サソリ五体衆
バガーーン!
ヤマーダが重そうな扉を蹴破ると、
“魔物が現れた”
死神サソリ 5体
「くそっ、待ち伏せかっ! ルルは前衛で近接攻撃! アルベルトは俺と中衛で魔法攻撃! イッズームは周囲を警戒! ミシェルは後方で待機だ!」(ヤマーダ)
ヤマーダは即座に剣を抜き、パーティー(PT)に迅速な指示を出す。
「あの~、ヤマーダ様…」
ミシェルの温度差のあるゆっくりした問いかけ。
「気を抜くな! ここは既に戦場! 1分1秒の遅れが生死を分かつんだ!」(ヤマーダ)
『あの~、ヤマザル様?』
同じくハニーもかなり温度差がある。
「大丈夫だ、皆。敵は五体、少数だ! 俺達なら余裕で勝てる!」(ヤマーダ)
「「『………』」」(ヤマーダ以外)
「あの~…ヤマザル様、十分満足しましたか?」
状況を察したアルベルト。
よくよく見てみると、
「あっれ~?」
ハテナ状態になるヤマーダ君。
そもそも、目の前の死神サソリ達には闘志が感じられない。
なんだったら、呑気に《ヤマ茶》を啜ってすらいる。
なんで敵が寛いでんのよ?
「なんか、おかしいんですけど! 俺、管理所が魔物に襲われたって聞いたんだけど!」(ヤマーダ)
混乱しているヤマーダに、
『違いますよー。魔物のお客様が来ましたよって言ったんです!』(ハニー)
「えーっ?」(ヤマーダ)
ここは、境界地帯にある管理所の来賓室。
そこにあるとても高そうに装飾された扉は、ヤマーダが容赦なく蹴破ったせいでバッキバキにぶっ壊れてしまっている。
『お久ー、兄貴』
『あ~ぁ、扉、壊しちゃった~』
『お久しぶりです。お腹が空きました』
『よっ!』
『兄貴、こんな所に居たのかよ!? それにしても、いきなり扉を壊すなんて、どんだけバカなんだよ』
ヤマーダはいつの間にか、馴れ馴れしく話してくる死神サソリ達に囲まれていた。
「えーと、どちら様ですか?」
ヤマーダには彼らと面識がない?
『それって、ボケですか?』
『またまた~』
『あーっ、お腹が空きました』
『なんかツッコむか?』
『コイツ、相変わらずふざけてんなぁ』
なんとなく息の合ってる5体。
「いや、洒落じゃなくてさぁ、本当に知らないんだけど」(ヤマーダ)
『ガーーン!』
『ギーーン!』
『グーーン!』
『ゲーーン!』
『ゴーーン!』
ショックを受けるタイミングもバッチリ。
----------
3591年11月1日
魔国領西部境界地帯・管理所〈来賓室〉
ヤマーダ、ルル、アルベルト、ミシェル(人化)
イッズーム
現在、ヤマーダは境界地帯に赴任しているハニーから緊急の報告を受けて、管理所まですっ飛んできた。
態々(わざわざ)、扉を蹴破って…
そして、
全く知らない死神サソリ5体に、ヤマーダは取り囲まれている。
因みに、
現在のヤマーダは素顔を晒している。
No ナマザル状態。
魔国領での人族に対する偏見が少なくなってきたことから、ヤマーダ専用ナマハゲマスクは封印状態となったのだ。
「え~と、俺はヤマーダ。しがないニートなんですけど、誰かとお間違えではないんじゃないですか?」
先ず丁寧な自己紹介から始める。
『間違う訳ないじゃん、そんなブサイク面! ほら、オレ、ウマズラだよ』
馬面がブサイク面って言ったよ、今
「ウマズラ? それってキミの渾名?」(ヤマーダ)
『おいおい、何言ってんだよ! アンタが付けたんじゃんか!』
はぁ?
「えっ! 俺!?」
そして残りの4体も、
『オレはヘラブナ』
『アタシ、コイ』
『オレはオニオコゼ』
『ダボハゼだ! ふざけてんなら、ブン殴るぞ!』
やっと面識のないサソリ達の名前が分かったヤマーダ。
しっかし、
「え~と、一切、知らないです」(ヤマーダ)
『『『『『ズコーーッ!』』』』』(サソリ達)
5体は一斉にずっこける。
息ピッタリだけど…
新喜劇かな?
『まぁ、名前の原案はヒロシさんが考えてくれたからなぁ』(ウマズラ)
『確かに』(ヘラブナ)
『お腹空いた』(コイ)
『アンタ、最初とか言ってたし』(オニオコゼ)
『ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
ヒロシ?
また、謎の人物が!?
