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《空気使い》って?  作者: 善文
79/134

リンの冒険②

キンッ!


キンッ!

キンッ!


 女性の剣とゴブリンのこん棒が交錯する。


 剣の鋭い勢いに、こん棒の振り上げが少し遅れる。


「もらったぁー!」


ガキーーン!

 大きな音とともに女性の強烈な一撃で、ゴブリンの手からこん棒が叩き落とされた。



『それまで!』

 審判のオークの一声で、女性とゴブリンの練習試合は女性の勝利で幕を閉じる。



流石(さすが)、リン!」

 猫族獣人バードが女性剣士のもとへ駆け寄り、女性剣士リンの戦いを誉め称えた。


「リンさんは相変わらずお強いですわね」

 犬族獣人メリルからも称える言葉が。


『いや~なかなか、お強いですね。ワシも修行が足りないな』(オサ)

 照れ笑いを浮かべながら、先ほどまでリンと対戦していたゴブリンビショップのオサがリンの腕前を持ち上げた。



 (ちな)みに、オサとはルル村設立以前からこの集落で生活していたゴブリン族の(おさ)、後にヤマザル村へ加入した者だ。


 (おさ)の名前がオサ。

 如何にも安易につけられた名前と、誰の眼にも明らかだ。



 リン達一行は境界地帯からルル村へ活動拠点を移していた。


 境界地帯でほとんどの仕事を経験したリン達。

 審査官のハニーから規模の大きい町での活動を薦められたからだった。



 そして現在、

 リン達はルル村の外れにある練習場で、冒険者としての特訓をしていた。



「しっかし不思議だよな~、なんでこ~んな訓練なんかが仕事なんだ?」(バード)


 実はこれ、リン達にとってはルル村での初仕事だった。


 不思議なことに、ルル村では特訓自体が仕事と認識されているのだ。


『冒険者の皆さんには、いざって時に命がけで働いてもらうことになるんです。ですので、例え練習だったとしても、それ自体が立派な仕事なんですよ』(オサ)

「…へぇ、なんか…新鮮」(リン)


 リンが不思議に思うのも無理はない。


 この異世界(ガイア)における冒険者稼業では、商隊の護衛、魔物の討伐、町の雑用などと仕事内容が多岐にわたる。

 しかし、冒険者自身の自己鍛練のように依頼者の直接利益にならない事は含まれていない。


「そう言われると確かに、仕事のようにも思えますわね」(メリル)


「でも、練習はキツて嫌!」(セシル)

「ホント!」(キャロル)

 魔法使い系の二人には、ここでの練習が好きになれないようだ。


「まぁ、これも仕事の内ですよ」(フィン)


「オレは他の仕事よりも、ここでの練習って仕事の方が何倍も好きだぜ!」(バード)


 リン達に同行している《疾風の剣》パーティー(PT)のメンバー達。


 なかなか個性的な面々だ。



 リンの浮かない表情に気づいたバード、

「なんだよ? 勝利したのに嬉しくないのかよ」


 少し悩んでからオサに向かって、

「…なんで…手を抜いたの?」


『ほぅ』(オサ)

 少し意外そうな顔をする。


『ワシが手を抜いていると?』(オサ)


『それはボクも感じた』(ポッポ)

『そうだな、明らかに手加減しているな』(クロード)

 勘の鋭い二人も薄々オサの手加減に気づいている。


「… (ならっ)」

 リンがオサを《鑑定》する。


“鑑定”


名前・オサ

種族・ゴブリンビショップ(魔物)

………

レベル・18

体力・161

魔力・087

攻撃・151

防御・124

知識・103

敏捷・135

運 ・116

………


「… (やっぱりね!)」(リン)


 (かた)やリンの能力は、


名前・リン

………

レベル・38

体力・148

魔力・043

攻撃・138

防御・094

知識・088

敏捷・084

運 ・043

………


「… (戦ってる最中、ずっと余裕があったのよね)」(リン)


 リンが数値的に勝っている要素は一つもない。


 あえて言えば、レベルくらいなものか…


 そのレベルにしてみても、オサの能力からすれば、レベルMAXで一旦カンストし、《進化》でレベルダウンしていることは、容易に想像つく。


 つまり、

 基本的な能力に限って言えば、万に一つもリンに勝ち目はない筈なのだ。



 そんなリンの気持ちを知らず、

「やっぱ《支援魔法》を使えるリンが負ける筈ないよな」(バード)


支援魔法(Lv10)・

パーティー全員の能力値を2.0倍にする。

持続時間は100秒。


 この魔法により100秒間だけリンの能力は、


名前・リン

………

体力・196:096(+100)

魔力・081/086

攻撃・222:168(+054)

防御・139:090(+049)

知識・176:176

敏捷・128:088(+40)

運 ・086:086

………


 となり、オサの能力を体力、攻撃、防御、知識の面で抜かすことができる訳だ。



 例え練習と言えども、本気に近い感じで戦っているリン。


 それに対して、オサには常に余裕が感じられる。



「…本気で…やってください!」(リン)

『…本気ですか?』(オサ)


「本気です!」

『うーん…そこまで言うなら、やりますけど。怪我しても知りませんよ?』


「大丈夫です! お願いします!」



 オサの表情が変わった。


『じゃあ、行きます』

 そう言うと、オサは右足を踏み出す。


ミシミシッ!

 すると、魔国領の硬い地面に少しひびが入る。


 踏み込んだそのままの勢いをつけ、リンとの間合いを一気に詰める。


「… (はっ! 速い!)」(リン)


 リンが回避しようとするも、一歩及ばず、

バシッ!

 オサの振り回したこん棒にリンの剣へと当たり、衝撃で2mほど吹っ飛ばされる。


「なんだありゃ! 滅茶苦茶、(はえ)ーーぞ!」(バード)

「なんなのよ、あれ!」(セシル)

「ちょっと見えなかった」(キャロル)



『へぇ、アレをかわせるんですか…』

 (むし)ろ、オサの方もリンの反射神経に驚かされている。



「…なっ、なんなの!」(リン)


 リンが驚くのも無理はない。


 こんな動きをする者を見たのは、《竜の洞窟》へ向かって全力疾走しているエルと遭遇した(とき)以来。


 今の一撃、リンの想像を遥かに超えていたのだった。


“鑑定”


名前・オサ

………

体力・200

魔力・105/110

攻撃・188

防御・159

知識・129

敏捷・170

運 ・144

………


「う、嘘! わたしより強くなってる!」(リン)


「まさか、《支援魔法》」

 メリルが咄嗟に気づいた。


 メリルが指摘したとおり、オサはレベルカンストによってゴブリンビショップへと《進化》し、《僧侶》職の魔法とスキルを使用できるようになっているのだ。


 (ちな)みに《僧侶》になると《回復魔法》と《支援魔法》の2種類の魔法と、《瞑想》というスキルを覚えることができるようになる。



 その後は一方的な戦いとなる。


 何度も攻撃するが、

スカッ、スカッ

 リンの剣撃は容易くかわされ。


 逆に、

ブンッ!

