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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君ごとファンタジー エヴァンタシアの詩  (旧タイトル☆君とGO TO FANTASY)

前半部分を詩文で構成しており、後半部分で詩文内の主人公(詩読のトワ)の物語を紹介していくスタイルの異世界ファンタジー仕立ての作品になっております。


タイトル、「君ごとファンタジー・エヴァンタシアの詩」に決定。



目が覚めれば 

すぐ駆けて行く(その)

君も目覚めて 

そこに居るはずだから

目の覚める様な高い声は

夢枕まで届いたよ



救い求める声なのか 

或は(いざな)う声なのか…



どっちでもいい 

僕の心にはもう君が住んでいるから

僕の身体さえ君から離れなければ 

僕の想いさえ真っ直ぐに 

君へ向いているのなら

互いの間には架け橋など必要もない 

重なり合うほど傍に居るのだから



あの日あの角の向こうから走って来た君と 

ゼロ距離で出会った



ゆうべは眠らずとも夢の最中(さなか) 

ときめく()(もち)が朝の目覚まし遅らせたと

君に(つた)い返す 



水色の空の下 

天然の宝石よりも(まばゆ)く 

たおやかにそっと紅を引いた唇で

悠久の声響かせて普く星たちに

号令をかける様に奥ゆかしく舞う


全力で僕の視界を鮮やかに染めてくれた君


夏が来た 


久遠の棲み処は 

秘密のベールに包まれて


また夏が来た

 

大地のドラムの咆哮が 

大空に撃ち放たれた

何かが変わり何かが芽吹く 

進化の予感の軌跡 

(えが)いてく君


不思議な胸の高鳴りで輝く朝の空を 

彼方より忍者のように駆けて来て 

一瞬で僕の心を射抜いて笑い 

静かに持ち去った君


夏を行く 


少年時代は軌跡のど真ん中を

いつも歩かせてくれた


またこの夏を行く 


戦いのビート周波が 

運命の糸を揺らしてくる

心躍らせ 

内発のエネルギーで今

開花の挑戦の火蓋 

君と切りたくて


未来示す地図も座礁を避ける羅針盤も

僕はまだ持ってない 

君との距離は運任せ 

君との明日は風任せ


見たコトもない(おおとり)が飛び交って 

奇声を上げて雨雲を突き抜ける

そこに土竜が顔を出せば 

叩きたくなる様な穴ボコだらけの

そんな景色の空に早変わり


お天気事件簿もイケメン決め台詞(ゼリフ)集も

僕はまだ持ってない 

気の利いた台詞(せりふ)なにも浮かばない 

青空のご機嫌を損ねた犯人は誰? 

二人の頭上で轟く雷鳴に

「青空が妬いてやがる!」 

草履(ぞうり)を思いきり空に脱ぎ捨てた


身を(かが)め草履取り戻す僕を見て 

君は(おもむろ)に指を(くわ)えた

聞いたコトもない涼やかな指笛のメロディーが 

やまびことなって壁に突き刺さっていく 


思わず僕は遠い記憶に従って 

その壁の裏側へ全速力で回り込もうとした

気持ちは分かると言わんばかりの君の笑い声が

山間(やまあい)に明るくこだまする


夜の帳が下りる頃 

恋のヤキモチ食い逃げ犯が出現か? 

辺りは静かに小雨へと変わった


祭りの夜店は闇に潜んだバイオレンスが街を包み 

陽炎の如き己を鼓舞する 

人の迷惑顧みずの夢見心地の泥酔貴族を(スル)()して

僕は冷たいかき氷の中にチョコバナナを入れて 

たっぷりのシロップ掛けて

「コレが(ツウ)の食べ方だ」

大きく首を横に振る君に自慢げに(うた)う 


苦笑しながらも

「とっても美味しいね」と

一緒に僕の特製の

「猿も木から落ちる」ほど

甘い菓子を頬張ってくれた君


真夏の夜風は決して涼しくはない 

僕の肩に寄り添う君の頬の汗を拭う為に 

僕が仕掛けた

「密着取材の秘術」なのだ! 

そう思いたい年頃なのだ


やがて夢を見る様に

僕は次第に微睡(まどろ)み 

君の肌の感触の心地良さに

身も心も酔いしれていた

月明り見守る中

君の呼ぶ声が遠のいて行くのを感じた…



君が居た

 

つい先程(さっき)まで二人 

夜店の裏通りに隠れる細い川の(ほとり)


僕と居た 


人目を忍んで座り込み

(もた)れ合って見つめ合って 

好きkiss !


どこに居た 


天にも昇る気分で

雲の上か宝の島か 

竜宮城かおとぎの国か


どこへいった 


川のメダカに()いて見た 

(ほとり)のホタルに訊いて見た 

風に舞ったクチナシの花びらにも…     

チョコバナナの可愛い娘を見てないか?

風吹いた? 

嵐来た? 

遠いお山に飛ばされた? 


タンポポの綿毛が風で空に飛んだ様に 

シャボン玉が飛んでこわれて消えた様に 

誰に訊いてもなにも知らないよと

目の前を無情の風がカラカラと吹く

 

この夏一番の君を


神様が!? 

何様が!? 

連れ去った!?

名探偵よ! 

迷宮入りの怪事件だ! 

はーやく来い!


不運な目には数知れずだが 

こんな運命の罠はあんまりだ


上手く行き過ぎの不安な心中を

君に悟られまいと背伸びをしてきた

未熟なヒーローと気長に(たわむ)れ 

寄せては返す波の様な包容力で

いつも包み返してくれた君


忽然と君が居なくなった! 

僕も狙われているのか?


ここはいくら悩もうと悔やもうと

一向に埒が明かない 

探知忍術 持ってない!

こうなりゃ奥の手! 護法の手! 

僕にも出来る術でイチ、モク、散っ!



臨の印 


幼き日 先立つ父母に別れ告げ 

忍びの里の常闇に流れの者とし

引き取らりょ 

里親の兄者に師事して幾年(いくとせ)か 

赤子の世話役 板につき

寺子屋通い 勤め上げ 

商い上手と噂の子 

いつか天下を取るのだと


誰にも見せない約束の涙 

堪え切れない瞳の行方はいずこ…


兵の印 


種族の垣根 

理解険しき人の世が背負う希望砕かんと 

痛く耳に突き刺さりょ

二親(ふたおや)(かんばせ)久しく秋空に浮く 

()()に成るやら成らぬやら

足軽か 鉱山夫の道 選ぶべし

辛かれども 

里抜け出来ぬ運命(さだめ)の子 

親を恋せど 親はなし

「泣いてなんかいないよ!」 

挫けぬ誓いよ 彼岸に届け!


母の形見の女神像 

“いつか蘇生の(ゲート)が開くと” 

彫られた言葉 噛みしめて 


闘の印 


この身に武芸は馴染まなく 

蝶や小鳥に目を向けて

静かに咲く花守りたい


か弱き者は儚きもの! 

罵声と鉄拳浴びせられ 

お花は僕の元を去る


常闇の掟を受けぬ軟弱は 

踏みにじられても助け無し 

男は強く成るしかない

耳元に災厄の美女が降りてきて 

鋭いかぎ爪

僕の喉元引っかいた


「澄ましてんじゃねェ! 

女子に虚仮(こけ)にされても泣くしか能がねェのかよ!」 


者の印 


はっ! 飛んできた! 

雷速(らいそく)で! 平手打ち! 

Oh my God!

闘え! 刀を構えろ! 素早く印を結べ! 

過去は捨てよ! 

己を磨け! 目を背けるんじゃねェ! 臆するでない! 

息を大きく吸い込んで思いきり吐け! 


そして我が草薙の炎を 

お前の悔しさで込み上げる(ドラ)()の咆哮で

見事に(つんざ)いて見せよ!

美女師範の猛稽古が弱虫でいるしかなかった僕を

少しずつ鍛え上げていった


階の印


里全体が常闇の洗礼を良くぞ(くぐ)ったと 

小さな僕を受け入れ始めた

美女師範は常闇の里の試練の戦士


かつて草花を愛し

面白おかしく談笑する種族も居たが

討ち滅ぼされたと聞く 

彼らの育てた植物が時折

有毒物を吐き 

他里に深刻な土壌汚染を(もたら)せたのだとか

ここ()()()の者たちも

毒草の始末をつけなかった()()の民にも非はあると語る


だが()()()の中にも 

最後のピースを失くした様な消化不良のままのジグソーパズルが

心残りとなっている者たちもいた


何も…子供や老人までも根絶やしにする必要があったのだろうかと… 


陣の印 


やがて夏が訪れる 

大地に()()()たちの咆哮が吹き流れると灼熱を呼び起こした

常闇のドラムたちがいつにも増して 

いきり立っていた


再び他里との合戦が近づいている様だ!

相手は風の里のエルフたち 

風を操り風と生きる美しい容姿の種族 

彼らの操る風の威力が 

火と遊び、火と共に暮らすドラムたちのエレメンタルを減少させる


また根絶やしにまで発展するのだろうか… 

もう話し合う余地のない段階だった


完全に竜化すれば伝説上のドラゴン 

火の民から空の覇者へと進化する 

宙でうごめく身体は七色に光り 

豪雨さえ干上がらせる 

その正体を知らぬ者たちは 

縁起の良い兆しの象徴 

虹として崇める


祖先の霊を鎮める送り火も

ドラムの地より世界へ伝来したのだとか 

合掌!


烈の印


天下分け目の戦い? 

初陣に僕は駆り出されていた  

花壇で土いじりをしていたあのモヤシ君がと 

皆に冷やかし受けながら背中を叩かれた

誰かに認められていく

自分が誇らしく思えた初めての感触


この世界には様々な種族の里があり 

どの里にも流れ者は居る 

また忍者は職種である


自然界にあるエレメンタルは里に宿り 

その地に住む者が神託により賜ることもある 


エレメンタル所有者に成る者 成らぬ者

後者なら土とでも花とでも遊んでいても良いが 

僕は所有者だったらしく

折角の才能を無駄にさせまいと 

美女師範が厳しく接して育ててくれたのだ


あれから五年の月日が流れた

僕はもっとみんなに認めて欲しくなり 

先発部隊から一人出し抜けて

皆からはぐれてエルフの里に先行で潜入をしていた


在の印


その涼風の出迎えは新鮮

もぎたての朝の野菜に似ていた


風の里 

森林と澄んだ泉の向こう側 

木々の合間に集落が顔を覗かせている

鼻をくすぐる料理並べて

提灯飾りも見受けられ 

夏祭りの準備のようだ


そっと近づくと目に止まる一本のオレンジの木

オレンジの木には親愛という意味が込められている

蘇る知識に咲く笑顔

幼き日に手にした絵本の中の景色

幸せの1ページ誰と過ごしたのだろう


偵察がてら交流も悪くはない 

集落へ向かう一本道はなでらかで

長めの下り坂 

颯爽と駆け下りた

 

時計回りを外回り 

反時計回りを内回りと言い

忍の僕はコレにこだわる 


世法とは異なる道を行くのが忍

内回りで行けば良いことあると勝手に決める!

次の角を左に曲がったら 

近くの民家へ偶然を装って訪ねようと…


僕は手柄を立てたいんだ…


あの日、

あの角を君は急ぎ足で右方向へ曲がってきた


同じライン上を僕が逆走していた様な罪悪感を覚えながらの

君との衝突だったが 

君が先にお詫びの言葉を向けてくれた…


ぶつかった瞬間、 

君は咄嗟に僕の手を掴んだ 

後方へ転倒しかけた僕の身体を

自分の方へ引き戻すようにして

その胸の中へ倒れ込んだ僕を

しっかり抱き止めてくれた君


オレンジに似た蜜柑(みかん)にも

同様に寛大さや優しさと言う花言葉があったこと

僕は思い出さずにはいられなかった


物心ついた頃から

とても厳しい環境で暮らしていたせいか

初対面でデート! 

手を繋いでウオーク! 

夜景に包まれキッス!


こんなにも優しくて温かい笑みと抱擁は 

幼い頃に死別した母さんの温もり以来だった


あっと言う間に

僕の心は君に奪われたのさ

僕の心は手柄より… 


君を讃える詩を綴りたい気持ちで一杯だ

君の匂い恋しぐれ 

蝉しぐれ 謎しぐれ


冴えない詩だな…     


忍の護法の九字印 

あとは何だっけ… 


結局軟弱 

解決策が得られないまま

十五歳の夜 

道すがら呟く


どうか消えないで 

どうか…瞬いて 

もう一度…

どうか去らないで 

僕を求めてくれた

真実だけは…


どうか消さないで 

君を見失った僕の罪…


どうか笑いにきて 

孤独感に狼狽えるマヌケな僕を…

どうか見舞ってよ 

花束なんて無くていいから


…どうか星たちよ 

あの娘の居場所で瞬いて見せてよ

もう一度…


瞬きを見つけたなら

僕が… 

今日から僕が君を誘いに行くよ!

今日から僕は、(こい)(にん)! 

()()


どこへだって行かせてもらいます 

だけど…願わくは 

平凡な街角のマッチングはイヤなんスよ!

あの日の様に 

とびきりな出会いがしたいんスよ!


押忍! 押忍!


ビフォーも押忍! 

アフターも押忍! 

劇的におなしゃす!



ーーーーーーーーーーー



やがて時は静かに流れた


あの時の君の温もり もう薄れかけて 

僕は…

戸惑っていた


黄昏が惜しみなく 

輝く朝の空を

絵巻のように景色を巻いて 

パっと広げた瞬間

夜空を(ほど)き始め 

(きみ)よ 

速やかに眠れと(ささや)


月夜を見て立ち止まり

時折、気持ちだけが時を渡り 

胸を焦がす

あの日を想い 

初心に帰ろう


枕を抱くと 

夢見の能力(ちから) 

今宵(こよい)限りと

この胸の窓から溢れ出すのさ 

今と昔は

そう! 

繋がれた永久(とわ)友達(フレンド)なのだろう


想い(えが)く絵の具の数は 

君に出会って繰り返した

おはよう! 

の数だけ在るはずさ 

君と僕は

そう! 

惹かれ合う 

永久(とわ)仲間(パーティー)なのだろう


僕らは 

いつの時も未来に向かって歩けば 

いつか落ち合える地図の上にいる


けど運命ってヤツを期待し過ぎちゃいけないぜ 

より良い運命は計画するものだ 

恋愛人のエネルギーを余すところなく活用して設計するものだ

勇ましく格好つけて理想を並べてみても

この寂しい気持ちは消えてはくれない…


やがて孤独になった僕は 

夜にはぐれて 

うつむいた


いつからか胸に居たはずの君の話も聞けず 

心の君とも距離を置いていった

決して切り離せやしないのに 

好きなのは僕の方なのに…


片想いだと思いたくないのが恋心

両想いだと願ってしまうのが男心

恋男は胸を焦がす理由を

埋められない君との距離だと錯覚しがち


ホントの理由はその距離を縮めた先の

展開に自信が無いだけさ

ああ…こんな時、師匠ならどんな言葉をかけてくれるでしょうか?