「え~と、その~、ヒロシさんって?」(ヤマーダ)
今のヤマーダには、ヒロシという名前に心当たりがない。
生島?
それとも芸人の方?
『アンタの右腕じゃんか』(ウマズラ)
『マジで忘れてんなら、ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
ダボハゼ君は「ブン殴るぞ」が口癖?
「えっ? 俺の右腕? アルベルトじゃなくて?」(ヤマーダ)
『ちげーよ、バーカ!』(ウマズラ)
あんれーっ?
最初はオレの事
「兄貴」って呼んでなかったっけ?
「もしかして、ヤマザル様が記憶を失くされる以前に出会ったのでは?」(アルベルト)
「あー、なるほど」
ヤマーダーマヤ会に居たって時か…
『えっ!? アンタ、記憶喪失だって!』(ウマズラ)
『記憶喪失、記憶喪失、マジ、ウケるーっ!』(ヘラブナ)
ウケちゃったよ
『ご飯、まだーーっ!』(コイ)
コイツ、飯の事ばっか!
『そいつは困ったな』(オニオコゼ)
『馬鹿って、記憶喪失にならねんじゃねぇの?』(ダボハゼ)
それを言うなら、
「馬鹿は風邪引かない」ってヤツでしょ
………
って、オレ!
馬鹿じゃないし!
1名、「腹減った、腹減った」と煩いので、ハニーが《ヤマチ》を運んでくれる。
「でさぁ、お前ら。俺に何の用なんだよ?」
とにかく、ヤマーダには理由を知りたかった。
特に誰から薦められることもなく、《ヤマチ》をハサミで掴むと、
バリッボリッ! バリッボリッ!
『ほら、レベルが最大まで上がったら《進化》さしてくれるっ約束に決まってんじゃん』(ウマズラ)
コイツ、勝手に食い始めやがった!
「どうぞ、お召し上がりを」って
言われてからじゃねぇの~、普通はよ~!
バリッボリッ! バリッボリッ!
『決まってんじゃん、決まってんじゃん! 早くしてくんない』(ヘラブナ)
コイツも普通に食い始めやがった!
バリッボリッ! バリッボリッ!
『とりあえず、《ヤマチ》おかわりーーっ!』(コイ)
おかわりまでだとーっ!
テメエら、コラーッ!
バリッボリッ! バリッボリッ!
『以前、約束したじゃないか』(オニオコゼ)
えっ?
約束!?
オレと?
マジっすか?
ちょっとヤマーダも冷静になってきた。
バリッボリッ! バリッボリッ!
『テメエ、ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
暴力はちょっと…
話し合いでなんとかならないっすか?
って!
あーっ、もうアホらしい!
オレも食う!
食うったら食う!
バリッボリッ! バリッボリッ!
「う~ん…そう言われてもなぁ、全然覚えてないし」(ヤマーダ)
何故か一緒になって、《ヤマチ》を食べる一同。
バリッボリッ! バリッボリッ!
『でも、約束したじゃんか。それにオレ達と兄貴は特別な関係じゃん!』(ウマズラ)
バリッボリッ! バリッボリッ!
「特別な関係? 何それ?」(ヤマーダ)
《ヤマチ》を食いながらのダル~いトークに、
「あのーっ! すみませんが! 食べるか喋るかハッキリしてくださいっ!」
アルベルトがちょいギレ状態になった。
バリッボリッ! バリッボリッ!
「でも、ヤマーダが約束したんでしょ。だったら、《進化》してやればいいじゃん」
アルベルトの注意もなんのその、ルルは相変わらずの通常運転をしている。
「あのぅ、ルルさん。さっき私が注意したばっかりなんですが…」(アルベルト)
バリッボリッ! バリッボリッ!
「あぁ、アタイはそんな小さい事、いちいち気にしないから」(ルル)
ルル…お前、スゲーな
「はぁ…」(アルベルト)
何を言っても無駄と諦める。
一旦を諦め、手についた塩を舐めながら、
「あのさぁ、約束ってなんなの?」(ヤマーダ)
サソリ達もおかわりした《ヤマチ》をこっそり背中のカバンに入れながら、
『オレ達五体衆と兄貴とで、思考パスってヤツを共有したじゃん』(ウマズラ)
「ふ~ん」(ヤマーダ)
あーっ!
確かに、魔物を仲間にするとき、
そんな脳内アナウンスが入るような…
『で、オレ達と約束した』(ヘラブナ)
「だから、何を?」(ヤマーダ)
バリッボリッ! バリッボリッ!
『いつでも旨いモンを食わせてくれるって、あっ! また、《ヤマチ》おかわりね』(コイ)
「じゃあ、《ヤマチ》食ってんだし、今、解決したじゃん」
も~、帰れよ!
