代表者会談、再び(2)
ヤマザルがヤマーダ本人と確認できたサリア達。
久しぶりの再開に会話は弾み、3時間ほど雑談が続いていた。
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「・・・せやったら、話は早いやん。ヤマーダはんはウチらの所に戻ってきぃや」
サリアには代表同士の会談というよりは、友達と喋っている感じになっていた。
「そうですね。私達、ヤマーダーマヤ会は元々、ヤマーダ様のための組織ですし」
ノエルの態度も急激に軟化している。
共に、ヤマーダの復帰を望んでいる。
しかし、
「それは、出来ないんじゃないかなぁ」
ヤマーダはアッサリと復帰を否定した。
暫くの沈黙
「な、なんでや!? ヤマーダーマヤ会はヤマーダはんが作ったもんやんか!?」(サリア)
「そうですよ! 何故、私達を困らせるんですか!?」(ノエル)
困惑する二人、声が大きくなるのも分からなくはない。
2回目の代表者会談。
それはヤマーダとの再会と、ヤマーダがサリア達へ協力しない、というサリア達が予想もしていない状態から始まった。
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全く意味が分からない、といった表情の二人。
そんな二人とは別に、
「… (やっぱり)」
ヒルダだけは冷静に成り行きを見守っている。
重たい沈黙
そんな中、
「のぅ主、理由を聞かせてくれんか?」
ヤマーダの真意を促す、ターニャの一言。
「うん、そうだよね。理由を聞きたいよね?」(ヤマーダ)
ヤマーダは真面目な表情に改めると、
「もし俺がキミらの言うヤマーダと同一人物だったとしてさぁ、キミらの知っているヤマーダ君は、今の魔物達に負担を強いるヤマーダーマヤ会に納得ができると思うかい?」(ヤマーダ)
「!」(サリア)
「うっ!」(ヒルダ)
二人は言葉に詰まる。
確かに言われた通り。
敵対してきた魔物にも情けをかけるヤマーダだ。
今のヤマーダーマヤ会に納得しないことは、サリア達自身も薄々気がついていた。
「キミ達の知っている俺ってさぁ、最初の仲間はアヤカシギツネのネーコなんだよなぁ?」(ヤマーダ)
「「…」」(サリア、ノエル)
沈黙する二人に代わり、
「そうじゃな」
ターニャが相槌を打って、会話を進める。
「その後、リンやサリアのような人種を仲間にしていくみたいだけど、魔物の仲間も増やしていくんだろう?」
「…そうやな」(サリア)
そこに、
『そうだな』
オークロードの男が大きく頷く。
「で、何でさぁ、今のヤマーダーマヤ会はそんなザマなんだ?」
ヤマーダの発する言葉は、ナイフのような切れ味だった。
「うっ…」(サリア)
「それは、ヤマーダ様が不在になったからです!」(ノエル)
何とか反論しようと試みる。
「確かにそうかもしれないよ…」(ヤマーダ)
ヤマーダは少し考え込んで、
「う~ん…そもそもさぁ…」
「んっ? なんじゃ?」(ターニャ)
「過去の俺って、そんなに完全無欠の正義の味方だったの?」
「「!」」(サリア、ノエル)
「さぁ、どうなんじゃろうな~」(ターニャ)
そこへ、
『違うな』
オークロードはキッパリと否定する。
そんなオークロードに、
「え~と、キミは?」
『あぁ、お頭にはオレ達との記憶がなくなっちまったんだよな。オレはヤマーダの右腕、《竜の守人》のタツヤだ』
右腕!?
…でも今、「ヤマーダ」って
呼び捨てにしなかったか?
「へぇ…そ、そうなんだ。まぁ、よろしく頼むね。で、キミの意見なんだけど…」(ヤマーダ)
『そうだったな。お頭は目の前いる者は敵であっても情けをかける任侠の人だ』(タツヤ)
「へぇ」
昔のオレって、
そんなに仁義に厚いのか?
『でも、親切の押し売りはしなかったし、情けを断った者には一切容赦しなかった』
「フムフム」
タツヤの話を聞く限り、昔のヤマーダも今のヤマーダも同じ思考のようだ。
『なんと言っても、仲間なら人種であれ、オレ達魔物であれ、差別しない人だった』
「まぁ、そうなるのかなぁ」
確かに、差別すんのは嫌いだけど…
年上には礼儀正しい対応というか
違った対応をすると思うぞ!
