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《空気使い》って?  作者: 善文
69/134

イズム脱会

3591年10月10日(同日)

午後


中央国エスタニア港町エバン〈中央通り〉


ヤマーダ、ネーコ、マサオ、イズム、

ミシェル(人化)、ターニャ(人化)、エル(人化)


 船団壊滅イベントも終わった帰り、ヤマーダ達はエバンの中央通りへと寄り道していた。


 それにしても、道端のゴミが滅茶苦茶多い。

 生ゴミやら、食器の破片やら、壊れた家具やらと、種類が半端(ハンパ)ない。



 また、町中を巡回している警備隊の態度も、

「おらおら! 邪魔なんだよーっ!」

 辺り構わず周りの住民に難癖をつけているようだ。


 左腕にある腕章を見ると、太陽に剣が刺さったマーク。

 エバン領主ダルタニア伯爵家の紋章だった。


  あれって、伯爵の親衛隊か?

  なんか態度の(わっる)い連中~!


  不良(ゴロツキ)かと思ったよ 



 船団が壊滅して早速、町の雰囲気が悪くなっていることをヒシヒシと感じる。



 更にブラブラと中央通りを歩いていると、町から逃げ出す準備に忙しい住民の姿もチラホラ。


  こんな感じで、

  エバンは(すた)れて行くんだろうなぁ


  下層の住民生活ってどんななんだ?



 ヤマーダ達は裏路地へと入っていき、下町の方向へと進んでいく。


「ここは随分(ずいぶん)と酷いのぅ」(ターニャ)

「全くです」(エル)

 二人は段々と顔をしかめていく。


『アッシにはよく分かんねぇっすけど』

 イズムには何も感じられない。


  な、なんだ!

  この臭さ!


 二人が顔をしかめるのも、無理はない。

 兎に角、ここら辺は凄く臭いのだ。


 住民の体臭と生ゴミ、糞尿の臭いがブレンドされ、目に染みるほどの刺激臭だった。


『アタシ、ここ嫌ーーっ!』

 ネーコの我慢が限界になってしまった。


  しょうがないなぁ…


 ヤマーダは《空気使い》スキルで、ヤマーダ達の周囲と下町の空気を薄い幕で遮断する。


 すると、清涼な空気がヤマーダ達の周りを優しく包み込んだ。


『あーっ! 死ぬほど臭かった!』(ネーコ)

「確かに」(ヤマーダ)


「しっかし、(ひっど)い所じゃのぅ、ここは」

 ターニャは、あまりの汚さに辟易していた。


 そんな裏路地は道幅2mほどと、やたらと狭い。

 そのうえ、路上のゴミは言わずもがな、道端には排泄物がそのまま放置されており、木造建物の外壁はまるで黒色に塗装されているように汚れている。


  …よくこんな所に住めるよなぁ


 (たま)に建物から覗く住民の表情は何とも言えず、人生に絶望して今にも自殺するかのようで、生気を全く感じられない。


  これは早急に

  移住のアプローチをしないとな!



 ヤマーダは決意を新たに、裏路地を奥へと進んでいく。



----------

中央国エスタニア港町エバン

裏路地奥〈下町ゴミ捨て場〉


 裏路地の終点。

 そこには(うずたか)く積まれたゴミが、山のようになっていた。


「なんだこれ!? この町ってさぁ! ゴミの処理をしないのか?」(ヤマーダ)


 そもそも、このエバンではゴミも汚物も全て海に投げ捨てている。


 これは住民減少と活気喪失により、ゴミを処理するスピードよりもゴミが発生するスピードの方が速いからだ。


 つまり、ゴミを処理する者が圧倒的に足りていないのだ。



「あれっ?」

 ヤマーダが何かに気づく。


 ゴミ山の脇にスライムが1体、ポツンと(たたず)んでいたのだ。


「どうしたんだ? こんな所で?」

 ヤマーダが優しく語りかける。


『…』

 だが、スライムは何の反応も示さない。


  イズムに似てるんだけど、

  ヤケに(くすんだ)色をしてるなぁ


 通常のスライムは青に少し緑がかった色で透き通っており、触るとプルンプルンしている。


 しかし目の前のスライムは、黒ずんで濁った色合いの群青色(ぐんじょういろ)で、ヤマーダが撫でても何の反応も示さないでいた。


  このスライム、

  サリアさん達の連れていたスライムに近い


 記憶の棚から引っ張り出してみると、ヤマーダーマヤ会との代表者会談の際に、サリア代理の肩に乗っていたスライムがこんな色合いに近かった。


  よし、とりあえず


“鑑定”