『もう一つある』(オニオコゼ)
「それが《進化》ってことか?」
『あったり前だろ、テメエ。ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
ふむ…
そんな約束したのか?
でも、ブン殴られたくないしなぁ
そして、
『そもそも・・・』
オニオコゼがヤマーダとの出会いから今迄を説明し始めた。
サソリ五体衆。
彼らは、旧オーガ村を襲っていた死神サソリ達だ。
元々、彼らとヘイハチの息子達の戦いにヤマーダが勝手に介入。
ヤマーダの強引な説得で服従。
その際、ヤマーダ個人とサソリ達で思考パスを共有する。
因みにこのサソリ達、ヤマーダ個人と共有した唯一の存在だったりする。
また、彼らの名前は、ヒロシが魚から付けたものだ。
ウマズラ・
海に生息するカワハギ科の魚。
刺身を肝醤油で食べると最高。
ヘラブナ・
淡水に生息するコイ科の魚。
唐揚げや味噌煮が一般的。
淡水魚なので刺身だと寄生虫がいるかも?
生はちょっと怖い。
コイ・
淡水に生息するコイ科の最もポピュラーな魚。
鯉こく、甘露煮などが一般的だが、
あまり美味しくない。
とにかく、泥臭い。
食べるなら、下処理されている専門店で。
オニオコゼ・
海に生息するオニオコゼ科の魚。
刺身、唐揚げは絶品。
でも背ビレには毒があるので注意。
ダボハゼ・
海に生息する下魚。
唐揚げにして食べられなくもないが、
出汁にすると面倒がなくて楽。
幾らでも釣れることから、
釣り人には嫌われている。
ちょっと可哀想な存在。
そんな彼らがヤマーダ個人と仲間になる条件、それは食糧を提供することだった。
死神サソリにとって、襲っていたオーガとはただ食糧に過ぎない。
ヤマーダが勝手に介入したことで、サソリ達の食糧を奪ったことに。
代わりの食糧をサソリ達に提供する事、それが当時、オーガ達を見逃す条件だった訳だ。
ヤマーダの仲間になって以降、サソリ達は偶々(たまたま)《進化》している仲間達に会ってしまう。
すると、
同じように《進化》させろと煩くせがんでくるように。
そこでヤマーダが、
「じゃあ、レベルが最大まで上がったら訪ねて来て」
とその場を適当にあしらって、お茶を濁してしまう。
そんなヤマーダの適当な気持ちなど露知らず、レベルMAXになったサソリ達が、満を持してここへやって来た訳なのだ。
『・・・という訳だ』(オニオコゼ)
長々とした説明が終わる。
待ってましたとばかり、
『そうだぜ、兄貴! アンタが言った事なんだぞ! 男なら責任とれよ』(ウマズラ)
『責任、責任! ヒロシさんに言いつけるぞ』(ヘラブナ)
『やってくれないんなら、ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
なんなのよ、コイツら
そもそも、
主人のオレは「アンタ」呼ばわりで
ヒロシって人は「さん」付けなのよ?
オレに服従してんじゃないの?
はぁ…
「面倒臭ぇなぁ」
言い争うのも面倒になってきたヤマーダ。
『面倒臭いってなんだ! ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
『あっ!』(ウマズラ)
今度は何かを急に思い出した。
『その前にアンタの魔法とスキルが使えなくなったぞ! これはどうなってんだよ!?』(ウマズラ)
『そうだそうだ!』(ヘラブナ)
『獲物が狩りづらくなったじゃない!』(コイ)
『一度、オレ達に与えた力なら、勝手に奪うなよ!』(オニオコゼ)
『オメエ、ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
今度は文字通り、モンスタークレーマーに。
「いや、そんなこと、俺に言われても…」(ヤマーダ)
保証書、ちゃんと呼んだの?
「ヤマーダさんの都合により、魔法等は
使えない可能性もあります。」って
小っちゃい字で書いてなかった?