走れ少年よ! 

土を蹴って

走れ少年よ! 

風に向かって前のめりに

汗をかいてどこまでも

一つ所にとどまるな! 

顔を上げよ! 

雲を追って天に飛べ!

涙を溜めるな! 

星を追って闇を抜けろ!

走って走って 

忘れるんだ!


お前を忍者に育てたのは 

何があっても振り向かず

未来に向かって突き進ませる為だ!


師匠…。

今は立ち止まっている 

それなのにこんなに

脈が早いのは 

君をまだ諦められていないからか…


走るよ! 

もっと風を切って皆が僕を追いたくなるぐらい

輝いて行くために…

忍者に成る時、涙はもう見せないと

師匠と共に走って 

約束の(そら)指さした


寂しさと退屈の二つ名が 異国に渡り 常春の宿をとる


眠れぬ夜が続いて 

青ざめていた僕に

可愛い宿娘(エルフ)(もたら)すよ

癒しの枕は夢見が格別と 

そっと微笑んで 耳元で

御呪(おまじな)いよ」

と子守の唄をくれた


そっと瞼を閉じると 

歌声は耳から心臓に流れ着いたようだ


胸に張り詰めていたのは恋慕の心 

繋がりを失くしたハートの器たち…


風と踊る器 


火と交わる器 


樹を創造する器 


天を貫く器     


地を揺るがす器 


無限に廻る器 


双葉に刻む器…


どんなに孤独だろうと未来求める心があるなら 

その器を繋ぎとめて居られたことでしょう


ここまで来たアナタなら 

それが自分にしかない取り柄(スキル)だと気付くはず…

アナタなら思い出せるはずよ


アナタなら…


可愛い()の声はどうしてこうも胸に染みるのか…


波の様な涙の群れが 

僕の視界(しかい)に纏わりついた


嵐の様な音の群れが 

僕の()(かい)に纏わりついた


(いばら)の鞭で打たれる様な 

不快な感触が僕の肌に纏わりついた


期限切れの万能薬でも 

あった方が気休めになるから

持って来れば良かったかな…


運も尽きた 

ホントに君が僕の女神様なら 

どうかお願いします

伝説の剣でも最強の鎧でもなく 

ただ一度でいいんだ


この退屈な迷宮抜け出す 

とっておきの呪文を聞かせておくれよ…!


僕は開かずの宝箱だ… 

誰かが見つけて開けてくれよと 

ただ願うだけになった


いや僕は道具屋の店の前に 

売るのも面倒くさい旅人が投げ捨てた

期限切れの薬草だ…


「・・・・・・・・・・・・・・」


一体何を言ってるんだ僕は…

栄養不良か 睡眠不足か それともボッチになったのか…


それとも… 


失恋だと認めぬ代わりに

挫けぬ心をバザーにでも出しちまったか…


それでも

あきらめ知らずの旅を支えてきたのは 

信じていればいつかは報われる 

そんな

おすがりの祈りなのさ…



かつて師はこう言った

もしも祈りを要したなら

それは

勢いをつけた勝利の凱歌と成らねばならない!

すがる様な半端な祈りは

魔が競い 返って虚をつかれるものだと


ええ、師匠… 

強い人ならそうできるでしょう…

でも強い人が祈りを欲するのでしょうか…

祈りは無力な人が求めるのでは?

無力な人がそんな前向きな発想できるでしょうか…


どうして自分ばかり苦しいの…

どうして自分ばかり寂しいの…

辛いのはもう沢山だよ!


だけど だけど 

夏が来る度 

期待してしまうんだ

君にまた会えるんじゃないかって!

優柔不断な僕をどうか許して下さいと

祈っているだけさ


その時はもう決してその手を放しはしない 

強くなる為の旅なんだ!

ご都合主義の僕をどうか許して下さいと

祈っているだけさ


誰よりも強くなって絶対君を取り戻したい 

その気持ちは今もある 

まだ挫けてなんかいないよ 僕は…


気が付けば… 

名もなき洞窟の闇の只中


気が付けば… 

名もなき草原の草むしり


誰の声も届かぬ 

寂しい辺境の地


目隠しされたのは 

神様の気まぐれか


手探りの謎解きと 

気まぐれな好奇心だけが 

僕の取り柄なのさ


動けるなら 

動くだけ動き


歩けるなら 

歩けるだけ歩き回るさ


手あたり次第 

お試しが大好きだったはず…


あの日の僕は 

駆け出し忍者で 

早く認められたくて()(ざと)に侵入!


あっさり潜入! 

浮かれてダッシュ!

あの角曲がって 

彼女にドン!


…どんな結果になってもやれるだけ

やってやるさ!


強気で歩き出した途端…

ぬかるみに足を取られ 

おおきな水たまりに落っこちた!


身体の自由は 

地上でも自信がないぐらい鈍ってしまった

ましてや水の中では どうにもならない


挫けた気持ちのままで 

生涯を閉じようとは

夢にも思わず 

手足をバタつかせ

藁をも掴む思いで岸に上がる


このままじゃ終われない

終わりたくもない

終われるはずもないと…


ずぶ濡れになりながら

低い泣き声漏らしながら 

どろりと鼻水垂らしながら

震える指先をすべて泥に突き立てて

獣の様に地に這いつくばって


深く深く 思った



強く強く 願った



答え答え 求めた



かつて僕は問いかけた

それは救いの声か? 

誘いの声か? 

今なら少し分かる気がする…


どっちも必要だったんだ!

どうでも良くなかったんだ!


君は 

僕の心に住んでいたけど…

正直 

今は僕が救いを求めるよ! 

もう君が心の何処に居るのか分からなくてね


もしかしたら…

君も迷っているんじゃないかと

だってお互い散り散りになったから


あの日の童心のままなら 

二人の位置示す 

不思議な地図は手の中に

あったかも知れない


こんなこと考えたこともなかったから

見えなくなっちゃうなんて事… 

今更だけど…


地図は見当たらないけど 

それよりも 

思い出してきたんだ


君と僕が 

出会い頭にぶつかった事で 

出会いの記念にフレンド申請

君の方から誘ってくれたことを!


だけど…

その時からずっと挨拶だけになっていき 

やがて…


ああ! 

僕は誘われるのは得意なんだけど… 

(それ得意とは言わへんぞ)


ああ! 

僕はお断りするのも得意なんですが… 

(逃げちゃだめだ)


あ! 

あんまり期待されるのも 

(それでいいのか)


い! 

注目されるのも 

その…出る杭は打たれると昔の人は言いましたし


(う!はだめ! 逃げちゃだめだ)

えーん! えーん! 

(こっちから誘うのは超苦手なんだよー!!!)


…何も泣くコトはない 

彼女はあの時 

確かにこう言った


いつも 

アタシの方がお喋りに取られがちなの


でも違うのよ 

アタシに出会う人たちが奇跡的にシャイなだけなのよ


それは 

アタシの宿命かも知れない…


運命の人かなって感じたら

「良かったら、フレンドになって下さい!」

こう言おうと決めていたの


「・・・・・・」


受けてくれるのね 

どうもありがとう! 

これ初めての試みなの


これで 

フレンドとしてアナタとは結ばれたよ!

今は

ただのフレンドと思うかも知れないけど 

これからよ


アタシたちにはたっぷりと時間があるから…


「どうか、この手を放さないで。本気の恋をしたいのなら、にげちゃだめよ!」

「そう、その笑顔。信じているからね」チュッ!


そこまでは確実に思い出したんだ


僕が話下手で 

彼女ばかりに話題を任せるから…


けど 時々思うんだ

どうして僕なんかを選んでくれたのだろう

いや… 

こう思うコトも逃げる内に入るんだろうな


もう逃げてないよ 

あれから一年が経った 

僕も十六歳になった


しかし彼女を探す手掛かりが見つけられないままで

何だか双六のふりだしに戻ったみたいな気分だ


僕らの接点を考えるなら…

僕は常闇の里から出て来た忍者

彼女が居た里は調査では 

風の里…彼女も忍び!? 

え? 忍者エルフ!


あの角で出会い頭に……まさか、な

だってそれなら 

忍び同士だぜ?

ぶつかるなんて出来すぎた出会いじゃね?



走り出した! 

僕は 

あの里のあの角まで 

Non Stop !

確かめずには居られない事を、ふと思い出したんだ!

そして 

たどり着いた!


あの時は 

未熟で気付けなかったが!


確かに角の古い看板に

「飛び出すな! 忍者も急に止まれない!」と

…そう書いてあった


()(ざと)の僕ならいざ知らず 

何故? 

地元の人がそこでスピードを出す?


答えは今ならそう難しくない… 

あっさり侵入出来た理由もそこにあったんだ


シャイな人とばかり出会う? 

無口ってことか…


にげちゃだめと僕に何度言った? 

一度だけだ…


彼女は無論、女性だ

そして、宿命でもあると…。

  

無口は、きっとクチナシの花の暗示だ

確か…彼女が消えたあの川に

クチナシの花びらが風に舞っていた


逃げるなと一度だけ 

一とは不二の暗示だ 僕らはいつまでも繋がっていると

きっと…また会いたいから忘れないでって意味だ

僕は、そう思いたい年頃なのだ


女性と言えば花 

花と言えば花言葉


クチナシの花か… 

僕があの時 

一人前の忍者ならこれくらいの事に気付けたものを…

宿命とは、忍者のさだめ…か 

時代錯誤の古めかしい掟が忍びの世にはあるものだ


女人は一輪の花

蜜を求めて舞い来る蝶が殿方…

たとえ蝶が花より団子でも、

団子の蜜には成らぬもの

影の如く寄り添い、慕うもの。


僕は、リードして欲しい性分なんですけど…


それはさておき、

クチナシには確か伝承があったな


ある日、白い花を好むと言う少女の前に天空より使者が現れ

少女に天空の実を託す

大切に育てて花が咲いたらその実にキスをせよと

少女は一年かけて見事に成し遂げ

再び現れた天空の使者に求婚され「とても幸せ」

になったという…


この誘いに僕が応えることで

彼女を救うことに成功するのだ


伝承通りならクチナシとは僕のコトか 

キスされたからな…


花言葉の一つに「喜びを運ぶ」とある 

それを彼女に捧げれば良いだけだ

どうやって捧げるのか… 

忍びなら当然 口寄せの術を!


僕だってそれくらい 

もう会得しているさ

急に元気になり嬉しくなり 

ふと脳裏に救世主のイメージが沸く 


「待たせて御免! 良ければ、僕と一緒に踊ってくれませんか?」


あの日の君が僕の前に姿を現し 

僕の差し出した手を取って


「とても幸せです」と満面の笑みで踊ってくれている


クチナシは熟しても実が割れないことから『口なし』と呼ばれる

忍びの口もそれに等しく堅いものだ 


君は全てを語らずに去った

僕が謎を解き明かし

君の元へ 


いつ来るか分からないのに 

信じて待ってくれていたのか…


もうこんな謎めいた求愛行動するなんて

フッ、あの娘も僕に一目惚れだった様だな


目が覚めれば すぐ駆けて行く(その)


ソノ 良い名だ! 

大好きだ ソノ…


もう 離れるコトは決してないよ…!


僕も とても幸せだ…


……というハッピーエンドなイメージが沸いた

そんな事を考えている時だった……





永久(トワ)…! 聞こえますか?」 



誰かが僕の名を呼んでいる?



その声は 

母の形見の女神像から聞こえて来た


思わず懐から女神像を取り出して聞き返した



>え? なんで女神様… 喋れるの?



「トワ! 私は女神ではありません アナタの母です

詳しい説明をしている時間がありません」



>か 母さん! 生きていたの?



「ええ、姿を見せる事は叶いませんが、女神像に自らを封印したのです

生きてアナタに伝える事があったからです

とても大事なことです よく聞くのです!」



>はい 母さん



「大事な話に入る前に 先ずはあのエルフのお嬢さんを

救い出さねばなりません」



>ソノのこと?



「ええ その通りです」


「そしてエルフの娘がどこに消えたか、

アナタはその経緯を知らなければなりません」



「トワ…よく聞くのです。私たちは()()という一族で

風邪などの病気に掛かると毒を体から出す為に、熱を出し倒れます。

体外に出た毒は同種族ならさほど支障を来たしませんが、

他種族にはかなり害毒となるのです。」



「雨などに打たれると、アナタは忽ち体調に異変を来たし、

毒物を撒き散らした事でしょう。私は傍で見ていましたから…」



>ユグ族って言えば、確か…



「アナタがエルフの里で娘さんに心を射止められてからの事です…」

「アナタは気持ちが高揚し、無意識レベルで

常闇の属性である灼熱を呼び集めてしまったのです」



 ボクそんな悪いことした覚えないよ ママうそはいけません

>それってもしかして、大空を撃ち抜いたドラムの咆哮なのですか?



「ええ、その通りです。ようやく気付いたのですね!」



「雨が降る仕組みは知っていますね?太陽の熱が海や川の水分を水蒸気に変え、上空へのぼると雲になり重くなれば雨降りです。

あの後、急速に天気が悪くなりましたね。

…あの灼熱が招いたことなのです」



 でも でもお天気は夜に良くなったよ ママ

>ガーン! 青空のご機嫌を損ねたのは僕だったんだ…



「その現象を素早く打ち消すには大きな風力があれば良いのです。雲はガスですから。遠くへやる為に」



 はあ!? 大風なんて吹いてなかったよ ママうそはいけません

>まさか!? あの娘の仕業だと言うの?!



「ええ、その通りです。彼女も風の民なのですよ。大気の乱れを読み、恐らくは…アナタとのひとときを邪魔されたくない気持ちからのようです」



 ヤキモチの食い逃げ犯は君だったのか! お気に入りに登録しときます

>あの時、彼女が指笛を吹いたのは その為だったのか!



「でも結局、アナタは冷たい氷菓子を口にしてしまった。いえ、氷自体は問題ではなく、甘いものを大量に摂取したせいでアナタは体調に異変を起こしたのです。

糖分の取り過ぎは私たちの体を腐らせてしまうのです」


「微睡んだアナタは体内の毒素を吐き出し始めたのです」



 そんなヤダよ! ()()の民って不潔な種族ね もうヤダヤダ

>そ そんな…それじゃ彼女はそのまま あの川にでも落ちて流されたのですか?



