リンの冒険①(2)
午後
魔国領西部境界地帯〈中央広場〉
リン、クロード、ポチ、ポッポ
メリル、フィン、セシル、バード、キャロル
リン達パーティー(PT)はお試し労働の説明を受けていた。
『おめぇらには農作業、家具製作、道路整備、清掃のいずれかの手伝いをしていただくべ。他にも色々とあるんだべが、まだ〈旅行者〉のおめぇらを完全にさ信用できないんだべさ』(通訳官)
「ハッキリと言うんですね」(メリル)
『まぁ、嘘ついてもしゃあないべぇ。とりあえず、出来そうな作業を選んでくんろ』
そして、
〈農作業〉 リン、クロード、フィン、バード
〈家具製作〉該当者なし
〈道路整備〉メリル、セシル、キャロル
〈清掃〉 ポチ、ポッポ
こんな感じで分かれることになった。
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魔国領西部境界地帯〈農地〉
リン、クロード、フィン、バード
リン達は農地へ到着する。
『オラがここの農地を担当しているオークだべ』
農業担当のオーク農民が挨拶。
リン達の目の前にはそれなりの広さの畑があった。
畑は200m×200mの広さを16分割されており、その内の半分に作物を作付している。
そして、各個の畑(50m×50m)は、深さ50cmほど地面の岩盤をくり貫かれていた。
『おめぇらにはこれから土を作ってもらうべ』(オーク農民)
「…土を作る?」(リン)
『そうだべ、魔国領の地面は硬い岩盤、簡単には耕せないべ。だから、この岩盤を削った地面に土を盛ってから耕すんだべ』
「…なるほど」
『土の原料は、あそこに居るゴブメイさんが作るべ』
オーク農民の説明に、左手を上げて答えるゴブリンメイジ。
魔法か何かで、農作業用の土を作るのだろう。
『おめぇらにはこっちに山積みしてある《土魔法》の土、《採掘》で採取した金属粉と石灰、《ヤマーダ油》の油カスを混ぜて、農土を作ってもらうべ。そんで、畑のスペースに農土を運んでもらうべぇ』(オーク農民)
「態々(わざわざ)、土から作るのか?」(バード)
『そうだべ。魔国領には農作業に適した良土が一切ないべ。だから、最初っから作る必要があるんだべさ』
「…へぇ (そうなんだ)」(リン)
『オーガ町でもやってない手法だな (ヒヒン)』(クロード)
「そうですねぇ」(フィン)
ヤマーダーマヤ会に所属しているオーガ町では共有した魔法とスキルに頼りきった、強引な農法を行っており、ここの手法とは全く異なっている。
ヤマザル村の手法は、拘った農土を一から作り、その農土で作物を育てる。
良土さえ整備すれば、後は《水魔法》だけでそれなりの収穫が望める画期的な農法だった。
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土を混ぜ混ぜして1時間
ピピーーッ!
ホイッスルのような音がして、
『おめぇら、これから1時間の休憩だべ』
一緒に作業していたオーク農民から声をかけられた。
「えっ! そんなに休憩できるのか?」(バード)
『まだ、始めて1時間くらいではないのか?』(クロード)
「私もそう思います」(フィン)
「本当に休んでいいのか?」(バード)
『当ったり前だべ、ゆっくり休んで体を解してくんろ』
「やったぜ!」
バードは呑気にストレッチを始める。
すると、
ガヤガヤガヤガヤ…
何処から来たのか、ゾロゾロと10人くらいの魔物達が農地へ現れ、リン達の作業を継続して進めていく。
「…なんで彼らは…わたし達の農作業を手伝っているの?」
『ハハハッ、そうか! おめぇらは知らねぇべな。元々、この農地での作業はアイツらの担当なんだべ。おめぇらが手伝ってくれたお陰で、仕事が分担できるようになったんだべさ』
「…へぇ、だったらもっと…農地を増やせば…効率もいいのに」
『おめぇ、何言ってんだべ? もう、オラ達が生活できるだけの農地は、十分にあるべ。食べる以上に作ってどうすんだべさ? そんな事は、自分達の数も管理できないバカな人種のすることだべ』