どの口が言っているのやら…
『だから、オレも今のヤマーダーマヤ会には納得できない!』(タツヤ)
最後は仲間割れとも取れる発言で締めくくる。
あっれ~?
最後は自分の不満を言ってお仕舞いなの?
「…え~と、つまり、今のヤマーダーマヤ会には差別意識があるんだろ?」(ヤマーダ)
差別意識との言葉に、
「なによ、それっ! マジ、気にくわないわね!」
ネーコがお冠。
あ~ぁ、
怒っちゃったよ
「うむ、感じれるかもしれんのぅ」(ターニャ)
「それは…」
ノエルは言葉が出てこない。
「それはウチの不徳や…」
サリアは申し訳なさそうに告白する。
「だからさぁ、既に俺とヤマーダーマヤ会とでは考え方が根本的に違うんじゃないかと思うんだよね」
「…それはあるかもしれません」(ヒルダ)
「それがそっちへ戻れない理由の一つ目」
「一つ目?」(サリア)
「他にも理由があるんですか?」(ヒルダ)
「あぁ」(ヤマーダ)
「それは一体、何でしょうか?」(ヒルダ)
今度は優しい顔に戻し、
「俺さぁ、ヤマーダーマヤ会の活動の全てを否定するつもりはないんだよ」
「フフッ (相変わらずじゃのぅ)」(ターニャ)
「だってさぁ、ヤマーダーマヤ会って奴隷になってた人達を解放してきたんだろ?」
「せや」
サリアに元気が少し戻ってくる。
「そうです!」(ノエル)
「はい」(ヒルダ)
「つまりさぁ、俺がいなくなってもサリア達の努力で何とか今迄やってきたんだろ? それって、ヤマーダーマヤ会はもう、サリア達のモノって事なんだと思うんだよね」
「ウチらのモノ?」(サリア)
「そう! だから今更、俺がしゃしゃり出る必要はないんじゃないかなぁって」
ヤマーダ自ら、代表の意思を放棄する。
会場は再び、静かに…
「で、でもな、ヤマーダはんが居らんとな、魔物達が納得してくれへんのや!」(サリア)
サリアの言う通り、魔物との対立が激化した今の状態で、ヤマーダーマヤ会を存続するのは難しい話だろう。
「なるほどね…」
一旦、考え込む。
魔物と人族との対立って事か…
…「覆水盆に返らず」かもな
「だったら、魔物の皆を独立させちゃえば?」(ヤマーダ)
「なっ、なんやて!」(サリア)
突飛なヤマーダの提案に、
「そ、そんな事したら、私達が生きていけません!」
ノエルが猛烈に反発する。
「えっ? そのノエルの発想って、おかしいんじゃないの?」(ヤマーダ)
「ど、どうしてですか!?」(ノエル)
「ヤマーダーマヤ会って組織の話を聞く限りさぁ、そもそも自給自足というか、自主自律というかさぁ…」
「…」(ノエル)
「主、ハッキリ言ってしまえ」
ターニャが背中を押す。
「魔物達に頼らないで、人間だけで頑張るっていう意識が感じられないんだよね」(ヤマーダ)
「「!?」」(サリア、ノエル)
「… (やっぱり、ヤマーダーマヤ会の問題はそこなんだわ!)」(ヒルダ)
「要するに、キミらは大人じゃないんだよね」
「フフッ、主も言うじゃないか」(ターニャ)
大人とは年齢で決まるものではない、行動と態度で決まるものだ。
「それにさぁ、貴族とかから解放された奴隷の人達って、自分達で自立しようとする意思があるのかなぁ? 結局は元々居るの魔物達を奴隷のように働かせるだけって話になっちゃうんじゃない?」
「うっ!」(サリア)
「それって考えてみたら、解放する前の状態よりも酷くなってない?」
『そうなんだよ、お頭!』(タツヤ)
「…」(ノエル)
「だって、元々の仲間を奴隷みたいにして、見ず知らずの奴隷を助けたって話になるんでしょ。正直、訳分かんない話じゃん」(ヤマーダ)
