嘆くことのない洞窟
“ルルがゴブリナからゴブリナアサシンに進化しました”
“ステータス”
名前・ルル
種族・ゴブリナアサシン
年齢・4歳女
職業・暗殺者(Lv1)
レベル・1
体力・32(+2)
魔力・21
攻撃・24(+5)
防御・21(+2)
知識・21
敏捷・22(+4)
運・23
………
上位と下位で違うかもしれないけど…
魔物ってぇのは Lv40 が最大
進化について
メリット
新種の魔物が誕生
新職業へ転職が可能
能力値を引き継いだまま、Lv1へ
(実質的なレベル上限の開放)
デメリット
前職の能力補正を消失
敏捷と運の補正値はかなり減ったけど
進化することで、
下位の魔物でもなかなかの強さになる!
…オレ
…戦う場面が更に無くなりそう
----------
エスタニア王国北部休憩地点
その後もヤマーダ達は北上を続け、6日が経とうとしていた。
近況を話そう
新たにクロードさんが仲間になった
もちろん《思考パスの共有》も問題なし
『ヤマーダ、飼い葉と《超清水》を頼む』
「すぐ、用意しますね」
オレは
《思考パス共有》によって新たに得た
オレの《空間魔法》から飼い葉を取り出す
そして、クロードさんが
自分の《収納》から取り出した水桶へ
《超清水》を注いで準備完了
クロードにも当然、ヤマーダ達の魔法、スキルが共有されている。
『ヤマーダの《超清水》は、最高だな』
「あざーす、クロードさん」
クロードさん
サリアが4日前に何処からか連れてきた
栗毛の馬?だ
《思考パス》が結ばれたことで
魔法とスキルが使えるようになった
不思議な存在
といっても
クロードさん自身の魔力が少ないので
《空間魔法》などの魔法関係は
あまり使えない
彼の仕事は
馬車の牽引と管理
リンの作った馬車を
自主管理してもらっている…
馬なのに…
女所帯のこのパーティー(PT)で
クロードさんは唯一の男だ
「ご飯ができたよ」
食事係のルルが《マイホーム》から顔を出し、声を掛けてきた。
ルルは身長150cm
黒髪でボブ、目の色は黒目
オレが最初に渡した干し肉に
相当、感化されたらしく
食材の管理と調理を自ら志願
ルルの《空間魔法》は
内側を温度調節した冷蔵庫
彼女の《収納》も
食器や料理器具の置き場として利用
食材となる動物、魔物は
狩猟、解体、加工までを
一手に行っている
一次、二次産業まではいってるな
ルルの処理した食材の品質は
とっても良いらしい
…正直、
ルルの料理の腕前は、オレより格段に上
「飯や、飯やでぇ」
サリアがテーブルにある自分の椅子に座る。
サリアは
155cm、茶色の長髪、茶色い目
服飾関係を担当しており、
布から革製品まで何でも扱える
彼女の《空間魔法》の内部は農場
パンの原料となる小麦やライ麦に加え、
米や野菜なんかも作っている
といっても、規模は家庭菜園
その割に
薬草なんかもちゃっかり作っているらしい
なんでも、
前世?、農業系の大学生だったらしい
ちなみに、農作物の種子は
最近までいた首都で購入したもの
種子以外は
《土魔法》《水魔法》《風魔法》を
使っているのでローコストだ
因みに
クロードさんの飼い葉だけは、オレ担当
クロードさん、たっての希望で
《超清水》で大事に育てている
「…ご飯、早く食べたい」
リンが自分の席に付く。
リンは
160cm、赤いセミロングに黒い目
彼女、
《空間魔法》の中で造林している
凄くねー、
造林だよ、
造林!
まあ、今のところは
《異世界》の手頃な樹木を
《空間魔法》に植え替えてるだけだけど…
行く行くはって話
他にも、
ちょっとした家具から木造の家まで
大工のように何でも作れる
高々16の小娘が家なんて無理って
思ってたけど
実際に家が出来ちゃった!
木造二階建ての!
因みに、
その《家》は
ネーコの《空間魔法》で管理
エスタニア王国北部休憩地点〈食堂〉
「さぁ皆、食べるわよ」
ネーコが食事の挨拶。
最後はオレ達の頼れるリーダー、ネーコ
数日前から《人化》ができるようになった
前から《人化》スキルを持っていたけど、
今迄、スキルレベルが低くて
長時間、人の姿を維持できなかったらしい
《人化》した姿は、
140cmと小柄、短かい金髪に金色の目
外国のお人形さんみたいかな?
何でも、
アヤカシギツネは成人になる為の旅で
《人化》と《変化》のスキルを
完全マスターしないと
里に戻れなくなるんだと
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エスタニア王国北部休憩地点〈リビング〉
食事が終わり、リビングで寛いでいると、サリアが周りに話しかけてきた。
「確か、この近くに町があるはずや。寄り道して、魔核を換金しようや。なんぞ、掘り出し物があるかもしれんし」
「…わたしも魔核を換金したい」
リンがサリアの意見に賛同する。
「俺はどっちでもいいけど…」(ヤマーダ)
じゃあ、ネーコに確認っ!
「ネーコはどう思う?」(ヤマーダ)
「まぁ、いいんじゃない」(ネーコ)
「アタイ、大きい鉄鍋が欲しい!」(ルル)
ネーコの返答に被せるように、ルルが鉄鍋を要求。
「えんちゃう! 料理が旨なんのはムッチャええことや」(サリア)
「…賛成」(リン)
「じゃあ、皆で町へ行くわよ」(ネーコ)
全会一致で町へ行くことに。
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エスタニア王国ニーバ
サリアの案内で、ヤマーダ達は何事もなく町へ到着。
毎度のように、水晶玉がヤマーダに反応。
町の兵隊さんに連行され、サリアが疑いを晴らすというお決まりのイベントを済ませた。
「なぁ、町の宿、取るか?」(ヤマーダ)
『“《家》があるんだし、不要でしょ”』
アヤカシギツネに戻ったネーコがヤマーダの横をトコトコ歩きながら、小さな声で返答する。
「ウチも嫌やな」(サリア)
「…町の宿、汚い!」(リン)
「アタイ、大鍋が欲しい」(ルル)
『私としては、いまさら馬小屋は嫌だな』(クロード)
ルル以外、一様に反対。
「ウチら、冒険者っちゅう肩書きもあることやし、とりあえずギルドに顔出しとったらええんとちゃうか」(サリア)
「…町では…魔核の換金だけ」(リン)
確かに!