流石は魔物、人種に対する偏見が凄い。
〈衣〉・〈食〉・〈住〉の中に於いて、生きる上で〈食〉が一番重要だ。
ヤマザル村では、まず人口増加しない。
稀に急激な増加もあったりするが、基本的には魔物達自身で群れの数をコントロールしている。
つまり、
群れの長が子供の数を制限しているのだ。
例えば、オーク族。
彼らに一夫一婦の概念はなく、複数の夫と複数の妻が一緒に暮らす多夫多婦の家族構成だ。
群れの誰かが亡くなると、長によって決められた多夫多婦家族が、決められた数だけ子供を作る。
生まれた子供は、群れの乳母集団によって大切に育てられるので、子供を産んだ母親が育児する訳ではないし、両親という概念も存在しない。
だから、オーク族は家族や両親よりも群れ全体を大切にしているのだ。
そして、
魔物達は婚姻制度に違いこそあれ、長を無視した勝手な子作りは絶対にしない。
夜の営みを決められているといった訳ではなく、勝手に出産しないだけの話。
これは、
群れの食糧備蓄や近隣の勢力バランスを考えて、長が群れの数を決めるからなのだ。
こういった事情があったから、魔物達の多くが絶滅してしまった訳なのだが…
そして、
ヤマザル村の農作物の大半は、天災が全く発生しない《空間魔法》の中で栽培されている。
そのため、農作物の生産量に良・不良が少ないのだ。
つまり、
ヤマザル村では〈食〉を完全に計画して生産しているという話。
『休憩が終わってから1時間も仕事すれば、今日の作業は終了だべ』(オーク農民)
「えっ! そんな程度の仕事でいいのか?」(バード)
「かなり楽な仕事ですねぇ」(フィン)
『当ったり前だべさ。オラ達の技術進化や村の発展って、結局、楽するためだけだべ』
以前、ヤマザル村では人口の9割近くもが農作業をしていた時期もあった。
だが今では、人口の約半分の者達が農作業に従事している。
実は、
1日8時間労働した場合、農作物の人手は今の半分、つまり全体の2割でも事足りてしまう。
だからといって、作付面積を増やしたり、余った人員を別の作業に回したりはしない。
寧ろ逆に、
1日4時間労働の2交代制で、余った時間は自由時間にしたのだ。
これはヤマザル村の基本方針が、〈食〉を作る者を徹底的に優遇している表れだ。
「…でも、そんな事をしたら…サボる人が出るんじゃないの?」(リン)
リンの懸念はもっともな話だ。
リンは、労働時間が少ないと仕事に身が入らない、サボる、そう教育されていたからだ。
しかし、
『そんな奴、いないべ』(オーク農民)
「えっ!? どうして?」
『じゃあ、逆に聞くんだべぇが、何で最初からサボるって決めつけるんだべ?』
「…自分がやらなくても…他の人がやるから」
社会主義の失敗、計画経済の失敗、リンには過去の歴史として刷り込まれている。
『実際に、おめぇは試したんだべか?』
「…いいえ」
『これはオラの師匠のカメコさんが言ってたんだべ。否定する人ってぇのは、否定によって利益を得る人だって』
「どういうことだ?」(バード)
『おめぇら人種の社会は詳しくねぇべが、他人を沢山働かせて甘い汁を吸いたい、そう考えてるヤツがいる。だから、もっと働け、もっと働けって言うんだべ』
「…まさか!?」(リン達)
『本当に良い社会にしたいんなら、ヤマザル様のように、皆が楽するシステムを作ることが先だべ』
「な、なるほど」(フィン)
「…でも失敗するかも…しれないわ」(リン)
『最初から全部のルールを変えるなんてアホらしいべ』
「えっ!?」
『オラ達だって、最初からルールを変えたんじゃないべ。まず、人口の少ないイズ村で労働時間の分割を試したんだべ』
「へぇ」(バード)
「で、どうだったんですか?」(フィン)
『皆、前と比べて、生活が楽しくなったんだべ』
「へぇ」(バード)
『で、段々と規模を広げていって、今の労働体制が確立されたんだべ』
「…なるほど (この村、発想が斬新だわ)」(リン)
このオーク農民の発言の意味は、「朝令暮改」の真逆の話。
重要な決定を試行もせずに、いきなり社会に適用させるとは、とても危険な話だ。
