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15-50 勇気づけられる創造主

 こんなはずでは。顔のない混沌は狂気じみた戦場に混乱していた。


「なんなのです、このふざけた展開は……!」


 自分は混沌を愛する神とはいえこのような混沌は好みではない。残酷劇はあっという間にスラップスティックに変化してしまい、邪神の眷属はふざけた連中にふざけた方法で蹂躙され彼はひどく憤慨していたのだ。


 だが彼はある事に気が付く。混沌はまだ続いていた。


「ッ!」


 突如として空に時空の亀裂が発生し空間が破損する。そしてまるで神が降臨するかのように勇ましい深紅の機神兵が降り立った。


『遅れてすまない、みんな。約束を護りに来たぞ』


 そのコックピットには異世界の英雄であり、修二の友であるスルト・ドラゴネアが搭乗していたのだ。


 彼は炎をまとった剣を振るい機神兵たちを一薙ぎで蹴散らしていく。胸に秘めたる熱い想いは邪なるものを焼き尽くし彼は戦場を駆け抜けた。


 深紅の機神兵の名はベオウルフ。暴力で支配された世界で人々を救った英雄が乗るには相応しい機体だった。


 なぜ異世界に荒木の一族の機神兵があったのか、それについては様々な考察が出来るだろう。けれど顔のない混沌にはそんな事を考えている余裕などなかった。


「皆さん! スルト様のお仲間と世界を絶対に助けますよ!」

「りょーかい!」


 そして彼とともに参戦したフィオリ率いるスルトの仲間たちも、微力ながら助太刀をする。


 たとえ修二たちがこの世界で悪人だとしても彼女たちにとっては間接的に世界を救ってくれた英雄なのだ。もう元の世界に戻れなかったとしてもその恩を返せるのならなんの後悔もなかったのだ。


「スルト・ドラゴネアめ……ッ!」


 顔のない混沌は歯ぎしりをし怒りをあらわにする。そして杖を掲げ本気を出す事に決めた。


「もう怒ったのです。全力でぶち殺すのです!」


 顔のない混沌は意気揚々と前線に向かう。だがその時また妙な気配に気が付いてしまった。


 その体格のいい男は赤い法被を身にまとい、番傘片手に酒をかっくらっていた。見た目は人間ではあるがその風貌は明らかに異質だったのだ。


「今度はなんなの、」


 だが顔のない混沌はくるりと回ってしまう。赤い法被の男に掴みかかられてすぐ、ぐるんと一回転してしまったのだ。


「ですッ!?」


 強力からの鬼殺し。権田原紬がこよなく愛するレスラーの黄金コンボである。最近ではあまり使わなくなってきたがその威力は絶大だ。


「ゴブ、ベベ、ボギョー!?」


 顔のない混沌は必死で抵抗するも裏霞に八海山と一通りの技を決められる。異なる宇宙に存在する混沌の邪神はプロレス技で簡単に撃破されてしまったのだった。



 縁はアメノトリフネのブリッジのモニターから、その一部始終を見つめていた。


「どうして……どうして、みんなこんなに頑張れるの」


 それは世界に絶望してしまった創造主を勇気づけるものだった。彼らは自分たちの手を借りる事無く、未来を手にするために心を一つにして必死で戦っていたのだ。


 ここにたどり着くまで様々な事があったというのに。縁はそれが不思議でならなかったがその戦いにただただ見入ってしまったのだ。


「それが人間だから。人間って結構面白いでしょ?」


 ノアは窮地にもかかわらずむしろこの状況を楽しんでいた。こんなリアクションをしてしまえば当主に小言を言われるかもしれないけれど。


「それで、まだこれでも人間がダメダメだって思うの?」

「……………」


 それは以前なら即答出来た質問だった。信じては裏切られ、希望を抱いては絶望に代わり、時には美しい光景を見る事はあっても、それを凌駕するほどの醜さを彼らは無垢な瞳に見せつけたのだ。それらの真実から人間の本質は悪であると、とっくの昔に結論付けたはずなのに。


 人間はどこまでも弱く、愚かで醜い。永遠にも近い時を生きてきた縁はそれを嫌というほど目にしてきた。彼女の世界でも、この世界でも。


 けれどその考えは揺らぎつつあった。こんな希望溢れる光景を目にしてしまえば誰だってそうなってしまう。


「さ、ここも危なくなるから、早く避難してね?」

「……うん」


 縁はノアに促され時空の歪みの中に消えてしまう。その答えを出すのはせめてこの戦いが終わってからにしよう。そんな事を、思いながら。

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