EX-12 海田の初恋その2
そんなこんなでバスには終末だらずチャンネルの面々と、海田と御来屋終末ガールズの面々がいたわけだ。と言っても御来屋の友人たちはさほど興味を示さずもちぞうやがんめんちゃんと遊んでいるけども。
「悪いな、俺のためにいろいろしてくれて」
「まだ特に何もしてないし、礼を言うのはあとにしろ」
俺はどこかぎこちない笑みの海田にそう告げる。なんだか成り行きで海田の恋路を応援する事になってしまったがたまには男同士の友情を育むのもいいだろう。
「まあまあ。前払いでお礼を渡しておくよ。お前コーヒー好きだろ?」
「ん、なんだこれ、ヴァ!?」
だが俺は海田が取り出した紙袋を見て絶句してしまう。みんなは突如として大声をあげた俺に驚くがすぐにいつもの事だと平常心を取り戻した。
「コピ・ルアクだとッ!? お前どこでこのブツをッ!?」
「喫茶店を探索していたら見つけてな。ほら、これって要するにアレから作られるわけだし、みんな飲みたがらなくてさ」
「激しく感謝する! 皆の者、こやつに全力で恩義を返すのだ!」
「と、トオル君? なんかテンションが変だよ」
「いつもの事じゃないかな」
銀二は紅茶を飲みながらこのやり取りを適当に聞き流していた。ただゴンはよくわからなさそうにナビ子に質問する。
「コピ・ルアクって? コーヒーなのはなんとなくわかるけど」
「ジャコウネコにコーヒーチェリーを食べさせて排泄されたフンから回収した豆デス。世界で最も高価なコーヒーで、喫茶店で提供される場合一杯一万円はくだらない超高級品デス」
「ほへー。ウ〇コなのにみんな物好きだね」
まあ大体の人間はそんなリアクションをするだろう。けれど俺からすればそんな事は些細な問題だ。このコーヒーを飲みたくないなんて避難所の連中はなんて愚かなのだろうか。
「それで、アドバイスっつってもそもそもどんな相手なんだ」
ともちゃんは取りあえず海田に聞くと彼は照れながら告げる。
「その人はちょっと前からこのコミュニティにいる旅の人でな。大人の魅力溢れる姉御肌の人でさ、頭脳明晰で機械の修理なんかをしてくれたんだ。けどもうすぐ旅に出るみたいだからその前に告白したくて」
「で、あわよくばヤリたいと」
「もちっ」
クーが意地悪くそう言うともちぞうは顔をポッと赤らめる。無論、海田は慌てて否定した。
「そんなんじゃないって! あくまでもプラトニックだよ!」
「ふーん、まあいいんじゃないの? 適当におしゃれして贈り物でもすればいいんじゃない?」
恋愛アレルギー持ちのゴンはやる気がなさそうだったがそんな提案をする。彼の想いはピュアなため、そこまで嫌悪感は抱いていないようだ。
「おしゃれかあ。海田は不良っぽい見た目だしアウトロー系のファッションにしてみようか。ほい、たつきちゃん!」
「おうよー」
「おお?」
そして御来屋に召喚されどこからともなくたつきが現れると海田はメタモルフォーゼしてしまう。そして次の瞬間にはあら不思議、そこそこ金を持っていそうなヤクザの若衆みたいになったのだ。白いスーツとかどこで入手したのかね。
「贈り物はなにがいいかのう。ともちゃんのお酒でもくれてやるか?」
「嫌だ。断固拒否する!」
がんめんちゃんが車体下部の食糧庫に行こうとするとともちゃんは全力で抵抗する。だが海田はすぐに首を振って言った。
「それはこっちのほうで準備するよ。でも一番の問題はどう告白すればいいかって話でさ」
「ふむ、それが唯一にして最大の難問だな。ただ彼女からすればお前は旅先で出会った若造の一人にすぎない。どう考えても成就する事はないだろうがな」
マルクスはストレートにそう言ったが海田も含めて誰も反論する事はない。実際全員がそう思っているのだから仕方ないだろう。
「さて、トオルさんはどんなアドバイスを送るんデスか?」
「そうは言ってもなあ。俺よりもお前のほうがその女性の事を知っているだろう。俺に出来る事はお前の背中を押してやる事だけだ。お膳立ては出来るけどさ」
「やっぱそうだよなぁ。よし久世、俺を元気いっぱいにしてくれ!」
「ああ、コピ・ルアクも貰ったしな!」
そして俺は海田を全力で応援する事に決める。正確には彼の隣にあるコピ・ルアクの入った紙袋目掛けて俺は声援を送った!
「L・O・V・E、海田! イケイケ海田! スマイル海田! 世紀のイケメン海田! 世界がうらやむ海田! キュートなプリケツ海田! みんなが大好き海田! ヘイ!」
「ウォオオ! なんだかギンギンになったぞ!」
「え、今ので?」
突如キャラ崩壊してチアダンスを踊った俺に、加奈子は困惑していたが俺は気にせず応援を続ける。すべてはコピ・ルアクのために!
「しばらく見ない間に先輩もキャラ崩壊しちゃったねえ」
「この人は会うたびに奇行を繰り広げますわね」
真弓と麗美からも白い目を向けられながらも俺は踊り狂う。そして海田は謎のオーラを発生させ髪の毛を逆立てながら雄叫びをあげた!
「久世! もっとだ! もっと頼むッ! このまま告白の練習だァ!」
「おうよ!」
そして俺は海田のネクタイを引っ張り、決め顔で告げる!
「なあ、俺のモノになれよ。今夜は返さないぜ?」
「キュンキューン!」
海田は俺のイケボによってあっさりと陥落し、それを見ていた加奈子は、
「楽しそうですねー」
と、もう慣れた様子でそう呟いたのだった。




