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《空気使い》って?  作者: 善文
66/134

大航海時代②(1)

3591年10月6日(4日後)

早朝


中央国エスタニア南海上

ポーラ商船〈船首甲板〉


イズムネ、ポーラ


 イズムネは甲板の一番見晴らしの良い船首中央デッキの真ん中に陣取り、海上を眺めていた。


バシャン! バシャン!

 商船は颯爽と吹く風を切って進み、早朝の眠気を爽快に吹き飛ばしていく。


 そこへ、

「イズムネ様、明日にはエバンへ到着する予定です」

 ポーラ商会の会長、ポーラが航海日程を告げる。


『うむ! ご苦労』(イズムネ)


 この二人のやり取り、いつの間にか習慣となっていた。


 それは30日の航海の結果、イズムネが信用された結果でもあった。



----------

ポーラ商船〈後部甲板〉


ダイヒョウ


「今日も絶好調っすねぇ」

 船員の一人が話しかける。


『残念ながら向風(アゲンスト)なんだけどね』

 《風魔法》全快のダイヒョウが得意気に答える。


 ポーラ商船とチン商船は、共に帆掛け船。

 本来なら風力、潮力、人力の3つ以外には前進しない。


 だが、ナバル商艦が《風魔法》の風力を推進力で航海していることを知った。


 そして現在、港町エバンへと向かう2隻の商船は、同様に《風魔法》を推進力として順調に進んでいた。



ポーラ商船・

全長28m。

船首に女神像。

乗船人数は2隻共、30名程度。

救助用ボート、各2(そう)


 人力用のオールも備え付けてあり、キャラック船と言われる種類の船だった。



『そろそろ、飯の時間じゃないか?』(ダイヒョウ)

「そうですね」(船員)


 船員は有線通話の蓋を開け、

「朝食の時間だ。(いかり)を下ろせー! 錨を下ろせー!」


 現在、風向きがアゲンストのため、《風魔法》を止めると後方へ流されてしまう。

 停泊用の錨を下ろして、流されないようにする訳だ。


 するともう一つの有線通話から、

「“了解ー! 了解ー!”」

 向こうからも返答が即座に返ってくる。


 この有線通話は艦首、艦橋、見張り台、艦尾4ヶ所と繋がっており、あらゆる情報を船内で共有していた。


「手旗信号開始!」(船員)


(ちょう)(しょく)(いかり)・下ろせ》

 手旗信号が並走しているチン商船へと送られる。


 すると、

《了解》

 と手旗信号が返ってきた。



 イズムネ、ダイヒョウの乗船するポーラ商船とイズスケ、イズリ、ゴブジの乗船するチン商船は朝食のために仲良く30m離れて停泊する。


 そこは、沖合い200mだった。



----------

午前


中央国エスタニア南海上

ポーラ商船〈船首甲板〉


イズムネ


 順調な航海も後1日という朝食後の午前中に、

カーン! カーン! カーン!

 船内に緊急を告げる金属音が鳴り響く。


 見張り台との有線通話から、

「“何かが急速に接近してくる!”」(索敵技士)

 と、明らかに異常を告げる連絡が入る。


「“何処からだ?”」(船長)

「“後方7時の方向!”」(索敵技士)


 この方角は東西南北で言うと南南西、前後左右で言うと後後左だろうか。


 イズムネとポーラの近くにある有線通話から、船長と索敵技士の緊迫した会話が聞こえてきた。


「“大きさはどのくらいだ?”」(船長)

「“お、大きい…”」(索敵技士)


「“ハッキリしろっ! どのくらいなんだ!?”」(船長)


 曖昧な返答を正させると、

「“全長50m超!”」(索敵技士)


「“ま、まさか、(くじら)か!?”」(船長)