「普通ならそうなっていても不思議ではありません。

しかし、そうではないのです。

アナタたちは互いの心を射止め合った仲です。

アナタはまたも無意識レベルで緊急の危険回避のスキルを発動してしまったのです」



 まったく身に覚えのない行動ばかり取っちゃうトホホ種族なこと(泣)

>そ それじゃ…彼女は無事でいるのですね? 良かった

>それで今 一体どこにいるのですか?



「それは私にも分かりません。

ですがアナタは彼女を探し出すスキルを既に身に付けています。

それを使って居場所を特定すれば、アナタが無意識に発動した樹花族(ユグぞく)特有の回避本能が何かを知ることが出来ます」


「私たち樹花族は、世間では花の民と呼ばれて儚い命の様に思われていますが、実はそうではないのです。大いなる使命を持って生きてきました」



 ママ お話が長うございます しくしく

>・・・・・・・・・尋ねておきたい事があります!

>母さんは今 女神像の中に居ます ここに彫られている言葉は真実ですか?




「大事な事によく気付きましたね。アナタに持たせた木彫りの小さな像。

その背中に刻んだ文字の“蘇生の(ゲート)が開く”ですね。

彼女の居所が分かった所でアナタの毒素で弱り切っているだろう彼女をどうやって救い出すのか…」


「彼女が残してくれたヒントからクチナシの事を導き出せた事は褒めてあげます。しかし、口寄せの術では彼女に会うことは叶いません」




 お言葉通りなら イヤな予感しかしません もうヤダヤダヤダ

>か 彼女は無傷ではないのですか!?



「彼女の今の状態がどうかと訊かれても、推測の域を出ませんが、恐らくは虫の息でしょう…」



 ・・・・・・・・・ホラね!

>・・・・・・・・・ま まさか本当に蘇生が叶うのですか!?



「ええ、その通りです。」



僕は気が動転しそうだ

 それは堪えた

 

彼女を一刻も早く救出するため

僕がすでに身に付けたと言う

探知スキルを記憶の奥から

隅々まで家探しした



>!! 分かってしまった! あの時の彼女の指笛

 


僕はすでにその答えを導き出していたんだ

彼女は あの後確かに

「気持ちは分かるよ」と笑っていた

つまり そうだと知った上で吹いたんだ


一つの動作で二つもの術を扱うとは!

僕の灼熱をデートの為に退けて その上このスキルを

伝授してくれていたなんて!



「ええ、その通りです」


「そして、忍びの印では他の誰かまでを守り切れないのです。」



「そこにはアナタの耐え忍んできた忍耐力が封じ込められているけど、この世界の忍びの印と言うものは、蓄積された経験を文字と共に巻物や護符に封印し、九字の印でその内容の追体験をその身に現し、守ったり攻めたり逃げたり出来るものだと私は、聞いています」


「トワ…。アナタの護法には、苦しみに立ち向かい勝利を収めたと言う成長の証ではなく、抱いた理想を並べ立てた、か弱い依存症のような術に見受けられます」



「トワ…。アナタはまだ優し過ぎるのです」



「本当に愛しい人をその手で守りたいのなら、弱音を吐かずに突き進むのです」

「いつまでも失った過去を追わずに、新しい友を得るのです!」



 そんな簡単に言わないで! パパとママに戻ってきて欲しいよ…(泣)

>ぼ 僕も変わりたい! あの娘となら絶対変われる! だから…


「そう! 勇気を出して永久(トワ)! 大人の男に成りなさい!」



僕が現実に体験したことは忍びの印で追体験できる。

風のスキルをマネするだけで出来る!


やまびこマーキング探知スキル「ゼロ」

出来の良い彼女の事だ……すでに僕へのマーキングも済ませているのだろう…



 もう、山彦の指笛とかで良いんじゃないかい? ダッサイな…

>さっきから闇の性分が顔出してうるさいな! 弱音のくせに!



()()の印


風使いの宝探しの術 

狙った獲物は逃がさない

笛の()の行き着く先を辿るだけ

君と言う名の…

絶対宝珠!





 闇の性分でも ぼくらの方が断然、ゼロ距離関係者じゃないか!

>ぼ…僕。いや、俺はもう弱虫を卒業すると決めたんだ!




>大人の男に成るんだ! お前なんかどんどん引き離してやるからな!

 

 オトナのオトコってさ…

>ん?

 なんだかオンナオトコみたいな響きだな

>・・・・・それはお前だー! この厨二貴族め!



「あらまあ! トワの心の葛藤は、もう少し続きそうですね…。

でも、アナタならきっと乗り越えられると信じています。

父さまと共に見守っていますから」




――――――――――――――――――――





>か、母さん! これって…「「「再会のマッチング神秘すぎー!」」」



「見つけたのですね! それがユグ族の進化の成せる技です」




>俺は、なんてことを! ソノが俺の腹の中に居るなんて!

 しかも俺、食虫植物みたいに成ったのか!? 外見は人なのに?



>しかし、これは…どこか別の空間に居るみたいに広いな! だが俺には

 分かる。俺の体内だと言うことが。



>幾つもの触手がソノの身体に接続された様に繋がっているのが分かる。

 まるで、細胞で出来た繭のカプセルが彼女の安全を確保している様だ。


>口を割らないクチナシの実がこのような進化を遂げたんだな…


>もう、毒素は抜けたのか、ソノは眠り続けている。ピクリとも動く様子は

 見受けられない…。




()()()という状態ですが、アナタの場合はあれから一年間も、その状態を維持している訳です。私たちには無理な話なのですよ…」



>え? どういう事ですか?



「アナタは、常闇のエレメンタルも内包しているからエネルギー面では私たちをはるかに上回る強靭さがあるのです」


「常闇の里で里親や戦士に鍛えられたおかげで、常闇の火属性も開花したのです。


ユグ族は、木属性になります。二つのエレメンタルをその身に有し、尚且つ風属性のスキルも受けました」



「そこにきて、人を愛する力で猛烈に彼女を守るべく、三つ巴の内発のエネルギーを全力で開放したのです! 


アナタのそれは…ユグドと言うよりも、()()()()()と呼べるでしょう!」



>ユグドラム… なんかヤバそう。その、途轍もない感が…



「ですが、いつまで持つか分かりません。


もしも能力が自然に解除されたら、彼女は吐き出されて、救う手立てはない。

今のアナタ自身が彼女の生命維持装置なのです」



>か、母さん! お願いです、蘇生の方法を教えて下さい!

>俺は、一体何をすれば良いのですか? 何でも致します!!




「トワ…、我が最愛の子。アナタも彼女も救う手立ては、ただ一つだけです」



「私は、アナタの気持ちがここまで固まるのを待っていたのです。

彼女が消えた直後のアナタでは、成し得ないと判断したからです」


「トワ…。いよいよ私が、アナタに伝えたかった大事な話をする時がきた様です。

ですが、一つ二つ確認しておきたい事があります。


ひとつは、トワ…、アナタはドラム族の方たちを恨んでいますか?」



>か、母さん・・・。まさか、そこまでお見通しだったのですか!



「ええ、その通りです」



>恨みたくなる気持ちはありますよ。

 でも俺だって風の里をドラム族が襲撃する事を

 知っていた訳だし…。



「アナタが彼らを恨む気持ちを全て私に打ち明けておいて下さい。

迷いがあると、蘇生の儀式が不完全になってしまいます」



母さんには、不思議な説得力を感じる。



>そうだ、俺がエルフの里へ、一人出し抜けて潜入したあの日の事だ。

 

 俺なんかがいとも簡単に他里に侵入できた理由だ。

 どの里にもスパイの侵入を防ぐ為の結界がいくつもあるものだ。



>しかし、そんなものは一切感じはしなかった。

 それもそのはず…

 ドラムたちは、俺なんかより高速に侵攻していたのだ。

 偵察など不要。

 あれは戦争だと聞いていた。

 

 だが、俺は戦争がどんなものかをまだ知らなかった。



>俺が、ソノに出会ったまさにその瞬間だ。


 ソノは、必死に逃げていたところだったんだ。

 きっと、家族や知人もとっくに皆殺しにされて、

 もう走って避難する以外の選択肢しか無かったんだ。


>…だとしたら、ソノが指笛を吹いたのはデートの為じゃない!


 あの時、見たこともない鳳が奇声を上げて

 雨雲を突き抜けた!


 あれが話に聞いていたドラゴンだったんだと、

 後から知ることとなった。



>ソノは、無邪気な俺がドラゴンの存在に気付いてないのなら

 気付かないままで居られる様に死力を

 尽くしていたのかも知れない…。


 悲痛な顔ひとつ見せずに、

 笑い声までホントに明るかった。



>ここは危ない! と言った慌てた様子も見せないで

 もはやこれまでと、人生最後の時を

 こんな俺と笑って過ごしていたのか…。



>そして、俺がドラム側の者とも知らずに、二人…

 暗がりの細い川の畔で、ホタルのヒカリに導かれ、

 

 好き kiss!



>そんな穢れを知らない彼女を俺は、猛毒で瀕死にさせていたのか…

 無意識とは言え、心が痛む。



>こんな俺に誰かを恨む資格があるんですか? 母さん・・・



「いいえ、アナタはまだ全てを分かってない様です」



>え? 何のことですか?!




「風と火です。

そもそも何故、戦争に発展したのかをよく分かっていない様ですね」



「火と風だけの観点から言えば、どちらが強いとか言い切る事は出来ません…。

大火や強風という威力だけを問うても同じです。


ですが、

風使いたちは様々に風を錬成する術を編み出しています。


例えば、風は土を舞い上げ、土をも操る訳です。大量の土が炎を押しつぶす。

火は酸素が無いと鎮火します。


ドラムの灼熱とはブレスです。つまり息です、それもフウーっと吐く為、風を起こしますが、それすら操れるのですよ!


また大水に、集めた風を丸めて大きな空砲をぶつけて水攻めにする事も出来るのです。



要するに、いかに属性を自在に操れるのかと言う技術の問題になります。

これを属性の操術(そうじゅつ)と言います」



「竜族たちは、その身の強靭さに任せて折角の火炎属性の性質変化を研究しなかった…。

また、そこまで器用でも無かったと言う事です」



「…よって、この世界の竜族の火炎とエルフの操る風とでは雲泥の差があると言う事になります」



「火は風には勝てないと言うより、操術の差です。

火と言うも風と言うもエレメンタルなのです。

仮に、それが両者に無いのであれば、

戦術に於いてはいい勝負なのかも知れません。」



「そう、竜族は確かに屈強な種族です。

しかし、風の民もまた、古来より風魔と呼ばれ、疾風の体術を具え、数多くの忍術を編み出してきたのは彼らの祖先なのです」



「と、なれば…雌雄を決するのが属性のエレメンタルへの操作知識と言う事になります」



「ドラムたちは、エルフの卓越した風操作の影響で火属性が減少するという災難に見舞われていたのです。


その為にドラムたちの生活力は暗雲低迷していたはずです。

その鬱憤による争いですが、この流れからするとドラムに勝機があるとは考えにくいのです。

……何か変だとは思いませんか?」



>そう言われてみれば…。

 火属性は、風には元より押され気味でそれが減少していた

 武力が互角だとすれば、ドラムはエルフに勝ち目無し、

 と成りますね…



>それなのに、奇襲をしたくらいで風の民は逃げ惑う羽目に…。

 ドラゴンの存在が脅威だったのでは…!?



「トワ…。ソノさんはアナタのどういう能力で酷い目に遭ったのでしたか?」



>え? そ それは進化という変身能力だと、母さんが教えてくれ…て。

>まさか!? え エルフもそう言う進化能力があると言う事ですか?!



「ええ、全くその通りです。どの種族も進化系の力は具えているのです。


つまり、その進化能力と操術さえも上回る何かが竜族に加勢したと考えるのが自然です」



>・・・はう! か、母さん…。 何だか、身の毛が弥立つのです…。

 こ、言葉を上手く話せない程に、ふ、震えが止まらないのです…。



>…どうか、この先の事は母さんが語って下さいませんか……。



「どうやら、事の重大さを肌で感じている様ですね。いいでしょう。

私がこれまでの状況をつぶさに語ります。

アナタは、決してその耳を塞ぐ事なく、お聞きなさい」



「ドラムは確かに完全竜(ドラゴン)と言う姿の空の覇者に進化する。

しかし、

ドラゴンと成った者はもう二度と人化する事は叶いません…


人の姿でないと地上では生活できません。

理由としては意思の疎通がままならないと言う点と食料難と言う点。



ドラムたちも戦争の際には家族と別れる覚悟が

必要ですから、一度に何体も屈強戦士を送り出す事は出来ないでしょう」



「私たち、()()族を撃ち滅ぼした飛竜も、ドラムの里にはもう居ません…」



>!!? ・・・・・・えっ!? 今なんて言ったの…か、母さん?




「トワ。アナタの故郷であるユグ族の里は、ドラムたちの手によって落ちたのよ…。族長だった父さんも、一族もみんな根絶やしにされました……。


もちろん、()()()にて応戦して、ドラムたちにも、少なからずの犠牲を払わせましたが…。



前にも言った様に、私たちは雨に濡れると風邪を引いてしまうの。 

すると高熱にうなされ、体内に発生した毒素を体外へ吐き出そうとする。 

その体質による誤解が戦争になり、滅びを招いたのです…」



「私たちは、決して故意に毒草などを生み出してはいないのです。

全ては誤解なのです。


その毒素が他種族にとって有害となることも、ドラムたちが侵攻して来た時、ようやく知ったのです。ですが…、彼らは、話し合う機会すら与えてはくれませんでした……」


               


>……。うぐぐっ! 何故、俺は…、俺だけは生きている……。


>お、俺はヤツらに攫われて来たのか…!?



>アイツらに認められたりして、浮かれていた俺は、一体何だったのか……。

 馬鹿みたいで、ホント…悔しくて堪りません…!



>か、母さん! そう言う事情だったのなら、ヤツらを憎まずには居られないよ!



不運の数なら誰にも負けないぐらい、これまでも辛かったけど…



こんなに絶望的な悲しみは味わったことが無くて!

こんなに破壊的な悔しさに打ち震えたことも無くて!

いや、

俺なんかよりも、母さんは…いままでこの女神像に閉じ込められていて

どんなに孤独だった事か!


これまでの真相を俺に伝える為に、

自らを閉じ込めてまで存在してきたのか!




>でも、どうしてなの? 迷いがあるとダメなんでしょ?

 わざわざ、真実を語れば、俺が平常心でいられなくなる事

 分からない母さんじゃないよね!?




「ええ、トワの言う通りです。

こんな(むご)い事をアナタの耳に入れた母さんを許して下さい」



「ですが、トワは攫われてなどいません。私が、()()族の起死回生を図る為、()()()の若者の一人にアナタを託したのです!」



>?! それは一体どういう事でしょう?



