西の里
深夜
魔国領ノーラ村〈中心部〉
上はノンスリーブ、下はパレオのような服装で、
「お姉ちゃん、もしかしてユクトさんに捨てられた?」
と言い放つ女性。
「失礼な事、言わないでよ!」(ノーラ)
その発言に、アヤカシギツネのノーラが全力で反論している。
先程(前話)、幕から現れた女性はノーレといい、ノーラの妹だ。
そして感動の再開は、何故か姉妹喧嘩へ。
そんな騒ぎに気がついたユクトがグッスリと眠っているノールを腕に抱いて、ノーラ達の元へ近づいていく。
「“ちょ、ちょっと静かにしてくれないか? 今、真夜中なんだよ”」
近所迷惑を考えて、ユクトの声は小鳥の囀ずりのようだ。
「あっ! ユクトお兄さん!」(ノーレ)
ユクトの気づいて、満面の笑み。
「お姉ちゃんと別れたくなったの? 私、フリーだから何時でもOKよ!」(ノーレ)
「“は、はは、ノーレちゃん、相変わらずだねぇ”」(ユクト)
これがノーレのスキンシップの取り方のようだ。
「アンタ、ふざけてると打つわよ」(ノーラ)
ユクトに馴れ馴れしい態度を取るノーレに嫌悪感が溢れて、表情に出始めていた。
「そんなに怒んないでよぉ。そもそも、里からユクトさんを拉致したのは、お姉ちゃんじゃない!」(ノーレ)
「“ちょっと、静かに!”」(ユクト)
深夜、村中にヒートアップする姉妹喧嘩が響き渡る。
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3591年10月2日(翌日)
深夜1時
《空間魔法》マイホーム〈リジー部屋〉
「スー、スー、スー…」
リジーは自分の部屋でグッスリと就寝中。
「“すいませ~ん”」
玄関の方から声が聞こえてくる。
玄関に近い部屋は、メイド隊の2部屋。
急なお客様への対応ができるようにと、メイド隊部屋は実質的な距離で決められていた。
そして、リーダーのリジー部屋が玄関に一番近い。
「ん~むにゃむにゃ」
リジーはさっきの声で、若干ノンレム睡眠を妨げられている。
「すみませ~ん、ヤマザル様~、ユクトですが~」(ユクト)
玄関から聞こえる声は、段々と大きくなってきた。
「ん~ん~! ん~!」
リジーの寝顔が苦痛に歪んでくる。
「すみませ~ん! ヤマザル様~!」(ユクト)
最早、絶叫レベルの大声だ。
「んーっ! じゃかぁしぃですー! 何処のクソガキですー!」(リジー)
ガバッと起きると、目はギンギンに開きちょっと充血している。
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《空間魔法》マイホーム〈玄関〉
ガチャン!
乱暴な音と共にドアが開くと、お怒りモードのパジャマ風リジーが仁王立ちしている。
左手には枕持参だ。
「何処のクソガキ! あっ! ユクトじゃないですー! 何ですー! 嫌がらせですーか?」(リジー)
ちょっとは冷静になったと思ったが、安眠妨害に気がつき、またすぐお怒りモードに戻ってしまった。
「夜分に大変すみません。ヤマザル様をお呼びいただけないでしょうか?」
ノールを抱えたユクトがすまなそうな顔をして立っている。
「テメー、何時だと思ってんですー! 安眠妨害ですー! 傷害罪ですー! 現行犯ですー! 略式起訴ですー! 有罪ですー! 市中引き回しの上、内首獄門ですー! ムキャーですー!」(リジー)
お怒りモードから地獄の閻魔モードに突入し、左手の枕をブルンブルン振り回している。
「…スヤスヤ」
こんな状況にも関わらず、ノールはスヤスヤと眠っている。
非常に大物だ。
リジーのヒートアップは、ドッタンバッタンと非常にうるさくなってきた。
カチャッ
ドアが開くと、同じくパジャマ風ヤマーダとパジャマ風リリーが立っていた。
「…い、一体…なんだよ」(ヤマーダ)
「リジー、テメェ何時だと思ってんですー! うるさいんですー! 安眠妨害ですー! 永眠したいんですーか?」(リリー)
眠い目を擦りながら、リジーに文句を言う二人。
お前も結構うるさいけどね
「違うですー! このイカレポンチのせいですー!」(リジー)
地獄の閻魔は、思いっきりユクトを指差している。
「…むにゃむにゃ…う…うる…うるちゃーーい!」
ノールが起きてしまった。
「ちょっ、ちょっ、ちょ待てよ!」(ヤマーダ)
キ◯タク風に言ってみました
シーーーン…
ヤマーダ渾身の滑り芸が披露された。
この滑り芸、凄いことにチビッ子ノールすらも静かにさせてしまったのだ。
こんなチビッ子にまで、
無視されちゃうのかよ
気を取り直し、
「えーと、何事ですか? ユクトさん」(ヤマーダ)
「先程《西の里》からアプローチがありまして…」(ユクト)
えっ!?