名前・イズム

種族・スライムロード(魔物)

年齢・7歳男《鬱》

………

レベル・25

体力・152(+32543)

魔力・153(+240)

攻撃・147(+3038)

防御・150(+525)

知識・151(+574)

敏捷・157(+2250)

運・153(+55)

※()内の数値は1,021体で分割

………


  うわっ!?

  このスライム、イズムだ!


「イズム!」

 ヤマーダは引き続きイズムへ話しかける。


『…』

 やっぱり、何の反応も見せない。


  う~ん、どうしよう…


 ヤマーダは優しく抱き寄せ、

「お前、どうしたんだよ?」

 ナデナデして様子を見る。


『…』

 イズムに全く反応がない。


「なんだ? ()ねてるのか?」

 尚も、ヤマーダはナデナデを続ける。


  もしかして、《鬱》ってヤツか!?


  あっ! 

  そうだっ!


  《神水》!


 ヤマーダはイズムの体に優しく《神水》を振りかけながら、ナデナデを続けた。


「どうした? イズム」

 そして時々、話しかける。



 こうしてヤマーダは(くすんだ)色のイズムに《神水》を振りかけ、ナデナデを続けていく。



----------

1時間後


『…うっ』

 イズムに少し反応が表れた。


「おっ!? 大丈夫か? イズム」

 まだナデナデは止めない。


『…だ、旦那! 旦那ーーっ!』

 イズムが気がついたのか、ヤマーダの胸元にスライムボディーを擦り付けてくる。


「お~お~、よしよし」

 そして、優しく(あや)す。


『うっ、うっ、アッシは、アッシは頑張ったんす!』

「分かる、分かるぞ」


  本当は、よく分からんが…


『でも、うっ、でも…サリアの(あね)さんは命令ばっかりで、うっ』

「イズム、お前も頑張ったんだなぁ」


 イズムはヤマーダの首もとへと近づき、

『ネッ! ネーコの姐さーーんっ!』

 襟巻き状態のネーコに気づく。


 今度は、ネーコにイズムの擦り付け攻撃が、

『ちょっ、ちょっと、イズム、アンタ、()め、止めんかーーっ!』

 あまりにもしつこい擦り付けにネーコ、プチギレ状態。


『す、すみません、姐さん。嬉しくて、つい…』

 今度は、はしゃぎ過ぎてシュンとなった。


 そんなイズムに、

『あーっ、もう分かったから! アンタも元気出しなさいよ!』

『あ、姐さ~ん!』


 抱きつこうとするイズムに、ネーコはペシッと尻尾で追い払う。


『調子乗んな、コラァーーッ!』

 ネーコはイズムに厳しい。



 一息ついて、

「イズム、お前、なんでこんな所に居るんだよ」(ヤマーダ)

『あぁ…アッシはサリアの姐さんの(めい)で、この町の諜報活動をしてたんすよ』(イズム)


「こんな寂れた町でか?」


 ヤマーダの疑問は最もだ。

 今のエバンに、諜報活動してまでの魅力は一切感じられない。


『いやいや、アッシのは大陸全土1,021体ネットワークっすよ』


  1,021体!?

  な、なんじゃそりゃ~


(あるじ)、そのことに関係した相談があんるじゃが、場所を変えんかのぅ?」(ターニャ)


「えっ? じゃあ、《空間魔法(マイホーム)》にするか」(ヤマーダ)


 そんなヤマーダの発言に、

『《空間魔法(マイホーム)》!』

 イズムはかなり驚いていた。


「その前にイズム、他の分裂体には普段通りの行動をさせておくのじゃぞ! 決してサリア達には気づかれるな!」(ターニャ)

『わ、分かったっす』(イズム)