「じゃあ、サリアの言った通り、とりあえずギルドだな」(ヤマーダ)
『『「「「了解」」」』』
ヤマーダ達は町のギルドへ向かうことに。
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エスタニア王国ニーバ〈ギルド〉
ガヤガヤガヤガヤ
ヤマーダ達が町のギルドに着くと、中はとても慌ただしい。
少し聞き耳を立てる。
「…被害は酷いらしい」(冒険者A)
「…やられたらしい…」(冒険者B)
「これから…」(冒険者C)
なんだろうなぁ
あれっ?
ガタイのいいオッサンが
なんか偉そうに騒いでるよ
「被害はどうなっている?」(オッサン)
「まだ情報が…」(連絡係A)
「町にいる高ランク冒険者は?」(オッサン)
「大半が出払っていて…」(連絡係B)
「ほとんどは…」(連絡係C)
ホールの真ん中で、オッサンがガーガー騒いでいる。
「何だ、アイツら? 見かけん顔だが」
ヤマーダ達に気づいたオッサン。
「邪魔だ、邪魔だ!」(オッサン)
邪魔者を追い払うかのように手を翳した。
何だっ!?
あの態度!!
『ヤマーダ、この町ってなんかムカつくし、さっさと換金して出発するわよ』
ヤマーダの首に巻き付いているネーコは、完全にヘソを曲げた。
「面倒事に巻き込まれんうちに、早よしよ」(サリア)
この二人、
ゴタゴタに巻き込まれたくないんだな…
ヤマーダ達はそそくさと窓口に近づき、
ドカッ!
「これっ、換金してくれ」(ヤマーダ)
袋に詰まった魔核をカウンターに置く。
換金手続きの為に袋を広げると、魔核量に驚いて尋ねてくる。
「あの~、この大量の魔核はどうしたんですか?」(受付嬢)
「えーと、俺の仲間が倒したものですよ」(ヤマーダ)
ドカドカッ!
更に、ルルとサリアも《収納》から魔核が大量に詰まった袋を取り出した。
「こ、こんなに!? えぇ、ちょっとお待ちを!」
大量の魔核に驚いた受付嬢は、ガーガー騒いでいるオッサンの下に駆け寄ると、ワイワイと話し合っている。
なんだ、なんだ?
隣の受付に頼めばいいのか?
ヤマーダは隣の受付嬢に話しを振る。
「なぁ、早く換金してくれよ!」
「あのー、少々お待ちください」
なんか、面倒くせーなー
痺れをきらしたヤマーダがカウンターの魔核を《収納》に仕舞おうとしていると、オッサンが駆け寄ってきた。
「お前らか? この量の魔核を売りに来たって連中は」
「お前ら」だと!?
ヤマーダはオッサンを完全に無視して、魔核を仕舞い始める。
「お前らがこのモンスターを倒したのかって聞いてんだよ!」
苛立ちを押さえきれなくなったオッサンが、ヤマーダに掴みかかってきた。
しかし、ヤマーダはビクともしない。
あ~、
無しだ!
無し!
この町は無しっ!!
「無礼なオッサンだな! お前、邪魔だよ!」(ヤマーダ)
「なんて力っ!」(オッサン)
オッサンに掴まれていることなどお構い無しに、ネーコ達へ振り向き、
「皆、町は駄目だ。まだ金はあるんだし、次で換金しないか?」(ヤマーダ)
「…それがいい」(リン)
「ここ、アカンわ」(サリア)
ヤマーダ達が店仕舞いしていると、
「ちょっと待ってくれ、頼む! 話を、話を聞いてくれ!」
オッサンが急に土下座して、頼み込んできた。
なんだよ、オッサン!
今更、土下座かよ!
もう遅えっ!!
オッサンをガン無視したヤマーダが踵を返すと、
『“ヤマーダ、話だけでも聞いてあげましょうよ”』
首もとからネーコが小さな声でヤマーダに頼んできた。
こんな舐めたオッサンの頼みだぜ!
きっと、クッソみたいな話だよ!
「しょうがねぇなぁ、サリアとリン、ルルはどう思う?」(ヤマーダ)
どうせ、嫌がるよな!
「しゃ~ないなぁ~、なんなんや?」(サリア)
えっ?
「…しょうがない…話だけでも」(リン)
ウソッ!
「アタイ、構わないよ」(ルル)
マジでっ!?
オッサンはサリア達の態度にホッと肩を撫で下ろし、ポツリポツリと事情を話し始めた。
「実は…町の東にある山裾に…オ、オーガの群れが出現したんだ!」
オーガって、あのオーガ?
デッカイ鬼の?
「オーガは…とても強力な魔物だ。なんとか町の冒険者で討伐したかったんだが…逆に攻撃されてしまい、相当な被害が出てしまっている」
全然、ダメじゃん!
「君達は相当な実力の冒険者PTとみた! そうなんだろう?」
「実力があるかどうかは分からない。ただしハッキリ言って、俺達…俺はオーガを見たことが一度もない!」
「だ、だが、あ、あれだけの魔核を、集める実力はある。是非、オーガ討伐を手伝って欲しい!」(オッサン)
「あれだけの魔物を倒したのは俺じゃない!」(ヤマーダ)
「!?」
オッサンは言葉を失う。
これで諦めるんじゃねぇ
「“…な、なるほど”」(オッサン)
か細い声。
ギルドが静寂に包まれる。
そんな静寂を打ち破るようにルルが、
「じゃあ、アタイ達がオーガを倒してやるよ!」
ネーコが、
『しょうがないわね』
リンが、
「…わたし、冒険者だから」
サリアが、
「依頼料、沢山出してぇな!」
急転直下、討伐の意思を表明した。
えーーーーっ?
なんでさっ?
それになんで勝手に決めちゃうのさ!?