 オサが振り回すこん棒を避けきれず、

バキーーン!

 衝撃を剣で受け止めるのがやっとの状態。


「…くっ! 勝てない!」(リン)

『いえいえ、まだチャンスはありますよ』

 オサにはリンと会話する余裕すらあった。


スカッ

ブンッ! バキーーン!


スカッ

ブンッ! バキーーン!



 その後、10分ぐらいの攻防が続き。



リン

体力・118/196

魔力・066/086


 適度にこん棒の衝撃を受け止めているため、リンの体力は半分近くまで減ってきた。


オサ

体力・198/200

魔力・020/110


 一方、《支援魔法》を使い続けたオサの魔力もかなり消耗している。


 だが、

「…どうやら、勝てそうね」(リン)


「このままでしたら、オサさんの魔力が先になくなりますわね」(メリル)


スカッ

ブンッ! バキーーン!


スカッ

ブンッ! バキーーン!



 さらに2分。



リン

体力・077/196

魔力・061/086


オサ

体力・198/200

魔力・015/110


「勝った」(リン)

 リンが勝利を確信する。


 だがその瞬間、オサは2歩下がると目を閉じた。


 オサの体が薄く光る。


「これって、まさか!」(メリル)

「《僧侶》のスキル!?」(フィン)


オサ

体力・198/200

魔力・110


瞑想(Lv3)・

術者が精神統一することで術者の魔力を最大値まで回復できる。

使用後の待機時間(リキャストタイム)は2時間。


「マジかよ!」(バード)

「振り出しに戻ったよ」(セシル)


 ギャラリー達が落胆することを余所に、

「だったら、わたしも!」(リン)


 リンの体は《回復魔法》で優しい光に包まれる。


リン

体力・196

魔力・042/086


 間髪いれずに眼を閉じて《瞑想》、リンが目映(まばゆ)く光る。


リン

体力・196

魔力・086


「これで完全に振り出しね」(キャロル)

「でも、向こうの《僧侶》職は俺達より低そうじゃんか。待機時間はこっちの方が短いはずだろ」(バード)



瞑想(Lv10)・

術者が精神統一することで術者の魔力を最大値まで回復できる。

使用後の待機時間(リキャストタイム)は30分。



 確かにバードの言うとおり、このまま戦い続ければリンが負けることはないように思える。


 しかし、

『いやぁ、人族の割にはお強いですね。正直、驚きましたよ』

 と言ってるオサの表情は余裕そのもの。


 そんなオサの態度に、

「…まだ…全力じゃないわね」(リン)


『えぇまぁ』(オサ)


 リンも流石(さすが)に気づいてきた。


 リンは焦り始めている。

 何故なら、既にほぼ全力で戦っているからだ。


 確かに、まだ魔法やスキルを沢山(たくさん)隠して持っているが、肉体の全力は()っくと()うに出し切っている状態。


 しかしそれは、オサも同じ筈。


 にも(かかわ)らず、精神的にはリンの方が一方的に押されている。


 そしてリンは、

「…理由は多分…ターニャやエルと同じ」


「えっ!? それじゃあ…」(メリル)



『実は全力を出すとなると、周りに甚大な被害が出てしまいますので』(オサ)


 ターニャ達、竜族と全く同じ理由。


 オサは単純に全力を出すことを恐怖していたのだった。



「…このままじゃ…納得できない。…力を見せて欲しい」

 リンもこのままでは引き下がれない。


 そんなリンの要求に、

『確かに、このままではあなたも収まりがつきそうにないですね。戦うことはできませんが、力の一端をお見せしましょう』(オサ)



 オサの威圧感が増大していく。



「お、おいっ! どうなってんだよ!」

 動物の本能を持つ獣人のバードは、オサの威圧に呑み込まれてしまった。



 そして、

 オサは今迄(いままで)抑えていた《能力共有》を解放する。



“鑑定”


名前・オサ

………

体力・306(+28)

魔力・254(+08)

攻撃・388(+26)

防御・312(+06)

知識・264(+14)

敏捷・196(+16)

運 ・298(+20)

………



「…嘘!? …これって、まさか!」

 ここでリンは理解する。


 オサの基本能力値、境界地帯の審査官ハニーの能力値と同じ数値ということに気づいたのだ。


『まだ、全力って訳じゃありませんが、これがワシの隠していた能力の一端ですね』


 オサには闘志がない。

 だが、その圧倒的な存在感だけで押し潰されそうになるほど。


 そしてそれは…リンの中に審査官ハニーから感じた恐怖が甦ってくる瞬間だった。



「…その能力値って…もしかして…共有しているの?」(リン)


『ほぅ』

 オサはリンの発言に感心した。


 今迄、《能力共有》を言い当てた者が居なかったからだ。



「おい! それって俺達の魔法やスキルの共有と同じってことか?」(バード)

「えっ? そんなことできるの?」(メリル)


「…多分、わたし達が…知らないだけかも」(リン)



 少しリン達の興奮が収まるのを待ってから、

『確かにそうです、リンさんの仰る通り。ワシらのようにヤマザル様から認められた者は、(ちから)を共有できるんですよ。まぁ、魔物のみに許された特権なんですかね』(オサ)


「…それはそうかも、…《魔法共有》や《スキル共有》のお話は…英雄が出てくる物語にも…度々、登場する。…でも、《能力共有》なんて話は…聞いたことがないもの」


『ワシらも初耳でしたね。でもどうやら、厄災クラスの魔物を使役することで手に入れられる職業が関係しているらしいですよ』


「『らしい』って、お前も知らないのか?」(バード)


『お前?』

 バードの「お前」発言に、オサの顔が歪む。


 それに気づいて、

「すみませんね、ウチのバカが失礼を申しまして」

 フィンが即座にフォローに回る。


『いえいえ』

 オサもいつもの顔つきに戻っている。


『ワシらが知らないのは、単に詳しい話を聞いてないからなんですよ。以前、ワシらヤマザル村の総勢5万人近くの全体集会で、ヤマザル様からサラッとした説明はありましたが、ほんのさわりだけの話でしたので』