「…せやなぁ」(サリア)
「…そうですね」(ヒルダ)
「まず、今の仲間を大切にすることが一番大事じゃない? 余裕が出てきたら、他にも手を差し伸べるべきでしょ」(ヤマーダ)
「そ、そうですね」(ノエル)
ヤマーダは難しい事を言っているのではなく、極当たり前の話をしている。
「でね、俺も少し考えてみたんだ。まずさぁ、今のヤマーダーマヤ会って、人種寄りに相当傾いちゃってんだよね」
「そうじゃな」(ターニャ)
「だったら、魔物達は解放してやんないと」
「フフッ」(ターニャ)
「ほぅ」
ミシェルはヤマーダの発言に感銘を受けていた。
大抵の組織は、自分に有利な決定しか下さない。
ヤマーダーマヤ会は正にそれだ。
拝金主義や偽善的な組織運営なら、それでもいいだろう。
しかし、
魔物と人種のように相容れない者同士の集団となると通用しない。
狭い意味での組織運営よりも、多種族による国家戦略のようなスケールが必要なのだ。
「そのまま放っとけば、タツヤ達魔物とサリア達人種が仲間同士で争うことになっちゃうよ」
そんな理詰めのヤマーダの言葉に、
「そないな事は、ウチにも分かっとんのや。せやけど、ウッ、せやけどなぁ、ウウッ…生きられへんのや、ウァーーッ!」
サリアは感極まって、泣き出してしまった。
今迄、代表として気をはって頑張っていたのだろう、感情が抑えられないのだ。
暫く、サリアが落ち着くのを待つヤマーダ。
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「グスン、取り乱して悪かったんや」
サリアも落ち着いてきた。
そこで、
「なぁ、アルベルト。俺達がヤマーダーマヤ会に支援するって出来そうか?」
ヤマーダが解決策を模索している。
「「えっ!?」」(サリア、ノエル)
「どうですかねぇ…ヒルダ様、今のヤマーダーマヤ会の運営状況ってどうなっているんですか?」(アルベルト)
「今現在・・・」(ヒルダ)
二人は運営状況の情報共有を始める。
こりゃあ、まだまだ時間がかかるぞ!
状況把握には、かなり時間がかかりそうだ。
サッと話題を変え、
「で、もしかして、え~と、タツヤは、この会談を見届けに来たの?」(ヤマーダ)
ヤマーダとしては初見のタツヤ。
この会談に参加した理由を知りたくなったのだ。
『あぁ、その通りだ。オレ達、魔物の待遇が改善されないなら、ヤマーダーマヤ会を脱会するつもりだったんだ』(タツヤ)
確かに、大事である。
「なるほどねぇ。でも、キミ達が脱会したとしても、俺達は仲間に受け入れないぞ」(ヤマーダ)
「「えっ!?」」(サリア、ターニャ)
『なっ、何でだ! お頭! オレ達の事が嫌いにでもなったのか!?』(タツヤ)
ヤマーダからのとんでもない発言にタツヤは当惑している。
「違う違う! ヤマーダーマヤ会と同じ理由だよ。キミ達ってさぁ、俺がいなくても上手くやってこれたんだろ。だったら、仲間って事じゃなくてさぁ、協力関係の方が良くない? ほら、俺達とキミ達とは同等の関係になるじゃない」
「へぇ」(ミシェル)
「フフッ、なるほどのぅ」(ターニャ)
「キミ達ってさぁ、ずっと俺に従っていたんでしょう? 初めはそれでも良かったんだろうけどさぁ、そろそろ自分達で自立した生活を送ってみたら? …まぁ、それでも俺に従いたいって場合は言ってくれて構わないけど」(ヤマーダ)
『なら、オレ達はお頭に従いたい』
タツヤ、まさかの即答である。
えっ!?
なんで?
