表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/1261

2-65 VS異形アトラクネア(久松杏奈)

「ナビ子ちゃん!?」

「全員強敵だ、気をつけろッ!」


 ピーコの悲鳴を掻き消すように俺は大声で注意する。


 左右の四か所の部屋からゴスロリ衣装のゾンビが扉を破壊して襲い掛かってきたのだ。ナビ子を撃墜したのはそのうちの一体、猟銃を持ったゾンビらしい。


 その特異な服装にも驚くが両手にナイフを持ったゾンビ、巨大な斧を持ったゾンビ、今言った猟銃を持ったゾンビ、西洋剣のゾンビと全員が武器ゾンビだった。変異ゾンビほどではないが結構厄介だ。


「うわーん、よくもナビ子ちゃんをー!」

「ナビ子の仇っす!」

「ナビ子のためにもあたしたちは前に進むんだ! ありがとう、あなたの事は忘れないよ!」


 仲間が勝手に盛り上がりバラバラに戦闘する中、ゾンビが現れたドアから壊れたはずのナビ子が現れた。


「勝手に殺さないでください! 残機が減っただけデス!」

「本体はモンキにあるからなー。遠隔操作してるから当然無事だしドローンが壊れただけならいくらでも替えがきくぞ。作り直すのがめんどくさいけど」


 ともちゃんは厄介そうな猟銃ゾンビに向かってサブマシンガンを乱射する。ハチの巣にされた猟銃ゾンビは致命傷を受けてその場にくずれ落ちた。


 そして俺と銀二は杏奈、斧ゾンビはピーコとゴン、ナイフゾンビはキャシーとともちゃん、剣ゾンビはマルクスが対応し戦場は秩序のない乱戦模様となる。


「もう撃っていいよね、撃つけどね!」


 銀二は笑いながら小銃を杏奈に向けて発砲するがその瞬間杏奈は大きく跳躍し、服が破れる音がしたあと身をひるがえして天上に張り付いた。


 彼女の背中からはクモのような細い脚が生えていたのだ。そして俺はゾンビとも人ともつかなかったあの反応の意味をようやく理解して叫んだのだ。


「変異した人間かッ!」


 無抵抗のまま殺された動画の異形の人間や、人畜無害なピーコのおかげで変異した人間が安全と錯覚してしまったがこういうケースもあるだろう。


 変異する人間が普通の人間とは限らないのだ。頭のおかしい人間が変異して特殊能力を身につければ、当然生身の人間よりもはるかに危険な存在になるだろう。


「ええ、私はどういうわけかこんな姿になりましたが自我は保っています。この姿は見た目も戦い方も醜くて嫌なのですがお友達を守るためなら仕方ありませんわねッ!」


 杏奈はそう言って口から糸を吐き出して天井に張り付けたあと、鋭くとがった黒光りする脚を向けて振り子のように身体を揺らし俺目掛けて勢いよく突進する。


「おっと危ねぇな」


 剃刀のように鋭い脚は命中すれば大怪我をするだろう。が、正直大振りなので回避するのはそこまで難しくない。


 ただ、杏奈は回避したあとすぐに天井に戻って張り付き安全圏に逃げる。つまり近接武器では届かない位置にいるのだ。


 あいつを倒すには遠距離攻撃の出来る武器が必須だろう。だが幸いにしてマルクス以外は全員銃を持っている。流れ弾が仲間や人質に当たらないように気をつけさえすればなんとかなるだろう。


「銀二、頼むッ!」

「任せてよ!」


 俺は銀二を信頼し杏奈を攻撃するよう指示する。お互い天井目掛けて銃を連続で発砲し、命中こそするが攻撃がやむことはなかった。


「くっ!」


 だが、杏奈は右肩から出血し苦悶の声を上げていた。一応ダメージはあるらしい。彼女は俺にしか興味がないようだから後回しにして攻撃を回避しながら武器ゾンビの対処を優先する事にした。


「それそれそれッ!」


 ゴンは斧ゾンビに至近距離からショットガンを乱射し大ダメージを与えていく。しかし普通の人間のみならずゾンビでも即死するような一撃を敵は耐えていたのだ。


「ん? まだ生きてたか」


 しかもよく見ると死んだと思った猟銃ゾンビもむくりと身体を持ち上げる。俺は慌てて頭部目掛けてライフルを発砲するとようやく活動を停止した。


「タフなゾンビだな!」

「ええ、私のお友達ですもの! 私がゾンビにしてお友達にした方はほかのゾンビよりも強くなって言う事を聞かせる事が出来るんです!」

「種明かしをどうも!」


 杏奈は再度攻撃を繰り出すが俺は返事をしたあと姿勢を低くして回避する。


 ヒュン――! 風を切る音が聞こえたあと、テーブルのお菓子を乗せたスタンドやカップがガシャンと割れあちこちに散乱し、高級そうなテーブルにはざっくりと切り傷が付いたうえ、床のじゅうたんにも紅茶がこぼれてしまう。


 あーあ、仁風閣を管理する人に怒られるぞ? ここは重要文化財なんだぞ。


 凶悪な見た目だけではなく異能持ちとは。ただ本人が戦う分にはそこまで強い相手ではないようだ。サポート向きの能力といえる。


 SNSで誰これ構わず友人にするような八方美人な人間ではなく彼女が友達を選ぶタイプで本当によかった。そうであったならば強化されたゾンビの数は膨大な数になりかなり苦戦していただろう。


「って、やべ、弾切れ!」

「ゴンちゃん!」


 ショットガンからはカチャカチャと音が鳴りゴンはひどく慌てた。その隙をついて斧ゾンビが得物を上から振り下ろすが、ピーコは即座にバズーカで殴り敵をのけぞらせる。


「なんの、武器がなければそのへんの物を使えばいいじゃない!」


 ゴンはショットガンを投げつけたあと木製の椅子を持ち上げ、めいっぱい力を込め振り下ろし頭を殴りつける!