「…なるほど」(リン)


『ただ、ハヤテさんという厄災クラスのスライムが仲間に入ってから《能力共有》が使えるようになったとか』

「へぇ、厄災クラスのスライムですか」(メリル)


「まるで、イズムみたいじゃん」(バード)


 バードのその発言に、

「…ちょっと会ってみたいかも」(セシル)

「私も」(キャロル)

 イズムという名前に、二人は興味を持った。


『まぁ、ハヤテさんも変わったスライムですよ。何でか知りませんが色んな所に出没しますし、ヤマザル村経済圏に居ればいつか会えると思いますよ』


「「ふ~ん」」(セシル、キャロル)

 流石は姉妹、見事に被った。



『で、どうしますか? リンさんはまだ、ワシと戦いたいですか?』(オサ)

「…もう十分、あなたの強さは分かった。…わたしじゃとても勝てない…と思う」(リン)


 能力値だけでもダブルスコア以上の開きだ。

 仮に魔法やスキルで勝っていても、マトモな戦いにすらならないことはリンも十分(じゅうぶん)理解している。



『では、一旦、休憩しましょうか?』(オサ)

「えっ?」(リン)


『そろそろ1時間経ちます。1時間の休憩に入りますしね』

「やったじゃん! 俺、大して何もしてねぇのに休憩とはラッキー!」(バード)


「おいっ! 調子に乗るな!」(フィン)


『まぁ、気になさらず、ゆっくり休憩してください。あぁ、休憩がてら、オススメスポットは《路線竜車》や《ヤマチの屋台》がありますよ。ヤザル硬貨をお持ちでしたら一度行かれてみては?』(オサ)


「なぁ、今って、(いく)らあんだっけ?」(バード)

「20ヤザルはありますわね」(メリル)


 本来、冒険者は1泊3食付きで、日当10ヤザルと同額を支払うのが一般的な流れだ。


 と言っても、これは魔物の冒険者の話。


 リン達は自分達で自炊することによって、20ヤザル分を貯蓄していたのだった。


『ほぅ、20ヤザルでしたら《ヤマ卵》が買えますなぁ。あっ! でも、今からでは買えませんかね』

「あのぅ、その…ヤマ卵とは?」(フィン)


『ワシらの仲間、コカちゃん達の卵です』

「コカちゃん?」(バード)


『あぁ、コカちゃんと言っても皆さんには分かりませんよね。コカトライスのことですよ』


「「「えーっ!」」」(リン達)

 魔物とは思っていなかった面々。


『コクがあってとても美味しい卵ですよ。ただ、ルル村でも1日に2個までしか販売されていない貴重品なんです』

「たったの2個!?」(バード)


『それに、半年先…いや、今では1年先まで、かな? とにかく予約でいっぱいですけどね』


「それはかなり貴重な物なんですね」(フィン)


『えぇ、そうですね。村の者ですら、なかなか口にできませんので…ですがその代わり、食堂では1月に1回くらいは卵料理が出るんですよ。まぁ、その時の食堂は滅茶苦茶な状態になるんですけどね』

「へぇ」(バード)


「因みにお聞きしますけど、その卵、おいくらなんですの?」(メリル)

『1個、15ヤザルですね』


(たっか)! 卵1個でそんなにするのか?」(バード)


『う~ん…ちょっと違いますね。卵1個と言っても、その1個がとても大きいですからねぇ。このくらいですよ』

 オサのジェスチャーからすると、ダチョウの卵くらいはありそうな大きさだ。


「そりゃ、デカいな!」(バード)


『一人で食べると、それだけでお腹いっぱいになりますよ』

「…へぇ、面白そう」(リン)


 そのリンの呟きをバードは見逃さない。


「リンがそう言うなら、買ってみようぜ」(バード)

「バカ者! 1年先までは買えないとオサさんが説明してたではないか!」(フィン)


「そ、そうだった」(バード)

 フィンに怒られて泣きそうになっている。


『まぁ、村の最高級商品はお酒なんですけどね』

「えっ! お酒があるんですの?」(メリル)

「これだけ旨い物で溢れているルル村のお酒となると…是非、試飲してみたいですね!」(フィン)


「…わたしは…お酒、あんまり好きじゃないけど」(リン)


『あっ! 期待させてしまいましたが、お酒の予約は5年先まで埋まってますよ』

「5年!」(フィン)

「はぁ?」(バード)


「そんなバカげた予約があるんですの?」(メリル)


『まぁ、超旨いお酒ですからねぇ』


ゴクリッ!

 フィンの喉が鳴った。


『それに《ヤマ酒》はこんな程度の大きさでも、1瓶50ヤザルしますので、皆さんには無理かと』


 ジェスチャーからすると、一升瓶ほどの大きさ。


「1瓶50ヤザル!」(フィン)

 金額を聞いて、一人クラクラしている。



 5日分の日当に該当する《ヤマーダ酒》はアルコール成分による中毒性があるため、生産量を極端に制限している。


 その希少な《ヤマーダ酒》を酒好きのサイクロプス達が5年先まで予約で埋めてしまったのだ。

 因みにサイクロプス達は201体おり、サイクロプスチーフ8体が優先権を持っている。



 現在、《ヤマーダ酒》の1日の販売本数10本の内の8本がサイクロプスによって購入されている状態。

 そして、それは毎日続けられているのだ。



 当初、サイクロプス達が販売本数を全本予約してしまい市場に《ヤマーダ酒》が出回らなくなってしまった。


 そこでヤマーダは《ヤマーダ酒》の定期購入権をサイクロプス達に渡すことで、市場に2本分を確保したのだった。



 では、

 そもそもサイクロプス達は1日400ヤザルも稼げるのか?