この説得で上手くいくと思ったのに…
「そ、即答すんのか~…そうか~…」(ヤマーダ)
予想外の答えに言葉が詰まる。
左上に目線を持っていき考え込むが、
まさか、オレ達を頼るとはな~
なかなか考えがまとまらない。
う~ん…どうすっかなぁ…
ふと周囲を見渡すと、後ろの棚に花瓶が置いてあり、花が二輪生けてあった。
一つの器に、二本挿しかぁ…
「…そうだなぁ、そうするか!」
ヤマーダの頭の中で何かが閃いた。
「よし! じゃあ、分かったよ、タツヤ。キミ達、ヤマザル村に所属していいよ」(ヤマーダ)
『ホントか! お頭!』(タツヤ)
喜ぶタツヤとは裏腹に、
「えっ!」(サリア)
「そんなぁ…私達はどうしたら…」(ノエル)
二人は落胆している。
「と言っても、別にヤマーダーマヤ会を脱会する必要はないぞ」
『へっ?』(タツヤ)
「どっちかにしか所属出来ないって訳じゃないんだ。両方所属すりゃ、いいんだよ」
『えっ? そうなのか?』
「ほぅ!」
ターニャは感心し、
「なんと!」
ミシェルは驚愕する。
「例えば、何千、何万もの組織に所属するんだったらさぁ、多過ぎて何していいのかも分かんなくなるかもしんないよ。でもさぁ、所属する組織が1つや2つ増えたくらいでマイナスって事にはならないでしょ」
「な~るほど」(サリア)
「へぇ~」(ノエル)
「フフフッ」(ターニャ)
「ですがそれでしたら、将来、どちらかを裏切ることになるのでは?」(ミシェル)
「えっ? 裏切っちゃいけないの?」(ヤマーダ)
ヤマーダのまさかの発言。
「えーっ!」
ノエルがすっとんきょうな声を上げる。
エルダーエルフの掟では、裏切り行為は禁止されているのだ。
「だってさぁ、誰だって生き残るためには、他人を裏切るんじゃないの? 多分、そういう状況になったら、俺だってそうすると思うよ」
「フフッ、主は正直者じゃな」(ターニャ)
実際のところ、この魔国領には法律がない。
条例も慣習もない。
あるのはたった1つ、種として生き残れるかどうかということ。
「確かにさぁ、自分個人が楽するためだけに他人を裏切ったり、騙したりするってなると、集団生活をする上でかなり問題になるんだろうけどさぁ。生き残るためだったら、誰でもやっちゃうでしょう、普通」
ある意味、ヤマーダなりの哲学なのだろう。
「で、では、ヤマーダ様は裏切られても構わないのですか?」(ミシェル)
「そんなの嫌に決まってるよ」(ヤマーダ)
「はっ?」(ノエル)
「でもそれってさぁ、裏切られる側にも問題があるんじゃない? だって、そんなこと言ったら、イッズームなんて『裏切者は即、死刑』ってなっちゃうじゃん」
『えっ!? アッシって死刑なんですか!?』(イッズーム)
「いやいや、例えばって話」(ヤマーダ)
ヤマーダのぶっ飛んだ発想に困惑している参加者達。
『では、オレ達は両方に所属するってことでいいのか?』(タツヤ)
「まぁ、そうなるね」(ヤマーダ)
「それでいいんじゃない」(ネーコ)
こうして、ヤマーダーマヤ会の魔物達はヤマザル村の住民にもなる。
話は元に戻り、
「で、ウチらはどうなってまうんやろか?」
サリアが尋ねてくる。
「そ、そうだよな。アルベルト、どんな感じ?」(ヤマーダ)
「う~ん、そうですねぇ…何とかなるとは思います」(アルベルト)
「おぉ!」(サリア)
「当面の問題は食糧が自給できていない点です。奴隷から解放された住民が10,000人ほど居りまして、食糧の自給は壊滅的な状態ですね。我々が食糧を支援する事自体は簡単な話なんですが…」(アルベルト)
「さっ、さよか!」(サリア)
サリアがホッとしたのも束の間、
「ですが?」(ヤマーダ)
アルベルトの意図をヤマーダは汲み取っていた。
「はい。ただ支援するだけでは、食糧生産を強制させられる者がヤマーダーマヤ会からヤマザル村の魔物に代わるだけの話です。今度は我々ヤマザル村の住民から不満が出ることになるでしょう」
「そうだろうね。だからさぁ、支援にも期限を決めないか?」(ヤマーダ)
「期限?」(ノエル)
「なるほど! 確かにそうですね」(アルベルト)
「ずっと、支援したるって話やのぅて」(サリア)
「将来は私達で自給しろ、という訳ですか」(ヒルダ)
二人もヤマーダの真意を理解していた。
「それに、明確な目標があった方が、住民の皆さんのやる気にも繋がるでしょうしね」(アルベルト)
「でもさぁ、あんまり無理な期限はダメだよ。反って混乱しちゃうからさ」(ヤマーダ)
「分かっております」(アルベルト)
こうして、
ヤマーダーマヤ会への食糧支援の目処もたった。
ヤマーダとアルベルトのやり取りを見ていたサリア。
「なぁ、アルベルトはん。兄さんが、今のヤマーダはんの金庫番なんやろ?」
「は、はぁ…」(アルベルト)
サリアの開けっぴろげな態度に戸惑っている。
そんなアルベルトを見て、
「アルベルト様も取り乱されるんですね、フフッ」(ヒルダ)
オッホン!