「トワ…。アナタは、()()族の末裔であり、唯一の生存者です。


この世界は、他種族の者と結ばれても、基本的に子孫を残すことが叶わないのです。

それでも一緒に過ごしたければ、そうしてきた者たちも居ました。



つまり、()()族のアナタは、もうこの世に一人ですから、どのみち子孫繁栄を叶える事が出来ない事になります」



>…か、哀しい事ですが、そればかりはどうする事も出来ぬでしょう…。



「ええ、だからこそアナタの師は受け入れて下さったのです。

幸いと言えるか…ですが、()()族の寿命はどの種族よりも長いのです。


最後のピースを失くした消化不良のジグソーパズルが心残りとなった()()()…、それがアナタの師であり里親でもある、ピサロさまです!」




>し、師匠は、どことなく兄のような存在で、優しくも厳しくもあった。

 忍びとして強く成るも、花の様に詩を愛するも好きにせよと言い、

 

 ただ、しっかり生き延びろと繰り返し微笑みかけてくれた唯一の人だ

 師匠の事は嫌いじゃないよ…




「ピサロさまは、ユグ族の体質を理解して下さいました。病に侵されれば、どの種族でも体に菌を有する、ただそれだけの事だと…。

特徴を踏まえて、対処すれば問題ないだろうと。


けれど、この事はピサロさまの胸にだけしまってあることです、恐らく…今でも」



>……母さん、起死回生の為と言いましたか? それは一体…



「ええ、それこそが、私がアナタに伝えなければならない、ユグ族の宿願でもある進化の秘法…。

蘇生の(ゲート)の話です」




「愛しいアナタをむざむざ手放した訳ではありません。


ユグ族は、ドラムやエルフの様に戦闘に秀でた一族では無かった。


そよ風に吹かれながら、陽光を浴びながら

日夜、新種の植物の研究をし

この世に蔓延る病原菌と闘う、言わば薬師(くすし)だったのです」


「様々な薬草を世界中に流通させてきたのもユグ族でした」



「ついには、万病に効く万能薬も開発しました。

もう最後だから、アナタには教えます。



薬草も万能薬もエレメンタルが関係しているのです。

どの種族もいずれかのエレメンタルに関わりがある為です。

私たちの研究は、そこに辿り着いたのです」




「そして、蘇生の秘薬を完成させるには、この世の全エレメンタルが必要となる事を突き止めたのです。


しかしながら、全エレメンタルの入手は不可能だと言う結論に至った。

それだけの莫大なエネルギーを蓄えて置ける器が無かったわけです」




「それもそうでしょう…。エルフとドラムの戦争、

ユグとドラムの歴史を見ても分かる様に

エレメンタルのパワーは強大過ぎるのです。

とても、一か所に留めておく方法がこれまでは無かったのです」




>……無かったのですって事は、つまり…

 もしかして何らかの拍子に

 見出した…とか、ですかね?




「勘が良いですね! さすが私の子。ええ、その通りです!」



「私は、ドラムたちとの争いでアナタをピサロさまに託した後、退化の術式で素早く木彫りの女神像の中へ納まり、身を隠したのです。

私たちユグの民は、進化も退化も出来るのです」



「でも、退化は花の蕾でとどめておけば、また開いて元に戻れますが…、種まで退化すると、もう人化することは叶いません。


私は、種まで退化する必要があったのです…」




「トワ…。

アナタは、クチナシの花の遺伝子を持っていたようですね。


私たちは、家族であってもなくても

一人ひとり違う花へ進化することもある。


私は、()()()すると、巨大草のラフレシアに成るのです。

ユグド自体に他者を捕食する能力があるのであって、人を飲み込んだりすることは、花の特徴とは関係ありません」

「私も悪臭を出したりして応戦していましたが、命の危機に瀕した為、退化による回避をすることに…」



「元が世界一大きい種の為、蕾になっても小さな女神像の中には逃げ込めないと判断し、極小の種化をしてしまったのです」



「アナタとは、ユグ族の特権でもある細胞の電子信号による意思伝達が出来るから話すことは出来ます」


「アナタに託した女神像は、お父様がプロポーズの時に母さんに彫って渡してくれた物なのです。手彫りよ!」



>……と、父さんの形見でもあったのか…! 器用だったんですね!




「蘇生の話を勿体振る訳ではないのですが、エレメンタルについても知っておいて欲しいのです。属性とも言います。

アナタはすでに三種の属性を持っていますが、世界には元々、七種あります」



「風の里の風属性。火の里の火属性。樹花の里の木属性。天空の里の光属性。地底の里の闇属性。無限の里の無属性。双刻(そうこく)の里の時属性。この七種です」



「もう少し説明を加えておきます。天と地は相反する光と闇になります。



無属性とは、何も無いのではなく、他の属性同士が融合した場合、つまり、アナタの様に複数を所有する場合、その合成効果を無効化リセットすると言う性質です。

所有属性が消される訳ではないのよ、あくまで融合を解除するだけです」


「属性融合によっては、七種以外にも生み出されてきましたが、生命や環境に不都合なものが発生した場合、無属性の出番です」



「双刻の里は、時を刻む意味から時間属性だと判明しているのです。

時属性とは、時を進める加速や遅らせるスロウなどの効果が判っています」



「説明の中で触れましたが、各エレメンタルは融合させることができます。

融合とは、単純に足し算か掛け算ぐらいに考えておいて大丈夫です。

複数あることで威力が倍増するイメージでOKです。


先程、私は他種族間の子孫繁栄は不可能だと教えましたが、実は、双刻の里へ行ければ、双葉の印と言うものによって、他種族同士の夫婦の証を受ける事ができるらしいのです。

それによって子を授かることが可能になると聞いた事があります。


ただ、双刻の里は時空の歪みによる結界があり、近づく事が困難だとも言われています」



「さて、全七属性を一か所に集めるとなると、無属性が存在する為、七種を一堂に会する実現が不能にも思えます。


そこで各種を一つずつ、生命(ハート)の器に取り込めれば良いと言う結論に達しました



ハートの器は、トワ、アナタがユグドラムを成し遂げた事により、アナタの中に内在している事を母である私が知覚したのです!


つまり、蘇生に関する研究の為に長きを費やしてユグ族は生きてきましたが、全エレメンタルの同時滞在の壁に悩まされてきたのです。


ですが、なんと言うことでしょうか。

災い転じて福と成ると言った人間がおりましたが、このような形でユグ族の宿願への巡り合わせが叶うとは、夢にも思っておりませんでした……」




「実の所、私は、いつかはアナタが探求の末に辿りついてくれればと、私たちが果たし得なかった夢をアナタに聞いておいて欲しかったと言うのが真実でした。


研究者として生きて行ってくれるかは別として、ユグ族の無念を伝えておきたい一心でした。


アナタの中にその可能性を見た時、私の中にも爆発的な知識図が展開し、その蘇生術の手段を会得するに至ったのです。



その手段とは、アナタが彼女を失い、彷徨っていた時、強く、強く願った…」



「苦しみの迷宮から抜け出すための呪文!」



「それが、私にはハッキリと解ったのです! さらに、ハートの器へ全属性を呼び集める方法も悟ることができたのです!


ですから、

アナタには彼女を救うためにも、ぜひ成し遂げて欲しいのですが、

蘇生の術式を完成させたアナタにも、全世界の知識図が目覚める事はすでに判っており、その時に、もしも一部の種族を憎む心が生じれば、アナタが内包する膨大なエネルギーは闇に囚われてしまい、世界を闇に閉ざし、押しつぶしてしまい兼ねないのです」



「私たちの宿願は、虐げられた事による復讐などではありません。

この世の人々の未来の為に必ず役に立つと言うことなのです」



「心にそう言った迷いがあれば、力は暴走してしまうと言うことです。

そうなったら、阻止できる者など存在しませんから、世界は破滅することになり兼ねない……」


「ですから現段階で全てを知った上で、乗り越えておいてもらわねばいけなかったと言う訳です」




「今、アナタの中のハートの器には、木属性と風属性の二種が入っている状態です。


アナタは確かに常闇と火属性も持っていますが、ハートの器を満たせる程のレベルではないのです。


木属性はアナタ自身で、アナタの中で眠る彼女が風の器をすでに満たしている状態です」




「ドラムたちは、火属性であるにも関わらず、火の里ではなく常闇の里に暮らす者と呼ばれていますね。


これは、元々地底の民だった闇の竜族たちが地上に這い出てきて新たに築いた里に火のエレメンタルが宿ったと言う経緯がある為です」



「最も、火の里にもかつては、人間という種族が暮らしていました…。彼らの多くは、変身能力を持たず非力だった為、他の種族が人間に近い姿になって交流をしていたのです。


その様に配慮しなければ、人間たちは他種族の者を魔物と呼び、異常に恐れたり、突然、武器を持って襲ってきたりとその時代も種族間での誤解は尽きませんでした」



「私たちは、彼らよりも伊達に長く生きている訳ではないのです。

ですが、世界の全ての事情に精通している訳でもありませんが…。

少し説明が長くなりましたが、概ね理解してもらえたかと思います」




>・・・・・・・・・・あ、いやその。…もう何を聞いていいのやら…




「火の器には、アナタの師であるピサロさまに入って頂くしかないでしょう…。

私たちの唯一の理解者ですのできっと説得できることでしょう」


「あの方ならきっと、このグッド・エヴァンタシアの平和の鐘を鳴らす手伝いをして下さるはずです」



>え? 師匠に入って頂くとは、師匠ならパワーが充分だと言うのですか?



「ドラムのままでは不十分です。

本当の意味での歩み寄りをお願いするのです。

覚悟を決めて頂き、ドラゴン化して頂くのです! 

その上でアナタと属性融合し、アナタの中に飲み込むのです!」



>うっ! やっぱり・・・そうするのですね…、あの細胞の繭の中にね



「残りの四種のエレメンタルについては、三種を獲得すれば残りの器を満たすまで、特殊な印によって集めきる事ができるのです。


印を結んで全エレメンタルの取り込みが終われば、後は、アナタがユグ族の最終進化形態へ大変身すべく、集めた全エレメンタルを全力で大空へ放出すれば良いのです。



その時が来れば、私が知り得た究極呪文を伝授します。

トワ。

もうアナタも気付いているでしょうが、最終進化を遂げれば、ソノさんも多くの傷付いた風の民も、完全回復が叶うのです。


無論、アナタも人には戻る事は叶いませんが…。

しかし、今、止めるなら誰も救えないばかりか、争い事は激化し続け、

いつか世界は崩壊の一途を辿ることでしょう…



もう突き進むしか選択肢はないはずです! 私も、お父様もアナタと共に参ります。」



>…分かっています。嫌だなんて言いません! 望む所です、母さん!

 しかし、果たして師匠が受け入れてくれるでしょうか!?



「とりあえず、ピサロさまにお会いしてみましょう! 私も共に参ります。私からも説得して見ますから」



>…はい! 母さんが居てくれれば、心強いです! 是非ともお願いします!

>ところで、母さんの声って俺以外にも通じるんですか?



「何を言っているのですか、アナタに伝えるからアナタがしっかりと通訳をするのです!

何も案ずる事はありません。必ず承諾して頂くつもりですから!」



こうして俺は、母さんの女神像を携えて、師匠の所へ向かった。

師匠は、母の事を思い起こし、大変驚いていたが、話の全てに真剣に耳を傾けてくれた。

しかし、肝心のドラゴン化をしてまで属性融合で、俺の胃袋に飛び込む決心には、さすがに難色を示していた。



……やっぱり、そうなるわな。



しかし、母さんはそうなる事を予想していたのか、俺にあの話を切り出せ!

そして、続けてこう質問をして見なさいと告げた。



俺は、母さんの言う通りにあの話をした。



…あの話と言うのは、風魔の風使いたちにドラムたちが不思議と圧勝したあの話のことだった。

あの時、母さんも言っていたっけ…



どの種族も進化系の力は具えているという話を俺に聞かせてくれた時に母さんは、こう言っていた…



「つまり、その進化能力と風の操術さえも上回る何かが

竜族に加勢したと考えるのが自然です」…と。



この母さんの考察を耳にした途端、師匠の顔色が一変したのだ。

見る見るうちに師匠は真っ青になっていった。


この状況からすれば、師匠は俺にまだ何かを隠していると分かる。

いやはや、これは只事ではないな。

それにしても一体、どの様な勢力が、竜族に加勢したのだろう…


俺は、母さんに促されるままに、続けて師匠に母さんの言葉を伝えた。



「師匠は、ユグ族の理解者であったはずです! 何故、この様な事態になったのですか?」


「あの時、常闇の守護神にも誓ってくれましたね? トワの治癒力をエルフ戦に利用されましたね?」



>え? この話は、初耳なんですけど…

 …っていうか加勢したの、俺っぽい流れなんですけど…



師匠ピサロは、こう語り出した。



トワが里に来てしばらく経った頃だった。


私が狩りに出て負傷して帰って来るとトワは、

心配そうに私の傍を離れませんでした

私は、かなりの深手を負っていましたが不思議と

トワが傍にいると物凄いスピードで完治したのです



私は、いよいよユグ族の素晴らしさに目覚め、彼を里の皆にも

紹介したいと思ったのだ。

当初は、私の養子と言う事にしていたが、やはりいつかは話す

時が来るだろうと…



頃合いを見て、もっと里内の理解者を増やそうと

思い切って皆にトワが、ユグ族の生き残りである

事を打ち明けたのだ。

幼いトワには、脅威が無いと分かって、少しずつ打ち解け合っていった。

微笑ましい様子に私は安堵していた。



しかし、ドラムたちは理解を示すフリをして、トワを抱き込む様に鍛えるようになっていった。

ユグ族が、他種族に心を許すと自動的にリンクして相手を治癒するのだと

皆に気付かれてしまったのだ。



他里との争いだけでなく、あちこちで

小競り合いも多々あった。

その上、そのリンク治癒のスキルをトワ本人が自然に

具えている事を悟られない様に本人に伏せていたのだ。

なんとも悪どい連中だ。

同種族でいることが恥ずかしいくらいだった。


本人が特殊な能力に溺れ、仲間を見下す事が無いように

と、教育目的だと称し、皆で隠す事にしたのだ。


私も、教育上と言われれば、

一人、首を横に振る訳にもいかなかったのだ。


その内、風魔の勢力は、ドラムの領域をじわじわと侵すようになってきて、ドラムの間でも鬱憤が溜まりに溜まって行ったのだ。

しかし、風魔には到底太刀打ちできぬ事は周知の事実だった。


ところが、此方にはトワの存在があった。

つまり、どんなに負傷しようとも

程なく完全回復ができるのなら…と、


トワには、エルフを少し懲らしめる目的だと偽って

エルフ戦の初陣に抜擢したのだ! 