 ヤマーダ達は《空間魔法(マイホーム)》へと相談場所を移す。



----------

夕方


《空間魔法》マイホーム〈リビング〉


ヤマーダ、ネーコ(人化)、マサオ、イズム、

ミシェル(人化)、ターニャ(人化)、エル(人化)、

イズム(ヤマーダーマヤ会)、リリー


『やっぱ、我が家は落ち着くっすねぇ』

 イズムはヤマーダの肩に乗り、リラックス中。

 すっかり、いつもの艶々(つやっつや)な状態に回復している。



“鑑定”


名前・イズム

種族・スライムロード(魔物)

年齢・7歳男

………


  どうやら、

  《鬱》ってのも治ったようだな



 そこへ給仕(きゅうじ)のリリーが近づいてくる。


「ヤマーダ様、何か用意するですーか?」


「そうだなぁ…じゃあリリー、お茶を持ってきてくれないか?」(ヤマーダ)

「分かったですー」(リリー)


 リリーは台所へ行こうとする。


 そんなリリーに、

「アタシ、《ヤマチ》も~」(ネーコ)


 ネーコが《ヤマチ》を要求するも、

「もうすぐ夕食だから、ダメですー」(リリー) すげなく断られてしまう。


「なんでよ!」(ネーコ)


 ヤマーダの膝に座っているネーコの機嫌が悪くなっていった。



 (しばら)くすると、リリーが《ヤマーダ茶》を持ってくる。


 そんなリリーに気づき

『あっ! やっぱりぃ! リリーじゃないっすか! ほらアッシ、イズムっすよ、イズム』


 そんなイズムのセリフにキョトンとした表情。


ズズズーーーッ

 リリーは勝手に《ヤマーダ茶》を(すす)っていた。


 そして、

「なに、当たり前のことを言ってるんですー。イズムはボケたんですーか? イズムはボケ老人ですー」(リリー)


  リリー、音を立てて飲むなって!


ズズズーーーッ

『違うっすよ、そうじゃないっす。久しぶりってことっすよ~』


  コイツも音を立てて飲むのかよ


ズズズーーーッ

「やっぱりイズムはボケ老人ですー。さっき会ったばかりなんですー」



 そこへ、

『いや~、今日もバッチリ働いたっすねぇ~』

 スライム収集団体代表のイズムがピョコンピョコンと飛び跳ねながら、ご帰宅してきた。


 そこへ、

『リリー、飯はまだか~? オレ、メチャ()いしたいんだけど』

 ハヤテも合流してくる。


「もうすぐだから、黙って待ってろですー」(リリー)



 そして、イズムとイズム達は運命の出会いをする。


『な、なんでアッシの分裂体が!?』

 ヤマーダーマヤ会のイズム(会イズム)が、ハヤテを見て驚いていた。


『何を言ってんだ? コイツは』

 ハヤテが呆れた感じで話す。


『あーっ、違うっすよ。そいつはイズム改めハヤテっすから』

 ターニャの肩に乗っている、最初っから出会っていたイズムが説明する。


 今の仲間のイズムは、スライムキングへと進化したため、ちょっと(つや)感が違うのだ。


 別アングルのイズムにも気づき、

『おっ! おおっ! ここにもアッシの知らねぇアッシがいるっす!?』(会イズム)


『アッシ以外アッシじゃないのっす』(イズム)


  何それ?

  どっかの歌詞みたいじゃねぇ


  冴えない顔で泣いちゃった夜?


 そこへ、

『今日はお供も連れて、食事しに来たのじゃ』

 イズエモンがやって来た。


『イズサブロウ、イズノシン、リリーさんにお土産を渡すのじゃ』

 二人のお供を連れたイズエモンは、お土産と称したを魚介の食材をリリーへ届けにきたのだ。


 こうして、マイホームには7体の似たようなスライムが揃ったことになる。


  神セブンかな?


