14-23 もふもふな真実
「さあ、こちらです!」
俺とキャシーはハルニレに案内され自分たちの部屋に向かうと思わずおお、と感嘆の声をあげてしまった。
「なかなかいい部屋っすね」
「ああ」
部屋は和室で大人数でも問題なく入れる。一応二部屋与えられたがこの部屋だけでも十分な広さだ。
「部屋の振り分けどうしますか? 男女で分けるのはちょっと不平等ですかね、人数的に」
「ああ、人間さんは男女で別れる事が多いんでしたっけ」
ハルニレはそんな初歩的な事を初めて知ったようだ。倫理という概念がない動物やゾンビには性差なんて関係ないのだろう。つい最近まで山の中で野生動物として暮らしていたから無知なのも当然かもしれないけど。
「ずっと同じバスで寝泊まりしていて今更だろ。適当でいいんじゃないか」
「それもそうっすね。取りあえず五人五人で」
「ではそのようにしておきますね」
女将にそう言伝をしたあと俺たちは一旦駐車場に停めたバスに戻り荷物を回収する。必要なのは衣服や最低限の娯楽品くらいで十分だな。
それほど量はなかったがちょっとした労働だ。うっすらと汗もかいてしまう。
「これでいいか。細々したものはまた適当に回収するとして俺はひとっ風呂浴びてくるよ。動き回って疲れたからな」
「ええ、どうぞ。自分もあとで行きますか」
俺はその場から離れ大浴場へと進む。
けれど途中、どちらが男風呂かわからず少し迷ってしまう。だが先ほどのハルニレの会話を思い出しそういう区分は存在していないのだという事に思い至った。
ならどっちでもいいのだろうか。まあここにいるのはほとんどが動物ゾンビだし気にしなくても別に問題ないはずだ。
そして脱衣所で服を脱ぎ大浴場へと向かう。浴場はかなり広く、複数の階層に分かれていて移動するのも一苦労だ。
さて、風呂に……ん? んん!?
俺はその時見てはいけないものを見て思わず二度見をしてしまった。
なぜなら脱衣所の棚にもふもふ君の毛皮が綺麗に折りたたまれた状態で置かれていたのだから。俺はペラペラのもふもふ君の顔と目が合い思考がフリーズしてしまった。
「えー……?」
たとえるのならゆるいキャラの着替えのシーンを見てしまった時の様な、そんな気まずさだ。いやたとえになっていないけど。
うん、見なかった事にしよう。
温泉では動物ゾンビがまったりとくつろいでいる。ヤマワロもそうだが冒頭で会話をした狐と狸のゾンビもいた。彼らはマナーを守り、かけ湯もしてちゃんと体を洗ってから風呂に入っている。
しかし一番目に付くのはやはりネズミ君であり、温泉につかったカピバラのように幸せそうな顔をしていた。
「ほけー」
「ちー」
そして俺は見てしまう。ネズミ君の隣にいる謎の美少女を。
彼女の年齢は小学生くらいで、すべすべの肌ともこもこの長く白い髪の毛が特徴的だった。完全に油断しきって寛いでおり俺に気が付く事はない。
「いいゆだなー」
「ちー」
その声はのほほんとしていたが少女のものであり青年のようなもふもふ君のそれではない。だからきっと彼女は何も関係がないはずだ。
よくよく見ると似たような風貌の少女たちが一緒になって並んでいる。クローン人間だと言われればきっと納得してしまうだろう。
一応マップで確認すると彼女たちも一応ゾンビだった。けれど凝視した結果、俺の存在に彼女たちは気付いてしまう。
「きゃー、えっちー」
「せくはらー」
「おんなのてきー」
「じあんやろー」
「ちー!」
彼女たちはそう言ったがからかうような口調で本気で嫌がっているようには見えない。けれどこれ以上はマナー違反だろう。
「あ、いや、すまん!」
俺は逃げるようにその場から去って露天風呂へと向かった。今見たことは俺の胸の中に閉まって忘れよう、うん。
もふもふ君には中の人などいないのだ!