 ベキッ! 椅子は木が折れる音を立て派手に壊れ、殴られた斧ゾンビはよろめいたあとその場に倒れた。


 一方ナイフを持つゾンビは動きが素早く、壁を三角蹴りしてまるで空を飛んでいるかのような軽やかな身のこなしをしてキャシーに襲い掛かる。


「くそッ! どうにかして離れてくれッ!」


 ともちゃんは悔しそうに攻撃の機会をうかがう。サブマシンガンなら簡単に倒せるかもしれないがこれだけ至近距離で戦っていれば誤射の危険性があるので使用は出来ない。


「ほほう、あなたもそういう戦い方をしますか、ならッ!」


 キャシーはしゃがみ振り下ろされた左腕に蹴りを繰り出して受け止める。そして右腕にも蹴りを浴びせ、身体を旋回させて連続で足技を繰り出し次々と攻撃をいなしていった。


「そぉいッ! お願いしますッ!」


 そして彼女はのけぞり、手で地面を押して飛び跳ね、両足でナイフゾンビの首を絞める。そしてそのまま勢いよく後方にしなり下半身の力だけでナイフゾンビを投げ飛ばした。


「これならッ!」


 ともちゃんは空中の無防備なナイフゾンビに弾幕を浴びせ、まともに攻撃を喰らった敵はドスンと音を立てて落下する。


 ナイフゾンビはピクリとも動かない。無事撃破する事に成功したらしい。


「剣で我に挑むとは笑止千万ッ!」


 マルクスは単独で剣ゾンビと戦っている。彼女はその圧倒的な怪力でただの通常攻撃のゴリ押しをしていたがそれだけで十分だった。


 武器ゾンビは武器を扱える程度の知識はあるがそれだけだ。技術といったものはなく敵は闇雲に剣を振り回すだけだ。言うならば全力のチャンバラである。


 彼女だけでも問題なく倒せるとは思うが俺は杏奈の攻撃を回避しつつ、ライフルで剣ゾンビの頭部をなんなく撃ち抜く。マルクスは少し驚いていたがどこか不満そうに俺を見て言った。


「人の獲物を横取りするな」

「お前がチンタラやってるからだ。さあ、お友達はみんな死んだぞ」

「なんて事を……ッ!」


 杏奈は怒りで声を震わせ天井から俺に攻撃を繰り出す。だからさっきからワンパターンなんだよ!


 このまま俺が倒してもいいがここは活躍していない銀二に任せよう。俺が回避したあと、無防備な蜘蛛女の背中に銀二は笑みを浮かべながら銃弾を撃ち込んだ。


「ああッ!?」

「あはは、やった!」


 杏奈はバランスを崩したため、荷重に耐えきれなくなった蜘蛛の糸が切れテーブルに落下して豪快に破壊しカップやお菓子が滅茶苦茶に音を立てて散乱、お茶会の会場は見るも無残な姿になった。


 しかし、銀二は元々天才肌だが銃の腕前はこの短時間で確かに向上している。この程度まで習熟すれば十分実践でも使えるだろう。


「……えと、倒したの?」


 杏奈が悶絶しながらうめく様子を見て拘束されていた真弓はそう言って安心したような顔になる。まだ死んではいないが戦闘不能になりもうこれで大丈夫だろう。


「で、誰が止めを刺すんだい?」

「……………」


 銀二はニヤニヤしながらそう言うとピーコやゴンは目を背けてしまう。


 目の前にいるのは異形の人間で救いようがないほど狂ってはいるが確かに人間なのだ。意思のないゾンビを殺すのとは意味が違うだろう。


 そういえば人を殺すのはこれが初めてだ。アオンの暴徒も小西谷もゾンビにやられてしまったし。


「俺がやるよ」


 ここは人間らしい感情を持たない俺か銀二がやるべきだろう。弾丸にも余裕があるし。


「トオル君」


 俺は銃口を杏奈に向ける。ピーコは俺の名前を言ったあと目をつぶってしまう。そのおぞましい光景を見ないように。


 だが杏奈は鬼のような形相をしたあとに叫ぶッ!


「……させませんわッ!」

「大量のゾンビが近づいて来てます、気を付けてください!」


 そしてナビ子が大声で警告したあと複数の窓を突き破って多数の犬ゾンビが現れた。だから重要文化財を壊すなよ!


「あ、おいッ!」

「ひゃあああ!?」


 俺たちが驚いてる隙に杏奈はすばやく窓から逃げてしまった。俺はすぐに予定を変更し犬ゾンビと交戦する。


 しかも悲鳴を上げた真弓も椅子ごと転倒していた。よく見るとその際に椅子が壊れ自由に動けるようになったのだが、しかしそれが問題だった。


「もも、もうやだよっ!」

「待て真弓、うかつに動くな!」


 真弓はともちゃんの制止を聞かず恐怖で冷静さを失いドアを開けて部屋から逃げ出す。近くにゾンビもいるというのにかなり危険な行為だ。


「チッ……杏奈を逃がしたくはないがこのゾンビの群れの中身動き出来ない奴を放っておくのもな! ピーコ、キャシー、真弓を頼む!」

「はいっす!」

「う、うん!」


 人質を助けるのは大した労力ではないし助けておこう。俺は舌打ちをして叫んで指示を出し仲間とともに犬ゾンビたちと交戦した。数は多いが侵入経路は窓だけだ。そこに弾を適当にばらまけば簡単に倒せるはずだ。


 真弓に関してもピーコとキャシーをよこしたし多分大丈夫だとは思うが、さっさと倒して合流するとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