しかも、トワがみんなに早く認めて貰いたい気持ちで

先走る様に幼い心理をも巧みに操作しながら、駆り出して行ったのだ。



私が、争い事に加わらない性分であることも周知の事実でありましたし、

私も、エルフへの駆逐劇がよもやトワを巻き込んで始まろうとしていた事は一向に知らなかったのだ。



私が甘かった。

私の考えが至らなかったのだ! 


トワを里に連れ帰った時から

愛情を持って私なりに育てさせてもらった。


アリアさま、あなたの愛しいトワに

かの様に哀しい思いをさせてしまった事を心よりお詫び申し上げたい!



師匠は、そう言うと母さんの女神像に深々と頭を下げた。



「ピサロさま…。そのお心尽くしに感謝致します。

あなた様には、トワの命の恩人であり、ここまで立派に育てて頂いた恩がございます。

トワは、決して不幸でもありませんし、ドラムの方々を強く恨んでも居ないと言っております。

私たちは、ピサロさまを責めるつもりはございません」



「加えて、真実をあなた様の口から聞かせてもらえて、

もう気持ちは十分に晴れております。どうか、

私たちが、ピサロさまを訪ねて来た意図を組んで下さいませんか…」



俺は、母さんと二人で、師匠に懸命にお願いをした。

師匠は瞳に熱いものをたぎらせて、承知してくれた。

師匠は、語った。


竜族がこれまで他里にしてきた、行き過ぎた仕打ちを全て帳消しには

出来ないだろうけど、今もどこかで深手を負い、

傷付いている

エルフたちが全て回復し、

命を落とした者もあわよくば、蘇生を

受けて、話し合う機会が与えられれば、

きっと歩み寄ることが叶い

平和への協定を結べるだろうと、

身を投げうつ決心をつけてくれたのだ。



それに、

「トワとずっと一緒に居られる事は何よりも恵まれている」と

俺をぎゅっと抱き寄せて言ってくれた。


師匠にも、かつて愛する妻がいたと。

その人は他種族の民だった為、子供は、授かった事が無かったのだと…

俺が、師匠の一人息子になった日から、心が弾むような毎日だったと。



時を少し遡ると、

その頃にはもう、奥さんは病気で他界していて、気持ちが荒れていた時に

ユグ族の里へ、ドラムの仲間たちと共に殴り込みに行ったのだそうだ…。


そこで、赤子だった俺を抱いて逃げ惑う母さんに出会い、

同じ…グッド・エヴァンタシアの民同士、

傷つけ合わねば成らぬ事に胸が痛み、荒れていた心から解放された師匠は

子供一人ぐらいなら

(かくま)ってやれると母さんに助け舟を出したそうだ。

他種族の妻との死別も打ち明けた為、

母さんは師匠に俺を委ねたのだそうだ…。



今俺が、見聞きしている事象に

感動を覚えたり、涙したり出来るのも、

母さんと師匠の出会いと、相手を思いやる慈しみの心が二人に無ければ、

叶わなかったことだろう…。



出会いとは、なんと意義深いことなのだろうと、しみじみと感じた。



母さんと俺は、師匠に早速、例の件を試みてくれと進言した。




()()()()()!!!!!」



大地を揺るがす雄たけびで師匠が吠えた。

師匠は、忽ちのうちにドラゴンへと姿を変えた!!


飛竜と成った師匠の全身には分厚い鱗が盾の如くびっしりと生え、

逞しい筋肉隆々の胸板と腹筋も()る事(なが)ら、

背中を金色の巨大な翼が四枚もはためくのが窺えた!

身の丈は、家よりも高く、ほんの少しの挙動でも

台風の暴風域に入った様な目も潰れそうな風が巻き起こった!


ドラゴン! 脅威すぎるぜ!



そして、地響きの様な低い声で、

「トワよ! いざ参らん!!!」…と

大地のドラムの咆哮を全力で、俺に向けて放出してきた!

俺は、師匠の火属性の全エレメンタルを全て飲み込む為に



「 ()()()()()!!!!! 」



師匠に負けぬ様にと、強進化になり、火の器へとドラゴン師匠を吸い込んだ!



どうにか成功を遂げた。

師匠も意思伝達が可能となり、

これからも話すことは可能だと確認することが出来た。

母さんとも会話が出来るようにもなったそうだ。




「トワ…、よく頑張りました! ピサロさまも上手く融合できた様で

何よりです」




>おおお! 融合とはこうなるのか…! 

 トワが助けた風魔の娘もいらっしゃる! その辺の知識も頭に入ってきたぞ!

 考えていたよりも、居心地が良いことが分かりました。

 エネルギーが沸々と漲ってくるのが分かる。

 ドラゴンになった時、一度空を飛んで

 おけば良かったな はっはっは!


 そうすりゃ、何の心残りも無かったんだがな…

 まあ、いいや。




>これで、風、火、木のエレメンタルがハートの器に満たされています!




「ええ、いよいよトワも最終進化を遂げれば、

多くの人たちを大回復させられる

のです。あと一息です。

頑張るのですよ!」



>アリアさま、残りの四種のエレメンタルは、一体どのように集めるのです?

 天空の里は、空を飛べませんと行けないのでは?

 双刻(そうこく)の里は、時空の歪みの結界が困難を極めるでしょうし…

 地底の里は、我らドラムの古巣ですが、余すところなく闇が広がっています

 無限の里については、どこに在るのやら…。



>母さん、天空は光属性、地底は闇属性、無限は無属性で、双刻は時属性

 でしたが、察するにそこへ行く必要はないのでしょうね、

 おそらく…母さんのことだから、もう手立てがあるのでしょう。




>お? アリアさま、私の様な知り合いでも御出でなさるのか?




「いいえ、知り合いなどおりません。

それについては風魔の娘さんから

格別な知識図の恩恵を頂戴しましたので、

何も心配は無用です」



「ドラムたちがトワを鍛えてくれたお陰で、常闇の属性も器には

半分は蓄えられているはずです」



「つまり、七種の内の三種と半分持っていますので

こちらに3.5あると言うことは、全エレメンタルの半数を

トワが所有している事になります」


「これで、こちらから四種のエレメンタル所有者を呼び出すのです!

それも…この世に現存する民が誰一人として目にした事のない、

超ド級のエレメンタラーを!」





>……ゴクリ。アリアさま…超ド級のエレメンタラーですか!?


>……ゴクリ。師匠、生唾を飲み込む音がダイレクトに伝ってきます。




「もう、勿体つけなくとも良いでしょう…。

この世に全属性の半数をその身に宿す者など居ません。

今のトワなら、その言葉通りの事が成し得られるのです!


さあ、トワ!

私たちのグッド・エヴァンタシアの健やかなる未来の為に、 

全種のハートの器が満ちるまで、木属性以外の

六種のエレメンタルを改めてこの場に召喚し、吸い尽くすのです!

さすれば、七種目のアナタ自身のエレメンタルも超ド級のクラスに

昇華します!」





「風魔忍法 究極奥義……… ”天 地 無 双(てんちむそう)“ の 印!」





>か 母さん!? うあああ・・・

>アリアさま! うおおおお・・・・・



母さんが聞いたこともない忍びの印を口にした途端に、俺の身体は大の字に成った。

両手と両足を大きく広げ、大の形を表していた。

それが、身体は俺の意思とは関係なく勝手に動いていた。




俺は、空け放された広い草原の中に一人で立ち、体勢は大の字のままで、空を見上げていた。



先程まで水色の澄んだ大空だったが、風雲急を告げる…。


変に胸騒ぎが押し寄せてきた。

空模様はあっと言う間に大きな黒い雲が集まり出し、途轍もない大きな渦を時計回りに巻き始めていた。



どんどん雲は集まり出し、入道雲に雷雲が入り乱れる様に異様な渦巻が天空に現れたのだ。



そうかと思えば、無数の稲光が発生し、天と地の間を高速で行ったり来たりしていた。

俺はただ、その突拍子もない光景を見ているしか無かった。



俺が、何か特別な印を結んだ結果でこうなったのかをじっくり考え直している暇などなかった…。

さらに、そこへ竜巻が数本、発生した!


ゆっくりゆっくりと渦巻く雲は、突然!

晴天の夕焼けにも見られる真っ赤な空の色に染まり、今度は、反時計回りに回っていくのだ。



無数の稲妻と雷光。

一向に止みそうにない雷鳴が天地を崩壊させるが如く、鳴り響いていた。

やがて、激しい雷雨に見舞われ、水たまりなど見受けられなかった真夏の草原に、氾濫する貯水ダムのように大量の水が大きなうねりを見せ、この大草原へと流れ込んできた!



気が付くと地上は、轟々と音を立てて洪水か、はたまた津波の様な水害へと変わっていった。



天も地も、嵐が吹き荒れていた! 

天空は巨大で黒々とした雨雲が、まるで火山噴火の噴煙の様にモクモクと立ち込めており、そこから世界一周を遊覧する豪華客船を忽ちのうちに沈没させるかの様なゲリラ豪雨が地上に降り注いでいた。



無数の稲妻と、空と大地が割れんばかりの雷鳴は、まるで、思春期を迎えた雷小僧がパンクロックに目覚めて雲の上をステージ代わりにライブ活動を始めた様な騒音に次ぐ騒音だった!



数本の竜巻が登場すると、まるで天翔けるペガサスの行く手を阻むかの様に穏やかな上昇気流を急遽、乱気流へと変えていった。

複数の強大な生き物の意識が互いをけん制し合うかの様に

牙を剥き合っているかの様な、禍々しい光景だ。



地上は、激しく降りつけた豪雨があっという間に大きな濁流を生み出し、

そこへ竜巻の尻尾が空から垂れ下がる様に乱入してきた。


それらは、生きた水の竜が意思を持って暴れまわっているかの様だ。


まるで、この世の終わりか、はたまた新たに創り直されて行く過程を見届けさせられているかの様な天変地異が見渡す限りに巻き起っていた!




こ、これは! 

エレメンタルの作用がもたらしている地獄絵図の最中に俺は成す術もなく突っ立っている様だ!



悪夢! もはや、悪夢である!



心の中では幾度も叫んでいる! 止めてくれ! 止めてくれ!


心の叫びは、母を必死に呼んでいた! 母さん! 母さーん!

何処に居るの母さん! 



一体これは、何が起きたの!? 

どれも心の叫びだ!



こ、声が出ない! いや、出したくないんだ!

声を出そうとしても、口が開かない! 物凄い風圧で!


もし口を開けようものなら、顔の皮が全部、皮下組織から剥離していって、首狩り族の風習で知られる干し首にでもなっているんじゃないかと怖くて怖くて、ひたすら歯を食いしばるしかないぐらい顔面を強風が襲っていた。



今は何も出来ない。

身動きなど取れたもんじゃない!

辺りには誰の気配も感じない!


ソノも師匠も居ない! 



いつか図鑑で見たことがあった…

惑星の天地創生のイメージ図にそっくりだ!

水害の次は、燃え盛る炎で地上が火の海になっていく!


先程までの流水が全てガソリンに変わり、異臭を撒き散らしながら爆炎が水面を覆い尽くし、水上で燃え盛るその大火炎は、まるで太陽が生命活動の際、吹き出すプロミネンスにも似ていた!



暗雲渦巻く天空! 

光と言えば、耳の鼓膜を劈く雷光だけだ! 



天と地の狭間は、まるで常闇だ! 

常闇は見たことがあるから分かる!

いや…、ほとんど何も見えない真っ暗闇だから常闇と言うのだったか…。

しかし、雷光が俺の眼前をこれ見よがしに往来するため垣間見える闇の奥深さが何とも不気味でならない!



地上に樹木が一本も見当たらない! 

街も、港も、灯台も、森林も全て波にさらわれたのか!?

同じような場面が、ストーカーの嫌がらせの様にこの目と耳に、繰り返し何度も何度も焼き付けよと言うように送り付けられてくる!



まるで、この異常現象が何者かの手によってループさせられているかの様に、進んでは巻き戻され、ハイスピードにされてはスローになったり、この地獄絵図は一体いつまで続くんだ!



俺はもう…、まともな精神を保っていられそうになく、無意識に叫んでいた!



元々あった青空と緑豊かだった草原を汚らしいドブネズミの巣窟か、はたまた巨大な肥溜めに、この世の汚物という汚物を流し込んで一気にひっくり返したような酷い空間に変えた得体の知れない毒ガスどもにありったけの薄汚い言葉で、思いつく限りの卑しい戯言で罵倒してやったつもりだ!



しかし、不思議なことに俺が吐いた汚い言葉の数々は、全て母さんが発したあの言葉に自動変換されて、俺の目の前で、今も散々天地を騒がせている狂った嵐たちに向けられた言葉は……




天地無双の印! 天地無双の印!! 天地無双の印!!!




俺は、いつの間にか、この文句しか発声できなくなっている事に

今初めて気づいたのだ!


きっと俺の全神経が、天地無双のエレメンタルに働きかけ、その属性の有力者をこの世界……つまり、グッド・エヴァンタシアへ誘い込んでいる最中なのだろう…





「トワ! ………きこえますか?」



>……………………!!?



「聞こえてはいる様ですが、返事が返せないぐらいに翻弄されているのですね!」

「そのままで、私の声に耳を傾けていて下さい…。


少しずつ心の安定を取り戻して行かねばなりません!

心が落ち着きを取り戻せたら、その時に進化の究極呪文を授けます!」



「アナタが目の当たりにしている光景は、天地創造です。それは…その光景は、六種のエレメンタルが入り乱れている様子ですが、全て、アナタの身にだけに起きている事象なのです…」



「天地が開けずに様々に入り乱れている、混沌と呼ぶべき状態です」

「天地無双の印を唱えれば唱える程、混沌の渦巻は大きくなっていくらでも吹き荒れるのです!」




>混沌………六種の………って!?



「ほら! 頑張って思い出すのです! アナタが呼び寄せた六種の超ド級のエレメンタラーたちよ!」




>そ、その様な存在が………今までいったい何処に居たと言うのですか?




「この、グッド・エヴァンタシアには暫くの間居ませんでしたが、戻って来られたのです!」


「アナタが異空間のゲートを開いた為です………。

よく分かる様に説明しますから、よく聞くのです!」




「私たちが生まれ育ったこの世界、名を(グッド・エヴァンタシア)と言う。

この世界には、元来、六種の属性の守護神がおられました。


この世界には知っての通り、七つの里があり、それぞれにエレメンタルが宿っていて、その属性の加護を受けていることはもう知っていますね…」



「では、その六守護神の名だけを知っている者たちもわりと多くいますが、六守護神の姿を見た者は、現存していません。

何故かならば、その存在は伝承に出てくるだけの崇拝の対象でしか無かったからです!」



「各里の秘められし洞窟の中の壁画などに描かれている伝説上の存在たちです。

その内の四守護神が、グッド・エヴァンタシアに於いて千年以上もご不在だったのです。



守護神たちは、属性の里の近くにお住まいがあって、自由気ままにその地の民を見守っておられたのです。



ですが、ある時、守護神ほどの強いエレメンタル所有者をいとも容易く異世界へと連れ去る者たちが現れたのです!」



「このグッド・エヴァンタシアとは異なる世界が幾つも存在しており、異世界とは、稀な確率で時空のゲートが繋がりを持ってしまうのだとか…。



そして、異世界の召喚士なる者たちの、異世界の魔法力とやらで守護神たちがいつの間にか、四神も連れ去られると言う悪夢のような事態が起きていたのです!

