13-9 かつての友人たちからの拒絶
続いて説得に向かったのは貞山だ。彼女は川辺で小さなカッパのゾンビと戯れキュウリを使い餌付けをしていた。
「キュー」
「あ」
だがカッパのゾンビは警戒心が強く俺たちの気配を感じると川の中に逃げてしまう。貞山はしょんぼりとしつつ俺たちを恨めしそうに眺めていた。
「あなたたちのせいで逃げられてしまいました。しょんぼり」
「ピィ、ゴメンね、ていちゃん」
「別にいいですけど。私になんの用ですか?」
彼女はそこにいるだけで幽霊オーラを漂わせ正直ちょっと怖かった。なんだか呪いのビデオの映像に映っていそうな外見である。
「えーと、野球のメンバーを集めていて」
「あ……そういうのはいいです」
やはり野球という単語を口にした途端彼女は拒絶の態度をとってしまう。これでは先ほどと同じ結果になるのは目に見えていた。
この反応は何なんだ。普段仲良くしていても野球の話題になればなにか腫れ物に触れるようになる彼女たちのこの反応は。
友人であるピーコにすらその答えはわからなかった。なら俺にはわかるはずもない。
「ねぇ、ていちゃん。私のいない間に何があったの?」
彼女はおそるおそるその質問をした。けれど貞山は悲しそうな目をして川の下流にある海を眺めるだけだった。
「『あの日』から、何年も経ちました」
あの日。それはもちろんあの震災の事だろう。彼女たちの心に深い傷を負わせた悲しい日の事だ。
「世界が滅んでくれたおかげでようやく静寂が訪れたんです。穏やかでとても満ち足りた終末が。だからお願いです。それを壊さないでください」
全ての事情を知っているであろう貞山はそう口にした。
全くもって意味不明だが会話の流れから考えると野球をするな、という事だ。その事が理解出来ずピーコはさらに尋ねる。
「ど、どうして野球をしたら駄目なの?」
「知らなくていいですよ、一花さん。久しぶりの里帰りなんですから野球の事は忘れて美味しいものを食べてのんびりしてください。焼きそばとかぼっけ汁とか」
貞山は優しく微笑みピーコを説得しようとする。事情が分からなくてもそれが友を想う愛情だという事は俺にだってわかった。
「……また来るね、ていちゃん」
だからピーコはそう告げるのが精一杯だった。そして泣くのを我慢しその場から足早に立ち去ったので俺は慌てて彼女のあとを追いかけたのだった。