『うぉー! うぉー! また、アッシの知らねぇアッシがいるっすよーっ!』(会イズム)



 イズム渋滞で何がなんだか、よく分からなくなってくる。



----------

夕食後


『・・・なるほどねぇ~、旦那もネーコの姐さんも大変だったんすねぇ』

 食事の最中に大雑把な経緯を聞いて、会イズムは率直な感想を伝えてきた。


「そう? 別に大変じゃなかったよ」(ヤマーダ)

「そうね、結構面白かったわよ」(ネーコ)

 二人共、記憶を失った記憶すらないので、今迄の出来事を大変とは一切思っていない。


『まぁ、それならいいんっすけど』

 会イズムもホッとしているようだ。


『で、旦那。相談なんすけど…』(会イズム)


 そこへ、

「まぁ、待つのじゃ、イズム。そこから先はワシが話そう」(ターニャ)



 ターニャは(ひと)呼吸、()を置く。


(あるじ)、ヤマーダーマヤ会とワシら魔物との協力関係を解消するべき(とき)が、間近まで近づいたようなんじゃ」

「えっ!?」(ヤマーダ)


  まだ、心の準備が…


「実はのぅ、ワシら魔物達は、サリア達の命令に従いたくないんじゃ」

「なら、脱会するしかないよ」


「そうなんじゃよ」(ターニャ)


  ってことは、

  ヤマーダーマヤ会の魔物が

  一斉にウチへ来るのかな!?

 

「そこでまず、少人数からヤマーダーマヤ会を抜けていくつもりなんじゃ」


  あっそう!

  そりゃいいじゃん!


「だったら、俺達も手伝うよ」


 ヤマーダ達とターニャ達竜族との間には、友好協定が結ばれている。


「で、最初の脱会はアヤカシギツネの里がある東国《大樹林》で生活している魔物達からにしたいんじゃ」(ターニャ)

「いいんじゃないの」(ヤマーダ)


『えーーっ! そりゃないっすよ、姐さん!』(会イズム)


 会イズムは今すぐにでも、ヤマーダーマヤ会を辞めたいようだ。


「えーと、理由を聞いてもいい?」(ヤマーダ)


「そ、そうじゃな。まず最初の脱会で、あまりヤマーダーマヤ会に負担をかけてたくないんじゃ」


  そりゃそうだなぁ


「大量の脱会をすると、会に残らされる魔物達が可哀想なんじゃ。それにサリア達に警戒されて、次からの脱会に支障が出るかもしれん」

「拘束されるってこと」


「うむ! だからのぅ、《大樹林》の魔物達なんじゃ。彼らなら大した生産活動もしとらんし、()して影響も少ないからのぅ」

「そのとおりです」(エル)


「聞く限り、ターニャの意見は悪くないんじゃないの」(ネーコ)

『えーっ! 姐さんも賛成するんすか?』


「だって、しょうがないでしょ! 会に残る魔物達への影響も、ちゃんと考えてあげないと!」

『まぁ、そうなんすけどねぇ…』


「近い内に、何とかするからさぁ。それまでイズムも我慢してくれよ」(ヤマーダ)

『は…はぁ』(会イズム)



 その後、会イズムの気持ちを置き去りにしたまま、ヤマーダとターニャは最初の脱会計画を立てていった。



----------

3591年10月11日(翌日)

深夜1:00


《空間魔法》サリア《異空間(ゾーン)

〈サリア寝室〉


 サリアは寝室の机で、港町レムの奴隷解放計画を練っている。


「(そろそろ、寝んといかん。お肌が荒れてまう)」


 そんな中、

“イズムの思考パスが切断された”

 脳裏に直接伝わってくるアナウンス。


「な、なんやてーっ!」

 サリアの悲鳴がこだまする。



----------

同時刻


《空間魔法》サリア《異空間(ゾーン)

〈ヒルダ寝室〉


“イズムの思考パスが切断された”


 しかし、ヒルダは熟睡していて気づかなかった。



----------

同時刻


《空間魔法》リン《異空間(ゾーン)

〈寝室〉


 リンがうたた寝をしていると、

“イズムの思考パスが切断された”


「えっ!」

 リンは驚いて飛び起きた。


「…(ま、まさか! イズム…)」



----------

同時刻


《空間魔法》ノエル《異空間(ゾーン)

〈寝室〉


 ノエルが眠っていると、

“イズムの思考パスが切断された”