もう、千年前の出来事になります…」



「それの一体何が悪夢なのかを語らねばなりません…」



「まず、グッド・エヴァンタシアから居なくなっていた守護神の名を知るのです。




天空の里の守護神である、光のペガサス!


かつてドラムたちが居た地底の里の守護神である、常闇のバハムート!


無限の里の守護神である、無限のウロボロス!


双刻の里の守護神である、時空のラグナロク!」



「この四神をこの地に再び呼び戻すためには、異世界に繋がっていたゲートを此方から開かねばならない。


それを成す為には、四神のエレメンタルに呼応するエヴァンタシアのエレメンタルを集めて、呼びかけなければならないのです。

しかも膨大な属性エネルギーでなくてはとても届かない!



ですが、あろうことかその条件をトワが満たしてしまったのです!

私たちユグ族が、ドラムたちに蹂躙された件、風のエルフたちも同様でしたね。

そもそも、地底の竜族が地上に出てこれたのも、竜族の守護神である、常闇のバハムートがこの地より去ったからなのです!



それによって地底の里の結界が弱まり、ドラムたちは地上に出ることができ、あろうことか火の里に元々住んでいた人間たちを退けて、現在の火の里を乗っ取ったのです…。



火の里の守護神である、炎神イフリートは遠い昔、人間という非力ではあったが知恵と勇気のある種が、世界で初めて火を起こした存在である事をとてもお喜びに成り、守護の働きをすると盟約して、人間たちを見守ってきましたが、バハムート消失後の火の里の住人はドラムに取って変わり、ドラムに火の属性を与えて守ってきたのです。



理不尽に思うかも知れませんがが、守護神は崇拝してくれる民が減少すると、エレメンタルの威力と精度が落ちてしまい神として君臨していることが困難になってしまうのです。

自分の属性エレメンタルを自分の民にどんどん消費してもらう事でパワーが増していくのです」



「トワ…、アナタの中に最初に取り込んでしまったお嬢さんも風の民だと話しましたね。



ええ、そうです!

風の里の守護神がお嬢さんにもパワーを送り守っていた所をアナタが風の守護神である、風神セフィロスごと飲み込んでしまったのです!」




>……いや。もう、言葉が見つからない…です



「あの時のアナタでは、とても受け付けられない事だったでしょうから私の一存でこの事は伏せておきました」



「お嬢さんが、もし絶命してしまっても風神セフィロスは、自然界に戻るだけですが、またとないチャンスだったと言う分けです……」





その後も、暫く母さんの講釈がいくらか続いていた。


俺は、懸命に頭の中でこのグッド・エヴァンタシアの世界に起きた壮大な物語をゆっくりと整理していった。



六体の守護神は、古代種族とも呼ばれ、これまでは伝説の中での存在でしか無かった。

しかし、実在していることがこれで明らかとなった。


六守護神の内の四神は、異世界の召喚士によって、エヴァンタシアの地より異なる世界へ転移をさせられていたのだった。



守護神が居なくなったら、その地の種族は神の威光を忘れて行き、何者も恐れなくなり、私利私欲の闇でいつしか暴徒化する様になる。


それによる種族間の争いに於いても、言葉を持ちながらも聞く耳は持てなくなり、ドラムの様な残忍な思考の持ち主が増えてしまったのだった。




守護神をこの地に再び呼び戻すには、時空で繋がっていたゲートを此方から開かなければならない。


それも、旅立った守護神のエレメンタルか、それに呼応するエヴァンタシアの守護神クラスのエレメンタルでゲートを開き、更に彼らの帰還場所を示すための道を作っておく必要があるのだった。



しかし、ゲートを開き道を作っても、戻ってきた彼らにこの世界に再び腰を据えてくれる気持ちが無ければ、俺が目の当たりにした地獄絵図が散々渦巻いた挙句、世界を無茶苦茶にしたまま、異世界に去ってしまう可能性が極めて高いと言うのだ。



六守護神が、行き場もなく同時に出現すると、世界の創生と終焉が入り乱れて、世界に混沌が訪れる。



その混沌を放置し続けると、騒がしい世に怒りを覚えた死者の魂が、現世を呪い、魔障という名の災厄をもたらしてしまう。


そうなれば、世界は終わりの見えない地獄と化すのだ!


そうなってしまわせない為には、彼らの新たな居住スペースを受け皿として準備しなければならない…。



彼らの興味をそそる様な何か…。

また同時に納得のいく棲み処を用意しなければいけない。



そこで母曰く、ユグ族の宿願だった究極の大進化を俺が成し遂げれば、全て上手くいくと言うのだ!



俺の中にある生命(ハート)の器こそが守護神たちの新しい棲み処となる様だ。

しかし、これまでの様に大人しく飲み込まれてくれる筈もないだろうし、壮絶なバトルに俺が耐えられる筈も無かった…。



ハートの器とは言わば神器なのだ。

……ん? あれれ!? 


ハートの器って、確か七つあった筈なんですが…。

属性だって七種あるのだから……って、それは俺の木属性じゃないか!?



……俺が、その疑問を抱いた次の瞬間だった!




「トワ! 母の声が聞こえますか? どうやら冷静な心を取り戻せたようですね…。これで私の役目も終わりです」


「ありがとう! さあ! 七つ目のハートの器に私を取り込むのです! 私はいつでもトワの傍にいます。その事をどうか忘れないで下さい! 約束よ…」




>……か、母さん!? ……どうして? そういうお話でしたっけ……!?



もう迷わないで! 突き進むのです! 大人になりなさい!



にげちゃだめよ! もうあの日のあなたじゃないでしょ!



少年よ! いつだって前のめりで行け! 闇など突き抜けろ!




>……母さん! ……ソノ! ……師匠!



俺は、突き進むしかないのだ! 逃げてたまるか! 師匠、ぶっ飛んでやるぜ!

皆の熱意に応える時がついに来たんだ!


意を決した俺は、母さんの女神像ごと体内の木の器の中へ取り込んだ!


その瞬間、聞こえたんだ! 三人が声を揃えて…この呪文を唱えて! と。




うおおおお!


うおおおおおおおお!!


ぐおおおおおおおおおおおおお!!!


     




世 界 樹 化(ユグドラシル)!!!!!」


トワは全身全霊で大空に声を響かせた。

強大なエネルギーを内包したその声は、生命界の隅々に轟き渡った!








進化の究極呪文だと母さんは言っていた……。

まさにその言葉通りだった。



俺は、世界を体現する世界樹という巨大な樹に進化していった。

世界樹となった俺の身の丈は空の雲にも届きそうなぐらいの勢いでグングンと伸びた!



胴回りも、ドラゴン師匠の百倍には成っていた。



あれ程、目の前で吹き荒れていた嵐たちが、お伽噺に出てくる魔人がランプに戻っていく様に、俺の中のハートの器にスウーーっと螺旋を描いてあっと言う間に吸い込まれて来たのが解った!



エレメンタル化していた守護神たちが世界樹を新たな居住スペースとして認めてくれた様だ!

気に入ってくれた様だ!



でも、まさか母さんが木の器に入ろうとは驚いた。

母さんが器に入った時、記憶がシンクロしたようだった…。

ユグドラシルは、木属性と水属性と土属性を併せ持つ、地属性へと昇格されたのだった。



母さんが言っていた世界の知識図と言うものが、少しずつではあるが俺の中で展開しゆくのを感じ取った。

そこにある新たなを記憶を辿ると、木属性の器の記憶が世界樹化する以前に一瞬の間だけ俺の記憶から削り取られていた事が判った。

その為に俺は記憶違いをして、「ハートの器は確か7つあった筈……」とか呟いていたが、それは混沌をこの身に受けた衝撃で俺自身のハートがぐらついた為だと判った。世界樹化する際は俺の中に内在するエレメンタルは一旦、俺の外に向けて放出しなければならない。この時わずか数分ではあるが、混沌の渦は世界中にも蔓延した事であろう。世の民も身震いした事であろう。だが、その事で傷ついたり死んだ者たちも全て復活と回復が為されたので安心して良いのだとか……。


その事と関係があるのかまでは今のところ見えてはいないがのだが……。



母さんは不思議と母さん自身を女神像ごと、俺に飲み込むように促した。

俺のハートが不安定な状態に晒された為、木属性のエレメンタルが器から流出したのかも知れない。

咄嗟に母さんが継ぎ足しを請け負うしか無かったのかも知れない……。



最後の最後まで母さんは、俺の心の支えとなってくれた。

お陰で俺は世界樹と言う、未来を支える柱となって、天地も開けたのだった。



その上、新たな守護神として承認された様だ。世界樹も神器の一つと成ったのだ!

グッド・エヴァンタシアの新守護神として名を連ねるには、この地に代々いた六守護神の承認が必要不可欠だったのだ。

六守護神が認める存在でありながら、己自身も強大なエレメンタラーでなければいけない。意思を持った存在でなければならないのだ。

それはもう…、ユグ族でなければ成し得ないと言うことだったのだ。



母さんが言っていたユグ族の宿願とは、この事だったのだ!



母さんと師匠の応援に混ざって、ソノの声援も聞こえたんだが…。

また眠ったのかな。

兎に角、生還と受け止めておくよ。



その時! 師匠が語りかけてきた。

何だかとてもはしゃいで喜んでいる様子だ。



師匠は、元々常闇の竜族だったのだから、火の器に入っていながらも、常闇のバハムートと言うその驚異的な存在を身近で感じ取って感激していたのだ。

だが、どうもそれだけでは無かった様だ…。



竜族の偉大な守護神である、バハムートから大儀であったと言葉を頂戴し、さらには褒美を二つも賜ったのだとか。

どのような褒美なのかと言うと、一つには、人化、竜化が自在に叶う常闇の上位エレメンタルを受けたのだ。

もう一つには、ファミリーネーム…。

つまり、師匠は今後、ピサロ・バハムートを名乗って竜族の副守護神としてドラムたちを導いて行くが良い! と仰せつかったのだった。



これについては、風神セフィロスも、同様にソノ・セフィロスと言う名を冠する事を許し、風の民を導く大役を与えたのだった。



師匠とソノは、完全回復をし、ハートの器の外に出されたのだ。

本当に良かった。

あの娘が息を吹き返し元気に風の里の仲間と肩を叩き合っている微笑ましい姿を、俺はやっとこの目で見る事が出来た。皆と自分の念願は叶った。



天空の里を除く五守護神の里が五芒星の星陣を描く様に位置し、そのど真ん中に廃されたユグの里があった。

今まさに世界樹となった俺が腰を据えている場所は、ユグの里跡地だった。



俺は、ユグ族の里の新たな象徴であり、新たな守護神であり、地の最高位エレメンタルの所有者であり、全エヴァンタシアの若き柱となったのだ。



今後望むべきものは皆と相談し、決めて行くことだろう…。

ここまでの道のりで果たされるべき事は果たした。



もうこれで俺が語るべき事は何もなくなった…。

勿論、これからも俺たちのストーリーは続いて行くさ!

ソノや師匠と巡りくる季節を何よりも大切にしながら…。



そして、まだ見ぬ多くの民の訪れにより幾千万もの心の軌跡を辿ることだろう。

新時代の幕開けに、俺の心は希望の光で満ちていく…。




だが、俺には気がかりな事が一つだけ残っていた…。

それは、母さんの事だった。



母さんは、どうして元気な姿を見せてくれないのか…。

外の景色は、澄み切った青空と緑いっぱいの大自然で輝いていた。

皆の清々しい表情が眩しいぐらいに満ち溢れていた。



その輝きは、平和と安穏を確かに約束して、祝福してくれている。

俺は、この世界の守護神として世界樹のままでいなければならないが、ちっとも寂しくなどない。



皆の声は遠くに居ても聞こえる。

世界中の数多の悩める民がこれからも傷を癒しに俺の元を訪れる。

六守護神もいてくれる。



双刻の守護神、時空のラグナロクが俺とソノに双葉の印を授けてくれた。

これで二人は永遠に結ばれた。これから子孫も授かれる。

これほどの喜びがあるだろうか。

今は、これ以上の言葉は出てこない。







……だが、あれ以来、母さんの声はこの世界の何処にも見当たらない…。

喜びの気持ちでいっぱいの俺たちに当たり前の様に掛けられると思い込んでいた母さんの声は一向に聞けないままだ。

ハートの器も、木の器から地の器へと変わったんだ。

母さんの女神像……、それも見当たらないんだ。




ユグ族は、俺が生まれて間もない昔に滅んだ。

それは仕方ない事だ。




だけど種化とは言え、生きていたはずだ……。

蘇生すらが叶うのが世界樹だ。

風の民の大半は生き返ったと言うのに……。

いつでも、傍にいると約束してくれた。




それなのに……。










「トワよ! 私たちの声がきこえますか?」




>あ、……。 誰ですか?




「私は、天空のペガサス。ひとつ私のお伽噺を聞いて見てはくれませんか?」




>……ペガサス、勿論だよ。何でも聞かせてもらうよ。





「トワ。あなたは確か、クチナシの花の因子を持っていますね。その伝承について私からあなたに語りたい事を思い出したのです…」




>クチナシの花のお話なら……もう、





「千年ほど前になります……」




俺は、思わず言葉を飲み込んだ!