 それは愚問である。


 何故なら、

 ヤマザル村の《ヤマ牛》を一手に卸しているのが、一目小僧(サイクロプス)食肉組合なのだ。

 その気になれば、《ヤマ牛》との物々交換も可能なほどのブランド牛になっている。


 つまり、収入など気にする必要がないのだ。



 余談だが、

 ヤマーダの下には、毎日、一目小僧(サイクロプス)食肉組合から造酒増産の要望が山のように届いている。



----------

1時間後


 リン達は《ヤマチ》の屋台を堪能しただけで、特に何かする訳でもなく休憩時間が終わってしまった。


 はじめの練習と同じように、一列に整列するリン達の下に、練習場の教官として別のゴブリンがサキュバスを引き連れて現れた。


『え~、ワシがこの時間の教官を務めるダイヒョウです』


「「「よろしくお願いします」」」(リン達)

 見事に揃っている挨拶。



 同席しているサキュバスからの挨拶は、特になかった。

 ダイヒョウのお手伝い的な立ち位置なのだろう。



『皆さんはなかなか強い冒険者だとオサから伺いました。ですので、この時間はパーティー戦の練習をしたいと思います』(ダイヒョウ)


「おぉ! パーティー戦かっ!」(バード)

「これなら面白そう!」(セシル)

「ホント!」(キャロル)



『では、クジを引いてパーティーを分けましょうか』(ダイヒョウ)


「えっ?」(メリル)

「あのぅ…ダイヒョウさん、パーティーなら既に組んでいますが」(フィン)



 元々リン達は、


リンPT

 リン、クロード、ポチ、ポッポ

疾風の剣PT

 メリル、フィン、セシル、バード、キャロル


 の二組でパーティーを組んでいる。



『今のパーティーの良し悪しを知るには、別のパーティーでの経験も必要です。ワシらも、固定のパーティーメンバーは極一部を除いてほとんど組みません』(ダイヒョウ)

『へぇ』(ポッポ)


『それは新しい発見を得るためには、重要なことになります』

「…なるほど」(リン)



 そして、クジ引きの結果


リンPT

 リン、メリル、フィン、セシル、ポチ


バードPT

 バード、クロード、キャロル、ポッポ


 となった。


 バードがリーダーとなったのは、自薦によるものだ。



『では、これからトーナメント戦をしてもらいます』


「トーナメント?」(バード)

『へぇ』(ポッポ)


『ヤマザル村からは、ワシとオークロード住民、マジックスライム住民、ケルちゃんの混合PT』(ダイヒョウ)

(わたくし)フジコとオーガメイジ住民、コカくんの混合PTになります』(フジコ)


『そして、まず・・・』(ダイヒョウ)


 ダイヒョウによるトーナメントの説明が始まる。



 トーナメントは、


第一試合(10分制限)

 リンPT vs ダイヒョウPT


第二試合(10分制限)

 バードPT vs ブジコPT


第三試合(25分制限)

 第一試合勝者 vs 第二試合勝者


第四試合(10分制限)

 第一試合敗者 vs 第二試合敗者



『試合観戦も大事な仕事ですので、他PTの試合だからといって、寝たりしないようにお願いします』(フジコ)


「…あのぅ、流石(さすが)にヤマザル村の猛者の皆さんが相手では練習にならないのでは?」(フィン)


『ワシらは《能力共有》や《魔法共有》、《スキル共有》を使わないので、能力は其方(そちら)の方が有利になります。ご心配なく』(ダイヒョウ)

「マジか!?」(バード)


『後、優勝PTには豪華《ヤマ牛》の詰め合わせとコップ一杯の《ヤマ酒》が各個人に進呈されます』


 豪華商品目当てでこの仕事を選択する者も少なくない。

 だが、ヤマザル村住民には《ヤマ酒》プレゼントがない。


「俄然、やる気が出てきましたよ!」(フィン)

「よっしゃ! やってやろうじゃんか!」(バード)



----------

『早速、第一試合を開始します。選手は前に出てきてください』

 審判を務めるオークが進行を薦める。


リンPT vs ダイヒョウPT


リンPT

 リン、メリル、フィン、セシル、ポチ

ダイヒョウPT

 ダイヒョウ、オークロード、

 マジックスライム、ケルちゃん


 試合メンバーが闘技スペースに出揃った。


『えー、殺し合いではありませんので、致死攻撃は禁止となります。また、地面に描かれているサークルを出ても場外失格となります。あと、降参する場合は早めにお願いします』

 審判オークの説明が始まる。


『試合方式は失格者が一名でも出たら全員失格する連帯責任方式と、失格者を除いて次々と戦いを続ける無双方式の2種類があります。どちらにしますか?』(審判オーク)


「なるほど、試合方式が選べるんですわね」(メリル)

「だったら、連帯責任方式にしましょう。その方が早く決着がつきますし」(フィン)


『試合には時間制限もありますので、お早めにお願いします』


「…では、連帯責任で…お願いします」(リン)



『かしこまりました。では、第一試合はじめ!』

 審判の掛け声で試合が始まる。



 リンはまず、ダイヒョウPTの戦力分析を始める。


“鑑定”


ダイヒョウ

体力・143

魔力・122

攻撃・159

防御・146

知識・144

敏捷・133

運 ・128


「… (えっ! ダイヒョウさんの基本能力、こんなに高いの!)」(リン)



オークロード

体力・70

魔力・35

攻撃・65

防御・45

知識・25

敏捷・44

運 ・35


マジックスライム

体力・22

魔力・38

攻撃・05

防御・13

知識・22

敏捷・13

運 ・10


ケルベロス

体力・72

魔力・20

攻撃・32

防御・25

知識・10

敏捷・33

運 ・26


「… (あとは普通の魔物ね)」(リン)

 頭の中で、戦術を練っていく。



「… (対して、わたし達は)」

 今度は自分達の能力を確認する。


リン

レベル・40

体力・150

魔力・045

攻撃・142

防御・096

知識・092

敏捷・086

運 ・045


「… (あれっ? レベルが上がってる!)」(リン)


 リンが驚くのも無理はない。


 何故なら、リンのレベルは1年以上も上がっていなかったのだから…


 実際、ヤマーダと出会う以前、レベル10からは1年以上も上がっていなかった。


 と言っても、

 この世界の冒険者としては、リンのレベル10とは、かなり高い部類に入る。


 そして、

 ヤマーダの仲間となり一気に38までレベルアップした。


 だが、

 ヤマーダと離れ離れになってからはと言うと、うんともすんとも言わない日々に逆戻りしていたのだった。



「…ここ練習って…凄いのかも」(リン)

 リンも練習場の凄さに気づいてくる。



 因みに、


メリル

レベル・34

体力・72

魔力・44

攻撃・80

防御・94

知識・50

敏捷・69

運 ・47


フィン

レベル・33

体力・096

魔力・038

攻撃・104

防御・109

知識・054

敏捷・078

運 ・071


セシル

レベル・32

体力・78

魔力・78

攻撃・74

防御・77

知識・78

敏捷・73

運 ・69


ポチ

レベル・34

体力・107

魔力・087

攻撃・092

防御・083

知識・102

敏捷・196

運 ・077


 リンのPTの能力はかなり高い。

 少なくとも、ギルドランクなら S を余裕で超えている。


 この能力差なら、まず負ける可能性は少ないだろう。



「…《支援魔法》!」(リン)

 初めにリンの《支援魔法》でPT全体にバフをかけ、戦力差を圧倒的なものとした。



「じゃあ、わたしから行くよー!」(セシル)


ボボボッ、ヒュヒュヒュン!