すこし間を置いて、
「我がギルドは、君達のPTにオーガ討伐を正式に依頼する!」(オッサン)
ギルドホールに響くように、高らかに宣言した。
あ~ぁ…
これ、引き返せないパターン
「な~に、安心してくれ。君達の他にも、優秀なPTに協力を要請する。協力してオーガを討伐して欲しい!!」
「「「『分かったわ、任せといて!!』」」」
えーーーっ!
オレ、行かないから!
絶対、行かないからね!!
『フフッ、オーガとの戦い、更に経験を積むチャンスね!』(ネーコ)
おいっ!
チャンスってなんだよ!
「「異議なし!!」」(リン、サリア)
「アタイ、オーガと早く戦いたい!」(ルル)
仲間のテンション、爆上がり。
おいおい、
お前らどこの戦闘民族だよ?
もしかして、
金髪になって髪を逆立てちゃう?
ネーコ、金髪だし…
スーパーアヤカシギツネなの?
まぁ、オレ的には、
チョッ◯ーなんだけど
「“ハァ…じゃあ皆…討伐依頼、引き受けるよ”」
ヤマーダのテンション、ダダ下がり。
ヤマーダ達の意見がまとまりオッサンに依頼の受理を伝えようとすると、奥から金髪の女性が話し掛けてきた。
女性の耳は、よく見ると長く尖っていた。
エ、エルフ!?
「始めまして、私はセリア。《森の狩人》というPTのリーダーだ」
セリアの名乗りは、堂々としていて気持ちがいい。
「こ、こちらこそ。このPTの小間使いをしている、ヤマーダ、だ」
対するヤマーダ、自分をリーダーとすら思っていない。
「では、リーダーは誰なの?」
「そりぁ…モゴ、モゴ…」
ネーコは急いでヤマーダの口にシッポを入れる。
『“…ヤマーダ、面倒な事になるから。とりあえずリーダー、やりなさい!”』
ネーコはヤマーダの耳元で囁いた。
そういうこと?
本当にいいのね?
オレがリーダーで!
「さっきはすまない、このPTの小間使い兼リーダーのヤマーダだ、よろしく頼むよ」
自己紹介に「小間使い」は外さない。
「フフフッ、あなた達、面白いわね。なんだか色々と有りそう」(セリア)
色々なんてありません
「でも、余計な詮索はしないわ」(セリア)
意外と物分かりの良い、エルフさんだ
「ヨ・ロ・シ・ク・ね」
意味深な言い方をする。
その後、ヤマーダとセリアは挨拶を兼ねて、メンバー紹介をする。
《森の狩人》
リーダーはセリア
多分、エルフ
他のメンバーは野郎が3人…か
一通り紹介が終わると、サリアは討伐の方針を立て始める。
「協力言うても、それぞれ勝手がちゃうやろし。態々(わざわざ)集まらんと、別行動にせぇへんか?」(サリア)
「あぁ、こちらはそれで構わない」(セリア)
「まぁ、危なそうやったら助け合うってな感じでえんちゃうか?」(サリア)
ザックリしてんなぁ
「了解した」(セリア)
意見の衝突がないまま、
綺麗にまとまったよ
どうやら、
二人は息が合うのね
話し合いが終わると、セリアと共にオッサンへ依頼受諾を報告。
『さっさといきましょ!』(ネーコ)
ヤマーダ達は即座に馬車を準備し、セリア達を同乗させて町を出発した。
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エスタニア王国ニーバ近郊〈道中〉
セリアはクロードをジッと眺めている。
「ヤマーダさん、少し聞いてもいいか?」(セリア)
「何?」(ヤマーダ)
「なんでこの馬、手綱が無いんだ?」(セリア)
何言ってんの、このエルフ?
「だって、クロードさんに手綱は必要ないでしょ」(ヤマーダ)
不思議ちゃんでも見るような表情。
「いやいや、普通手綱がなければ、馬を操れないだろう?」(セリア)
「そうかなぁ…クロードさん、目的地、分かるよね」(ヤマーダ)
『あぁ大丈夫だ、町の東の山裾だろう』(クロード)
喋る馬を見たセリアの目が点になる。
「…ヤマーダさん…い、今…馬が喋ったような」(セリア)
「あぁ、言い忘れてたけど、俺は《魔物使い》だから」(ヤマーダ)
「なるほど……いやいやいや、おかしいだろう?」(セリア)
「えっ、そうなの?」(ヤマーダ)
ヤマーダには、セリアが何を疑問に思っているのか分からない。
するとリンから、
「…確かに《魔物使い》は動物と話すことができる。…でも《魔物使い》以外が動物と話すことはできない」
「だから?」(ヤマーダ)
「…エルフと馬は話せない」(リン)
クロードには《言語理解》スキルが常時有効になっている。
だから、セリア達と話せるのだ。
喋れないより、ずっといいじゃん
「ふーん、でもいいじゃん。だって、喋れんだし」(ヤマーダ)
「そ、それはそうなんだが…」(セリア)
「それに、クロードさんはとっても紳士的だよ」(ヤマーダ)
「あ…あぁ…」(セリア)
ヤマーダのおおらかなのか抜けているのかよく分からない発言に、彼達のPTには常識が通じないことを、セリア達は痛感する。
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エスタニア王国オーガ集落〈道中〉
日も暮れだした。
「そろそろ、夕飯にしようか?」
ヤマーダはいつものようにネーコに尋ねる。
『そうしましょうか』(ネーコ)
「じゃあ、サリアとルルは準備を頼む」(ヤマーダ)
ネーコの了解を待って、ヤマーダはサッと指示を出した。
「君達は夕飯、どうするの? 俺達と一緒に食べるか?」(ヤマーダ)
セリアに尋ねると、
「見張りも必要だし、交代でどうだろう」(セリア)
「へっ? 見張りなんていらないじゃん?」(ヤマーダ)
皆が馬車から降りると、クロードが馬車を《収納》する。
「い、今、う、馬が自分で、ば、馬車を片付け…」(セリア)
今度は、ネーコが《空間魔法》から《マイホーム》という二階建ての一軒家を取り出した。
「め、目の前に、い、家が、出てきた!」(セリア)
ヤマーダ達は《マイホーム》に入り、それぞれの食事の準備を始めた。
唖然と立ち尽くすセリア達。
《マイホーム》の窓から顔を出すと、
「この家、《認識阻害》しているから安心して!」(ヤマーダ)
「えっ!? そうなの?」(セリア)
セリア達は微動だにしない。
「準備できたよ~」
ルルが夕食の準備を終えて、みんなに声をかける。
相変わらず、唖然と立ち尽くすセリア達。
しびれを切らしたサリアが、
「セリア、ボサッとせんと、飯やで飯!」
セリアは我にかえり、
「驚きすぎて、思わず放心してしまったよ」
《マイホーム》の食堂に皆が集まった。
『じゃあ、いただくわよ』
ネーコがいつものように挨拶をし、夕食の宴が始まった。
セリアは料理を一口食べると、
「な、何これっ! 凄く美味しい!」
「まぁな、ルルは料理がとても上手いからな」
ヤマーダが自慢気に解説する。
「へぇ、羨ましいわ。ルルは昔から料理が好きだったの?」(セリア)
「違う違う」(ヤマーダ)
「ルルって少しの前まで、野良ゴブリンだったし。だからさぁ、ルルのことはまだよく分からないんだよ」(ヤマーダ)
「へっ!?」
セリアがフリーズ。
止まった…
ダルマさんが…転んだ!