そして静かにペガサスの声に集中した。



「私たち四神が、異世界召喚を受けていた頃の事です。バハムート、ラグナロク、ウロボロスの順に居なくなりました。



私は、四番目に召喚を受けて何処かに連れて行かれる所でしたが、(すんで)の所で召喚自体が失敗に終わった様で、一度は助かりました。それどころか有ろう事に、召喚に失敗した異世界の召喚士が此方の世界に落ちてきたのです!」




「私が、住んでいた天空の城の庭先にその者が落ちて来たのです。

それが何とも驚く事にまだ十二歳ぐらいの女の子だったのです!」



「異世界召喚に励んでいたらしく、先の三神を転移させたのもその少女だったのです。しかし、私の番で失敗してしまい、私の知らない世界から、此方に引きずり込まれたのだと言っていました。





彼女の名はエヴァンと言いました。エヴァンの持つ異世界の知識は膨大で高度なものでした。私は、彼女を天空城に住まわせてやりました。



様々な事をエヴァンから知り得た私は彼女と共に5年は過ごしたでしょうか、いつの間にか信頼関係を築いていました。

しかし、困った事にエヴァンは元の世界に帰る手立てが一向に見つからなかったのです」



「そしてまた、ある日のことです。私は再び異世界召喚に遭ったのです! 無論、エヴァンの仕業ではありませんよ。更なる別の異世界からの召喚だったのです。むしろ、エヴァンは私を何処にも行かせやしない! と懸命になり、魔力の限りを尽くして闘ってくれました。」



「ですが、エヴァンの健闘も空しく、私は別の異世界へと転移させられてしまい、エヴァンとはそれっきりと成ったのです…」





「これより後の事は、トワがここに戻してくれたお陰で知る事が出来ました。

トワ、あなたの身体にはこの世界の様々な記憶が秘められています。そこにはユグ族の歴史も関わっています。



私が、この地に帰ってきて一番心に止めていた事を知る事ができたのも、あなたのお陰ですから、あなたには是非とも聞いておいてもらいたいと思ったのです」



「私を天空の里から奪われた自失感に見舞われた彼女は、毎日の様に号泣していました。決して彼女の責任ではないのに大変落ち込んでいた様です。しかし、私を求めて彷徨うことは無かった様です。異世界召喚が如何なるものかを誰よりも熟知している彼女ですもの……。



私の居なくなった天空の里は、結界の効力が弱まり、やがて彼女は下界へと足を運んでしまったのです。


もっとも彼女は魔法の子ですから、空も飛べるので心配には及びませんが。



しかしながら、地上は三守護神が消え去ったので、ドラム以外にも暴徒化した種族で吹き荒れていた様ですね。その災いの元凶は、元を辿れば彼女自身ですが、私と天空に居た彼女にはさほどの自覚は無かった様です」



「天空の里は丁度、ユグの里の遥か上空に位置しておりましたから、彼女が降り立ったのは樹花の里だったのです。どこまでも広がる奥深い樹海。清流の流れに身を任せて渓谷を進めば、神秘さを讃えるような回復の泉と出会う。泉を脇目に凛とした洞穴を進み抜いた先には、緑いっぱいの大草原が旅人を出迎えてくれる。



大草原には多種の花々が咲き薫る。真っ先に目に飛び込んでくるのは見渡す限りを埋め尽くしていた赤色、桃、黄色……。色とりどりのヒャクニチソウだった。



小鳥は世間話でもするかの様にさえずり、草花の隙間に舞い降りてきて、根元の害虫を掃除する様に啄むとすぐ空へと飛び立つ。

飛び立つ鳥の羽ばたきが、野に咲き誇る花々を乱心せざるるが如くに舞い散らせ、香しい花びらたちが風と共に大草原を銀河に変える幻想郷。

絶景かなと見惚れる一人の少女がそこに立つ」




「ユグの民たちが少女を囲い、言ったのです。」





「どこから来たの? お名前なーに? お家に遊びにきませんか?」


「出会いの記念に仲良しになろうよ! 皆でケーキを囲んでお話しましょう」


「とっておきのジョークを聞かせてあげるよ! 皆で盛り上がろうよ」


「お名前なーに? お花はお好き? わたしたちユグ族よ。ここはユグの里よ」


「お名前なーに? 急いでいるの? 旅人さんなんて珍しいね」


「お名前聞きすぎ―! あははははー! 楽しいね 愉快だね」




少女の周りを花の妖精とも呼ばれる、可愛らしい見た目の子供達が賑やかに顔を見せた。

相手は子供で邪悪さも穢れも知らない印象を受けた。



少女は、名前だけを気軽に名乗った。

どこから来たかなど答えられる心境でも無かった。

少女エヴァンは、誘われるままにユグ族の家に遊びに行き、おもてなしを受けた。

ユグ族は、花の蜜を入れた甘い紅茶を振舞ってくれました。



ですが、ユグ族は甘いものが苦手で客人をもてなす時だけ作るのだとか。

暫くの間、談笑し、ペガサスを失った寂しさをほんの少し癒された気がした。

エヴァンはすっかりこの美しい里と陽気で談話好きの民が気に入ってしまい、これと言って行く当てもない為、ユグの里に暫く逗留することにした。

エヴァンは遠い故郷の友を思う様に彼らと接していった。



あっと言う間に一週間、そして一か月の時をここで過ごしたエヴァンは、ユグ族の悩みにも耳を傾け、何か助けになりはしまいかと、色々と知恵を絞った。



ユグ族の悩みとは、雨に降られたり、池にはまったりしてその身が濡れると体調を崩し、熱を出して倒れる。その上、身体からは知らない内に毒素が出て行き、作物などを駄目にすると言うのだ。



病に侵された者はほとんど命を落とす為、晴れた日にしか外出できないのだとか。

花や草木の妖精が水を浴びて濡れたくらいで病死するなんて、可愛そうに思ったエヴァンは、ある日ユグ族に知恵を授けたのです。




薬を作れば良いのだと言った。

アナタたちの症状は私の故郷の湿度病に似ていると。

薬は毒から生み出すものも多い。吐き出した毒を分析して、別の毒でやっつけると言うものが薬だと言うのだが、薬など作った事がなく、毒を恐れていた彼らは面を食らった様子。

そこはもう乗り掛かった舟と言うことでエヴァンが手ほどきをしながら薬を完成させた。



ユグ族は身体が濡れる事を恐れて樹海を抜けた辺りにあった回復の泉を利用していない。なのに、そこは回復の泉だと立て札に書いてあった。そこでエヴァンは、異界のある物質を混ぜ合わせて水飴の様な液体薬を調合したのだ。甘くも無ければ苦くも無い代物で、身体に付着しても滑りが移らないので安心して使用できる。

ここで出会った回復の泉は、減少したエレメンタルの回復が可能な、何とも不思議な場所だった。



薬は飲み水の様に液体で、一度服用すると身体に免疫が出来、二度と同じ症状で苦しまずとも良いものを作ってあげました。薬には、免疫薬と抗体薬があって、身体に必ず免疫ができない場合は抗体薬を作るのだとも。抗体薬は、再度病にかかるとその度服用が必要になると言うもの。



その後、ユグ族はエヴァンから大変多くの薬学を学んだ。

一発で効く免疫薬をユグの雫と名付け、抗体薬の薬草や毒消しはポーションと呼んだ。より効能が優れたものをハイポーション、万能薬クラスはフルポーションと呼んだ。

その言葉は、エヴァンが異世界から持ち込んだ言葉だった。



さすがのエヴァンでも蘇生薬までは、作れなかった。

こうして、その時代にいたユグ族たちは全員、免疫を身体に作り、仲間の毒に苦しめられていた生活に別れを告げたのだ。



しかしながら、薬物には副作用がある、研究の際には細心の注意を払って挑むようにと少女エヴァンは言い残して、ユグの里を後にした。



エヴァンがユグ族の里に現れてから里を出ていくまでの間には、実に10年もの時が流れていた。



エヴァンとユグ族の仲はとても良好だった。ペガサスと過ごした時間よりも長く、人数も桁違いだ。

世界の隅々まで見渡してきたら、またいつの日か必ず戻って来る。



「もっと勉強をして誰かの役に立ちたいの」



彼女の志は、ユグ族の魂に響いた。皆、惜しみなく彼女を送り出した。





エヴァンの去った後も、ユグたちは研究に勤しみ、やがて体にある異変を起こした。

それは、感情と共に体に新たなスキルが宿る様に成ったのだ。

進化と呼ぶべきものだった。

突出した身体能力に目覚めていくユグ族たち。



ユグの里の草木で研究開発をした薬品ばかりだ。進化の末に得たスキルは食虫植物の捕食機能だ。

緊急時、体内で子供を守る事ができるなど様々あった様だ。



その他にも異変は見られた。樹海方面に、それは見事な大樹がそびえ立っていたのだが、大樹は知らない間に天空を貫くまでに背を伸ばし、遂には天空の里の一角に顔を出してしまい、天空の民の知る所と成ったのだ。

早速、事の究明に当たるべく天空の民が大樹を伝ってユグの里まで下りて来たのだ。

時間を要したものの天空の民たちは、事の次第を知る事となった。



ユグ族が自里で病の治療薬の研究をして成功に至った事、その恩恵で里は痛み知らずに至った事。

樹木や草花に潤いと活気が漲っているのが手に取るように分かった。

その為に、樹海の大樹もそこまで大成長したのだろうと、ユグの者から事情を聴かされたのだった。



これについては、実の所、天空の民たちも喜びの表情を浮かべていたのだ。

何故かと言えば、ペガサスが居なくなった天空の里でも、これまでに類を見ない病魔に侵され、苦しむ者たちが多数出ており、頭を抱えていたのだった。その主な原因はペガサスの加護を失った為だと考えていた。



ユグ族も、さすがに天空の領域を脅かしたことは気が引けると言い、丁重に頭を下げて、その上で薬を必要なだけお持ち帰り下さいと天空の調査官を(なだ)めたのだった。



樹木、草木の空に向かって伸びる性質は天然の事だし、たいして被害もなかった事だし、と天空人も今回の事は不問に伏してくださる様だ。

天空の民も、ユグの里より大量の治療薬を持ち帰り多くの者が、その苦しみから解放されたのだった。



天空の里とは、七つの里の中で最も崇高な位置づけであり、どの里の民からも崇められており、威厳に満ちた態度で他里の者に接しなくては示しがつかない。

しかし今は、緊急事態だ。ペガサスが居なくなる前にも三守護神の消失について、下界の里からの悲痛な訴えにも明確な解決策を提示できなかった事など信頼が低迷しつつあった。



守護神なき里は、同様に疫病が蔓延っていて、確固たる治療法も見つからず、疫病が蔓延した地域は即刻閉鎖し、焼き払うしか手立てが無かったのだから。

天空の民たちは、今こそ信頼回復の時とばかりに、ユグ印の治療薬の流通に太鼓判を押した。



「天空の民御用達! ユグ印の万能薬」を全ての里に安価で提供できる様に取り計らってくれたのだ。






>なんかズルくね?





……そして、次第に世界中に蔓延していた疫病は急速に終息していったのだ。



世の人々は、ユグ族の活躍が大きいということを当然、知っていました。

ユグ族は偉大な功績を世界に齎せたと、高い評価を受けるとともに、安価とは言え多くの里との交流と交易をさせて貰えたので、破竹の勢いで名声と繁栄を手に入れていったのです。



だが、この天空の民の判断が(のち)に世界に大きな爪痕を残す事に成ろうとは誰の知る由でも無かったのだ。



それが正に、ユグ族の間に起こった身体への異変であった。

あの薬を研究開発して、服用を繰り返して良い目しか出ないなんて事がある筈も無かったのだ。

毒を以て毒を制す、そんな薬だったのだから…。

元々は、ユグ族の体質から出て来た毒素だ。体質の改善に努めた治療薬ではない。

その毒による苦しみから解放される為の処方だった筈だ。



つまり、あれはユグ族が持つ毒素が身体を侵して発熱で苦しむ、その症状を抑える為の別の毒だった。

決して注意を怠るな! その説明はユグ族も受けた筈なのだが…。

エヴァンが居た頃は、こんな酷い副作用なんて一度も見受けられなかった…。



つまり、急激な痛みや苦しみから一度でも解放されると、その後はどんなリスクがあろうとも、また要求してしまうのが、クスリと言うもの。



「何度も要求せずには居られない」



病に侵された者にとっての真の中毒は、それが心の拠り所となってしまう事で、目の前に置かれたなら頼る、飲んで楽になれと言われたのなら、尚更、手を出さずには居られまい。ましてやユグ族は苦しみに耐えきれねば死が待っているのだから。



身体能力が突出する。抜きんでて向上する。それのどこが悪いんだ?

繰り返しの説明だが、ユグ族は死に至らしめる程の毒素が体内に有ったのだ!

しかし、他種族にはその毒素が体内に有った訳じゃない。



ユグ族は毒素を薬で抑えた先に、進化と言う異変が起きた。

他種族はユグの「死に至る毒素」を持たずに進化と言う異変が起きた。

ユグ族は、毒素を消化するために薬の成分はかなり消費されていた筈なのだ。



別に薬を服用した全ての者が疫病だった訳では無かったのだ。

たいした熱も無いのに、全ての民に予防薬の様に配られたことが問題を起こしたのだった。



そうだ、他種族は、ユグ族よりも遥かに身体能力が向上してしまった。強靭になり過ぎたのだ!

守護神が居なくなり暴徒化する者が増えてしまった。

そこへ来て、天空の民の威厳とやらの為に守護神の居ない者たちほど屈強な力を手に入れてしまったと言う訳だ。





結局、ユグ印のお薬が招き入れた災いとは種族間の勢力争い。

事の審議に入った天空の民たちは、あの薬の流通を禁止させるに至った。



審議の内容は、

ユグ族が本当に自力で万能薬開発などの英知を持っていたのか? と言うことが議題に上がった。



天空の城の城主は、天使長という者が最高権利者におり、ユグ族は天使長の尋問に遭ってしまって本当のことが天使長と一部の天空人に発覚してしまったのだ。



その元凶が、いい気になって入れ知恵した者が、天空城にかつて居ついていた異界のエヴァンだと言う事が!!





ペガサスの居ない今は、天使長が最高権限を有する者だ。

天使長は、決定した!