 脳内アナウンスに、

「…私達を裏切った!?」

 ノエルは咄嗟に何かを感じとる。


「…(ウチの魔物達…もしかして、私達から逃げ出すつもりなんじゃ!?)」

 ノエルは起き抜けにも拘わらず、頭を高速に回転させていく。


「…(ウチらの食糧や物資は、魔物達がほとんど生産しているわ。もし、魔物の脱会者が増え続けたら、奴隷解放なんてやってられないし、魔族連中も追い込めなくなるわ!)」


 この時点でノエルだけが、イズムの異変を明確に察知していた。



 イズムには1021体もの並列意識がある。


 外的要因。

 襲撃されたり、数回死亡した程度で《思考パス》が途切れることなど、ある訳がない。

 何故なら、サリアのスキル《復活の衣》で1日10回まで死亡しても生き返ることができるのだから。


 となると、内的要因。

 つまり、イズムがヤマーダーマヤ会を裏切った。

 そう考えるのが妥当な結論だったのだ。



----------

同時刻


《空間魔法》マイホーム〈エル部屋〉


ターニャ(人化)、エル(人化)、ミシェル(人化)



 ターニャとエル、ミシェルの三人が仲良くベッドで眠っていると、

“イズムの思考パスが切断された”

 ターニャとエルの脳内に、例のアナウンスが響き渡る。


「姫!」

 エルが早速覚醒し、ターニャに大声で警告。


 そんな声に、

『なっ! なんすか!?』

 ターニャ達に同行しているイズムがビックリして跳ね上がった。


「うむ! イズムのヤツ…先走ったのぅ」(ターニャ)

『えっ? アッシっすか…』


 ターニャは昨日の会イズムの態度から、この可能性も予期していた。


「ミシェル! あなたも起きなさい!」(エル)


「…え…あぁ、あっ! はい!」

 ミシェルの覚醒は早い。



 三人は瞬時に着替えると、ヤマーダ達を起こしに行く。



----------

1:30


《空間魔法》マイホーム〈リビング〉


ヤマーダ、ネーコ(人化)、ルル、イズム、

マサオ、ミシェル(人化)、ターニャ(人化)、

エル(人化)


 ターニャ達、竜娘三人に叩き起こされたヤマーダ達。


 寝ぼけ(まなこ)で、

「…ん~…三人して…こんな真夜中に…ど~したんだよ」(ヤマーダ)

「も~…なんなのよ」(ネーコ)

「うっせぇわ!」(ルル)

 パジャマ姿の三人。

 ネーコのパジャマだけフリルが付いている。


 そんな三人は、まだ頭が上手く回転していない。


『もう! うるさい!』(マサオ)

 ヤマーダの部屋でグッスリ寝ていたマサオも、ヤマーダの肩に乗って、ターニャ達に文句を告げる。


 (ちな)みにヤマーダの部屋で寝ていたイズムは、ターニャに同行しているイズムと分裂体同士。


 ターニャに起こされた時に、ヤマーダの元にいるイズムも起きてしまった。



「緊急なんじゃ! イズムのヤツがのぅ、やりおったぞ!」(ターニャ)

 ヤマーダ達をシャキッとさせるかのような口調。


「ん~? 何を?」(ヤマーダ)

「アヤツ、勝手にヤマーダーマヤ会を抜けおったんじゃ!」


 そこへ、

『“ヤマーダ様、すまんが起きてくれんか?”』

 玄関から、トーンを抑えた声がする。


 一旦、ヤマーダ達は耳をすます。


シーーン

 静寂がマイホームを包み込む。


『“ヤマーダ様! 起きてくれんか!?”』

 今度は大きな声がしてきた。


「“じゃかぁしぃですー! 今、何時だと思ってんですー! 安眠妨害ですー! 即刻死刑ですー! ミギャーですー!”」

 リジーのブチギレしている声がドアの向こうから聞こえてくる。


  お前の方が、よっぽどうるさいから


「“リジー、うるさいですー! テメェは死刑ですー!”」(リリー)


「「“リジーとリリー! うるさいですー! テメェらは死刑ですー”」」(リビー、リディー)


「“ぶち殺すでテメェら! ですー”」(リチー)

「“テメェらの血は何色だ!? ですー”」(リミー)


  あ~ぁ、

  (みんな)、起きてきちゃったよ


 実は皆ではない。

 カメコはグッスリと寝ていた、大物である。


カチャッ!