だからこそ、ヤマザル村では今でも様々な試みが続けられている。
『因みに、今回おめぇらの労働は指名制労働っていって自分で好きな仕事を選択するシステムだべ』
「それ以外にも労働条件を選べるんですか?」(フィン)
『当ったり前だべ! 他に入札制労働、強制労働、ローテーション制労働、ランダム労働など、労働条件も色々試せるんだべよ』
「色々試せる?」(バード)
『そうだべ、人種の労働条件って、お金や労働時間だけらしいけど、オラ達はそんな小手先の条件じゃないって事だべ』
「なるほど」(フィン)
すこし話題を変え、
『労働意欲の減退は、《慣れ》と《飽き》って知ってるべか?』
「《慣れ》と《飽き》?」(バード)
『《知識欲》に一番悪影響を及ぼすのが、《慣れ》と《飽き》なんだべ』
「…ふ~ん」(リン)
『《知識欲》がなくなると、労働意欲が減退するんだべ。結果、品質や生産性も落ちるんだべ。だからオラ達には仕事もギャンブルで決めちゃう《ランダム労働》なんて変わったのもあるんだべ』
「なんじゃそりゃ!」(バード)
『まぁ簡単な話、仕事をより楽しくしようって事なんだべ』
「…それって…ヤマザル村の方が…優れているってこと?」
リンは答えを知りたくもないのに、質問を止められなかった。
『それは違うかもしれないべ。オラ達魔物には合ってた話。おめぇら人種に向いているのかは分かんないべ』
「…なるほど」(リン)
『オラ達のシステムが良いからって、簡単に取り入れるのは危険な話だべ。まず、色々実験してみるのが良いんだべさ』
「そうですね」(フィン)
こうしてリン達の初労働は午後1時に始まり、午後4時には終了する。
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夕方
魔国領西部境界地帯〈中央広場〉
リン、クロード、ポチ、ポッポ
メリル、フィン、セシル、バード、キャロル
他の皆の仕事も無事に終わり、中央広場で集合すると、まったり寛いでいた。
「…メリル達の仕事は…どうだったの?」(リン)
「かなり楽、でしたわ」(メリル)
「仕事する時間、少ないよね」(セシル)
「ちょっと物足りない感じ」(キャロル)
道路整備の仕事も1時間の労働と1時間の休憩、そして1時間の労働だったらしい。
「…ポチ達は?」(リン)
『簡単な作業でしたね』(ポチ)
『ボクは簡単すぎて、つまんない』(ポッポ)
清掃の仕事も同じ労働条件のようだ。
「でもさぁ、ヤマザル村ってスゲーよな」
徐にバードが話し始めた。
「何が?」(メリル)
「今まで生きてて、こんなに楽な仕事したことってあったか?」(バード)
「ないわね」(セシル)
「ないね」(キャロル)
「なんかさぁ、俺、ここに住みたくなってきたぜ」
「でもまだ、ここに来て1日しか経ってません。もしかしたら、明日から仕事が過酷になるかもしれませんし」(フィン)
『安心していいべぇ、それは絶対ないんだべ』
リン達の横で話を聞いていた通訳官がフォローを入れる。
「えっ! 本当か?」(バード)
確かに、
ここへ来て初日、まだヤマザル村を信用するのは早すぎるだろう。
そんなリン達一行に、
『では、皆さんを仮移住村へご案内しましょう』
審査官のハニーが突然、やって来た。
「…えっ? 何処に?」(リン)
『とりあえず皆さん、私についてきてください』
ハニーは《異空間》へ通じる幕をリン達の目の前に展開した。
「これって《空間魔法》!?」(メリル)
「…間違いないわ!」(リン)
驚きつつもハニーに連れられて、幕の中へと入っていく。
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《空間魔法》仮移民村〈中央広場〉
「何だ、ここ!」(バード)
その《異空間》には、町があった。
麦が一面に青々と育ち、沢山の小川が流れ、小さな木製の橋が幾つも掛かっている。
そんな田園風景の中に、紛争地帯と同じような石壁の民家が建ち並んでいた。
ちらほらと人影が見える。
「あっ! 人がいる」