 セシルが《火魔法》火の矢を3連放つ。


 セシルの魔法威力を見て、

『ほぅ、なかなかやりますねぇ』(ダイヒョウ)


ブン! ザシュッ!

ブン! ザシュッ!

ブン! ザシュッ!

 ダイヒョウが火の矢をこん棒で叩き落とす。



 今度は、

ボフッ!

 ダイヒョウPTのマジックスライムによる《火魔法》火の玉と、

ザザザッ!

 ケルちゃんの《三連撃》。


「セッイ!」

バシュゥーーーッ!

 フィンの《旋回切り》で火の玉と《三連撃》を同時に弾き飛ばす。



 透かさずフィンがダイヒョウへと走り込み、

ガキーーン!

 フィンの剣とこん棒が交差する。



「よしっ、今!」(メリル)


バシュゥーーーッ!

 メリルがマジックスライムに《旋回切り》をしかけるも、

キンッ!

 遠心力の加わったメリルの剣をオークロードが(かろ)うじていなす。



「まだまだーっ!」(セシル)


ボボボッ、ヒュヒュヒュン!

 セシルがまたもや《火魔法》火の矢3連。


パパパシュ

 マジックスライムの弱々しい《水魔法》水壁に火の矢が当たって威力が弱まっている隙に、攻撃をかわすダイヒョウPT。



 ポチは今のところ、攻撃に加わっていない。



 なかなか膠着している状況に、

「…一斉に攻撃すれば…彼らもかわせない」(リン)

「「『了解!』」」(リンPTメンバー)


ボボボッ、ヒュヒュヒュン!

 セシルの《火魔法》火の矢3連の発射と同時に突っ込んでいくリン、メリル、フィンの三人。



 今度は、

『よしっ! 今だ!』(ダイヒョウ)


 ダイヒョウの合図とともに、

フフフン

 マジックスライムの弱々しい《風魔法》風嵐が巻き起こる。


 すると、闘技スペースの足元にあった荒野の砂を舞い上げ、砂煙が発生した。



「うわっ! 何よ、これっ!」(メリル)

「前が! 全く見えない!」(フィン)

「くっ!」(リン)

 勢い余った三人は、砂煙の中へ突入してしまう。



『行くぞ!』(ダイヒョウ)

『任せろ!』(オークロード)

『行くよ!』(ケルちゃん)


 三人で一斉にセシルへ走り込み、

『うぉりゃ!』(オークロード)

ピュッ!

 オークロードの《薙ぎ払い》を、

「えっ! 嘘っ!」(セシル)

 間一髪、ジャンプしてかわす。


 透かさず、

『捉えた!』(ケルちゃん)

ザザザッ!

 ジャンプして身動きの取れないセシルに《三連撃》が炸裂。


『させないよ!』

キキキーーーン!

 ポチがセシルの前に体をねじ込んで、ケルちゃんの《三連撃》を受け止める。



 そこへ、

『ご苦労様でした』(ダイヒョウ)

 未だに空中のセシルの体に、

ピュッ! ドガッ!

 ダイヒョウの《薙ぎ払い》が炸裂した。


「えーっ!」(セシル)


 勢いそのまま、吹っ飛ばされたセシルは地面に描かれたサークルの外へ出てしまった。



『勝負あり!』(審判オーク)


「えっ?」

「どうなってんだ?」

「…どうして?」

 未だに、砂煙の中の三人には事情が呑み込めない。


「もうっ! 汚いわねぇ!」

 セシルの罵声が虚しく響く。



『勝者、ダイヒョウPT』(審判オーク)


「「「えーーーっ!」」」

 観客として観戦していたバードPTも驚いている。


「ちょっと! あんなの汚いんじゃないの?」

 セシルが審判に食ってかかる。


『ルールですので…そういった言いがかりはちょっと…』(審判オーク)


バフューーーーーン!

 リンの《風魔法》LvMAXの風嵐によって、砂煙は地面に残っていた砂塵とともに吹き飛ばした。


「…セシル、わたし達の負け」(リン)

「えっ!」(セシル)


「…実際の戦闘だったら…あなたは殺されてたかも」(リン)

「そうですわよ!」(メリル)

「言い訳を言っても仕方ありませんよ」(フィン)


 いつの間にか、三人とも《回復魔法》で目に入った砂を回復させていた。


「私達が油断し過ぎたんです」(メリル)

「…わたしも…考えが甘かった」(リン)


 リンは痛感していた。

 実力では確実に勝っていた。


 それにも拘わらず、相手の罠に自ら飛び込んでしまう迂闊な行動。


 《風魔法》で吹き飛ばせば何てことない砂煙のはずなのに、突然の攻撃で簡単に動揺してしまい右往左往する精神的な(もろ)さ。


 そして何より、

 圧倒的に弱い相手にしてやられたことで、能力至上主義に陥っていた愚かな自分に気づくことができた喜び。



「…良い…勉強になった」(リン)

『なるほど、どうやら貴女(あなた)は恐ろしい人ですね。これからも相当強くなりますよ』(ダイヒョウ)


「へぇ、どうしてだよ?」(バード)


『自分の非を認めたとは、間違えを直すチャンスをモノにした訳です。他人の非ばかり責める相手でしたら、それ以上の向上は望めませんので、大して怖くはありません。ですが、自分の非を認める勇気のある方は、大きく化ける可能性を秘めています』

「… (そう言えば、ヤマーダって、自分の非を認めるのが早かった)」(リン)


『ウチのヤマザル様もそうなんですが、そういった方は底が知れないんですよ』

「へぇ、そんなモンか」(バード)


『まぁ、あなたとなら、100回戦っても100回勝てますけどね』

「な、なんだとっ!」(バード)


『よく考えてください。ダイヒョウ様の実力もっと上なんですよ。手加減している相手に油断して負ける、そんなことは弱者の言い訳にすらなりませんよ』(フジコ)