 リビングのドアが開き、

『ヤマーダ様、向こうのイズムがウチの村に逃げて来たんですが』

 リビングに入って来たのは、イズ村のイズエモンだった。


  えーっ!


「そっちに行ったのか!」(ターニャ)

「そっちって?」(ヤマーダ)


 会イズムはヤマーダと《思考パス》が繋がっていない。

 当然、ヤマーダ達の《異空間(ゾーン)》には入れない。


 そこで会イズムは、1,021体の分裂体を使ってイズ村を調査、発見。


 ターニャにバレる前に、脱会してイズ村へ逃げ込んだのだ。


「話の続きなんじゃが、今さっき、アヤツとの《思考パス》がいきなり途切れてのぅ」

「《思考パス》?」

 ヤマーダには皆目(かいもく)検討がつかない。


『あ~、それって僕とヤマーが繋がってるヤツのことじゃん!』(マサオ)


  んっ?

  それってもしかして、朝起きたら

  ずっと脳内アナウンスしてたってヤツか?

  (第44話より)


「つまり、そっちのイズムがターニャ達の仲間から外れたってことか?」(ヤマーダ)

「そうです」(エル)


  ふ~ん…


「それって問題なのか?」

「大問題じゃろう。サリア達の大半は(あるじ)の置き土産の《思考パス》で(かろ)うじて繋がっとるだけじゃ」


  えっ!

  《思考パス》って、

  オレの置き土産だったの?


「じゃがのぅ、サリア達ヤマーダーマヤ会には新たに《思考パス》の接続ができないんじゃ。《思考パス》は主の特殊スキルみたいなもんなんじゃ」


  へぇ~、知らんかった


「《思考パス》の繋がった同士だと情報伝達が速くなり、繋がっとらんと情報が伝わらんのじゃ」


  携帯会社の基地局みないなもんか


「でのぅ、その欠点を補うように、イズム約1,000体を各自で携帯しとったんじゃ」


  何?

  イズムって、スマホみたいじゃん


「その携帯が失くなったってこと?」(ヤマーダ)

「そうじゃ!」(ターニャ)


「でも、それの何が大問題なんだ?」


  確かに、スマホがないと不便だけど

  オレはもう、慣れちゃったよ


 地球(むこう)に居る時から、ヤマーダはスマホを多用していない。


 それは小学生の頃、父親のスマホで遊んでいる最中に誤ってコンクリートの地面に落としてしまい、画面部分をバッキバキに壊して、父親に滅茶苦茶怒られた思い出がある。


 それからというもの、山田少年はスマホにトラウマを持っていたのだ。


「ワシらの連絡手段はイズムの分裂体に頼りきっておる。そんな便利アイテムのイズムが失くなってしまったら、ヤマーダーマヤ会は真面(まとも)に動かなくなるじゃろう」


「え~と、つまり、便利アイテムが失くなるってことか?」(ヤマーダ)

「有り(てい)に言うと、そうなるのぅ」(ターニャ)


「だったら悪いけど、イズムが逃げ出したのも分かっちゃうし、ヤマーダーマヤ会のせいなんじゃないの?」

「…うむ」

 ターニャは言葉を失った。


 ターニャの話を聞く限り、仲間であるはずのイズムを道具のように扱ってきた訳だ。


  イズムが逃げ出すのも当たり前じゃん!



 実はターニャにも、イズムの自由とヤマーダーマヤ会に残された魔物達の境遇を天秤にかけたくない。

 魔物の基本的な思考は、自主自立、弱肉強食なのだから…


「ねぇ、ここでウダウダ言っててもしょうがないわ。とりあえずイズムの所に行きましょうよ!」(ネーコ)


 イズ村の村長宅へと移動する。



----------

2:00


魔国領イズ村〈村長宅前〉


ヤマーダ、ネーコ、マサオ、イズエモン

イズム、ミシェル(人化)、ターニャ(人化)、

エル(人化)


 村長宅の前にはスライムの小山(こやま)が築かれていた。


 1,021体全ての分裂体(イズム)が集結している。


 イズム1体の大きさが約8cm。

 14×14=196体のイズムが密集して出来た正方形の上に、13×13=169体のイズム正方形が乗っかる。

 そして、その上に12×12=144体のイズム正方形が乗っかる。


 そんな感じで1mくらいのイズムピラミッドが形成されていた。



 ピラミッドの天辺(てっぺん)には、1体のイズムがチョコンと居座っている。


『旦那(だ~んな)、来ちゃった!』(会イズム)