西の里!
こんな夜中に西の里からの迷惑アプローチを告げられて、
皆、グッスリ寝てる時間じゃん!
バッカじゃないの?
ヤマーダはイラッと感じてしまった。
そんな気持ちを抑えつつ、
「えっ!? よかったじゃない!」(ヤマーダ)
「で、ちょっと問題が発生しまして…」
ユクトの口から嫌な言葉が飛び出した。
「も、問題?」
なんだろう…
物凄(も~のすご)~く聞きたくない
「えぇまぁ、家族間と言いますか、姉妹間と言いますか…」(ユクト)
散々、口ごもっていたユクトから、
「ヤマザル様、一緒に来ていただけますか?」
えーっ!?
そこへ、
カチャッ
「何(な~に)、ヤマーダ。何騒いでんのよ?」
パジャマ姿のネーコが起きてきてしまった。
「なんか《西の里》と接触できたらしいんだけど、問題が発生したんだってさ。俺、ちょっと見に行ってくるよ」(ヤマーダ)
「じゃあ、アタシも一緒に行くわ。まず、着替えましょう」(ネーコ)
ネーコはどんな時でも、ヤマーダのパートナーとして同行することを決めている。
「ネーコはゆっくり寝ててもいいんだよ」(ヤマーダ)
「いえ! アタシも行くわ、だって里の同胞の事なんだもん」(ネーコ)
た、確かに…
ヤマーダはパジャマ風からナマハゲ風に着替えて、ネーコはパジャマ風からヤマーダの襟巻き風にチェンジ、ユクトと共にノーラ村へ行くこととなった。
因みに何時《人化》してもいいように、ネーコの服はヤマーダの肩掛け袋の中に入っている。
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深夜2時
魔国領ノーラ村〈中心部〉
ヤマーダ、ネーコ、マサオ、ミシェル(人化)
ノーラ、ユクト、ノール
結局、マサオとミシェルも起きてしまったので、二人も一緒にノーラ村へとやって来た。
ヤマーダ達が着くと、
「もう魔族は倒したんで安心して、ってお母さんに伝えて欲しいだけなの!」(ノーラ)
「そんなのお姉ちゃんが直接伝えてよ! 自分だけユクトさんを独占してっ! 一体どういうつもりよ!」(ノーレ)
遠くからでも、姉妹喧嘩の声が響いていた。
丑三つ時なんですけどー
幽霊さんも驚愕なんですけどー
スッゲー近所迷惑なんですけどー
近所の魔物も野次馬根性で見守っている。
ナマザル様モードのヤマーダが、
「なんで喧嘩してんのさ?」
とユクトに理由を尋ねるが、
「えー、実は私にも責任があると言いますか、妻が私を独占しようとしたと言いますか…」(ユクト)
なかなかハッキリ結論を言わない。
そこへ、ノーレが追加攻撃として、
「そもそも、お姉ちゃんが里からユクトさんと誘拐したのが問題なんじゃない! 本当はお兄ちゃんは私の旦那にもなるはずだったのにぃ!」
まさかの重婚の薦めだった。
この南国娘は、何言ってんの!?
それに、
ユクトがこの娘の旦那ってどういうこと?