「エヴァンを直ちに拘束せよ!」



「おのれ、エヴァンめ! 異界の地よりやって来たお主が一体何を仕出かしたかも忘れたか!」

「ペガサス様が城に留まることだけをお許しになった事が盾となり、天罰を下せずじまいであった」



「ペガサス様が行方知れずになった折には、我らもアヤツどころでは無かったが……」

「此度は必ず天使界の威厳で引導を渡してくれるわっ!!」





天使長の怒りに触れたらしい少女エヴァンが、もう間もなく天界の牢で獄に繋がれる……

その悲報は忽ちの内にユグの里全土に広がった。



この審議内容は余りにも残酷過ぎるとユグの民たちは憤りを禁じ得ない。

ユグの代表たちが、樹海の大樹に昇り天空の里へ抗議のため出向いた。



あの薬で実際多くの民が命拾いをしたのは紛れもない事実だと。拡散を決定したのは天空の民の威厳や信頼回復のための独断であり、よく検証もせず他種族に用いたものだ、と。



結果で良い目を見るなり喜んで、悪い結果が出れば、全ての罪を彼女一人に着せるのか、と。

命を救われた民は一体誰に感謝をするのかね、と。

等々、問いたい事は山ほどあっただろうユグの民に向けて、天使長は言い放った。





「確かに……薬剤の件は、名分なのかも知れない。悪いが彼女は天空で生涯預からねばならない身だ。そなたらの話から察するに、親密な関係を築き上げた様だな。ならば、彼女が何者か、これまで何をこの世界に齎せたのか詳しく聞かせてやろう……」




そして、彼女の素性を全て知ったユグ族は、言葉を失った。





天使長は続けて彼らに告げる。

「ユグの代表らよ、聞いた以上はこの事を決して誰にも語ってはならぬ! もしこの場にいるそなたら以外の者が四守護神失踪の件を口にするのを確認したその時は……!」



口外したその時は、エヴァンはおろか、ユグ族も全員、拘束の対象とする、と。

要するに墓場まで持って行けと言うのだ。彼女の身柄は幽閉にとどめておき、ペガサス様が戻られた時に改めてご判断を仰ぐと言う条件でここは引き下がれ、と言い渡されたのだ。



他に選択肢は無かった。無事でさえ居てくれれば……と。




ユグ族たちは、最後にもう一度だけ彼女と会話をする機会を下されと懇願した。

ユグの代表者数名と、少女エヴァンは再会した。



しかし、出てくるのは大粒の涙ばかりで、掛けてやれる言葉など見つけられなかった。






「未だかつて大地から離れた事のない種族が、こんなに高い所までやって来て自分たちの事は顧みず、人の心配なんかしてるんだから全く…。天空なんて一番気候が変わりやすいのよ。



雨に打たれても、もう平気になったようね。涙をいっぱい流せる様にも成ったのね、よかったね」




エヴァンは、そう言って自分なんかの為に駆けつけて来てくれたユグ族たちをいつまでも変わらぬ心で力一杯ぎゅうっと抱きしめた。何だか甘える様に…。




「ねえ、聞いてほしい事があったんだ…」



そう言ってエヴァンは、初めてユグの里に来た時の事を彼らに語った。



エヴァンは樹海方面からやって来ていて、清流の渓谷に入る手前で一本の立派な若い大樹を見かけたのだ。



大樹に近づき、その木に背もたれをしていたら、温かい木漏れ日と涼しい風が頬の辺りに吹いてきて何だか不思議と見守られている様に少しの間、眠ってしまったの。



私の元居た世界にも似た風景があって、束の間だったけど、父さんと母さんに夢の中で会えたの、と。

今にも目が覚めそうな瞬間に母さんが、「おはよう、エヴァン!」って。



目が覚めてからも、あの木の傍にいる間、母さんの呼ぶ声がこだましていたの。私…思わずその木に向かって、母さんの名前を呟いていたんだ。



「アリアって言うの、母さんの名前……。あの時、吹かれた風が母さんたちと過ごした憩いの旋律を奏でてくれたと感じたの……。だから、もしみんなさえ良かったら、あのみんなが昇って来た大きな木の名前……アリアって呼んであげて欲しいなって」



ユグ族は彼女の眼をしかと見る。

その涼し気な瞳には、少女とユグ族の出会いの花びらが映っているかの様にも思えた。

出会いの場所に咲いていた花は、暑さや湿度に決して負けない種だから、アナタたちも決して心を折る事なく、咲き薫れと言うのが分かった。




アリアというのは異世界では、音が奏でる旋律と言う意味の言葉なのだとか。

エヴァンは、ユグ族たちにたったそれだけを言い残して、天使長の方へ歩んで行った。



ユグたちは、エヴァンの後ろ姿を目で追いながら、願いは必ず叶える任せておけ、と力強い眼差しで彼女を見送った。

ユグたちにとってはエヴァンと過ごした日々が旋律であり、異世界でもあったことだろう。




下界へ降りた後、天使長との約束、絶対に誰にも四神の事を言わない、エヴァンの素性を一切口にしない、と。



大樹の名は里を上げて、未来永劫「アリア」と語り継ごう、と固く誓い合ったのだ。



その大樹は涼しい風と共に永久に在る。










それから、50年も過ぎた頃だった。天空のペガサスも一向に戻らないまま、天空城に幽閉されていたエヴァンが静かに息を引き取ったと天空の民からユグの里へ、一報が届いた。



天使長から、せめて母の面影を見たと言うあの木の傍に亡骸を葬ってやってくれと棺桶と一緒に、天使長の文が添えられて届けられたと言う。




エヴァンが逝去した後も、エヴァンの伝説や噂話さえも残さなかったと言う。



だが、天空の里ではエヴァンは守護神ペガサスの大切な友として讃える事が決まった。

あれ程、憎んでも憎み切れない存在だったエヴァンが天空の民より賞賛を受けるなんて一体どういう風の吹き回しなのだろうか。この件については天使長の推薦が大きい様なのだ。天使長たちも病からの苦しみからは救ってもらい、多くの他里の危機も回避できた事は事実であって、それらは偏にエヴァンの異界の知識の成せる技である事を考え直した結果なのだと。


 そして、我が主ペガサスならば、どのような審判を下すのだろうと…ペガサスの視点からのエヴァンを皆で検討しつつ、これをペガサスへの忠誠心として示す決断へと至ったのだ、と言う事だったのだ。

 天使長らも立場上はエヴァンの拘束等は止むを得ないこと、しかしながらペガサスの意思によって友として天空に受け入れた事は、自分たちにとっても主の友として敬意を払い、主に代わって何かしらの待遇でもて成しをしておかなければ、対面に関わるとの思惑からでもあった。


 この様にして天使長らのペガサスへの忠義によって……まだ世界には、まとまった一つの名が無かった為「良き友よ! 永久の繋がりを……」と言った意味を込めて、この世界の名を、





「グッド・エヴァンタシア」と命名したのだった。








千年も過去の記憶です…。

その後、エヴァンの事が一切、ユグ族の口からこぼれ出ることは無かった。

ユグ族は花の民とも呼ばれていたことから、クチナシは良き友を思うが為に口を閉ざし秘密を守り切った彼らユグ族の事だと言えるでしょう。

口を閉ざすことを、口を結ぶとも言います。

古き良き時代から結ばれていた固い誓いと言う意味に成りましょう。



これが私の知るクチナシの花の伝承です。



そして、アリアと言う大樹が初めての進化により、天空に顔を出した時に天空では見かけない花が咲いていたと記憶の中の天使長たちが、はっきりと見ているのです。




世界一の巨大草ラフレシアという花を!






きっと……、トワ。

あなたが如何に進化を遂げようとも、あなたは、この先も未来永劫クチナシの花を咲かせていくのです。



清純な純白の乙女の祈りをあなたの中で完成させゆくのです。



アリアも、エヴァンと共に不思議と千年以上も、グッド・エヴァンタシアの世を見守ってくれていたのですよ。もう安らかに心穏やかに眠らせてやって下さいませんか?







>……………………………はい。ペガサス! ありがとう。もう吹っ切れたよ!

 もう、泣き言なんか言わないさ!

 みんな傍にいてくれて、ありがとう。










後日談。



古の大樹に付けられたアリアと言う名は、母さんの名と同じである。

そして、咲いた花からもそれは間違いなく母さんなのだ。

だが母さんが千年も生きていた訳ではない。




俺の記憶にも、あれから更新された記憶があったのだ。


エヴァンの死後は、その亡骸を大樹の根元に埋葬されたのだ。



エヴァンと言う人は途轍もない魔力を持っていた。

あの大樹に母の名を付けて呼ぶという願いを残して去った。熱き志の者たちはそれを実行に移す。

仮に、死の際に大樹の根元に埋葬して欲しいと天使長に頼んだのであれば、死の50年前からの計画とも言えないか。



もっと言えば、更に10年前ユグ族との出会いすら計算の内で、ユグの里の事も天空の里にペガサスと5年も居たのだから知り得て居ても不思議ではない。



では、ペガサスがまだ居た頃からの計画とも捉えられる。

その頃すでに千年先にこう成って居ることを見て来た人であるかの様だ。



そう言う人に俺は心当たりが1件ある。ああ、そうだ。風のソノのことだ。

ペガサスの話を聞いてから頭の中から湧いてくる疑問符によって、世界樹が俺の抱く矛盾をすっきりさせてくれるかの様に、記憶を更新して、最新の状態にしてくれた様だ。



お陰でこれらの事が推理できる様になったのだ。



エヴァンは、異世界では一切の事に秀でた魔導士だったのだ。人への優しさも温かさも持ち合わせていた人徳にも優れていたのだ。だが、歳には勝てなかった。

彼女の居た世界で何が起きたかまでは分からない。

しかし彼女は、生き抜いて断じて果たさなければならない何かを抱えていた。



だが、恐らくは無限に若返る方法などが無かった。故に異世界転移を自身に試してみたのだろう。

そして行き着いた先がこの世界だったのだ。

ここで彼女が起こした騒動を考えれば、暫くの間、守護神を彼女自身が飲み込んでいたのだろう。

それは守護神の能力を会得する為に。



それに要する時間が千年はかかるのだろう。だが、守護神を亡き者にすればこの世界の民に迷惑が掛かると考えた。



この世界では、さすがの彼女にも誤算が生じていたのだ。

一つに彼女は年老いていた、また一つに此方の世界の物理法則にズレがあったなど。

思うように事が運ばず試行錯誤した結果、この方法に辿り着いたのだろう。



守護神のパワーの吸収は、すぐに終えていたのかも知れないが、すぐに吐き出しても守護神が無事では居られない事を分かっていたのだ。つまり、彼女が千年かけてこの世界でやろうとした事は、守護神の生還術だと言う事になる。



守護神たちにも、この世界の民たちにも罪なき事を知っているが故に、元に戻してから帰りたいと考えてのことだ。



千年後の未来のこの場所で蘇生術の対象になっていた人物と言うとソノだけではない。四守護神も含まれていたのだ。



そして蘇生の担当者は俺だ。俺が全力で救いたい人でなければ復活することへの確立が下がる。

それは、もうソノを於いて他には居ない。

エヴァンは、風のエルフのソノに転生した魔法使いなのだ。



アリア母さんが、ここに居ない理由。種化していたのはエヴァンなのだ。

四神たちを大回復させるには、時間も去る事ながら、生命維持装置となる巣が必要だったのだ。

それが世界樹だったのだ。その役目をこの世界で果たせるのは、ユグ族だけだったわけだ。



ユグ族の持つ進化のスキルが、エヴァンのスキルと同じだ。

きっと祖先が継承したのだ。あの治療薬の伝授もこの為に施したのだろう。

俺が、ソノを飲み込んだと同時にセフィロスのエレメンタルを内包出来たのも納得がいく。



俺は、千年前の守護神失踪は、てっきり異世界へ召喚されているものと思い込まされていただけなのだ。

だって、バハムート、ウロボロス、ラグナロク、それらを持ち去ったのはエヴァンじゃないか。

なのに、エヴァンはこの世界に居る。

転生して生きているのだ! 



つまり、三神の能力は何か? バハムートは置いといて、ウロボロスは無限に巡る能力それは正に転生しかない!

そして、時空のラグナロクは言葉通り、時空間を行き来する能力、千年後に行って見て来て帰ったなら、辻褄が合うのだ!




常闇のバハムートは闇属性つまり、目隠しが得意、言い換えれば神隠しの能力なのだ!

最初に消えたのはバハムート、つまり真っ先に必要とする能力から奪ったのだ。



植物は再生の象徴。大きな再生をするには巨大な植物が必要だったのだ。

では、何故エヴァンは、まだ少女だったのにそんな大がかりな再生医療が必要だったのか?



ここまで来たら、答えはそう難しくはない。

低年齢の割に強大な魔力、コレがどうにも引っかかった。



彼女は十分に若返ったが、この世界の事を放っておけなかった。

守護神を全て完全回復させる為に敢えてもう一度、千年後に転生する道を選んだのだ!




魔導士エヴァンの転生先は、俺が心をときめかせた風のエルフで一番可愛いソノだ!

エヴァンは風神セフィロスと炎神イフリートは、必要じゃなかったらしく吸収しなかった。





アリア母さんと再会した時、母さんは俺にこう言った。先ずはエルフの娘を救うのだ、と。

もし本当の母さんなら

「実体がないからアナタを抱きしめてあげられなくて御免なさい」とか、「ああトワ! どんなに会いたかったことか、辛かったでしょう?・・・」



幼き日に分かれた母親が少しは成長した息子と再会したら、言ってくれても良いだろう言葉の一つも無かったのに……。

母さんは、とっくに亡くなったんだと気付けなかった。




けど、エヴァン……母役も演じてくれて俺は楽しかったよ。

エヴァンの優しさと出会った友を宝の様に愛せる真心をお手本にするよ!



……本当にありがとう。






ラストになったので整理をしておこう。




超可愛いエルフのソノ、俺の花嫁。



その中身には、異世界の魔導士エヴァンも含まれている。





常闇のバハムートのくらやみ能力を有している。

無限ウロボロスの転生能力を有している。

時空ラグナロクの時空間移動能力を有している。

天空ペガサスの能力は、少しの未来をを覗き視る先見の眼があったが、吸収出来ずじまいだった。



間接的に風神セフィロスを味方につけている。



俺は、途轍もない花嫁もらっちゃたみたい。



必要とされず取り込まれなかった?……炎神イフリート、この方は俺の中に。

いや、完全回復を果たした六守護神はすべて俺の中に住んでいらっしゃる。



全てを知った俺、ユグドラシル(世界樹)。 





エヴァンが花嫁から抜けても、すべてを味方に出来た事は決して揺らぐ事はない。

エヴァンが花嫁から抜けるには、俺と花嫁であるソノの子として生まれてくる必要がある。

その後、暫く手元で成長を見守ってやれば、前世の記憶はあるので早々に元の世界へ還って行けるだろう……。これこそが、エヴァンが千年越しに成し遂げ様とした転生劇なのだ。







エヴァンも若返ったし、可愛いエルフと結婚できたし、守護神も戻って来たし、あとはゆっくりとエヴァンが、ソノの身体から抜けて元の異世界へ帰ってくれれば言う事なし!




でも、俺の傍に居てくれる可愛い花嫁は、エヴァンがまだ出て行かないおかげで、謎めいた三角関係が出来ちゃってるんですけど……………だ、大丈夫だよな。

……こ、こじれないよな。



十六で花嫁もらった。……お、俺、なんも経験ないから不安だな。




俺の花嫁を異世界にさえ連れて行かれなきゃ、アリかな、こういう恋愛の    カ・タ・チ



お、おやすみなさーい! ぼ、僕はもう寝ますよー!



グッド・エヴァンタシアに平和の鐘が鳴り響く。





新婚初夜の夏は、とても長く暑く……熱く? なりそうです。









目が覚めたら……僕と一緒に踊ってくれないか。








ETERNAL. EVANTASIA. GOOD LUCK !


  






              了











2020 夏の小さな遠足ぐらいのつもりで書きました。

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