アルベルトは1つ咳払いをすると、
「で、サリアさん、何でしょうか?」
「そっちの金回りってどないなっとんのや? お金(G:ゴールド)を一切、使うてへんのやろ?」
「はい、そうです」
「どないして物を流通させとんのや?」
「我々独自の通貨を利用しております。ですが、基本は物々交換です」
「そ、そんなんで経済が成立するんか!?」
「確かに、そうですわね…」
ヒルダもサリアに同意している。
「まぁ、我々には《空間魔法》があります。ですので、流通自体があまり意味ありませんね」
「そ、そうか!」
サリアは何かに気づいた。
「元々、お金とは物品の価値を保存するモノです。保存が何故、必要かと…」(アルベルト)
「よう分かったで!」(サリア)
アルベルトの言葉を早々に遮る。
サリアはアルベルトの言わんとすることを全て理解した。
元々、当事者が要望するモノ同士の交換なら《お金》は必要ない。
例えば、ミカン3個とキャベツ1玉を交換するみたいに、それぞれのモノを折り合う割合で交換すればいいのだから。
実際の話、ハイパーインフレが起こっている国では《お金》が紙屑同然の価値となり、物々交換されるようになる。
では何故、《お金》が必要なのか?
それは当事者同士での物々交換には、時間的にも距離的にも限界があるからだ。
例えば、スーパーマーケットの存在がなくなったとしたら、生活はどうなるのだろう?
一般家庭は、農家から直接食材を交換しなければならない。
これは大変に手間のかかる話だ。
農家からしても、大量の個人客が引っ切り無しに農作物を交換しに来たら、対応するだけで大変となり、肝心の農作業が全くできなくなるだろう。
これは、食料品や農業に限った話ではない。
キャベツ農家が自動車のディーラーにキャベツ10,000玉と自動車を交換してくれと頼み込んでも、ディーラー側からしたら逆に大量のキャベツの処分に困る話だ。
だからこそ、間接的な存在となる《お金》が必要となる。
だが、《空間魔法》という誰でも使える便利な《異空間》があったらとしたら、どうなるのか?
本当に《お金》という中間の存在は必要なのか?
「私も不思議でした。モノを流通させるためには中間価値が絶対に必要と思っていましたから」(アルベルト)
「当たり前の話ですわ」(ヒルダ)
「ですが、お金の存在がなくても、意外とやっていけるんですよね」
「えっ!」
「それは本当なんですか?」(ノエル)
「そりゃ、ウチらのような者からしたら仰天の話やわなぁ」(サリア)
「元々、我々ヤマザル村では《空間魔法》の内部で自給自足が出来ています」(アルベルト)
「その時点で金なんぞ、いらんわなぁ」(サリア)
「今ではイッズームさんといった助っ人も居ます。村民なら誰でもヤマザル村系列の様々な場所に一瞬で移動出来るんですよ」
「イズムっちかぁ…かもしれん話やなぁ」
「まぁ、最大の理由は高価なモノがない事、なんだと思います」
「確かにせや」
ヤマザル村でのモノの価値は固定されている。
何時でも1日の労働の対価は10ヤザルであり、宿泊代は1泊1ヤザルであり、1食3ヤザルなのだ。
一番高いモノは《ヤマーダ酒》、それでも50ヤザルで買うことができる。
酒を一番高く設定したのは、加工する手間暇と酒自体に中毒性があるためだ。
これを日本円に置き換えると、日当10,000円に対して、1泊1,000円、1食3,000円。
酒が50,000円となる。
パッと見ると異常な価格設定。
しかし、
これでヤマザル村は成立している。
それは何故か?