「えー、説明しますと、元々、私はアヤカシギツネと所帯を持つために里へ売られた奴隷だったんです」(ユクト)
「えっ!?」(ヤマーダ)
ユクトさんって奴隷だったの!?
「アヤカシギツネの里にいる男は、全てアヤカシギツネと所帯を持った他種族なんです」
えーと、つまり、
里の男はアヤカシギツネではないと?
「何故なら、アヤカシギツネ族は全て女性なんです」(ユクト)
「マジ!?」(ヤマーダ)
それって Yes アマゾネスじゃん!
実はアヤカシギツネという種族、女しか存在しないのだ。
「アヤカシギツネの社会は多妻一夫の社会で、他種族の男と交わることで、子供が産まれます」
えーと、
一夫多妻ってのが
ライオンみたいなハーレム状態だから
多妻一夫っていうと
女性の方が男性よりも強いってことか?
「産まれた子供はアヤカシギツネの血を濃く引き継ぎますので、女の子しか生まれません」(ユクト)
そりゃ、完全女系社会だわな
「毎度、奴隷を買う訳にはいきませんので、複数のアヤカシギツネで男をシェアするのが里の慣習なんですが…」(ユクト)
カーシェアみたいなモン!?
「あれっ? でもユクトさんとノーラさんて夫婦ですよねぇ、それって一夫一婦じゃ…」(ヤマーダ)
「それは…」(ユクト)
「それはお姉ちゃんが勝手に里からユクトさんを強奪したからよ! 強奪犯よ! 犯罪者なのよ!」(ノーレ)
南国娘ノーレが話に割り込んでくる。
相変わらずノーレのテンションは高い。
お姉さんを犯罪者って…
「まぁまぁ、落ち着いて」(ヤマーダ)
「何よ、アンタ! 気持ち悪いマスク被って襟巻きなんかしちゃってさ! クソダサいんだけど! クソダサが口を挟まないで!」(ノーレ)
あー抉られたー!
心を抉られたよー!
でも、何だろう?
デジャヴ?
そもそもアヤカシギツネって
口が悪いイメージ…
「ノーレ! アンタ、ヤマザル様に向かってなんてことをっ! 真実を何時でも口に出していいって訳じゃないのよ!」(ノーラ)
真実って…
ノーラもそう思ってたってこと!?
「ノーレちゃん。ヤマザル様は、私達家族を養ってくれている偉い人なんだよ」(ユクト)
「だから何?」
ノーレは完全に上から目線。
すると、
『アンタ達、ぶちのめすわよ。確かにヤマーダはクソダサいけど、アタシのパートナーに向かって何を偉そうに!』
ネーコも姉妹シングルデスマッチに急遽参戦する。
…ダサい所は認めちゃうのね
あーそうっ!
そうですかっ!
よーし分かったっ!
こうなったら意地だっ!
もう絶対、外では
《ナマハゲ》マスクを外しませんからっ!
オレはこれからも《ナマザル様》で
いきますからーっ!