セシルの指摘した通り、500人程度の人種が生活していた。
「…ここは?」(リン)
『港町エバンの住民が安心して暮らせるための仮の町です』(ハニー)
「…それって…どういう」
そして、
ハニーはエバン復興作戦の経緯を説明する。
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『・・・つまり、港町サリーナという町が出来たために衰退してしまったという訳です』
「…そ、そんな!」
リンは動揺していた。
サリーナとはリン達ヤマーダーマヤ会が開拓した北国ゲンクの港町。
そして、
サリーナの開町によって、海上貿易の中心が南海域から北海域に変わったことを知る。
「じゃあ、俺達がエバンの人達の生活を奪っちまったって事なのか?」(バード)
『そうなりますね』(ハニー)
暗い表情に変わるリン達。
そこへ、
「あっ! ハニーさん、こんにちわ」
そこには仮移民第一号の男性がいる。
『どうも、こんにちわ』(ハニー)
男性はリン達に気づき、
「えぇと、そちらは?」(男性)
『〈旅行者〉のリンさん達です』
「ほぅ」
男性は、仮移民村を訪れたリン達を品定めする。
男性の警戒する眼差しに、
「…初めまして…リンです」
「メリルですわ」
二人は無害アピールのため、即座に挨拶する。
「あぁ、私はこの仮移民村の村長を勤めていますヤバルと申します。よろしくお願いします」
ヤバルも自己紹介。
「皆さんはこちらにどのようなご用件で?」(ヤバル)
『実はリンさん達が、私達ヤマザル村の労働環境を疑っておりましたので、人種である仮移民村の皆さんから直接聞いてもらおうと思いまして』(ハニー)
「なるほど、確かに初めて聞くと、胡散臭い話ですからねぇ」
『えっ! もしかして、ヤバルさん家族も疑っていたんですか?』
ヤバルの告白は、ハニーも想定外。
「そりゃあ、もぅ、ハハハッ」
『人が悪いですねぇ、フフフッ』
二人で仲良く話をしている。
「なぁ、ヤバル村長。本当に労働時間ってあんなに短いのか?」(バード)
なかなかの不躾な質問。
「え~と…」(ヤバル)
「あっ! すまん、俺はバードだ」(バード)
「なるほど…では、バードさんは何故、労働時間が短いと感じたんですか?」
「そりゃ、そうだろ。普通だったら、朝から晩まで働くじゃん!」
「何故です?」
「何故ってそりゃ、働かないと生きていけないだろぅ」
「はいはい…」
ヤバルは少し考える。
そして、
「今、エスタニア大陸全体では、どのくらい食糧が作られているのか知っていますか?」(ヤバル)
「私はフィンと申します。え~、村長は何をおっしゃりたいんですか?」
「皆さんは、ここエスタニア大陸にどれくらいの人が居て、どのくらい食糧を生産し、どれだけ消費しているかご存知ですか?」
「…そんなの…知りません」(リン)
「大体、人種の人口は50万人。毎年60万人分の食糧を生産し、45万人分が消費されています。と言っても、まぁ、私も最近教えていただいた話なんですがね」(ヤバル)
「へぇ」(バード)
「えっ! それでは数が合いませんわ。15万人分の食糧はどうなってるんですの?」(メリル)
「破棄されています」
「えっ!?」(リン達)
「なんでそんなに、食べ物を捨ててんだよ!」(バード)
「そんなのおかしいじゃない!」(セシル)
「そうよ!」(キャロル)
すこし間をおき、
「単純に元が取れないからですよ」(ヤバル)
「…」(リン達)
静寂がリン達を包む。
「商売という個人的視点から見ると、正しいことなんでしょうねぇ」(ヤバル)
少し悲しい表情。
「ですが、人種全体から見ると、とても不幸な話です。私達が消費する1.2倍もの食糧を頑張って働いても、5万人が飢えている状態な訳ですから」
「…確かに」(リン)
「救済者様は、その無駄を省く体制を築かれているんですよ」
「えっ!」(バード)
ここで出てきた《救済者様》とは仮移民村でのヤマーダの呼び名。
人種のヤマザル村への加入は《ロイヤル》達を除き、極最近の話。