両者の根本的な違いは、国という存在、税金という仕組みがないことだ。
そもそもヤマザル村では個人の医療負担がないし、土地や建物の売買も存在しない。
土木工事も治安維持にも価格設定はなく、下着や普段着、日用品に至ってはヤマザル村から支給されている。
つまり、
それら生活の全てを、ヤマザル村が責任を持って管理・運営してくれているのだ。
社会主義経済に近いのだろう。
「でも、沢山の住民の様々な要望にどうやって答えるんですか?」(ノエル)
「要望といいますと?」(アルベルト)
「例えば、食事にしてもパンを食べたい時もあれば、スープが飲みたい時もありますよねぇ? でも、パンを食べる人が多過ぎれば、結局、パンは足りなくなるんじゃないですか?」(ノエル)
「えー、よく、話が分からないんですが…」
アルベルトにはノエルの趣旨が分からない。
「つまり、要望と実際の生産に隔たりが出ますよねぇ」
「あぁ、なるほど。需要と供給が異なると言いたい訳ですか」
やっとアルベルトもノエルの言いたいことを理解する。
「ですが、それなら心配はいりませんよ。そもそも、生産されているモノを住民全員が把握しておりますから」(アルベルト)
「へぇ~。よく、そんな大変なことができますわね」(ヒルダ)
『えっ? 何が大変なんだ?』
今度はタツヤがヒルダの言葉に引っ掛かった。
ヒルダとタツヤの反応の違いに気づき、
「あ~、なるほど。ヒルダ様は人族ですし、ノエル様はエルフ族でしたね。まぁ、お二人からすると、一般住民が村や町、更には国で、何をどれくらい生産しているかなんて知っている訳もない話ですよね」(アルベルト)
『えっ! 知らないのか?』(タツヤ)
ヒルダ達二人の思考とタツヤの驚きの違い、これは人種と魔物の習慣が根本的に異なっているからなのだ。
そもそも、個々の人種は自国の食糧、物資が年間どのくらい生産されているのかを知らない。だからこそ、どのくらい消費していいのかなんて分からない。
自分達の生活に必要なモノでさえ、直接関係しなければ興味すら持たない。
それが人種だ。
しかし、魔物はそこが異なっている。
まず、
群れのリーダーとなる者が、生産と消費の計画を立て、群れに伝えて情報を共有する。
そして、
当日、10日後、30日後、360日後といった感じで目標を立て、生産と消費を繰り返していくのだ。
例えば、狩り。
ある群れで年間120体の猪を狩ると決定したとするなら、30日間で10体、10日間で3~4体の計画になる。
すると、今日は狩る、若しくは狩らないを群れ単位で決めてしまい、個々の魔物の意向など存在しない。
生産量が管理されているので、食事も群れ単位で決め、正確に消費していく訳だ。
まあ、大半は群れのリーダーの一存で決まるのだが…
つまり、
生産に関しては、ある意味、農業、林業、漁業の組合と似た考え方。
消費に関しては、学生寮や学校の給食に近い訳だ。
これは、
今日は何が食べたいと個々で別々に要望するのではなく、群れ全体の生産がこうだから、これを食べる、と言った具合だ。
結局のところ、個々の魔物が群れという集団を常に意識して生活しているのだ。
実はこれ、集団を統率する際に最も効率的な方法だ。
だからこそ、国防に一番重要な〈軍隊〉という組織は、配給制なのだろう。
少し考えてみると不思議な話だ。
散々、社会主義や独裁国家を否定している民主主義の人々。
そんな民主主義の人々を守る軍隊が、実は配給制といった社会主義的な計画システムを利用し、少佐・中佐といった独裁国家の差別的階級制度で運営されているのは、どんな笑い話なのだろうか?