「まずさぁ、ノーレさんだっけ」(ヤマーダ)
「は、はい!」(ノーレ)
「初めまして、俺はヤマザル。で、こっちはネーコ。肩に乗っているのがマサオで、隣に居るのがミシェルね」
「あっ、これは失礼しました。ノーレと言います」
変な間合いからの自己紹介でノーレの毒気が中和されてしまった。
「とりあえず、俺達を《西の里》に連れてってくんない?」(ヤマーダ)
「えっ!?」(ノーレ)
「ちょ、ちょっと待ってください、ヤマザル様。それは主人も連れて行くってことですか?」(ノーラ)
「そりゃ、そうだよ。騒動の元凶なんだから」(ヤマーダ)
まさかの誘拐犯が出頭するパターン。
ある意味、自首である。
「分かりました」(ユクト)
「あ、あなた!」(ノーラ)
「ノーラ、何時までも後回しにするのはよくないよ」
「でも…」
「ヤマザル様も一緒なんだし。キミがこのまま故郷へ帰れないのは、私にとっても悲しいことだよ」
「…あ、あなた…分かりました」
二人がシンミリしている中、
「ヤッタぜ! イェーイ!」(ノーレ)
一人だけ浮かれている者がいる。
この娘、空気を読まないんだね
「皆、悪かったね。とりあえず解決したから、ゆっくりお休みしてね」
ヤマーダは何かを期待していた野次馬根達に帰宅を促した。
『そうだべか…』
『えっ!? これで終わり?』
『もっと血みどろの醜愛劇が見たかったなぁ』
『昼ドラ、昼ドラ』
野次馬根達は不完全燃焼だったようだ。
『解散!』(ネーコ)
狐の一声で蜘蛛の子を散らすように野次馬根達は帰って行った。
そして、ずっと開きっぱなしの《西の里》へ通じる幕、そこへヤマーダ達は入っていく。
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《空間魔法》西の里
まずヤマーダの目に入ってきたのは、南国テイスト。
足元は一面砂浜。
微かな潮の香り。
寄せては返す、波の音。
そして、ヤシのような植物の葉っぱを屋根に敷いた簡素な造りの建物。
通路くらいの幅しかない砂の道。
そう《空間魔法》の内部は、南国リゾートのような環境だった。
あれーっ!
ワイハかなー?
ただ、表世界と同じように《異空間》はとても暗い。
つまり、夜を再現していた。
「…懐かしいわねぇ」(ノーラ)
「そうだねぇ」(ユクト)
二人は感傷に浸っている。
「ねぇ、まずアンタ達にはお母さんの所について来て欲しいんだけど! (お姉ちゃんをとっちめてやるんだから!)」(ノーレ)
偉そうにヤマーダへ指示を出してきた。
そんな態度にネーコはササッと《人化》して、
「アンタ、すんごぃ生意気よねぇ!」
フルヌードで仁王立ち。
…ネーコ、まず服を着ようか
「ちょっと着替えるから待っててね」(ヤマーダ)
「は、はぁ」(ノーレ)
ヤマーダはサッとネーコを着替えさせる。
「アンタ、すんごぃ生意気よ!」
いつもの服装でネーコが仁王立ち。
テイク2をする当たり、ネーコのキッチリした性格が伺える。
「…ゴ、ゴメン (なんかこの人達、私と合わないわぁ)」(ノーレ)
なんとも間の悪い空気に、また毒気が抜かれてしまった。
「とりあえずこっちよ」(ノーレ)
「あぁ、頼むよ」
ヤマーダはそう言うとノーレの後をついていった。
目的地は直ぐ目の前にあった。
「海の家!?」
それがヤマーダの里長建物の第一印象。
建物は物凄く大きい。
その割に外壁が一切なかった。
そのため内部が丸見え状態。
幾つものテーブルと椅子が見える。
この家、
プライバシーの欠片もない!
それが建物の第一印象。
ただ、内壁はあるようで、内壁で区切られた中が里長の部屋なのだろう。
「…懐かしい」(ノーラ)
「本当そうだね」(ユクト)
そんな二人の感情を遮るように、
「こんな夜中に誰だい!」
薄明かりの中、20代そこそこの外見をした女性が姿を現した。
ナニ、このグラマラスな女性は?
女性はとにかく妖艶だった。
ソバージュのような癖のある金髪、相手を見通すような切れ長の目、怪しく光る金眼。
ノンスリーブのシャツが破れるんじゃないかと思うほどの豊満な双丘、パレオの下から覗く長い足。
そして健康を絵にかいたような小麦色の肌。
美人+美スタイル+ワガママボディ+小麦色
最強コンボじゃねぇの!
思わずボーと見とれているヤマーダに、
カプッ!