 この頃の海洋生物には、大きく分けて上位の魔物と動物の2種類いた。


 しかし、海で生活している魔物に下位の魔物は存在しない。

 リバイアサンやクラーケンなど上位の魔物がいるだけであった。

 しかし、人々の大半はその真実を知らず、噂話でしか語られなかった。


 つまり、一般的な海洋生物とは魚や貝などの他、鯨などの大型動物も含まれていたが、魔物の存在は全く知られていなかったのだ。


 特に船へ間違って衝突してくる巨大生物、鯨は船乗り達にとって船を転覆させる悪魔の魚「デビルフィッシュ」と呼ばれ、とても恐れられていた。


「“い、いえ、違います。速い! 速すぎる!”」(索敵技士)


 現在、商船の航海速度は20ノット。


 これは一般的な帆掛け船3~5ノットを考えると、恐ろしく速いことになる。


 しかし、残念ながら20ノットを常に維持している訳ではなく、ダイヒョウやゴブジが休憩・睡眠中は風力、潮力を利用せねばならない。


 1日8時間は20ノットになったとしても、残りの16時間は3ノットにも満たないため、1日で平均すると8ノット程度の速度しか出ていないとも言えた。


 それでも当時の商船としては圧倒的に速いことに変わりはない。



「“あと少しで! 左舷後方から接触しまーーす!”」(索敵技士)


「“総員! 何かに掴まれーーっ!”」(船長)


シーーーン…


 衝撃に備えたのも束の間、しばらく何も起こらなかった。


「“ど、どうしたーっ!”」(船長)

「“わ、わかりません! み、見失いましたーっ!”」(索敵技士)


 すると、並走していたチン商船が加速を続け、チン商船の遥か後ろへと突き放されてしまった。


 ふと、そこで異変に気づく。


「“か、艦長(かんちょーーう)! 船が、船が海上に止まっていまーーす!”」(索敵技士)


「“どうなっておる!”」(船長)


 風も潮も流れている海で、停止するなど至難の技だ。


 流石(さすが)(ただ)待っているという訳にはいかない。


 イズムネは急ぎポーラの肩に乗り、

『急いで船体を調べるぞ!』

 と、指示を出す。


「は、はい!」(ポーラ)



----------

ポーラ商船〈後部甲板〉


ダイヒョウ


『急いで周辺の海上を索敵してくれ! ワシはヤマザル様に応援を頼んでくる!』(ダイヒョウ)

「了解しました!」(船員)


 ダイヒョウは急ぎ、(オーロラ)の中へと入っていった。



----------

《空間魔法》ヤマザル村〈養鶏(ようコカ)場〉


ヤマーダ、マサオ


 216体の雛コカちゃん、雛コカくん達は無事に村外村へと巣立っていき、ヤマザル村の養鶏(ようコカ)場にはいつもの平穏が訪れていた。


「だい~ぶ、リラックスしてきたよね~」(ヤマーダ)

『ありがたいことです』(コカくん)


 第二世代を無事に巣立たせたコカくん達は感無量の表情で短期隠居(ショートリタイア)状態を満喫している。


 子育て疲れもあるのだろう、ヤマーダからゆっくり休むようにと、休暇(バケーション)を言い渡されていた。


 と言っても、日々の掃除やコカちゃん達の食事の手配、夜のお勤めなどやるべきことは決して少なくない。



現在の養鶏場

コカくん  111体(内3体が第一世代)

コカちゃん 111体(内3体が第一世代)


1日の産卵数(有精卵) 555個

1日の産卵数(無精卵) 1,110個


1日の有精卵の育成数 54個


ヤマザル商会での1日販売数

1日3個(無精卵のみ)


 (いま)だにヤマーダ(らん)の販売数は少なく、常に完売状態。


 まず、村外村では1,000個の卵を41,000の村外民で分け合っているので、余分な卵は全くない。

(1日当たり、41人に1個)


 更に、移住民8,000にはたった3個の卵しか供給されず、1個15ヤザルするにも拘わらず200日以上の予約待ち状況が続いていた。

(1日当たり、2,666人に1個)