セリアに、
ちゃんと説明をしないと!
「実は、ルルって俺が仲間にした最初の魔物なんだよ」(ヤマーダ)
「魔物!?」
セリアがまたフリーズ。
ダルマさんが転んだ!
「いやいや、どう見ても魔物じゃないでしょう」(セリア)
セリアの言うとおり、ルルはゴブリンといより人族のような外見をしていた。
「確かに、アタイがヤマーダの仲間になったときはゴブリンだったよ。色々あって、今はゴブリナアサシンだけどね」
普通に会話している魔物にフリーズするセリア達。
ダルマさんが……転んだ!
今度は
《森の狩人》全員フリーズになった!
「まぁ、そんなん気にせんと食べい。パンも食べい」(サリア)
「そうそう。サリアの薦めたこのパン、彼女自身が小麦から育てて作ったものだから。とっても旨いよ」
サリアとヤマーダはセリア達の緊張を解そうと、近くにあったパンを適当に薦める。
「「「「何、このパンも滅茶苦茶旨い!!(このPTとんでもない!)」」」」
セリア達、再フリーズ。
ダルマさんが………転んだ!
セリア達がヤマーダPTの特異性を理解するのに、対して時間はかからなかった。
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翌日
エスタニア王国《家》〈リビング〉
「いやぁこの家、お風呂まであるんですね。とんでもないな!」(ライド《森の狩人》)
「本当に」(トニー《森の狩人》)
朝食を取りながら、すっかり緊張の取れた《森の狩人》メンバーが雑談している。
「ヤマーダさん、もしかして、このPTのリーダーはあの魔物なんでしょうか?」
セリアは昨日から思っていた疑問を口にした。
あれ?
セリアさん
オレに対して敬語になったよ…
既に《人化》して食事しているネーコが
「その通り、アタシがこのPTの本当のリーダーよ」
予想もしていなかった方向からの返答。
「はい? さっきから一緒にいるけど、誰なんですか、あなた?」(セリア)
セリアが質問すると、ネーコは《人化》を解いて、アヤカシギツネの姿で話す。
『あたしがここのリーダー、アヤカシギツネのネーコよ』
「ま、まさか、《人化》までできるの!?」(セリア)
驚きのあまり声が裏返っている。
へぇ~
セリア、《人化》を知ってんだ!
エルフは長生きっていうしな…
「も、もしかして、上位種なの?」(セリア)
『《上位種》? アタシはアタシよ』(ネーコ)
「《上位種》って、人族が勝手に付けた呼び名ね」(ネーコ)
ネーコは再び《人化》を使う。
「そんなことより、オーガの討伐を続けるわよ」(ネーコ)
「そんなこと、なんですね…」(セリア)
「“もう驚くことなんてないと思ったが”」(ジーン)
ネーコの合図で皆、オーガ討伐の準備を始め出す。
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馬車に揺られて1時間
『ヤマーダ、オーガの臭いがする。近いぞ!』
「分かりました、クロードさん!」
戦闘準備だ!
オレはいつも通り《超清涼気》を展開
ヤマーダがパーティーの周囲に《超清涼気》を展開すると、リンから、
「…オーガが来たよ!」
オーガが9体…
オーガって思ってたよりデカイなぁ
道路の標識よりも高そうだ!
2.5mってところか!
「アタシ達は右側の5体、セリア達は左側の4体よ!」
ネーコが迅速に指示を出すと、ヤマーダPTは一斉に動き出す。
グザッグザザザザッ!
『グガーーッ………』
セリア達の戸惑いを余所に、《人化》したネーコの《火魔法》火の矢が5本オーガの急所に命中する。
バシュゥーーーッ!
『グブッ………』
《探検家》のリンが《隠密》で体を隠し、オーガの背後から《旋回切り》で上下に両断する。
ズガーーーバリバリッ!
『ガァーーッ!………』
《召喚士》サリアの《雷魔法》雷撃がオーガの脳天に直撃。
ズバッ!
『クッ………』
《忍者》ルルの《空蝉》による身代わりを囮にした高速脳天撃。
次々、オーガを瞬殺していくヤマーダPT。
バガーーーーン!
ズガーーーバリッ!
『ガァーーーッ! ガッ………』
最後の1体はクロードが後ろ足で牽制し、サリアの《雷魔法》によって呆気なく倒された。
あれっ?
オレの出番は?
バギィッ! バギィ! バキバキッ!
ドゥッ! ドゥガッ!
バキッ! バガッバキキッ!
ズガーーーン!
《森の狩人》の方は、セリアが隙を窺う間、他のメンバーがオーガ4体の攻撃を防いでいた。
「クゥ!」
「ガッ!」
「ウグッ!」
壁役の3人が仲良く一撃をもらって、片膝をついた。
「今!」
ズバッ!
『ガァーッ!』
セリアの一撃が、隙を見せたオーガの足首を切り落とす。
たまらず、オーガは片膝をついた。
「いくぞ!」
バギッ!
ライドの頭への《回し蹴り》。
「ウォラッ!」
ドガッ!