「痛ぇーーーーっ!」
ネーコの噛みつき攻撃が炸裂した。
そんなヤマーダを尻目に、
「おや懐かしい、ユクトじゃないか。それに馬鹿娘もいるのかい」(ワガママボディの女性)
「…お母さん…ただいま」(ノーラ)
「ユノーラ様、お久しぶりです」(ユクト)
二人は大分、恐縮している。
娘夫婦から視線を移し、
「そうね…それにしても、なんでこんな夜中にお客を連れてきたのかしら?」
ユノーラはノーレをチラッと見た。
「ご、ごめんなさい。でも、様子が知りたくて表世界へ出たら、お姉ちゃん達がいたんだもん…」(ノーレ)
ノーレの態度から、ユノーラの立場と性格がなんとなく窺える。
ユノーラの金眼がキラッと光り、
「へぇ~、こりゃ凄い! 《空気使い》のボーヤがいるじゃないか」(ユノーラ)
「な、なんで《空気使い》のことを?」
ヤマーダの驚きを余所に、
「そっちには古竜も。もしかして、竜王の側近かい?」(ユノーラ)
「いえ残念ながら、私は姫の親衛隊に過ぎません」(ミシェル)
あれ?
ミシェルが敬語?
「あらっ! センターの秘蔵っ子もいるじゃないか。へぇ~…ユネールがよく外出を許したもんだねぇ」(ユノーラ)
ユノーラは、明らかに《鑑定》だけでは判らない内容を次々と言い当てていった。
「お母さん。ミシェルさんとネーコさんも知ってるの?」(ノーラ)
「当たり前じゃないか」(ユノーラ)
当たり前?
「私と竜王は休戦協定を結んだ間柄だし」(ユノーラ)
「「休戦協定!?」」(ヤマーダ、ネーコ)
「ネーコは私の孫なんだしね」(ユノーラ)
「「「えーーーっ!」」」(ヤマーダ、ノーラ、ユクト)
今のが一番、驚いた!
「アタシ、こんな人、知らないわよ」(ネーコ)
あれっ?
「もしかして、ネーコさんてお母さんの隠し孫なの!?」(ノーレ)
「バカ言わないでよ。そもそも、里を飛び出したのは娘のユネールなのよ。それに以前、ユネールから孫の連絡があったしね」(ユノーラ)
《西の里》里長ユノーラは、《中央の里》里長ユネールの母親だった。
ネーコは《中央の里》里長ユネールの娘に当たる。
強ち《西の里》がアヤカシギツネの起源で間違いなさそうだ。
「ちょっと待ってよ。あー、俺、ヤマザルって言いますけど」(ヤマーダ)
「ユノーラよ、ヤマーダさん」(ユノーラ)
やっぱり!
《認識阻害》が効いていない!
ヤマーダは自己紹介する時、「ヤマザル」と名乗っている。
そして、《認識阻害の指輪》によって《鑑定》は防がれている。
にも拘わらず、ユノーラは一発で「ヤマーダ」と修正してきたのだ。
「竜王と知り合いだったり、ネーコのおばあちゃんだったりって、ユノーラさんって一体幾つなんですか?」(ヤマーダ)
なんとなく、なんちゃって敬語を使い始める。
「女性に年齢を聞くなんて野暮なことはおよしよ。なんならボーヤの夜のお相手をしましょうか?」(ユノーラ)
艶かしく身体をクネらせて、完全にヤマーダを誘惑している。
「ちょっと、バアさん!」(ネーコ)
「バアさんじゃない!」
ユノーラの顔が一瞬、般若のようになった。
か、顔がマジで怖い!
オレさっき「おばあちゃん」って
言っちゃったよ
次からはユノーラさんって呼ばないとな
「お母さん、恥ずかしいからダサ男なんか誘惑しないでよ!」(ノーレ)
「だから、里は嫌だったのよ」(ノーラ)
ユノーラ・
アヤカシギツネ族の現族長。
年齢は不明。
子供が何人いるか分からないほどの出産経験を持つ。
夫とは死別。
と言っても過去には何人もの夫がおり、未だに現役バリバリ状態。
ノーラが《西の里》を家出した最大の理由は、母親ユノーラが夫ユクトを誘惑したことが発端だった。
幾ら多妻一夫とは言え、ノーラは自分の夫が父親にもなるという意味不明なことに、耐えられそうになかったのだ。
因みに《北の里》、《中央の里》、《東の里》の里長は、全てユノーラの娘であり、家出した理由もノーラと全く一緒だった。
ユノーラさんって…
ある意味、凄い女性だ!