魔物住民からの要望で、仮移民には《ヤマーダ》や《ヤマザル》の使用が禁止されている。
これは、ヤマザル村の序列の話だ。
「まず、ヤマザル村では食糧を破棄する必要を極力なくす努力をしています」
「それってどういう…」(フィン)
『食糧を破棄する理由は大きく2つあります。在庫が腐る場合と売っても損する場合ですね』(ハニー)
ハニーもヤバルの説明に参加する。
「…まぁ…そうでしょうね」(リン)
『王国内で食糧が生産されると、どうなると思いますか?』
「え~と、まず国に税として納めて、残りは作った人の物なんじゃねぇの?」(バード)
「大体はそうですね」(ヤバル)
『では、国の税として納めた食糧はどのくらい消費されると思います?』(ハニー)
「8~9割じゃないの?」(バード)
「そこが違うんですよね」
ヤバルはそういうと詳しい話を始める。
「まず、税として納める食糧は全体の5割ほど、30万人分です」(ヤバル)
「…ちょっと待って! …50万人の5割なら…25万人分なんじゃ?」(リン)
「いいえ、違います。60万人分の生産量の5割、つまり成果の5割なんです。まぁ、不作の年もありますから、致し方ないことなんですけどね」
「30万人分の食糧があるのなら問題ないのでは?」(フィン)
『では、その税として納められた食糧はどうなるんでしょう?』(ハニー)
「それは、不作になった地域や国内の町に流通するんじゃないの?」(メリル)
「いいえ、違います。まず、25万人分の食糧は国家から商人へと売却され、その売却益で国家運営をしています」(ヤバル)
「税の物納ですよね」(フィン)
「はい、そうです。まぁ、今の話は農家だけの話ですので、町の住民の大半はお金で納めていますけどね」(ヤバル)
「…ちょっ、ちょっと待ってよ。…農家の30万と国家の5万なら…食糧は35万人分しかないわ!」(リン)
「そうです、そうなんです! つまり残りの25万人分の食糧は、住民からお金を巻き上げるための道具なんです」(ヤバル)
『当然、この仕組みが変わらないよう、毎年、商人達は貴族連中に多額の献金をしております』(ハニー)
「そして、商人が利益を出せるのは15万人分の食糧までです。例えば、テーベ王国では、国庫の食糧を毎年、配給せずに破棄しているそうです」(ヤバル)
「ちょっと!」(メリル)
「おかしいじゃない!」(セシル)
「そ、それじゃあ、国って存在がある限り、この世界から飢餓はなくならねぇじゃんか!」(バード)
「そうなります」(ヤバル)
「…」(リン達)
「“…どうして…こんなことが?”」
リンが疑問を呟いた。
そのリンの疑問に、
「それは、食糧よりも食糧以外の価値が高すぎるんですね」(ヤバル)
「どうしてです?」(メリル)
「貨幣経済とは〈食〉よりも〈食〉以外を重要とした価値基準で行う経済活動なんです」(ヤバル)
「へぇ~」
バードにはよく分かっていないような返事。
「そもそも、〈食〉の価値が高いなら、お金なんて意味のないものを使う必要がありませんから」
「確かに」(フィン)
『ですので、ヤマザル村ではお金の価値が1ヶ月しか保たないように設定しているのですよ。そうすることで、作物の方が保存期間が長くなり、お金よりも価値が上がってるんです』(ハニー)
「で、食糧の価値が上がれば、破棄することへの罪悪感が生まれ、必要最小限の生産をするようになります。結果、労働時間が短縮される、という訳ですね」(ヤバル)
これを《食の価値保存》と言う。
実は江戸時代の士・農・工・商もこの理論の発展進化形であった。
何故、税を〈石高〉と言い、〈お米〉で納めさせたのだろうか?
昔の日本の考え方は、
〈食糧〉>〈お金〉
〈食糧〉<〈お金〉
の関係性が実は一番危険で、飢饉や一揆といった人災の原因になり得ること理解していたからだ。
「農業の技術が上昇すれば、農作業の効率も上がりますよね。そうすれば、労働時間は短縮しますよねぇ」(ヤバル)
「…えぇ、確かにそう」(リン)
200年近く前の1800年代。
農業従事者は全人口の6~7割程度もいたことをご存知だろうか?