ジーンが肩にメイスで打撃。
「ググッ! もらったぁ!」
ザシュッ!
トニーが首筋にナイフの一撃。
『ギィギァーーッ!』(オーガ)
膝を落としたオーガに、壁役3人の三連撃。
しかし、オーガはなかなか倒れない!
「止め!」
ザバッシュッ!
セリアがトニーの付けた首筋の切り痕へ剣で再度、斬撃。
オーガの首からは、大量の出血。
これが、明らかな致命傷となった。
『グァーーー………』
オーガは断末魔を上げて、ぶっ倒れる。
《森の狩人》は、なんとかオーガ1匹を仕止た。
バギィッ! バゴッ!
バゴッ!
バキッ! バガッバゴッ!
残りの3体が、油断した《森の狩人》へ連続攻撃。
「キャアッ!」
「「「ウグッ!」」」
打撃をもらって、仲良く吹っ飛ばされる四人。
「後はアタシ達に任せて!」
ネーコがセリア達とオーガ連中の間に飛び込み、セリア達を安全圏まで退避させる。
さっき倒したオーガの魔核も取り出し完了
そろそろ、オレの出番かな?
と言っても、
戦う訳じゃないよ
はい!
美味しい《お水》の時間ですよー!
ヤマーダは《収納》からコップを四つ取り出し、四人分の《超清水》を注ぐ。
「傷薬だから、慌てずゆっくり飲んで」
まぁ、全快するから
《傷薬》ってぇのは嘘じゃないよね
セリア達が《超清水》を飲み終えるうちに、残りのオーガの討伐も終わっていた。
「あれっ?」(ライン)
「…傷が全快してる」(ジーン)
「あーっ!」(トニー)
「オ、オーガが討伐されている!」(セリア)
いつの間にかオーガが死体に変わっていて、驚く《森の狩人》メンバー。
「うん、確かに終わってるね」
抑揚の無い声で相槌を打つヤマーダ。
ハイッ!
オレの活躍なし!
無事オーガも討伐し、大活躍したネーコ達に恨めしい顔で《超清水》を配るヤマーダ。
『ヤマーダ、《超清水》浴びを頼む』(クロード)
「クロードさん、お疲れ様です」(ヤマーダ)
クロードは《超清水》浴びで綺麗サッパリな体になり、ご満悦で飼い葉を食べ始める。
「そろそろお昼ね、食事の準備よ」(ネーコ)
「そない言うと思とったで。ハイこれ、さっき収穫したばかり、シャッキシャキの野菜や」(サリア)
ネーコの昼の合図に、サリアは前もって《空間魔法》から収穫した野菜を見せる。
「準備がいいんだね、サリア」(ルル)
「もうペッコペコ、はよ食いたいねん」(サリア)
ルルは野菜を受け取ると、釜戸と調理器具を《収納》から取り出し、スピード5割増で料理を作り始める。
すると瞬く間に、いい匂いが立ち込めてきた。
「この匂い、たまらない!」(ライド)
「ひ、昼もいただけますよね?」(ジーン)
「早く食べたい!」(トニー)
「トニー、あなた料理、習ってよ!」(セリア)
匂いに釣られて《森の狩人》もザワザワ。
ヤマーダが残りのオーガの死体から魔核を回収する。
すると、サリアがその場にある死体を次々《収納》し始めた。
「オーガの死体なんてどうすんだ? 墓でも作って埋葬してやんの?」(ヤマーダ)
「ちゃうちゃう、素材の回収や。このオーガちゅうヤツは、いろんな部位が素材になるんや。例えば、皮。ええ感じの堅さで、防具に最適なんやで」(サリア)
「へぇー」(ヤマーダ)
更に賢くなった、オレ
「でも、肉は臭ぁて食われへんよ」(サリア)
これから食事なんです!
臭い肉の話は止めて!
そんな事をしているうちに、
おー、昼食の準備が終わったみたいだ
「できたよ~」(ルル)
その後、昼食を食べ終わり、帰りの準備へ。
町への到着は翌日までかかる為、帰路の途中で1泊する。
----------
翌日
エスタニア王国ニーバ
無事、町に到着したヤマーダ達。
帰り道、《森の狩人》にネーコ、ルル、クロードの口止めを忘れない。
ヤマーダPTが町のギルドまで近づいていくと、ギルドの外にはオッサンが出迎えていた。
「ご苦労さん、ご苦労さん」(オッサン)
「…無事…オーガの討伐は終わりました」
オッサンへ報告するセリアの顔が暗い。
「よくやってくれた! …って暗いぞ…何か、あったのか?」(オッサン)
「…はぁ…何かあったというか、なかったというか…わたし達、役に立てたかどうか…」(セリア)
「何? どういうことだ?」
セリアから
・オーガの大半はヤマーダPTが倒したこと。
・ヤマーダPTの馬車に便乗したこと。
・ヤマーダ達が食事の手配したこと。
以上が報告される。
事情を察したオッサンはニコヤカに、
「君達、既に活動拠点は決めているのかね? まだならこの町に…」
「今更、何いけしゃあしゃあと、ぬかしとんねん! 町を拠点にやと! オッサン、なめくさっとんのか? そんなん、世界が崩壊しても、ありえへんから!」
被せ気味にオッサンの会話を中断するサリア。
メッチャ、キレてる!
あれっ?
何で?
魔物の危機も救ったし、
わだかまりが解けたんじゃないの?
「…わたし達は…旅の途中に偶然立ち寄っただけ」
リンの口調がいつもより荒い。
こりゃあ、リンも怒っているっぽいな
最後にうんざりした感じのネーコが、
『“さっさとギルドの用事を済ませて、こんな町ちゃっちゃと出て行くわよ!”』
小声だったけど、
やっぱりネーコも怒ってんだ
コイツら、何考えてんのか
全く分からん!