ネーコはヤマーダとユノーラとの間に陣取り、ヤマーダ完全防御の体勢だ。
そんなネーコの態度に、
「ネーコちゃんって、随分可愛らしい所があるじゃない。でも、可哀想ね。記憶を消した…いや、消されたのかしら」(ユノーラ)
「「えっ!?」」(ヤマーダ、ネーコ)
「あらっ! ボーヤも同じなのね。肩のマンティス君もかしら」(ユノーラ)
「な、なんで分かるんですか?」(ヤマーダ)
ユノーラは、ヤマーダ達が《記憶退行》スキルで記憶を失ったことを言い当てたのだ。
「う~ん、それって説明しづらいのよねぇ。ボーヤ達って記憶を強引に消されたって訳じゃないのよ。寧ろ、過去まで退行しちゃったって感じかしら。だから、記憶が自然に消ちゃってるのよ」
「自然に消えた?」
「そうねぇ、実は血液情報から年齢って正確に判るのよ。それに転移者のボーヤなら、ステータスで分かるんでしょう?」
「そ、そうですけど…」
「でも、ボーヤ達の記憶されている年齢とは明らかに違うのよねぇ」(ユノーラ)
ユノーラの理屈はどうやら、肉体年齢と精神年齢の相違を言っているようだが、事はそう簡単ではないようだ。
「えーと、つまり記憶を戻せると?」(ヤマーダ)
「では逆に聞くけど、戻したいの?」(ユノーラ)
この言葉はヤマーダの心に響いた。
ヤマーダ自身、連続性のある今の記憶に違和感がなく、それほど記憶を戻したいとは思っていなかった。
寧ろ、現在の自分が変わってしまう事への恐怖、その方が強かったのだ。
「…いや…それほど戻したくないかも」(ヤマーダ)
「アタシもこのままでいいわ」(ネーコ)
『僕もー』(マサオ)
なんとなくだけど、
ルルとイズムも気にしないと思う
「なら、その方がいいと思うわ。既にボーヤ達の記憶って、過去の記憶に上書きされてるのよね。だから無理に戻そうとすると人格崩壊しちゃうかもしれないのよ」(ユノーラ)
な、なにそれ!?
サラッと恐ろしいこと言わなかった?
「そ、そのままにします!」(ヤマーダ)
「そうね」(ネーコ)
『僕もー』(マサオ)
そして話題は変わり、
「表世界の魔族を退治してくれたのはボーヤ達なのかしら?」(ユノーラ)
外のバカ?
それってもしかして、
《弾けし者》って魔族の事?
「魔族の事でしたら、なんか同士討ちしてましたよ」(ヤマーダ)
そのヤマーダの言葉を聞いて、
「へぇ~、それは嫌な感じねぇ」(ユノーラ)
顔を少しだけしかめる。
「全くですね」(ミシェル)
ユノーラはミシェルと向き合った。
「ミシェルちゃんの意見はどうなの?」
「ヤマーダ様を利用したいのではないかと」
オレを利用って?
「まぁ、そんなところでなんでしょうねぇ」
「残念ながら今のところ、確証を掴めておりません」
「因みに、私は手を貸せないわよ」
「それは竜族の私も同じ事です」
妖狐と古竜は共に、世界を《見守る》存在だ。
狐は神の使い、竜は竜神とも言われることがある。
ここでの《見守る》とは片方に肩入れしない。
つまりどんな生物にも完全平等、といった考え方だ。
但し、世界を破壊しようとする存在に対しては、一切容赦しない。
ここが所謂、宗教上の神とは全く違う存在だ。
宗教では、神を博愛の象徴として扱う。
その博愛主義を広めようとする信者もいる。
しかし、その神という存在、人間を恐ろしく偏愛していると分かっているのだろうか?