『確かにそうだな。今回、リン達に油断があったのは間違いあるまい』(クロード)


「なんでそんなこと、言うんだよ!」(バード)


『お陰で、私達にはそんな油断がなくなったからさ』(クロード)

「!」(バード)


 バードもクロードの言わんとした油断を理解したのだ。


『私達は一切油断せず、圧勝してやろうじゃないか!』(クロード)

「おぅ! 任せとけよ!」(バード)


「お姉ちゃんの(かたき)は、わたしがちゃんと取るから。迷わず成仏してね」(キャロル)

「わたし! 死んでないから!」(セシル)


『うん! なんか面白くなってきた!』(ポッポ)



----------

『では、第二試合を開始します。選手の皆さんは前に出てきてください』

 審判を務めるオークが進行を薦めていく。


「よっしゃー!」(バード)

 (はや)るバードを制して、

『ちょっと待ってもらえるか?』

 クロードがタイムを要求する。


『こちらは構いませんが、時間を手短にお願いします』(審判オーク)


 そそくさと集まるクロード達。



 ゴニョゴニョと話し合いをして、

『すまない、待たせたな』(クロード)



 そんな態度を見るなり、

『フジコさん、こりゃ手強そうですよ。早めに降参しても構わないからね』(ダイヒョウ)

『心得ました』(フジコ)


 練習と思って舐めきっていたリン達とは正反対に、念入りに打ち合わせをしている態度から、ダイヒョウ達はバードPTを警戒する価値のある相手と感じていた。


「…なんか…わたし達とは…本気度が違う」

 ちょっと不満気味のリン。


「まぁ、今の私達が何を言っても、負け犬の遠吠えですからねえ」

 フィンは基本、自分に厳しく、人にも厳しい。


「違いますよ! さっきの試合、あんな姑息な手を使ってくると知っていたら、わたし達は負けてませんからね!」

 セシルもリンと同様に不満たらたらだ。


「まぁ、ここはバード達の勇姿を拝見しますわよ」(メリル)



バードPT vs フジコPT


バードPT

 バード、クロード、キャロル、ポッポ

フジコPT

 フジコ、オーガメイジ、コカくん



『試合方式は?』(審判オーク)

「レンタン責任で!」(バード)

 (おく)すことなくハッキリ言い間違える。


 ちょっとキョトンとしてから、

『…あっ! 連帯責任方式ですね』

「そうとも言う!」


 そうとしか言わない。



 そんなバードの態度に、

「あのバカ!」(フィン)

「あぁもう! 恥ずかしくて見てられないわ」(メリル)

 二人は赤っ恥状態。



 そんな赤面状態のリン達と比べ、

『ほぅ、厄介ですね。さっき負けたにも拘わらず、同じ方法を選択するんですか…』(ダイヒョウ)


『では、(わたくし)も本気で行かせてもらいます』(フジコ)


 向こう二人の表情は、真剣モードに代わっていった。



「… (実際の戦力はどうなのかなぁ?)」(リン)


“鑑定”


フジコ

体力・064

魔力・139

攻撃・066

防御・097

知識・088

敏捷・094

運 ・116


「… (やっぱり! かなり強いし、名持ちの魔物なのね。きっとヤマーダの仕業よ!)」(リン)


オーガメイジ

体力・50

魔力・32

攻撃・28

防御・24

知識・18

敏捷・16

運 ・12


コカトライス

体力・65

魔力・25

攻撃・28

防御・30

知識・22

敏捷・35

運 ・16


「… (他は雑魚(ザコ)なのよね)」(リン)


バード

レベル・35

体力・074

魔力・045

攻撃・098

防御・081

知識・041

敏捷・161

運 ・045


クロード

レベル・42

体力・215

魔力・042

攻撃・057

防御・097

知識・042

敏捷・145

運 ・073


キャロル

レベル・33

体力・79

魔力・99

攻撃・75

防御・78

知識・99

敏捷・74

運 ・71


ポッポ

レベル・26

体力・199

魔力・159

攻撃・131

防御・142

知識・139

敏捷・135

運 ・117


「… (グリフォンクイーンのポッポもいるし、どう考えても負けないわ)」(リン)



『第二試合、はじめ!』

 審判の掛け声で試合が始まる。


『フフッ』

 試合開始と同時にフジコがニッコリと笑った。


 同時に、

『《支援魔法》!』(クロード)

 またもや、開始早々《支援魔法》をかます。


 しかし、

「ど、どういうことだよ!」

 バードがそう叫んだのは、《支援魔法》が一切かかっていなかったから。


『ど、どうなっているんだ?』

 クロードも錯乱している。


 確かに《支援魔法》は発動している。

 しかしそれは、フジコPTに対してだった。



「もう! なにやってんのよ、クロードさん!」

 そんなキャロルの嘆きに呼応して、

「そこかっ!」

 バードがキャロルに向かって斬りかかった。


「ちょっ、ちょっとバカバード! 何やってんのよ!」(キャロル)

 いきなりの同士討ちに困惑状態。


 そこへ、

『逃さん!』

 クロードの馬脚を利用した後ろ蹴り。


「何なのよ! 二人とも! 一体どうなってんのよ!?」(キャロル)


 バードとクロードの二人はキャロルを敵として認識して、攻撃を仕掛けているようだ。



 そして、

「そ、そうかっ!」

 リンが何かに気づく。


「サキュバスの《幻惑魔法》!」(リン)


 リンの指摘する通り、

 開始と同時にフジコの《幻惑魔法》によって、男性陣は開始早々、混乱状態に陥ってしまっていたのだ。



“鑑定”


フジコ

体力・128

魔力・271/278

攻撃・105

防御・158

知識・178

敏捷・172

運 ・212


オーガメイジ

体力・100

魔力・064

攻撃・056

防御・048

知識・036

敏捷・032

運 ・024


コカトライス

体力・130

魔力・050

攻撃・056

防御・060

知識・044

敏捷・070

運 ・032


「えっ! 能力が倍じゃない!」(リン)


バード《混乱》

体力・074

魔力・045

攻撃・098

防御・081

知識・041

敏捷・161

運 ・045


クロード《混乱》

体力・215

魔力・031/042

攻撃・057

防御・097

知識・042

敏捷・145

運 ・073


キャロル

体力・75/79

魔力・99

攻撃・75

防御・78

知識・99

敏捷・74

運 ・71


ポッポ

体力・199

魔力・159

攻撃・131

防御・142

知識・139

敏捷・135

運 ・117


「…完全に形勢が逆転している!?」(リン)