 と言っても、コカちゃんの卵自体は10cm程あり、鶏卵の4~5個分はあるのだった。


  後、数ヶ月もすれば

  もう少しは行き渡る(はず)


 と言っても、ヤマーダには一人1日1個までヤマーダ卵の生産を増やすつもりはなかった。


 何故なら、当のコカちゃんとコカくんがあんまり乗り気じゃないからだ。


 面白いことに、コカちゃんとコカくんには自分達で個体数を管理する意識があり、(コカ)数をこれ以上増やすつもりがなかった。


 コカトライスの寿命は、大体100歳前後。

 その内、繁殖期が90年ととても長い。


 自分達の第二世代を巣立たせてからは、健康のために産卵しているだけだった。


『あっ! ヤマザル様、ダイヒョウさんが走って来ましたよ』(コカくん)

「えっ! 何だろう?」(ヤマーダ)


 現在、ヤマーダにはネーコが同行していない。


 ユノーラに薦められて、里の奥義を会得中なのだ。


『ヤ、ヤマザル様! 大変ですよ! ワシらの船に異常が!』(ダイヒョウ)

「異常って何さ?」(ヤマーダ)


『と、とりあえず来てください!』(ダイヒョウ)


 ダイヒョウもかなり慌てているようだ。


「マサオ、とりあえず行くぞ」(ヤマーダ)

『お任せ~』(マサオ)


 ヤマーダはダイヒョウと共にポーラ商船へ移動する。



----------

ポーラ商船〈後部甲板〉


パーティー(PT)

ヤマーダ、マサオ、ダイヒョウ、イズムネ


 ヤマーダ達が(オーロラ)から飛び出ると、そこはポーラ商船の船尾、後部甲板だった。


 甲板(そこ)では、イズムネとポーラが船体から身を乗り出して、海中を調べている。


『どうだ? 何か分かったか?』(ダイヒョウ)


 ダイヒョウはさっきの仲良い船員に話しかける。


「よく分からないんですよ」(船員)


キーィ! キーィ!…

 ヤマーダは船に揺られながら会話を聞いている内に、

「ウプッ! 気持ち悪~い」

 早速、船酔いしてしまった。


  あ~、もうダメだ

  あ~、気持ち悪~い


  オレ~、死んじゃうかも


 そんなヤマーダを察して、

「どうしたんです? ヤマザルさん」(船員)

「もしかして、船酔い…ですか?」(ポーラ)


「う、うん…そうみたい」

 ヤマーダの顔色は完全に真っ青になっている。


 甲板上に立っているのもしんどいほどの船酔いで、室壁にもたれ掛かり、屈んで頭を下げてしまった。


 そんなヤマーダを見かねて、

『ヤマー、空、飛んでみたら?』(マサオ)


「えっ!?」(ヤマーダ)


  なるほど、飛ぶってのもアリか!


 ヤマーダは、最近サキュバスのフジコと《スキル共有》した時に手に入れた《飛行》スキルを発動させる。


フーーーーン

 すると、ヤマーダの体は無音のまま船体から3mほど浮き上がり、波の揺れから解放された。


  ヨッシャーーッ!


 と思ったのも束の間、今度は、

ヒューーーーッ!

 猛烈な海風に体を持っていかれ、


バッシャーーン!

 マサオごと、頭から海へとダイブしてしまった。



----------

ポーラ商船近傍〈水面〉


PT

ヤマーダ、マサオ


 直ぐに水面へ浮かぶと、バタバタともがくヤマーダ。


「ゴボッ、ゴボゴボッ! しょっぺぇ!」

 海水の味について一言。


 ダイブの時に、ヤマーダは一口海水を飲んでしまっていた。


  ちっきしょーっ!

  思ったより波が荒いぞ!


 それに比べ、肩に乗っているマサオは海中・海上になんの問題もないようだ。


ザッバーーン!