例えば、神がある人の願いを聞き入れたとする。
それは逆に、他の全ての人は願いが叶わず、神から差別されたということになる。
もっと広域を考えると、神がある人間の願いを聞き入れたとしよう。
それは逆に、他の全ての生物は神から差別されたことになってしまう。
もし、神が全ての生物に対して博愛精神を持った存在なんだとしたら、差別しないように誰の願いも聞き入れない筈だ。
更に言えば、もし神に差別する意思が全くないのなら、ウィルスや細菌、無機物ですら博愛せねばならない。
つまり、正真正銘の神は、無慈悲に全ての事象を一切無視する存在なのだろう。
そういった意味で、妖狐と古竜は神とは違った存在と言える。
ただ、神の存在を否定するつもりはない。
救われた者にとって、なんだって有り難いに違いないのだから…
ユノーラはヤマーダへ視線を戻し、
「とりあえず表世界は安全なのかしら?」
「まぁ、そうですね」(ヤマーダ)
少しヤマーダを見つめると、
「でもまだボーヤのレベルじゃ、私はお手伝いできそうにないようね。どうしようかしら…」
ユノーラは眼を瞑り、考え始めた。
「…このまま放っておくのも…でも…ボーヤじゃ…やっぱりアイツに…でもなぁ…」
ユノーラはブツブツと独り言を呟いている。
「あっ! こうしましょう!」(ユノーラ)
どうやらなにか閃いたようだ。
「今後の連絡はノーラ、あなたに頼みます。どのみち、私もアイツも遅かれ早かれボーヤの仲間になるんだろうし、私達の里はここに固定しておくわ」(ユノーラ)
「えーっ!」(ノーレ)
ユノーラさんを仲間にするのって、
オレのレベルが関係するのか!
「分かりました。ですが、私と主人は別で生活しますので」(ノーラ)
「お姉ちゃんだけ、ずる~い! お母さんも何とか言ってよ!」(ノーレ)
「そうねぇ…ねぇボーヤ、活きのいいイケメンを捕まえてきてくれないかしら?」(ユノーラ)
そりゃ、拉致になっちゃいますよ
「えーと、人権は無視できないんで、無理ですね」(ヤマーダ)
「えーっ! じゃあ、ボーヤってことになっちゃうわよ」(ユノーラ)
「直ぐに連れてくるわ! ヤマーダ、ウランバルトとアルベルトを朝になったら里へ連れてきましょう!」(ネーコ)
仲間を売るのも無しでしょ!
「考えときますよ」(ヤマーダ)
一時しのぎが精一杯のヤマーダだった。
これによって、魔国領西側地域がヤマザル勢力に与することとなる。
《西の里》1,000を加えたヤマザル勢力は、総勢5万の大集団へと成長していた。
ステータス一覧
《人族》
ヤマーダ
職業・奴隷商人(Lv4→6)、魔物の覇者(Lv5→6)
鋳造士(Lv5→10)
レベル・42
スキル・奴隷契約(Lv4→6)、契約解除(Lv4→6)
懲罰(Lv4→6)、能力共有(Lv5→6)
魔法共有(Lv5→6)
スキル共有(Lv5→6)
金属鋳造(Lv5→10)
金属加工(Lv5→10)、銘刻(Lv5→10)
ユクト
職業・魔法使い(Lv1→3)new
魔物使い(Lv1→2)new
鋳造士(Lv1→4)new
レベル・7→14
魔法・火魔法(Lv1→3)new
水魔法(Lv1→3)new
風魔法(Lv1→2)new
呼び寄(Lv1→2)new、回復(Lv1)new
スキル・芸(Lv1)new、金属鋳造(Lv1→4)new
金属加工(Lv1→4)new
銘刻(Lv1→4)new
《竜族》
ミシェル
レベル・95
《アヤカシギツネ》
ネーコ
職業・占星術師(Lv3→4)
レベル・42
魔法・土魔法(Lv3→4)、雷魔法(Lv3→4)
スキル・真贋の目(Lv2→3)
ノーラ
職業・魔法使い(Lv7→8)、召喚士(Lv2→3)
家政婦(Lv4→6)
レベル・26
魔法・火魔法(Lv7→8)、水魔法(Lv7→8)