  そんな、(ひと)()らしの彼氏宅に

  突然、訪れた彼女みたいに言われてもなぁ


 そんなイズムへ

「イズム! お(ぬし)が真っ先に(あるじ)の元へ逃げてしまったら、残された魔物(モノ)達はどうするのじゃ!?」

 ターニャからお小言が浴びせられる。


『…だって…アッシ…もう彼処(あそこ)…嫌なんすもん』


  ヤマーダーマヤ会って、

  そんなに()な所なのか…


「一度戻って、もう少し時期をみてから、出直せば良かろう」(ターニャ)

『嫌っす! もう戻りたくないっす!』

 イズムにはヤマーダーマヤ会へ戻る意思がないようだ。


「なぁ、ターニャ。こんなに嫌がってるしさぁ、これはしょうがないよ。イズム、お前は今日からここで暮らせばいいよ」(ヤマーダ)

『さぁっすが旦那! よく分かってるっす!』


「じゃが、残された魔物(モノ)達を考えるとのぅ」

「まぁそうなんだけど…それは俺達もフォローするからさぁ」


「…う、うむ」

 ターニャも渋々、イズムの件を了承してくれた。



 周りもまとまりかけた中、

「ですが、サリア様達が納得しますかねぇ」(エル)

「そうですねぇ、難しいと思いますよ。今迄、ヤマーダーマヤ会の奴隷解放活動は、イズムさんの転移施設(ポータルゲート)があってこその活躍でしたから」(ミシェル)


「そう、そこなんじゃよ!」(ターニャ)



----------

2:05


中央国エスタニア都市ニーバ

ヤマーダーマヤ会本部〈作戦室〉


「…なぁ、どないしよ」

 ことのほか、元気のないサリアの声。


 10畳ほどの作戦室にサリア、リン、ヒルダ、ノエルの四人。

 皆、神妙な面持ちをしている。


「これでは、港町(レム)で奴隷解放活動を続けることは難しくなりますね」

 状況分析担当のヒルダが正直に報告する。


「…なぁ、サリアちゃん。…ここは…一度ニーバに…引き上げようよ」

 リンに、レムでの活動を続ける意思はない。


「せ…せやなぁ」


 そんな意見でまとまりつつある中、

「いえ! なんとしても続けるべきです!」

 ノエルだけが、活動続行を望んだ。


「…どうして?」(リン)

「現状では無理なのでは?」(ヒルダ)


「それは今が絶好のチャンスだからです!」(ノエル)


 チャンスとは、ナバル商会の会員が出払っていることを指していた。


「そりゃ、分かっとんねん」


「このまま解放活動を続ければ、東国での足掛かりにもなります! ですが一度時間を置けば、ナバル商会の艦隊もレムに戻ってきてしまって、私達の付け入る隙がなくなってしまいます」(ノエル)

「そら、ホンマやでぇ」(サリア)


「…で、でも…イズムがいないと…わたし達の連携が…取れない」(リン)

「そうですねぇ。魔物の皆さんの不満も溜まりそうですしね」(ヒルダ)


「ならこの際、元凶を断ちましょう!」(のじゃ)

「元凶って?」(サリア)


「ヤマザル村の連中です!」(ノエル)



----------

2:10


魔国領イズ村〈村長宅前〉


 なんだかんだあって、ヤマーダ達と会イズムの関係性は、会イズムを仲間に加えることで一応の決着となった。


「とりあえずイズム、お前は改名してくれ」(ヤマーダ)

『えっ!? いきなり、なんでっすか!?』(会イズム)


  同じ名前が2つもあると、

  分かんなくなっちゃうからさぁ


  なんて口が裂けても言えない…


「ほら、イズムも1年以上、俺達に(つか)えてくれたじゃない。その間、スライムとして沢山進化したんでしょう? だったら名前も進化させなくちゃ」

『な、なるほど、確かにそうっすね!』


 これはヤマーダの適当な言い訳である。


 ヤマーダにとって、会イズムと出会ってたった1日。

 それほど情が湧く存在ではない。


 どうせ名前を変えるなら、愛着のない方を選んだに過ぎないのだ。


「イズムはどんなのがいい?」(ヤマーダ)