ザッバーーン!

ザッバーーン!


  うぉーーーっ!


 ヤマーダの体は三連の波に(さら)われて、海中へ沈んでいく。


 それでも、マサオの体勢はヤマーダの肩から崩れない。


  ど、どうなってんだーーっ!


 海中でのヤマーダのジタバタを全く気にせず、

『“ヤマー、いつまでも遊んでないで、あっちを見てよ”』(マサオ)


 よく見ると、マサオの周りだけ海水の流れが穏やかになっていた。


 つまり、マサオは既に海中での動きをほぼほぼマスターしていたのだ。


 これは《水魔法》《潜水》《飛行》を複合して使えば海中でも難なく動ける話だ。


 しかし、いきなり流れのある海中で自由に動けるという程、簡単な筈もない。


 これはヤマーダに泳ぎのセンスがないのではなく、単にマサオがセンスの塊なのだ。


  上手く動けない!


 未だに、ヤマーダは海中でバタバタしている。


『“ほら、あそこ! 何かいるよ!”』

 マサオは海中でも会話術もマスターしている。


「ゴボゴボッ!」

 ヤマーダが喋ろうとしたら、口の中に海水が入ってくる。


  どうやって水中で喋んだよ!


 そこであることを思い出した。


  あっ!

  オレには《空気使い》があるじゃんか!


 ヤマーダは自分の周りの水流を操作して潮の流れを遮断し、《神気》を作り出して自分の顔だけ覆うような空気の幕を作り出した。


 格好はまるで宇宙服のヘルメットを被ったナマハゲのような感じだ。



 ヤマーダは体制が安定してきたので、マサオの指摘した方向へと視線を向ける。


「“な、なんじゃこりゃあ!”」


 そこには、船底にビッシリ30人の人魚がへばりついていて、船を進ませないようにしていた。


  オマエら、フジツボかよ!


 先程、全長50mの巨大生物と思っていた存在はなんと、マーメイドの魚群だったのだ。



“鑑定”

名前・アクアマリン

種族・マーメイド(魔物)

年齢・16歳女

職業・漁師(Lv1)

レベル・2

体力・49/52

魔力・70

………


名前・アクアーリン

種族・マーメイド(魔物)

年齢・14歳女

………


名前・アクアリス

………


名前・アクアリアス

………


  この人魚達、

  一人一人名前があるぞ!?


  それに職業とレベルもある!


  もしかして、上位の魔物なのか!


 ヤマーダはコッソリと彼女達に近づいていき、

「“あの~、船を止められると困るんですけど”」

 普通に声をかける。


 水中なので音が微妙に拡散してしまう。


『“邪魔されると困るんだけど”』

 ヤマーダに続いて、マサオも文句を伝える。


『“しゃ…喋ってるーーっ!”』(アクアマリン)

『“ギャーーッ! (きっ)持ち悪い顔ーーッ!”』(アクアジ)

『“(おか)されるーーっ!”』(アクアーリン)

『“ママー! 助けてーーっ!”』(アクアトロバジーナ)


 ヤマーダの姿を見て、マーメイド達は大混乱!


  い、一体、何なのよ!?


「“あ、あのね。俺は皆さんの敵じゃないんですよ”」(ヤマーダ)


 一方その頃



----------

中央国エスタニア南海上

チン商船〈後部甲板〉


ゴブジ、イズスケ、イズリ


「どうしたんでしょうね?」(チン)

『何かあったのかもしれん』(イズスケ)

『そうですね』(イズリ)


 急な事態に一人と二体は船尾へと移動し、遥か後方に遠ざかってしまったポーラ商船を不安そうに眺めていた。


 そこへ!


「“後方の海中に、巨大な影が! デ…デカイ!”」(索敵技士)

「“ど、どういうことだ?”」(船長)


ガコン!