故に、
サリア達のように、自分達の食糧自給も考えず、闇雲に奴隷解放した行為を、タツヤ達魔物には全く理解できない。
もし仮に、ヤマーダーマヤ会が魔物の群れだったとして、そのリーダーがサリアだったなら、とっくの昔にリーダー交代の革命が起きていたであろう。
そんなヒルダ達の言動に、
「まったくもうっ! だから、人族は嫌なのよね」(ネーコ)
「全くです」(ミシェル)
魔物達からは、至極当然の反応。
「…つまり、ウチらも直そうと思えば、改善できたってことなんか!?」(サリア)
タツヤの言葉を聞いて急に弱気になり、自分達が失敗したのではと思い始める。
「まぁ、そうとも言えますが、獣人のサリア様には難しい話かもしれませんよ。偉そうに話している私自身、ヤマザル村で生活して、ヤマザル様やカメコ様など色んな方々のアドバイスをいただいて初めて気づけたんですから」(アルベルト)
「えっ!? ちょっと待てや! カ、カメコが居るんか!?」(サリア)
フォローのよりも「カメコ」を聞いて驚いた。
「普通にマイホームでグダグダしてるよ」(ヤマーダ)
「マッ! マイホームもあるんか!」(サリア)
「そりゃあるわよ、ファ~~~ァ」(ネーコ)
そして、アクビ。
「ねぇ、なんか飽きちゃったし、そろそろ帰りたいわね」(ネーコ)
『アッシも』(イッズーム)
キミら、勝手気儘だよね
「ウチも帰りたいねん!」(サリア)
「えっ?」(ヤマーダ)
サリア、ホームシックなの?
「でもその前に、ヤマザル村とヤマーダーマヤ会との立ち位置をちゃんと決めとかないと…でもまず…」
ヤマーダはサリアをジッと見つめる。
「な、なんや? (いつになく真剣やん! もしかして…ウチに告白するんか!?)」
ヤマーダの視線にちょっとだけドキドキするサリア。
「ヤマーダーマヤ会って名前を変えてくれ!」
「へっ? (なんや! そないなことかいな)」(サリア)
「もう、俺の組織って訳じゃないでしょ? …俺の名前が入ってて、なんか恥ずかしい」
「ハハハッ、せやな! (やっぱヤマーダはんやん)」
ヤマーダの言葉で一気に場の空気が和らいだ。
その後
ヤマーダーマヤ会はサリア組合へと名称を変え、ヤマザル村とサリア組合との友好協定が結ばれることとなった。
ヤマザル・サリア友好協定(抜粋)
①魔物の管理は、ヤマザル村が担当する。
②人種の管理は、サリア組合が担当する。
③ヤマザル村とサリア組合は互いに助け合う。
④互いの運営については干渉しない。
⑤《竜の洞窟》《大樹林》《魔国領東部》の魔物はヤマザル村とサリア組合両方に所属する。
活動内容一覧
〈異空間〉
《ヤマザル村》経営班
ヤマーダ、ネーコ、マサオ、ミシェル、
イッズームnew
たまにルル、アルベルト、ゴブジ
《ヤマザル村》農作業・建築・土工作業班
リチャード、マツコ、ソンチョウ、マサムネ
オーク村人
ゴブリン村人
《養鶏場》管理・育成班
コカちゃん達、コカくん達
チビッ子雛→コカちゃん達、コカくん達へ編入
ヤマザル村主婦連合会
ルル村主婦連合会
村外民主婦連合会
サキュバスメイド隊
《女王宮殿》建設班
ダイヒョウ
ゴブリン村民
ゴブリン村外民
ルル村出稼ぎ組
ノーラ村出稼ぎ組
イズ村出稼ぎ組
《マイホーム》管理班
ヤマーダメイド隊
《ロイヤル邸》管理班
サキュバスメイド隊
《竜族邸》管理班new
サキュバスメイド隊
《刑務所》管理班(休止中)
ノーラ、ユクト
《造幣所》硬貨鋳造班
ノーラ、ユクト
《村外村》管理班
ヤマザル村外民
《村外村》農作業・建築・土工作業班
ダイスケ、ゴエモン
ゴブリン村外民
オーク村外民
オーガ村外民
《村外村》蜂蜜製造班
