14-10 支払いのダイスロール
その話を聞いていた進行役のキャシーはまったりと温かいお茶を飲みながらイベントの説明をする。
「ああ、ここでダイスロールのイベントっす。成功すれば無料ですが負けたらペナルティっす。はい、もふもふ君」
「うん、えんぎするねー。おうこらおきゃくさあん、うまいもんくってそれはねーだろ。ここはからだではらってもらうしかねーなー」
「か、身体で!?」
もふもふ君らしからぬダークなセリフにピーコはわざとらしく怖がる。
いや、らしからぬ……大阪編のもふもふ君は臓器を取ろうとしていたし多分ライコに命令されればそういう事をするだろう。演技なのはわかっているけどちょっと怖くてシャレにならないな。
「うん、オカヤマきょうわこくにたくさんいるヌートリアをつかまえて、じちたいのせいどでもらえるしょうれいきんではらってもらうんだー。ほかくすればいっぴきにつき2000フローラもらえるから、すぐにかせげるよー。まずはかんしカメラとはこわなをそろえるとして15まんフローラはらってね」
「そんなにするの!? 奨励金の意味ないって!」
「あ、でんきさくもひつようだね。5まんフローラだよ」
世の中の不条理さにピーピー吠えるピーコに、もふもふ君は冷酷な現実を突きつける。
この壁があるため奨励金で稼ぐのはハードルが高いのだ。会話に出てきたものを準備するだけで二十万の初期費用がかかり、一匹につき二千円ということは、つまり百匹捕まえないと元を取る事が出来ないのだから。
もちろん安いものを用意する事も出来るが当然性能や丈夫さもグレードダウンするのでそこは言わなくてもわかるだろう。単に高いものを押し売りされている可能性もあるけど。
なお箱罠は使用に免許が必要で制度も自治体によってかなり異なるので、もし自分の地域でヌートリアを捕獲したい場合はちゃんと調べる事をオススメします。
「さあ、四の五の言わずにダイスロールっす。失敗すればヌートリアで借金を返すまで帰れませんよ!」
「頑張るのじゃぞ。わらわたちはその間ほかの店に行くからのう」
席を立とうとしたがんめんちゃんだったが、もふもふ君は瞬間移動をして彼女の前に立ちふさがったので彼女は全身をうずめてしまった。
「むぎゅ?」
「なにいってんの、きみたちもだよー? みんなのぶんをよういしてあげるね。ごうけいで100まんフローラになります」
「なんデスと! それでは美味しいものが食べられなくなってしまいます! なんで敵の本拠地の人々の農業を守るために頑張らないといけないのデスか!」
「のうぎょうをまもれずになにがえいゆうだー! のうかさんはすごくがいじゅうにこまってるんだよ! けんかしてるひまがあったらのうぎょうをまもろうよ! せんそうしてもおなかいっぱいにならないんだよ! おなかをすかせているひとをむしして、なにせんそうなんてしてるのさー!」
「あ、はい、それもそうデスね」
もふもふ君は怒りながら意外と深い正論をぶつけたので、ナビ子はぐぅの音も出なかった。
「庶民の生活を守るという意味では英雄っぽいけどな。ものすごく喜んでくれるだろうし」
「そうなんだろうけど、大変そうだなあ」
けれど心優しいピーコですら乗り気ではない。そりゃね、これは冒険ではなくただの労働だからね。こんなの勇者ではなく業者さんがすべき事だからね。
「わかったらダイスロールしてねー。こううんがたかいほどゆうりだよ」
「ちなみにもし失敗してもダイジェストになるのでご安心を。ですがその場合食事イベントは終了します。私はゲストキャラなのでプレイヤーであるトオルさんかピーコさんが振ってください」
「だってさ。俺よりピーコのほうが幸運の値が高いから頼む」
「う、うん! わかったよ!」
美味しいごはんがかかっているためピーコはいつになく気合を入れる。そして皿とサイコロが召喚され彼女はダイス判定をする。
「えい!」
掛け声とともにサイコロは投げられコロコロ、と転がるが、
(うげ)
俺の計算だとこの動きだと高確率で数字の1が出て失敗判定になってしまう。けれどその時サイコロを凝視していたナビ子の目が光る!
「目からビィィィム!」
「ッ!?」
それは俺が最初のキャラ作成でイカサマをしようとした時に放たれたビームだ。その結果無事9の値が出てダイスロールは成功した。
「なんかずるをしたようなきがするんだけどぼくのきのせいかなー」
「気のせいデス」
ただ手放しでは喜べない。まだグルメを楽しみたいがためにナビ子は管理者権限を使ってチート行為をしたのだ。
『ほーい、聞こえてるか、キャシー』
「うむむ、どうしましょうか」
無論即刻審議に突入する。荒木コンビは口笛を吹くナビ子に若干呆れながら話し合いを始め俺達はそれを見守る事しか出来なかった。
『ルールブックには反則の規定がないから、ここは神であり法律であるGMの裁量ですべてが決まる。まあまさかGMサイドがやらかすとは思いもよらなかったけどさ』
「どうしましょうか。ここで黙認だと炎上しかねませんし」
「そこは編集しましょう。テレビや動画なんて大体そんなもんデス。T〇Sもフ〇テレビもテレビ〇日も、報道番組もヒ〇ルもラ〇ァエルも池○○もみんなやってる事デス!」
「いやうちはガチ路線なので……」
なんというかこの生々しい会話が一番炎上しそうだ。もうちょっとピー音を増やしたほうが良かったかな?
「仕方ありませんね。ダイスロールは成功としますがここはGMとして毅然としたペナルティをナビ子だけに与えます! もふもふ君!」
「がってんだー」
「デス~!? ご無体な~!」
「ひとのシマでサマァやらかすてめぇがわるいんだこのドサンピンがー」
そしてキャシーの指示でもふもふ君はナビ子を担ぎ上げて店の奥へと消えていった。ルール違反をした彼女が悪いし自業自得ではあるけれど。
でももふもふ君って意外と口が悪いんだな。ペットは飼い主に似るというけれどライコの非情さがうつったのだろうか?
「ナビ子ちゃん、可哀想だね」
「仕方ないさ。炎上する前に火種を消すのも動画を作る側の役割だし」
ピーコは半分心配していたが半分は笑っていた。ペナルティといってもえげつない事はされないだろうけど。
「そんな重い空気で話す内容でもなかろうて。さあ、カキオコを食いに行くのじゃ!」
「ああ、そうだな。あいつの死を無駄にしないためにもカキオコを楽しむとしよう」
「うん! ちょっとズルだけどおかげで判定に成功したわけだし、現実世界でいいものをあげようっと」
「じゃ、行きましょうか!」
数秒後にはみんなナビ子の事を忘れ頭の中はどの店に行くか、それだけになっていた。犠牲になったナビ子には悪いけど俺達だけで食事を楽しむとしようか。