 二人の通話と共に大きな衝撃。


 チンは船の慣性に従い、船首方向へスッ転んでしまう。


「い、(いて)てて…」(チン)


 どうやら、チン商船は海上で急停止させられたようだ。


『な、なんでしょう!』(ゴブジ)

「わかりません!」(船員)


「“せ、船体に何かが絡み付いてます!”」(索敵技士)

「“ハッキリしろ!”」(船長)


「“これは…ク、クラーケンだーーっ!”」(索敵技士)


 索敵技士の言葉と同時に、右舷、左舷から伸びる触手が高々と天へかけ登り、太陽を遮る。


『な、なんです、アレは!?』(ゴブジ)

「海の魔物! クラーケン!」(チン)


『皆の者、まず落ち着くのだ! 状況を確認するでござる。拙者とイズリでこの場は引き受けるでござるので、ゴブジ殿はヤマザル様へ救援要請を!』(イズスケ)

『わ、分かりました!』(ゴブジ)


 ゴブジが(オーロラ)へと飛び込んだ直ぐ後、


“鑑定”

名前・オクト

種族・クラーケン(魔物)

年齢・107歳女

種族・無職(Lv-)

体力・110/112

魔力・64

………


 イズスケは魔物を《鑑定》する。


『… (クラーケンで間違いござらん!)』(イズスケ)

「ど、ど、ど、どうすれば…」(チン)

「もう、この船は終わりだ!」(船員)

『助けてーーっ!』(索敵技士)

『逃げるんだ! なんとかして逃げるんだ!』(船長)

 完全にチン会長と乗組員達は混乱している。


『まず、落ち着きなさい!』(イズリ)


 イズリが同様している者達を一喝する。


「そ、そうですね。落ち着きましょう」(チン)

『“皆、落ち着けーーーい!”』(船長)


 だめ押しの船長の一喝で、なんとか船員達のパニックは収まった。


『イズリ、急ぎ怪我人を確認するのだ!』(イズスケ)

『はっ!』(イズリ)


 なんと! チン商船もクラーケンに足止めされてしまった。



----------

中央国エスタニア南海上

ポーラ商船近傍〈海中〉


PT

ヤマーダ、マサオ


 空気ヘルメット《ナマザル》のヤマーダが更にマーメイド達へ近づいてみる。


『“嫌だぁーーー! ママーーーっ!”』(アクアトロバジーナ)

『“犯すなら痛くしないでぇーーっ!”』(アクアーリン)

 最早(もはや)、マーメイド達は会話ができる状態ではなくなっていた。



 ヤマーダはなんとかマーメイド達の目の前まで辿り着くと、

「“ちょ、ちょっと! 俺の話を聞いてください!”」


『“しゃ、喋ったら妊娠しちゃうーーっ!”』(アクアマリン)

『“(きっ)持ち悪い顔の赤ちゃんが産まれちゃうーーっ!”』(アクアジ)

 混乱したマーメイド達の暴言が酷い。


  あ~段々と腹が立ってきたぞ!


  なんなんだよ!


  オレを強姦魔みたいに言いやがって!


『“ママ、ママーーーっ!”』(アクアトロバジーナ)

『“痛くしないでぇーーっ!”』(アクアーリン)

 狂乱状態に全然、収拾がつかない。


  あーぁ!

  もうムカついた!


「“話を聞かないなら、本当に妊娠させますよ! 一瞬ですよ! 目で犯せるんですよ!”」


 《ナマザル》の目が怪しく光る。


『“ギャーーーーッ!”』(人魚一同)

「“うるさーーい!”」

 ヤマーダは完全にブチギレる。


「“次に騒いだら、この《妊娠眼》が炸裂しますよ! 即妊娠ですよ! 十月十日ですよ! 黙らないと本当に知りませんよ”」(ヤマーダ)