ハニー
蜜蜂隊の皆さん
村外民主婦連合会
《弱肉強食の世紀末》狩猟班
オーガ村外民
一目小僧村外民
《弱肉強食の世紀末》伐採・製材班
オーク村外民
《弱肉強食の世紀末》修行・鍛練班
ウランバルト、ナタリー、オルトス、シス、
シュバルツ
ダイヒョウ、ゴブジ、オサ
ソンチョウ、マツコ、マサムネ
《仮移民村》管理運営
仮移民の皆さん
《仮移民村》農作業・建築指導班
ロンnew、ヤバルnew、フィリアnew、
オミルnew
ゴブリン村外民の有志
オーク村外民の有志
オーガ村外民の有志
〈表世界〉
《ルル村》管理班
ダイヒョウ、オサ
たまにルル
《ルル村》周辺警戒班
サソリ村外民
蜜蜂隊の皆さん
グリフォン村外民
《ノーラ村》管理班
ノーラ、ノール、ユクト
《ノーラ村》周辺警戒班
サソリ村外民
蜜蜂隊の皆さん
ヘルハウンド村外民
《イズ村》管理班
イズ村13スラ坊
イズエモン、イズサブロウ、イズノシン、
イズシチ、イズザル、イズベエ、イズムネ、
イズゴロウ、イズスケ、イズリ、イズシロウ、
イズゾウ、イズロク、イズジ
《イズ村》協力支援班
ハヤテ、ソンチョウ、ダイヒョウ、
アルベルト
《イズ村》周辺警戒班
サソリ村外民
蜜蜂隊の皆さん
《境界紛争地域》周辺警戒班
ハニー
蜜蜂隊の皆さん
《エバン町》移民勧誘班new
ヤバルnew、ポーラin、チンin
《エバン町》領主監視班new
イズリin
〈異空間・表世界共通〉
《ヤマザル商店》管理班
ゴブジ
ルル村商工会
ノーラ村商工会
イズ村商工会
仮移民商工会
《ヤマクロ》寝具・服飾店
村外村一号店
ルル村二号店
ノーラ村三号店
フジコ
サキュバスメイド隊
《ヤマ魚》鮮魚店new
イズ村一号店new
アクアマリンnew
マーメイド魚群in
お花畑蜜収集団体
ハニー
ヤマザル村蜜蜂隊の皆さん
村外村蜜蜂隊の皆さん
ゴミ収集団体
イズム
ヤマザル村スライム収集団体の皆さん
村外村スライム収集団体の皆さん
ルル村スライム収集団体の皆さん
ノーラ村スライム収集団体の皆さん
イズ村スライム収集団体の皆さん
仮移民村スライム収集団体の有志
路線竜車
ヤマザル村周回コース
村外村周回コース
ルル村周回コース
ノーラ村周回コース
街道建設
ルル村 ↔️ ノーラ村(20%)
ノーラ村 ↔️ イズ村(20%)
ルル村 ↔️ 境界紛争地帯(5%)new
ボクシ
オーク村外民
オーガ村外民
モフモフ要員
角ウサギ村外民
ケルちゃん、ケルくん達
イズムネットワークnew
イズム:分裂体 2体in
イッズーム:分裂体 1021体new
〈協定関係〉
竜族同行班
ターニャ、エル、イズム
西の里班new
ノーラ、ユノーラ、ノーレ
アヤカシギツネの皆さん
南海活動班
ポーラ、イズムネ
チン、イズスケ
オクト
マーメイド魚群
サリア組合new
サリアnew、リンnew、ヒルダnew、
ノエルnew
《疾風の剣》new、《森の狩人》new、
《蒼天》new、《裏通りの光》new、
《チームテルメ》new
解放された元奴隷達new
改心した元盗賊達new
竜の洞窟管理組合new
《竜の守人》new、《星の継承者》new、
《爆裂》new
仲良く暮らす魔物達new
大樹林保護活動推進委員会new
マサオin、ワインnew、オソスギnew、
イチスギnew、カラスギnew、
チョロスギnew、トドスギnew、
ジュウシスギnew
仲良く暮らす魔物達new
東部開拓組合new
《鬼人塾》new
オーガ町の魔物住民new
サクラ町の魔物住民new
アサガオ町の魔物住民new
スミレ町の魔物住民new