風魔法(Lv7→8)、召喚魔法(Lv1→2)
光魔法(Lv1→2)、闇魔法(Lv1→2)
スキル・裁縫(Lv4→6)、洗濯(Lv4→6)
掃除(Lv4→6)
ノール
職業・魔法使い(Lv1→2)
レベル・8→10
魔法・火魔法(Lv1→2)、水魔法(Lv1→2)
風魔法(Lv1)new
《ゴブリン》
ルル
レベル・34
ダイヒョウ
職業・魔法使い(Lv6→8)
レベル・23→33
魔法・火魔法(Lv6→8)、水魔法(Lv6→8)
風魔法(Lv6→8)
ゴブジ
職業・魔法使い(Lv7→8)
レベル・25→32
魔法・火魔法(Lv7→8)、水魔法(Lv7→8)
風魔法(Lv7→8)
オサ
種族・ゴブリンロード→
ゴブリンビショップnew
職業・騎士(Lv4→6)
レベル・28→40→1→5
魔法・回復魔法(Lv1)new、支援魔法(Lv1)new
スキル・薙ぎ払い(Lv6→10)
急所突き(Lv6→10)、浄化(Lv6→10)
瞑想(Lv1→2)new
ダイスケnew
種族・ゴブリンキングnew
職業・王(Lv3)
レベル・1→6
魔法・召喚魔法(Lv1)、回復魔法(Lv1)
支援魔法(Lv1)
スキル・職業適正(Lv5)、王朝開始(Lv2)
租税(Lv2)、覇道(Lv2)
《スライム》
イズム
レベル・1→3
ハヤテ
レベル・25
イズエモン、他13体
レベル・25
《オーク》
マツコ
種族・オークカーペンター→オークナイトnew
職業・大工(Lv9→10)、戦士(Lv1→2)new
レベル・37→40→1→5
魔法・木魔法(Lv9→10)
スキル・建築(Lv9→10)、増築(Lv9→10)
突き(Lv1→2)new
旋回切り(Lv1)new
身代わり(Lv1)new
身体強化(Lv1)new
ソンチョウ
レベル・25→34
マサムネ
レベル・22→32
ゴエモンnew
種族・オークキングnew
職業・王(Lv1)
レベル・1→3
魔法・召喚魔法(Lv1)、回復魔法(Lv1)
支援魔法(Lv1)
スキル・耐久(Lv5)
《オーガ》
ボクシnew
種族・オーガキングnew
職業・王(Lv1)
レベル・1→12
魔法・召喚魔法(Lv1)、回復魔法(Lv1)
支援魔法(Lv1)
スキル・咆哮(Lv5)
《サキュバス》
フジコnew
種族・サキュバス
職業・娼婦(Lv3)
レベル・1→3
魔法・幻惑魔法(Lv3)
スキル・飛行(Lv3)、魅了(Lv3)
催眠誘導(Lv3)
《マンティス》
マサオ
種族・カマキリ→
スモールマンティスアーチャーnew
職業・戦士(Lv7→10)、弓術士(Lv1→2)new
レベル・35
魔法・火魔法(Lv1)new
スキル・二連撃(Lv2→3)、突き(Lv7→10)
旋回切り(Lv7→10)
身代わり(Lv7→10)
連射(Lv1)new、命中補正(Lv1)new
《ビー》
ハニー
種族・ジャイアントビー
レベル・12→28
《ウマ》
シュバルツ
職業・軽業師(Lv3→4)
レベル・23→24
スキル・高速移動(Lv3→4)
二段跳躍(Lv2→3)
連続回避(Lv2→3)
クリスティ
レベル・20
《ウシ》
リチャード
職業・農民(Lv2→3)
レベル・10
スキル・耕作(Lv1→2)、連作回避(Lv1→2)
品種改良(Lv1→2)
ハナコ
レベル・9
《ロイヤル》
ウランバルト
職業・戦士(Lv3→4)
レベル・15→16
アルベルト
職業・魔法使い(Lv3→4)
レベル・12→14
ナタリー
職業・魔法使い(Lv3→4)
レベル・12→13
オルトス
職業・戦士(Lv3→4)
レベル・11→12
シス
職業・魔物使い(Lv4→5)
レベル・11→12