 勿論(もちろん)、そんなスキルはない。


シーーーン

 ヤマーダの脅迫によって、一斉にマーメイド達は黙り込む。


  素直じゃんか


「“あのさぁ、俺、ヤマザルっていうんだけど、この船の知り合いでさぁ。なんでこんな嫌がらせしてんのよ?”」(ヤマーダ)


『“嫌がらせ?”』(アクアマリン)

『“はい?”』(アクアジ)


「“はい?”」(ヤマーダ)


 話が噛み合わないヤマーダとマーメイド達。


『“私達はこの先にクラーケンがいて危険だから、行かないようにしていたんですが…”』(アクアマリン)

『“そうそう、だから~最近、この先は危ないってママが言ってたの”』(アクアトロバジーナ)


『「“えぇっ!?”」』(ヤマーダ、マサオ)



----------

中央国エスタニア南海上

チン商船〈後部甲板〉


ネーコ、ルル、ゴブジ、イズスケ、イズリ


 ゴブジに先導され、(オーロラ)からネーコとルルが合流してきた。


『ヤマーダ!』

 ネーコが辺りを見渡しても、ヤマーダの姿はない。


 ヤマーダとマサオはポーラ商船の異変を誰にも告げずに、二人で救援へ駆けつけに行ってしまったのだ。


「ヤマーダは?」(ルル)

多分(たぶん)、ポーラ商船の方かと…』(ゴブジ)


「そんなことよりも! アレを!」(チン)


 チンが指差す先を見ると、大きなタコの様な足が商船に絡みついている。


“鑑定”

名前・オクト

種族・クラーケン(魔物)

………


 ネーコが再度《鑑定》する。


 そして、

『こういう時は、まず会話よ! ヤマーダがやってたことをすればいいの』(ネーコ)

 自分に言い聞かせているようだ。


「アタイは適当に戦ってみたいんだけど…」(ルル)


「な、何をバカなこと言ってるんですか!?」

 チンはオクトの足が船にしっかりと巻き付いており、商船が壊されるかもしれないと気が気じゃない。


『チン殿、オクトは絡みついて拙者達を足止めしとるが、今のところ攻撃してこないぞ』(イズスケ)

『そうですな。ここは、話し合いをするのも悪くないですよ』(イズリ)


 ネーコは大声で、

『ねぇ、オクト! なんでこんなことをするのよ? すんげぇ迷惑なんだけど!』


ザッパーーーン!

 クラーケンのオクトは波飛沫を上げて海上に顔を出すと、

『…な…なぬ…おぉ…珍しい』

 ゆっくりした口調で話しかけてきた。


『アタシはネーコ!』(ネーコ)

「アタイ、ルル!」(ルル)


 まずは自己紹介。


『…おぉ…喋っとる…喋っとる』

 オクトの機嫌は悪くない。


 どうやらオクトは空気を振動させて喋っているようだ。


 しかし、耳がないのに聞こえている。

 全く謎だ。


『…アヤカシギツネと…ゴブリナクイーンとは…また…珍しい。…私は…オクト』(オクト)


『さっきも言ったけど、これじゃあ船が前に進めないんだけど。なんでこんなことをするのよ!?』

 ネーコは不機嫌そうに質問する。


「“あ、あのぅ、言葉が分かるんですか?”」

 チンは、ルルにそっと耳打ちする。

「あぁ…オッマエ、言葉が分っかんねぇのか…まったくしょうがねぇなぁ」(ルル)


「『…いや…なに…人種(ひとしゅ)の…連中に…ちょっと…お灸を…据えて…やろうと…思ってな』」(オクト、ルル)

 ルルの同時通訳が始まる。


『なんでよ?』(ネーコ)

「そうだぜ!」(ルル)


「『…それはな…人種が…魚を…乱獲する…からだ』」(オクト、ルル)

 口調はゆっくりだが、聞かされた内容はショッキングだった。


「そ、それは、どういうことですか!?」(チン)



 ネーコ達は、人種が起こした水産資源問題に直面することとなった。

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