『そうっすねぇ…《イズム》って言葉は残したいっすね』(会イズム)


  じゃあ、

  スーパーイズムとか

  イズムΖ(ゼータ)とか

  モリ・イズムとかか…


『バカイズムなんて面白いよね~』(マサオ)

『ムァスァウォ! テメェ~ふざけんなっすっ!!』


  バカイズムって芸人ぽくていいけどね…


「なんかアタシ、飽きちゃったわ。ヤマーダ、なんでもいいから早く決めてよ」

 ネーコに興味のカケラは1ミクロンもない。

『あ、姐さん‥アッシにも愛が欲しいっすよ』


「もぅ、どうでもよかろう」(ターニャ)

「本当に」(エル)

「そろそろ、帰りませんか?」(ミシェル)

 竜娘三人衆も完全に飽きてちゃっている。

『あ、あのぅ…皆さん、ちゃんと考えてくださいっす』


  1,021体って微妙な数なんだよなぁ


  丁度、1,000体だったら

  セン・イズムってのもありだったのに


  イズノオドリコとか

  イズハントウ、イズシチトウなんてのも…


  …エイズ・ム

  …これは流石にマズイかな


「…」(ヤマーダ)


 ヤマーダは必死に考えていた。


『なんだったら、伸ばすのもアリっすけど』(会イズム)


  イーズムとか、イズームとか、

  イズムーとかか?


  あっ!

  イッズームなんてどうよ!?


  なんかアラブ人ぽいし、良くない!?


「なぁ、イッズームってどうよ?」(ヤマーダ)

『えーっ! イッズームっすかぁ…まあまあっすね』(会イズム)


  何、その辛口コメント


「ハイ! 決まり、イッズームで決定! ハイ! もぅ変えられませーんっ!」

 ヤマーダの有無を言わさぬ解決策が炸裂する。


“ヤマーダはイズムを従えた”

“ヤマーダとイズムの思考パスを再接続”

“成功”

“イズムから改名が申請されました”


  イズムからって本当か?

  なんか本人は納得してなかったよ


“イズムはイッズームに改名しました”


  でも、改名できた


“イッズームを別個体と認定”

“ヤマーダは粘液(スライム)族から慕われたため《粘液の信愛者》へ転職が可能になりました”


  あれっ?

  また変なメッセージが!


“《粘液の信愛者》に転職しますか?”


  明らかにレアな職業だな

  間違いなく転職しなくちゃ!


“ヤマーダは《粘液の信愛者》に就きました”


  《粘液の信愛者》って

  ただのローション好きってこと?






粘液の信愛者・

粘液(スライム)族から慕われた者の証。

職業レベルが上がると同時に粘液族特有の《念話》《物理耐性》《超回復》が使えるようになる。

能力補正は全能力値、Lv×5。

ただし、能力補正はLv5以上に到達した場合に限られる。


念話(Lv1)・

目視した者と声に出さずとも意思疎通を図ることができる。


物理耐性(Lv1)・

物理ダメージを大幅に軽減できる。

軽減量はスキルレベルに依存する。


超回復(Lv1)・

《宿泊回復》《時間回復》にかかる時間を短縮する。

短縮時間はスキルレベルに依存する。




《能力共有》


ヤマーダ、ネーコ、ルル、イズム、マサオ、

マツコ、ノーラ、ソンチョウ、ダイヒョウ、

ハヤテ、ゴブジ、マサムネ、ハニー、

ミシェル、ボクシ、ダイスケ、ゴエモン、

フジコ、イズエモン、イズサブロウ、

イズノシン、イズシチ、イズザル、イズベエ、

イズムネ、イズゴロウ、イズスケ、イズリ、

イズシロウ、イズゾウ、イズロク、イズジ、

イッズームnew

計32人(ヤマーダを除く)


体力・306(+α)

魔力・254(+α)

攻撃・388(+α)

防御・312(+α)

知識・264(+α)

敏捷・196(+α)

運・298(+α)

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