『『『今すぐ戻せ!』』』(五体衆)
難癖激しいサソリ達。
そして、
『『『今すぐ戻せ!』』』(五体衆)
『『『今すぐ戻せ!』』』(五体衆)
戻せ戻せの大合唱。
ピンポンパンポ~ン♪
現在、この電話番号は使われておりません
番号をお確かめの上
もう一度、おかけ直しください
ピンポンパンポ~ン♪
頭の中でアナウンスを流し、ヤマーダは軽く無視している。
それでも、
『『『今すぐ戻せ!』』』(五体衆)
『『『今すぐ戻せ!』』』(五体衆)
大合唱は止む気配がない。
はぁ…
まだ、言ってるよ…
「あ~ぁ、分かったよ」(ヤマーダ)
根負けして、《魔物の覇者》の共有対象に加えてやることにした。
----------
そして話は元に戻り、
「はぁ…じゃあ《進化》できるかどうか分かんないけど、やってみるよ」(ヤマーダ)
『よっしゃー!』(ウマズラ)
えーと、
オレが《進化》させるんだったよな
“進化先は、スコーピオンナイト、スコーピオンメイジ、スコーピオンアーチャー、スコーピオンシェフ、ファイアースコーピオンになります”
ちゃんと脳内にアナウンスが流れる。
こうやってオレが選択できるってことは、
思考パスが繋がってんのは間違いないな
《進化》するには、名付きで、且つ、ヤマーダが従えている魔物のみだ。
え~と、
ナイトにメイジにアーチャー…
直訳すると
戦士、魔法使い、猟師、料理人、
最後は、炎のサソリって感じか
カッコいいじゃん!
「え~と、スコーピオンナイト、スコーピオンメイジ、スコーピオンアーチャー、スコーピオンシェフ、ファイアースコーピオンになれるみたいだけどさぁ、何れにすんの?」(ヤマーダ)
ウマズラ達に提案しながらも、
でもさぁ
元の《死神サソリ》って、
デススコーピオンってことだよねぇ
そっちの方が強いんじゃないの?
なんか、
《進化》で弱くなっちゃうんじゃない?
そんなヤマーダの不安を余所に、
『オレ、スコーピオンナイトで!』(ウマズラ)
『スコーピオンメイジ!』(ヘラブナ)
『スコーピオンシェフしかないでしょ!』(コイ)
『スコーピオンアーチャーがいいな』(オニオコゼ)
『ファイアースコーピオンに決まってんだろ、ブン殴るぞ!』(ダボハゼ)
それぞれ、希望する種族を即決で伝えてくる。
キミら、考えるって作業をしないの?
まぁ、オレ的には時短になるから
良い事なんだけどさぁ
「でもさぁ、死神サソリの方が強そうじゃない?」(ヤマーダ)
ヤマーダなりの最終確認。
一応、最終確認
後々
「ふっざけんな! 弱くなったじゃん!」
って苦情が入っても、こっちが困るし
ブン殴れたくないし
『《進化》が良いんだよ! 早くしてくれよ!』(ウマズラ)
『『『『そうそう!』』』』(ウマズラ以外)
《進化》一択のサソリ達。
「あっそう。じゃあ、自己責任ってことで」(ヤマーダ)
こうして、
《サソリ五体衆》は希望通り《進化》する。
『やったぜ!』(ウマズラ)
『マジ最高ーっ!』(ヘラブナ)
『旨い飯、作っちゃうよ』(コイ)
『Yes !』(オニオコゼ)
『誰かブン殴りてぇ』(ダボハゼ)
《進化》に大興奮の5体。
『じゃ、兄貴。またなぁ』
『またまたのばいばいきーん』
『昼食はなんにしようかな』
『兄貴、オレ達、直ぐレベルを上げて戻ってくるから』
『ブン殴ってやろうか?』
急に「兄貴」って呼びやがって
ホント、調子いい奴らだよ
で、
直ぐ戻ってこなくてもいいからな!
ヤマーダへの挨拶が済むと、5体はまた何処かへと行ってしまった。
一連の出来事に唖然とするヤマーダ達。
「…ねぇ、今のは、なんだったの?」(ルル)
「…さぁ?」(ヤマーダ)
こうして、
サソリ達は嵐のように訪れ、嵐のように去っていった。
だが、ヤマーダ達は知らなかった。
彼らこそが、ここ魔国領の治安を影ながら守っている最大の功労者であり、住民から慕われている《サソリ五体衆》ということに…
《能力共有》
ヤマーダ、ネーコ、ルル、イズム、マサオ、
マツコ、ノーラ、ソンチョウ、ダイヒョウ、
ハヤテ、ゴブジ、オサnew、マサムネ、
ハニー、ミシェル、ボクシ、ダイスケ、
ゴエモン、フジコ、イズエモン、
イズサブロウ、イズノシン、イズシチ、
イズザル、イズベエ、イズムネ、イズゴロウ、
イズスケ、イズリ、イズシロウ、イズゾウ、
イズロク、イズジ、イッズーム、
アクアマリン、ウマズラnew、ヘラブナnew、
コイnew、オニオコゼnew、ダボハゼnew
計40人(ヤマーダを除く)
体力・306(+α)
魔力・254(+α)
攻撃・388(+α)
防御・312(+α)
知識・264(+α)
敏捷・196(+α)
運・298(+α)