しかし現在、日本では2%程度。
アメリカに至っては1%しかいない。
つまり、一番重要な〈食〉について、日本では1人働けば50人分に相当し、アメリカではたった1人で100人を食わせられる訳だ。
こんな状況では〈食〉への関心が薄れ、農業が廃れるのも当たり前の話だ。
また6~7割必要だった労働力がサービス産業や工業産業に割り振られたことにも問題がある。
もし、6~7割必要だった労働力が1~2%で済むのなら、農業人口を変えずに1人当たりの労働時間を減らせば済んだ話。
では何故、産業革命の時代にそのようにしなかったのか?
それは、
貴族や商人…つまり、〈金持ち〉という存在がいたからだ。
労働時間の短縮では、お金が増えない。
だから、農業以外に振り替え、金儲けに走ったのだ。
自分達が富を独占するために…
そして、
一番問題なのは、民主主義や社会主義が広まった昨今でも、昔の貴族や商人の考えた金儲けシステムを継続していることだ。
結局のところ〈金持ち〉とは、
〈利益〉=〈お金〉>〈食〉→労働力の独占
この公式を維持したい、ただそれだけなのだ。
「…では、ヤマザル村では…働く時間をもっと少なくしたいってことなの?」(リン)
「いいえ、少なくとも救済者様は違うようです。1日4時間、毎日キッチリ、ゆっくりと働けるようにと考えておられますね」(ヤバル)
「なんで?」(バード)
だったら、もっと少なくすれば良いと感じてしまう。
「救済者様曰く『それが健康に一番良いから』だそうです」
人にはある程度の習慣が必要だ。
そして、
ヤマザル村ではそのルーティーンが仕事なのだ。
「…なんだか…敵わない」(リン)
リンの心は、ヤマーダへの興味が広がっていった。
《空間魔法》一覧
ネーコの《空間魔法》
入口:ルル村
・ヤマザル村(人口:460人)
・路面維持管理
・路線竜車
・円卓会議棟
・ヤマーダハウス(地下室有)
・女王宮殿建設中
・農地
・花畑
・養鶏場
・海
ノーラの《空間魔法》
入口:ノーラ村
・刑務所(休止中)
・造幣所
ヤマーダの《空間魔法》
入口:ノーラ村
・マイホーム
・ロイヤル邸(施設工事完了)new
・遺体安置所
・牧草地
ルルの《空間魔法》
入口:ルル村
・食糧保管庫
・冷蔵室
ダイヒョウの《空間魔法》
入口:ルル村
・野外大集会場
ゴブジの《空間魔法》
入口:港町エバン
・仮移民村(人口:200→500人)new
・食糧保管庫new
・農地
・牧場
イズムの《空間魔法》
入口:イズ村、ターニャ
・《転位》ポータル(使用不可)
ハヤテの《空間魔法》
入口:イズ村
・10m×10mの小空間
ソンチョウの《空間魔法》
入口:ノーラ村から北へ1,000m
・ヤマザル村外村(人口:40,800人)
・路面維持管理
・路線竜車
・花畑
・農地
・養鶏場
マツコの《空間魔法》
入口:ノーラ村から東へ1,000m
・ネーコと同じ《異空間》未使用
マサムネの《空間魔法》
入口:ノーラ村から南へ1,000m
・10m×10mの小空間
マサオの《空間魔法》
入口:ノーラ村から西へ1,000m
・弱肉強食の世紀末(人口:2,500人)
・修行、鍛練
・狩場
・製材所
ハニーの《空間魔法》
入口:《境界紛争地域》会談会場
・花畑
・蜂蜜製造所
ミシェルの《空間魔法》
入口:イズ村
・竜族邸
ボクシ、ダイスケ、ゴエモンの《空間魔法》
入口:未設定
・未設定
フジコの《空間魔法》
入口:ルル村
・ヤマクロ服飾工場
・ヤマクロ布団加工工場