さっさとギルドで魔核を換金、オッサンの誘いを完全に無視して町を離れるヤマーダ達。
後日、ニーバの町に凄腕パーティーの噂が真しやかに広まった。
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5日後
北国への玄関口《嘆きの洞窟》〈入口〉
今オレ達がいる洞窟の入り口は、
ニーバの町から数時間の距離にある
あれから5日もかかったのには、
サリアが《召喚士》に転職
慣れるのに時間がかかっちまった
ちなみに現在のサリアは
名前・サリア
種族・獣人:犬族
年齢・18歳女
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv-)
占星術師(Lv-)、召喚士(Lv3)
ギルドP・C(2485p)
レベル・24
体力・32
魔力・58(+106)
攻撃・32(+9)
防御・30(+20)
知識・60(+58)
敏捷・30(+14)
運・59(+26)
装備・魔術師の杖(攻撃+7)
魔術師のフク上(防御+10)
魔術師のフク下(防御+10)
手袋(攻撃+2)
サンダル(敏捷+4)
魔術師の指輪(知識+2)
(魔術師シリーズ装備)
魔法・火魔法(Lv-)、水魔法(Lv-)、風魔法(Lv-)
土魔法(Lv-)、雷魔法(Lv-)
召喚魔法(Lv2)、光魔法(Lv2)
闇魔法(Lv2)
スキル・鑑定(Lv-)、収納(Lv-)、言語理解(Lv-)
魔法の才(Lv-)、復活の衣(Lv-)
宿泊回復(Lv-)、時間回復(Lv-)
スキル補正(Lv-)、真贋の目(Lv-)
所持金・68,850G
所持品・皮のカバン、魔力薬×10(《収納》内を除く)
サリアの能力をはっきり言うと、
《空気使い》のバフを掛けると
攻撃力でもオーガに勝てるほど
それって、凄くねー
魔法使い系のサリアが
素手でオーガに勝つんだよ
チートだよ、チート
それから、
《空気使い》が Lv5 → Lv6
《超清水》は《聖水》に
《超清涼気》は《聖気》に Up grade
更に、
マスターした職業の能力補正が
転職後も保持されるように
そして、
PTメンバー全員が
とんでもなく強くなった
オーガ討伐によって
ギルドランク up
職業レベル up
所持金 up
いやぁ~
美味しい討伐だった
それと、
最近のサリアの魔法攻撃
強すぎて魔物を瞬殺しちゃうんだよ
跡形もなく木っ端微塵に爆殺!
《真贋の目》もマスター
これからは、迷宮の罠も見破れるんだと
…サリアって、無敵じゃね…
まぁ、
思考パスが共有されたお陰で
サリアのスキルもオレらが使えるし
…それって、オレらも無敵じゃね?
因みにオレは
《猟師》をマスターしたので
《農民》の職業を新たに追加
《農民》なんてってマジ?って思ったよ
でも、ネーコが熱心に薦めてくるから
PT
ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、
クロード
《嘆きの洞窟》の入口はかなり狭く、残念ながら馬車の通れる幅はなかった。
しかたなく、クロードは愛馬車を《収納》し、ヤマーダPTの移動を徒歩に変更する。
洞窟に入ると、内部は一本道になっていた。
所々、大部屋のような広い空間があり、魔物はそこで待ち伏せ。
ただ、洞窟の魔物にヤマーダPTを足止めするほどの強さはなかった。
収穫したばかりのサリア米の《焼おにぎり》を頬張りながら、ハイキング気分のヤマーダはメンバーに話し掛ける。
「しっかし、歯応えのない洞窟だよなぁ。魔物も初めて見るヤツの割にスゲー弱いし。洞窟って大したことないのか?」
「それはちゃうで、ヤマーダはん。この洞窟の難易度、メッチャ高いで」
「…《嘆きの洞窟》はある程度実力がないと…簡単に殺られる!」
二人がマジなトーンで返答する。
「ヤマーダ、これまでに戦った魔物は、ヘルハウンド、グリフォン、コカトライス、ケルベロス、ラミア。最強っ訳じゃないけど、強敵には違いないわ」(ネーコ)
本当に?
「へぇ、そうなんだ。まぁ瞬殺されてるし、あんまり強さを感じねーなー」
ヤマーダ的には、初めて戦ったゴブリン2匹の方がよっぽど危険に感じている。
急に戦闘態勢を取るリン。
「なんや、リンちゃん?」
リンの態度に戸惑うサリア。
「アタイ、感じるよ! この先で戦闘してる!」
ルルは直感する。
「…魔物が結構いる。…と思う」
リンの剣に力が入る。
「狩るわよ」
ネーコの目つきが猛獣のそれに変わった。
何、その目つき?
あのやさしいネーコさんが、戦闘狂に?
なんてな…まず皆にバフだよな
ヤマーダが展開した《聖気》を感じとり、メンバーは一斉に気配がする方へ走り出した。
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《嘆きの洞窟》とある広い空間
ヤマーダPTは広い空間へ急いで辿り着く。
空間の広さは50m×50m、高さ10mを越える程度。
巨大なホールになっていた。
その空間で、向かって左からエルフ(男)、ドワーフ(女)、エルフ(女)、ドラゴン(?)のPTが、25~30匹はいるであろう魔物の群れと戦っていた。
うわっ!
たくさんいるっ!
よく見ると、ドラゴンが他の3人を庇っているようだ。
「キミ達! 助けが必要か?」(ヤマーダ)
『頼む! 早くしてくれ!(むっ! 竜語を喋るサルとは珍しいな!)』
ヤマーダが矢継ぎ早に訊ねると、意外なことにドラゴンから返答が届いた。
えっ?
もしかして、
ドラゴンがこのPTのリーダーなのか?
コイツら面白いPTだな
思考パスの共有により、ヤマーダ以外のメンバーにもドラゴンの意志が伝わってきた。
「どでかい魔法、いっくでー! 離れとき!」
サリアの声に反応して、離れるドラゴンPT。
ドラゴンPTが安全な距離まで離れた瞬間、
ドゥガッーーズババリバリーーーン
サリアは《雷魔法》雷撃を放ち、なんと魔物を一気に20匹葬った。
「アタイの獲物ー!」(ルル)
「…倒す…」(リン)
「クロードとヤマーダは後方で支援!」(ネーコ)
『「了解」』(ヤマーダ、クロード)
サリアの《雷魔法》を皮切りに、ヤマーダPTが動きだす。
「弱い!」
《暗殺者》から転職した《忍者》ルル。
「…遅い!」
《戦士》から転職した《探検家》リン。
「気を抜かないで、皆!」
《魔法使い》になったネーコ。
残った魔物も片っ端から討伐されていく。
オレはいつものように、
コップに注いだ《聖水》を配る
ドラゴンPTに配る
サリアに配る
クロードに配る
ドラゴンのコップに再び注ぐ
ドラゴンのコップに再び注ぐ
ドラゴンのコップに再び注ぐ
ドラゴンのコップに…
アーーーーーッ!