 魔法とは、本来は詠唱を必要としない。


 しかし、魔物に対するパーティープレイの鉄則では、他のメンバーに分かりやすくするために、術者があえて詠唱することは一般的に知れ渡っている。


 だが、そんなパーティープレイの常識を(くつがえ)して、フジコは微笑みかけた瞬間に無詠唱していたのだ。



「…魔物と戦っているって…思っちゃだめなんだ! …対人戦と同じだと…戦略的な敵って…思わないといけないわ!」

 リンがリーダー混乱のバードPTにアドバイスを送る。



『あらっ? バレてしまいましたか。だったら!』(フジコ)

 更に、

 《魅惑》と《催眠誘導》スキルによって、バードとクロードを更に混乱させていく。


「あれっ? 旨そうな肉!」(バード)

『おーっ! 幻の馬車ロイヤルコペンハーゲンではないか!』(クロード)

 虚ろな目つきの二人は、自ら地面に描かれたサークルの外へと向かって歩きだした。


「マズいわ!」

 咄嗟に異変を察知したリン。


「ポッポ!! バードとクロードを一旦、気絶させて! キャロルは自分達に《支援魔法》をかけて強化を!」(リン)


 リンは、バードPTに完全に口出ししている。


『任せて!』(ポッポ)

「は、はい!」(キャロル)

 二人もリンの意図を理解した。



 そんなリンをチラッと見るダイヒョウ。


「…もしかして…アドバイスしちゃ…ダメだった?」(リン)

『いえ、構いませんよ。なかなか良いアドバイスだと思いますし』(ダイヒョウ)


 ダイヒョウは視線をバードPTに戻すと、

『何より、そうしなければ負けてしまいますから』



バシッ! バシッ!

 ポッポの容赦ないボディブローの体当たりで、バードとクロードは次々と悶絶、気絶していく。


「《支援魔法》!」

 キャロルの《支援魔法》も発動。



 これにより、

キャロル、ポッポ

   VS

フジコ、オーガメイジ、コカくん

 の図式に変化した。



 また、睨み合う二組。



 最初に動いたのは、

『フンッ!』

 ポッポの《召喚魔法》。


 雀くらいの小鳥が召喚される。



『食らえ!』(オーガメイジ)


ピューッ! ピューッ! ピューッ!

 オーガメイジの《水魔法》水鉄砲3連射が弱々しく放たれるも、


バフューーーッ!

 あっさりキャロルの《火魔法》火壁で防ぐ。



ピシュッ! ピシュッ!

 今度は召喚された小鳥の視界を利用してポッポの《風魔法》風刃が無音に近い状態で死角から放たれる。


『グワーッ!』(オーガメイジ)

『痛ーーっ!』(コカくん)

 かわし切れない二人にダメージを蓄積させていく。



それから数分後


 魔法戦を繰り返した二組。


 そして、既にクロードの《支援魔法》の効果が切れてしまったフジコ達。


フジコ

体力・063/064

魔力・075/139


オーガメイジ

体力・12/50

魔力・03/32


コカトライス

体力・16/65

魔力・25


 遂に、

(わたくし)達の負けですね』

 フジコが敗北を認めた。



『そこまで! 勝者、バードPT』(審判オーク)


 こうして、

 リン達は1勝1敗となった。



『なかなか惜しかったですね、フジコさん』

 フジコの健闘を称えるダイヒョウ。


『さぁ、どうでしょうか? 勝機は最初の《幻惑魔法》くらいしかありませんでしたので、見破られた時点で(わたくし)達の負けは確定しておりました』(フジコ)


『いやいや。このメンバーで、グリフォンクイーンのいるPTとここまで戦えれば、四天王の面目躍如といったところですよ』

『ありがとうございます』



 やっと目覚めたバード。


 周りの状況から、

「フーゥ、なんとか勝ったか」

 全く役に立たなかった割には、偉そうに深呼吸している。


 同じく目を覚まして、

『すまん、私が足を引っ張ってしまったな』

 バードとは対称的に申し訳なさそうに下を向いて反省モードのクロード。


『まぁ、勝ったからよかったじゃん』(ポッポ)

「いや~、最初はヒヤヒヤもんでしたよ」(キャロル)


 そして、

『リン、アドバイスありがとね』(ポッポ)


「…うん、二組とも負けるなんて…なんか許せないから」

 実は意外と負けず嫌いな所があるリン。


 彼女の隠された()の強さを感じさせる。



『では、5分間の休憩を挟んで第三試合を行います。準備をよろしくお願いします』(審判オーク)


 審判の案内で5分間のインターバルとなった。



----------

5分後


『では、第三試合を開始します。選手の皆さんは前に出てきてください』

 審判のオークからのアナウンス。



 ダイヒョウPTとバードPTが闘技スペースに集合する。


『試合方式はどうされますか?』(審判オーク)

「無双モードで頼む!」(バード)


『ほぅ、ここへ来て、変えてきましたか』(ダイヒョウ)

「やっぱ、決勝はバトルロイヤル! 強い奴が最後まで立っているって、一番分かりやすいじゃん!」

 バードの顔つきが今迄とは違い、ギッラギラ状態。


 不完全燃焼のバードからすれば、手品の種を知ってから手品を見せられているような状態。


 油断から一切活躍出来なかった前戦の苛立ちも加わって、ヤル気満々だ。


『フフッ (これは負けましたね)』(ダイヒョウ)



バードPT vs ダイヒョウPT


バードPT

 バード、クロード、キャロル、ポッポ

ダイヒョウPT

 ダイヒョウ、オークロード、

 マジックスライム、ケルちゃん


『第三試合、はじめ!』

 審判の掛け声で試合が始まる。



「行くぜ!」

 バードが開始早々、特攻していく。


『なんだ、コイツ?』

 オークロードが身構える。


 だが、バードが視界から消え、

『ど、何処だ?』(オークロード)


「こっちだよ!」

 オークロードの真横からの声と同時に、

バキッ!

 バードの《跳躍》を利用した蹴りが炸裂。


 一瞬にしてオークロードは場外へと蹴り出された。



『なんと! 女王陛下と同じ《短距離転位》ですか!?』

 ダイヒョウの驚きを余所に、

「次、行くぜ!」(バード)


 今度はマジックスライムへ突っ込むバード。


『クソッ!』

ボボボッ、ヒュヒュヒュン!

