな贅沢な事出来るわけないじゃないっすか」

「だろうな。とりあえずピーコ、踊るか?」

「ええ!? なんで!?」


 慌てふためく彼女に俺は絶叫する。


「間、が、持、た、な、い!」

「ピィィ……」

「よし、ここはゴンの出番だな。間を持たせろ!」

「え、また無茶ぶり!?」


 ともちゃんから指示を出されゴンは困惑していたが、俺のカメラは彼女に向けられる。


「いいじゃないか、今回は重い空気じゃない。つなぐのが芸人の仕事だろ」

「そっか……よし、それじゃあ髭ダンの真似するね!」

「髭ダン?」


 それはお隣の年末の歌番組にも出た全国的に知名度のある島根県出身のアーティスト、公式髭ダンスの事だろう。しかし歌を?


 だが彼女はどこからともなくワイングラスを取り出し、


「ルネッサーンス! 騙されとるやないかーい!」


 と、全力で別の髭ダンのネタをしたのだった。


「だろうと思いましたけどねー」


 キャシーは取りあえず愛想笑いをする。うん、このオチはわかっていたよ。


「むむむ、これはダメか。あんなネタではひ〇ちくんって言ってるのに、スタジオ以外では相方をひ〇ちさんって呼ぶ奴は。ちゃんと期待に応えて歌を歌うよ」


 彼女はすぐに覚悟を決め、肘を突き出し、


「右ひじ左ひじ交互に見て、右ひじ左ひじ交互に見て!」


 と、歌いだした。そういえばテレビで最近あの芸人見てないな……ああそっか、あの騒動でやらかして謹慎したんだっけ。


「……………」

「右ひじ左ひじ交互に見て、右ひじ左ひじ交互に見て!」

「……………」

「いや、うん、ほかのにするよ。あんな改名したのにまた戻したコンビは止めて」

「そうか」


 あまりにも冷え切った空気にゴンは仕切りなおす。そして今度は、


「ヒァウィゴー! ナナナナーナナナナー、高〇、Y〇SHI-HASHI、永〇に中出しー! いきなり出てきてゴメーン、誠にスイマメーン!」


 ジ〇イマン……あいつは今どこにいるんだろうか。ド下ネタなオリジナルネタにアレンジしてるし。


「……………」

「ふう、今日は一段と寒いね」


 銀二は自分の身体をさすり失笑する。するとゴンは非常に悔しそうな顔をして言った。


「ジ〇イマンには荷が重かったか……あんなテコ入れのためにラップをデスメタルに変えるというわけわからん事をした芸人じゃ。なら次は子供のイニシャルの刺しゅう入りのパンツを手にした〇太郎のものまねを、」

「なんで今時の女子高生があいつを知ってるんだ。たまに動画で頑張ってるけど。せめて説教をするネタにしろ」


 その元ネタの芸人がわかるのは俺と発言をしたともちゃんだけでほかのメンツはキョトンとしていた。というか俺もお笑いに詳しいな。


「じゃあB〇OMERの伊〇ダンス!」

「放送出来るのにせぇ」


 ゴンは放送事故レベルの変顔でマニアックなダンスのネタをしていたが伏字の意味がないあの大昔の芸人のネタがわかる奴はいるのだろうか。


「ならワカチコを! もしくは右から左へ受け流す!」

「お前のボキャブラリーは一発屋しかないのか」

「ナハナハとか、ガチョーンとか!」

「だからお前年いくつだよ」

「チッチキチー!」

「それは……ちょっと前に再ブレイクしたからセーフだな」


 次から次へと芸人の名前を出すゴンだったが俺はふとある事に思い至る。


「そもそも時間は編集でどうとでもなるな」

「あはは、今気づいたんすか?」

「だよねぇ久世ェッ!! 芸人殺す気かッ!! 兄ちゃんオモロイ事してくれるのう、ワレは何度自分を殺そうとするんじゃボケッ!!」


 漫研部の時同様ゴンは罵声を浴びせるが、俺は冷静に諭してこう言った。


「いや今回は全面的にお前のネタのクオリティが低かっただけだからな。元ネタの芸人さんたちにも謝れよ」

「チキショー! こうなりゃトコトン笑わせてやる! 負けたままで追われるかァ!」

「はぁ」


 俺は適当に返事をしてカメラをゴンに向けたままにする。多分使わないし適当に撮っておこう。

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