ドラゴンの体は、全長が6m以上、頭を上げると体高は3mを優に越える大きさだ。
当然、口も手もヤマーダの倍以上ある。
そんな巨大なドラゴンが、10cmぐらいのコップを使って、熱燗を飲むようにチビチビしているのである。
ドラゴンにそのコップって!
器がメッチャ小っちゃくねぇ!
あー面倒だ!
もう直でよくない?
「ちょっと、身体を下げてくれ!」(ヤマーダ)
『う、うむ、分かったのじゃ』(ドラゴン)
今、『のじゃ』って言った!
ヤマーダの命令に素直に従い、「伏せ」の体制になった。
ドラゴンの口に注ぐ
たっぷり
たっぷりね
ゴクッゴクッゴクッ!
しばらくの間、大理石の露天風呂にお湯を注ぐライオン、その口から出る水量分をドラゴンに大量に注ぎ込む。
パッポ5分後
おいおいっ!
もう学校のプールぐらいは飲んでるぞ!
『ゲプッ!』
《聖水》をたらふく飲んで一息ついたのか、ドラゴンが声をかけてきた。
『ゲプッ、ありがとう、助かったのじゃ、ワシはターニャ!』
へぇ~
魔物なのに名前がある!
まるでネーコみたいだな
「ドラゴンって他種族とパーティーを組むんだな。知らなかったよ」(ヤマーダ)
『お主、何を言っておる。ゲップ!』
汚ねぇなぁ!
『コヤツらとはさっき初めて会ったばかりじゃ。仲間などではないぞ』(ターニャ)
はいっ?
仲間じゃないの?
でも、このターニャってドラゴン、
3人を庇ってたよなぁ
『ワシはちと休憩しようと洞窟に立ち寄ったまで』(ターニャ)
「そうなのか?」(ヤマーダ)
『うむ。するとどうじゃ、コヤツらが魔物に襲われておるではないか!』(ターニャ)
あれっ?
「もしかして、彼らを助けようとしたのか?」(ヤマーダ)
『まぁ、そんなところじゃな』
「それにしては…」(ヤマーダ)
ドラゴンのクセに弱~な~
魔物に襲われてなかったか?
『おいおい、お主、勘違いをするでない。ワシは本当に強いんじゃぞ! ただ、ワシが全力で戦うと洞窟が保たんのじゃ』
「ふ~ん、なるほどねぇ」
『本当の本当じゃぞ!』
「へぇ~」
『本当の本当の本当なのじゃ!!』
必死に取り繕っている。
「…最強のドラゴンにも意外な弱点があるんだな」
『“あの魔物ども…ワシが本気になれぬことをいいことに…”』
小声で愚痴るターニャ。
『(それにしても、コヤツ!)』(ターニャ)
意味深な目で、ヤマーダを見つめる。
「で、ターニャだっけ。キミ、どっから入ったの?」
ターニャの巨体では、エスタニア側の入口からは入れない。
『入口からじゃ』(ターニャ)
ターニャは上を指差した。
「あっ!」(ヤマーダ)
指差した天井を見上げると、半径5mほどの穴が空いており、穴の先には空が薄らと見える。
「よくあんな穴、通れたな」(ヤマーダ)
『失礼なヤツじゃ! ワシはこう見えて、スリムボディーなんじゃ!』(ターニャ)
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「こっちは終わったよ」(ネーコ)
少しして、戦闘終了の声が聞こえてきた。
「お疲れ様、はい《聖水》飲んで」
「「「(…)ありがとね(う)」」」
魔物討伐も無事終わり、皆で広い空間に休憩する。
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休憩後
《嘆きの洞窟》とある広い空間
男のエルフがヤマーダ達に話し掛けてきた。
「先ほどは助けてくれてありがとう、私の名前はジン。《蒼天》と言うパーティーのリーダーをしている」
次にエルフの女性、
「私はアン、助けてくれてありがとう」
最後にドワーフの女性、
「あたし、ティファだよ。あんがと」
「まぁ、そんなに気にしないでくれ。俺はこのパーティーの小間使い兼リーダーのヤマーダだ」
「「「小間使い?」」」
「因みに、俺は戦闘にほとんど参加しない」(ヤマーダ)
「へぇ、リーダーなのに戦わないのか…キミ達って変わったパーティーなんだな」
あまりにも独特の挨拶に、ジンは苦笑いを浮かべている。
ジンは他の二人とヒソヒソ相談して、
「実は相談がある」(ジン)
「な、何?」(ヤマーダ)
面倒事の予感がする
「私達はこの《嘆きの洞窟》を南に抜けたいの」(アン)
アンが上目遣いでヤマーダにお願いしてきた。
う~ん、綺麗なお姉さんだ!
「私達に協力してくれないかしら?」(アン)
「お願~い!」(ティファ)
は、はい! いいですよ!
って言いたい!
言いたいけど…
「皆はどう思う?」
ヤマーダの冷静な判断。
ヤマーダはメンバーに無断で決断しない。
「また、南に戻るんか?」(サリア)
「来た道を戻るだけだし、護衛っていうのも、体験してみたいし」(ヤマーダ)
少し自分の希望も付け加えてみる。
「まぁ、急ぎの旅って訳やないし」(サリア)
「…どうする?」(リン)
「戻れば、また戦える!」(ルル)
「そうねぇ…いいわよ。《蒼天》に協力するわ!」(ネーコ)
「ありがとう!」(ジン)
「やった~!」(ティファ)
「その代わり、ここからの戦闘はアタシ達だけにしてほしいわ!」(ネーコ)
「どうしてだい?」(ジン)
「アンタ達が足手まといだからよ」
ネーコが直球どストレートに答える。
5才の金髪少女が偉そうに!
シュールな絵面だね、ホントに
「…よ、よろしく……頼む」
リーダーのヤマーダよりもドデカイ態度の金髪少女に、初対面のジン達は面食らっている。
ジンもどう答えていいか
迷ってんじゃない?