 マジックスライムの《火魔法》火の矢3連。


 バードに当たるかどうかで、また姿が消え、

(おせ)えよ!」


バシッ!

 後ろから急に現れたバードのかなり手加減した蹴りで、マジックスライムを場外へ吹っ飛ばす。



「次だ!」(バード)

『えっ? 何? どうすればいいの?』

 混乱しているケルちゃんに、

「悪いな」(バード)


バコッ!

 横からの衝撃でケルちゃんも場外へ。



 三人を倒したことで、

「フーッ、ガォーーーッ!」

 バードの雄叫びが鳴り響く。



 開始数十秒で、ダイヒョウ以外を場外にノックダウンしてしまった。



『こりゃ、参りましたね』

 ダイヒョウの顔は少し焦っている。



「行くぜ!」

 また、バードがギアチェンジしてダイヒョウに特攻していく。


 姿が消えるバード。


バキッ!

 ダイヒョウの真後ろからダイヒョウの肩口に回し蹴りをお見舞いする。


 更に《短距離転位》。


バコッ!

 また、ダイヒョウの真後ろから背中の中心に正拳突き。


 更に更に《短距離転位》。


『こりゃ参ったな!』

 堪らずダイヒョウは両手を広げて回転。

 所謂(いわゆる)、ダブルラリアットだ。


バガーーン!

 回転した両腕に《短距離転位》したバードの体がジャストヒット。


「グァーーッ!」

 バードはダイヒョウの一撃で吹っ飛ばされて場外へ落下してしまった。



迂闊(うかつ)な!」(フィン)

「…勝利を…焦りすぎた」(リン)


「ちっくしょーっ!」

 場外で悔しがるバード。



ダイヒョウ

体力・131/143

魔力・122

攻撃・159

防御・146

知識・144

敏捷・133

運 ・128


バード

体力・023/074

魔力・045

攻撃・098

防御・081

知識・041

敏捷・161

運 ・045


 そもそも、敏捷以外はダイヒョウに勝っていないバードの戦法はヒットアンドアウェイのみ。


 それすらも、ダイヒョウのダブルラリアットで防がれてしまう。



「《短距離転位》を連発し過ぎ!」(キャロル)

『リーダーが真っ先に場外って』(ポッポ)


 今日のバードは、良いとこ無し。


 星座占いの今日のラッキーアイテム《タヌキの信楽焼き》が必要だったのかも…



『さぁ! 切り替えるぞ!』

 クロードが仕切り直す。


『《支援魔法》!』(クロード)


 クロードの魔法がかかった瞬間に、

「食らえ!」(キャロル)

ピシューーーッ!

 LvMAXと《支援魔法》で威力増し増しの《風魔法》風刃。


 《支援魔法》からの魔法攻撃、間接攻撃のお手本のような攻撃だ。



『よっ!』

 ダイヒョウはあっさりジャンプしてかわす。


 そこへ、

『逃がさない!』

ピシュッ!

 ポッポが《風魔法》風刃で追撃。


ピシュッ! バシュッ!

 ダイヒョウも《風魔法》風刃で相殺する。



『もらったーっ!』

バフュッ!

 クロードの《火魔法》火礫と、


『まだまだ!』

ピシュッ!

 ポッポの《風魔法》風刃による連続攻撃。



バガーーン!

 ダイヒョウが《水魔法》水球を飛んで来た火礫にぶつけ、水蒸気爆発させる。


 その反動でポッポの風刃を回避。


 そこへ

『まだだ!』

バフュッ!

 クロードが再び、《火魔法》火礫。


『同じ手ですか?』

 ダイヒョウが《水魔法》水壁を発動させるも、

バシャーーン!

バシャッ

パシュ…

 水壁が急速に縮んでいく。


『何っ!』(ダイヒョウ)


バジューーッ!

 魔法の発動しないダイヒョウの体に火礫が衝突する。


 ダイヒョウの体を焼き焦がしながらぶっ飛んでいく。


 そしてそのまま、ダイヒョウは場外へ。



『勝負あり、勝者、バードPT』(審判オーク)


「ぃやったぜ!」

 今回は前半でちょっと活躍できたバードも大喜びしている。


『いやぁ、参りました』

 にこやかな表情で負けを受け入れるダイヒョウ。


 いつの間にか、火礫での火傷(やけど)は回復していた。



『いや~、まさか、《分解魔法》まで使えるとは。皆さんは本当にお強いですね』(ダイヒョウ)

『いやいや、そっちが実力を隠してくれたからさ』(クロード)


 クロードには分かっているのだ。

 ダイヒョウが一切、本気ではないことに。



「これでバード達は美味しいお酒をもらえるんですね。あ~ぁ、(うらや)ましい」(フィン)

「確かにそうですわね」(メリル)


 二人の関心は勝利報酬の《ヤマ酒》へと移っていた。



「…今度はわたし達の番!」

 リンがやる気に満ちている。



----------

『勝負あり、勝者、リンPT』(審判オーク)


 第四試合は、一瞬で決着がついてしまった。


 既にフジコの能力は判っている。


 《幻惑魔法》を使ってくると知っていれば対処は簡単。


 唯一の男性であるフィンを眠らせてフジコの能力を封じ、後は(ちから)でゴリ押しする。


 フジコPTは元々、能力の低いメンバーの寄せ集めだ。


 魔法さえ気をつければ、それほどの相手ではなかったのだ。



『いや~、お強いですね。完敗です』(フジコ)

『これで不満は解消できましたか?』(ダイヒョウ)


 二人の会話から察すると、どうやら最初から第四試合は負けるつもりだったらしい。



「…まぁ、これで少しは…気持ちが晴れたかな」(リン)


『それは良かったです。もし、元ヤマーダーマヤ会のナンバーツーのリンさん達を怒らせてしまったら、後々、厄介になりますので』(ダイヒョウ)


「えっ?」(リン)

「それってどういうこと?」(バード)

「なんでヤマーダーマヤ会のことを?」(メリル)

「それに『元』と言っていましたが…」(フィン)

 キョトンとした表情のリン達。



『皆さんのことは、元ヤマーダーマヤ会で現《サリア組合》の組合長のサリアさんからよろしくと頼まれましたので』(ダイヒョウ)

「「「えーーっ!」」」(リン達)


 数日遅れで、ヤマザル村とサリアとの確執が解消されたことを知ったリン達。



 それから、

 リン達の質問責めが始まることとなる。

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