2-39 アノ! トー! ルー!
「おら、こっち来いよッ!」
「おいおいおい」
ゴンはリングの外に出て俺たちのほうにやってくる。プロレスの定番の場外乱闘が始まる合図だ。
「おおっと、場外乱闘っすか! 場外乱闘にご注意くださーい!」
「あのトオルさんは高確率で、というかほぼ確実にこれをしますからねー」
立ち上がったドーナツちゃんは猛獣のような殺気を漂わせ挑発するゴンに……つまり俺たちのいる場所に突っ込んでくるッ!
「おいおい、こっちに来るぞ!」
「さあ、僕らも巻き込まれないようにしようか」
「なんですのこの野蛮な催し物は!」
「ヒュウ! 楽しいね!」
いそいそとパイプ椅子から立ちあがり巻き込まれないように移動すると、
「そぉいッ!」
「ここでパイプ椅子の一撃っす!」
「あのトオルさんは高確率で、というかほぼ確実にパイプ椅子を武器にしますからね」
ゴンはその椅子を早速凶器に使いドーナツちゃんを殴りつける。ここまで再現しているらしい。だがあまりダメージはないらしく、攻撃を気にせずドーナツちゃんは往復ビンタを連発した。
「ごのぉッ!」
「なんとッ!?」
ドーナツちゃんは振り下ろされたパイプ椅子をビンタで吹き飛ばすとゴンの胸倉をつかみ年末の人のようなバシンッ! といい音がする強力なビンタを繰り出した。いや年末の人はちゃんと手加減はしているんだけど。
彼女はよろめいたゴンを持ち上げると椅子のあった場所にパワーボムを繰り出す! そして俺たちが座っていた粗末なパイプ椅子は一瞬にして破壊されたッ!
「ぐへぁッ! やるじゃない!」
ゴンは転がりながらすぐに立ち上がり再びリングに戻るとドーナツちゃんもあとを追う。そしてゴンはあろうことかレフェリーの希典さんの後ろに隠れたのだ。
「ちょ、す、ストップ! なにするのよ?」
「こうするの!」
戸惑う希典さんをゴンはドーナツちゃんに突き飛ばす。そして彼女もまた希典さんを受け止めてゴンに向けて吹き飛ばした。
「ちょっと、俺っちレフェリーなんだけどね!?」
「レフェリーらしい事なにもしてないじゃん!」
希典さんの抗議もむなしく彼女たちは突飛ばし合って武器として扱っていた。だが彼もなんだかんだでちょっぴり楽しそうだった。
「レフェリーも大変っすねぇ。こういう事があるので」
「特にあのトオルさんの試合では高確率で、というかほぼ確実にレフェリーの方が巻き込まれますからねー」
「もういいよあのトオルさんのネタは!」
だが激しい動作を繰り返したためか二人はともにバテているらしい。そろそろ試合も終わる事だろうか。
「そろそろ決めるよッ!」
「のおッ!?」
「ごぶッ!?」
ゴンは希典さんを突き飛ばしてドーナツちゃんにぶつけると間合いを詰めてドーナツちゃんに掴みかかる。この技はまさか……ッ!
「いくよ、鳥取名物……強力ッ!」
それは鳥取の酒が名前の由来となったあのトオルの必殺技で、持ち上げた相手を旋回させながらマットに叩きつける技だ。
「おおっと、大技が出ましたッ! これで決まるんすかッ!?」
「ちなみに余談ですがとあるなろう小説に投稿している作者さんはあのトオルさんのネタを小説で書くにあたって、ラストの技を鳥取に名前が縁はあるけど決め技じゃない強力にするか、あのトオルさんの決め技の鬼殺しか鏡割りにするか二週間ほど悩みまくったそうです!」
ドーナツちゃんの巨体をものともせずゴンはいとも容易く振り回し、岩石が落ちるような音がして彼女はダウンする。そして即座にゴンは彼女を抑え込んだ。
「1、2、3ィッ!」
「3カウント、ゴン選手の勝ちですッ!」
希典さんがカウントをとりどこからともなくカンカンカーンッ! と鐘が鳴る。その結果に満足が行ったらしくゴンは再びあのトオルのポーズをしたんだ。
「ゴン! ダワ! ラー! ゴン! ダワ! ラー! ゴン! ダワ! ラー!」
ああ、ようやくこの寸劇が終わった。俺は脱力しリングの上で倒れるドーナツちゃんを眺めていた。
彼女は息を切らしながらゆっくりと身体を持ち上げると右手を差し出した。ゴンもその意図を理解し手を差し出して固い握手をしたのだ。
「おまえにごぞ、ごのドーナヅはぶざわじい……ぐれてやるよ」
「ふふ、いい試合だったよ」
晴れやかな顔をしたゴンとドーナツちゃんは互いの健闘をたたえ合う。
「ああ、試合が終わり友情が芽生えたようですね! なんて美しい光景なのでしょう」
「プロレスって、いいですね……ッ!」
「ああ。魂と魂がぶつかりあう最高の格闘技だ……ッ!」
キャシーとピーコは涙を流しながらしゃべり続ける。マルクスまでもがもらい泣きしていた。
ねぇなんなの。なんなのこの展開。なんだったのこの時間。この前の松坂や首なしライダーとのシリアスな戦いはなんだったの。
「あばよッ!」
「おうッ!」
ドーナツちゃんはゴンとハイタッチをするとそのまま近くに止めてあったハーレーに乗り爆音とともに去って行ったのだった。
あ、やっぱりハーレーには乗るんだと思いつつ、俺は彼女を見送る。
「……銀二さん。いつもあなた達はこんな日々を過ごしているんですか」
「いつもではないけど大体こんな感じだよ」
麗美はぽけー、とした顔で質問し彼はただただ苦笑する事しか出来なかった。
「実に有意義な無駄な時間を過ごしたな。それじゃあさっさと砂丘の避難所に向かうか」
ともちゃんがそう言って俺もようやく我に返る。そうだ俺たちは今から砂丘の避難所行くところだったのだ。ドーナツをめぐってプロレスをしたかったわけじゃない。
ちなみに余談だがこの試合の模様はだらずチャンネルで配信され過去最高の再生回数を記録したのだった。俺たちが全力で頑張ったチアダンスの動画よりも遥かに多かったその再生回数に少なからずショックを受けたのは言うまでもなかった。