「じゃあ、出発しましょうか」(ネーコ)
そんなジン達を余所に、何食わぬ顔で出発の指示を出す。
「「「「『了解』」」」」(ヤマーダPT)
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護衛の道のりはさっき通ったばっかりのため、サックサク進み、やけにあっさりとエスタニア側の入口まで到着した。
「ヤマーダは、本当に戦わないんだな」(ジン)
「最初に言ったろ」(ヤマーダ)
道中、何度か魔物と遭遇したが、ネーコ達の活躍により、ヤマーダは魔核の回収しかしていない。
「まぁ、俺が戦いを始める前に大抵終わっているからな」(ヤマーダ)
「洞窟の魔物を相手にして、そいつは凄い!」(ジン)
ジンは憧れの眼差しを向ける。
「本当に凄いパーティーだな、キミ達は。私達も早くキミ達みたいにならないと!」(ジン)
そんな真っ直ぐな目で見ないでくれっ
小間使いのオレをっ!
「ここまで来れば大丈夫だ。何かお礼をしたいのだが?」(ジン)
「じゃあ…今度、どこかで会ったときにお願いするよ」(ヤマーダ)
「ツケってことやな! そんときは利子も含めて取り立てるよって、覚悟しとき」(サリア)
サリア、しっかりしてんなぁ
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夕方
《嘆きの洞窟》とある広い空間
ヤマーダ達はまた来た道を戻り、さっきの広い空間に辿り着く。
到着早々、ヤマーダPTはいつものように《マイホーム》を《空間魔法》から取り出し、夜営の準備を始めだした。
そんな中、何故かターニャが巨体を揺らしながらくっついて来ていた。
「なあ、もう自分の寝床に帰ってかまわないぞ」(ヤマーダ)
ヤマーダがターニャにそう告げると、
『あぁ、…お主達の旅に同行したいのじゃが(ヤマーダという者、何者なんじゃ?)』
えっ?
「い、いや、それはちょっと…デッカイしさ…」(ヤマーダ)
『ダメなのか?』(ターニャ)
「う~ん…みんなに聞いてみないと」(ヤマーダ)
ヤマーダは他のメンバーへ確認してみることに。
「問題はこのドラゴンをパーティーに加えたら、《思考パス》が切れるかもしれないってことよ」(ネーコ)
「せやせや、問題やで!」(サリア)
「問題?」(ヤマーダ)
「《思考パス》が切れてまうと、ヤマーダはん、ルルっち、クロードはんは、折角《収納》に入れとったもんが出せなくなってまうんやで」(セリア)
パーティー間の魔法、スキルが
共有できなくなるってことか!
『それは、私も困る。折角の愛馬車が使えないのは嫌だぞ』(クロード)
あの~
勝手に名前付けないでください
ターニャにその事を説明すると、
『それなら、問題あるまい。ワシはヤマーダ殿を主として認めておるからのう』
い、いつ、認めたの?
『それに、既に上位魔物との《思考パス》に成功しているのじゃろう?』
まぁね…
「じゃあ、先にターニャを使役して《思考パス共有》の確認できてから、パーティーに加えるって話ならいいわ」(ネーコ)
「そ、そんなことができるのか?」
ネーコの提案に驚くヤマーダ。
今迄、仲間にしたら、
勝手に使役してたし…
逆の手順ってことでしょ
「まぁ、一度あの《聖水》を飲んでるから、問題無いと思うけどね」(ネーコ)
何、その自信!
ヤマーダがターニャに使役を申請すると、
“ターニャが使役された”
“ターニャと思考パスが繋がった”
おーっ!
無事に繋がった!
“ターニャをパーティーに加えますか?”
《yes》っと
“ターニャはヤマーダPTの魔法、スキルが共有された”
“規定レベルに達していないためターニャの魔法、スキルの共有に失敗した”
ターニャの魔法とスキルは使えないのか…
『うぉーっ! こ、これは凄い! 大量の魔法とスキルが使えるようになったのじゃ!』
ターニャのテンションが滅茶苦茶上がる。
『とりあえずこれを使って見るか、《人化》!』(ターニャ)
いきなり《人化》するので!?
すると、竜の体が段々と縮んでゆく。
あらっ?
このままだと溶けてなくなっちゃう!
ヤマーダよりも少し高いぐらいの背で、縮小するのが止まった。
170cm あるかないか…
変形がゆっくり止まると、ターニャは額に2本の角を生やした黒髪美人に変わっていた。
『「「「「「お、女ー(だったのー)!」」」」」』
ターニャ、驚愕の事実。
また、女子が増えたよ!
「皆、何を驚いておる?」
驚くでしょ! 普通
「女に決まっとろうが! 喋り方で分からんかったのか? (《人化》とは案外難しいのう、角がちこっと残ってしもうた)」
いやぁ、喋り方から
気難しいじぃさんだと思っていたよ
まぁ確かに、
名前は女っぽいかもしれないけどさぁ
皆の驚きを余所に
「《聖水》じゃ《聖水》! 主、ワシは《聖水》を所望する!」
「あぁ、はいはい、どうぞ」
ヤマーダはターニャ用に《収納》から出した大ジョッキに《聖水》を並々と注ぐ。
「プハ~! 実に旨い!」(ターニャ)
そんなターニャを見ていた、ネーコ達。
「「「「『わ(あ)たしも欲しい(な)』」」」」
「あぁ、はいはい、どうぞどうぞ」
《聖水》汲み秘書のヤマーダ参上
たぁんと、召し上がれ
その後、皆で夕飯を食べながら、ターニャに旅の目的である《ネーコの里巡り》を説明する。
「ふむ、なかなか面白そうな旅じゃな」(ターニャ)
「そう?」(ヤマーダ)
「明日からが楽しみじゃわい!」(ターニャ)
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翌日
北国ゲンク《嘆きの洞窟》〈入口〉
PT
ヤマーダ、ネーコ、リン、サリア、
クロード、ターニャ
ヤマーダ達は《嘆きの洞窟》の北国側の入口から北国に入国を果たす。
北国最初の景色は、見渡す限り鬱蒼としたジャングルに視界を遮られていた。




